1)随意契約
最近の政府の政策は、以下のとおりです。
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小泉進次郎農相は23日の閣議後記者会見で、政府備蓄米の放出について一般競争入札から随意契約に切り替え、来週早々にも随意契約の手続きを始める方針を明らかにした。政府が備蓄米の価格を決めて幅広い業者に安値で売り渡すことで、6月初旬をめどにスーパーなどの小売店で「(5キロ)2000円台で並ぶ形で出していく」と述べた。
また、小泉氏は2025年産の主食用米について、24年産より40万トン多い719万トンになるとの見通しを示した。過去5年間で最大の生産量となり04年の調査開始以来、最大の増産幅となる見込みだ。
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政府備蓄米 小泉農相「6月初旬めどに2000円台で店に並べる」2025/05/23 毎日新聞
https://news.yahoo.co.jp/articles/54cd0d1f73ef52fb2ee2b7ec2e7b517cf3316dd3
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野党の包囲網のなかで、政府がとれる唯一の政策は、「備蓄米の価格を決めて、随契で、小売り幅広い業者に安値で売り渡す」ことになります。
とはいえ、6月初旬をめどにスーパーなどの小売店で「(5キロ)2000円台で並べる」のは、随契契約を使っても困難です。
TBS系「ひるおび!」に出演したコメを売っているスーパーアキダイの秋葉社長は、次のように言っています。
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段階を経て、1カ月、2カ月の間に1000円を下げればすごい。それをわずか2週間でできたら神の世界で、小泉さん、次の総理決定ですよ。僕(の基準)で言うと絶対無理を目標掲げて、それに向かって少しでも邁進すればいいって思うぐらいの感じ。
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有名スーパー社長、進次郎大臣の政策に驚がく 6月頭に2000円台なら「次の総理決定」2025/05/23 デイリー
https://news.yahoo.co.jp/articles/210590fae3b3dd21e9f5dae9414f4972cc1553f9
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2週間は、現実には、不可能ですが、都議選のスケジュールを見ると、2週間をすぎると、手遅れになるので、このように発言したと思われます。
小泉農相と森山幹事長の関係の報道は混乱しています。
小泉農相は、「森山幹事長から、自由な活動のお墨付きを得ていると発言」したという報道もあれば、逆に、森山幹事長が周辺に「小泉農相に変なことはさせない」と言ったという報道もあります。
江藤前大臣も、利権のバランスを壊さない範囲では、ベストをつくしてきたはずなので、特効薬はないはずです。
利権のバランスを破壊すれば、輸入米の拡大のような特効薬はあります。しかし、その場合には、副作用で、自民党が分解して、与党ではなくなります。野党は、そうしたシナリオを考えて、江藤前大臣を辞任に追い込んでいます。
それにしても、政治家の実力者の経歴を見れば、すべて利権を使ったグループ結成能力に依存しています。学歴も科学も関係がありません。法度体制と段落(共感)の論理の世界です。
筆者は、過去にそのような世界があったことを理解しています。しかし、今後も、こうした利権の力学の政治を続けることは、AI時代には、貧困と飢餓への道に他なりません。
人間には、認知バイアスがあります。
政治家は、今まで、利権の力学の政治の世界で、出生してきました。世界は、利権原理で動いているというメンタルモデルをもっています。
世界を共感と反感で区別して、AIを反感グループに追いやれば、既得利権が温存できると考えています。AIは、間違った推論をしますが、AIの推論のプロセスが理解できていれば、それは、非常に、合理的な間違い方です。AIは、学習したデータの範囲で答えを作成しますので、使ったデータを点検すれば、エラーを減らすことができます。
しかし、政治家の推論は、利権の最大化にあります。つまり、水と油です。
現在では、利権の政治家とAIが対立しています。
どちらが、勝つかで、日本経済の未来が変わります。
2)需給バランス
小泉進次郎農相は5月23日、テレビ朝日系「羽鳥慎一モーニングショー」(月から金曜午前8時)に生出演しました。
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番組MCのフリーアナウンサー羽鳥慎一に「コメは足りている、足りていないというそもそもの議論がありますが、大臣として今、コメが足りているという認識か、それとも足りていないという認識ですか」と問われると、「コメの基本的なデータも含め、時間がかかりますが、精査しないと真実は、いますぐ分からないと思う」と、小泉農相は口にしました。
さらに、「あらゆる資材や物流コストも含めて、デフレからインフレ型の経済になって、一定の価格転嫁が進んで、農家の皆さんの生産コストが上がっているのも事実。今後その適正価格に落ち着かせていくためには、まずこの異常な高騰を1回、抑えなければいけない」といいました。
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小泉進次郎農相、カズレーザーの「矛盾では」の指摘に「矛盾してない」と反論 2025/05/22 日刊スポーツ
https://news.yahoo.co.jp/articles/e0f8f72ec5e10efa1765ba95eea6601b29df8e94
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これは、すさまじい発言です。
農林大臣が、コメの需給バランスを把握できずに、コメ政策ができるとは思えません。この発言には、根拠となるデータはありませんが、今まで農林水産省が繰り返してきた「コメの需給バランスは足りている。問題は流通段階にある」という主張は継承できないという主張です。しかし、政党は組織として政治をしています。アメリカの政治では、人権を無視する党議拘束をかけることはありませんが、判断の基礎となるデータは共有しています。この発言は、データの共有ができていないという説明になります。
2番目の「デフレからインフレ型の経済になって、一定の価格転嫁が進んで、農家の皆さんの生産コストが上がっているのも事実」も、今までのアベノミクス政策の否定です。現在でも、日銀はインフレ目標を取り下げていません。白川総裁は、インフレ目標に反対しましたが、安倍総理大臣は、日銀法の改正をちらつかせて、白川総裁に、インフレ目標をのませています。
さて、筆者は、「2024年の日本の主食用米の見込み需要量約669万トン」が正しいと仮定して、供給量(生産量)の推定値に間違いがあるという前提で、議論してきました。
しかし、「2024年の日本の主食用米の見込み需要量約669万トン」は、間違いであることに気づきました。
次の資料から引用します。
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米の消費及び生産の近年の動向について H6.8 農林水産省
https://www.maff.go.jp/j/council/seisaku/syokuryo/240827/attach/pdf/240827-3.pdf
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図1は、主食用米等の需要見通しです。
この資料は、3月5日の推定式を7月30日に改定したことを示しています。
推定は、図1の中のグラフの一人当たりの米の消費量の推定値に、人口をかけて行います。
この一人当たりの米の消費量の推定値は、間違いです。
間違いは、2点あります。
第1に、相関は、因果ではありません。
第2に、時系列は、因果ではありません。
ここでは、一人当たりの米の消費量が変化する(減少する)原因が無視されています。
時系列(トレンド)は、因果ではありませんが、時定数が大きな時には、ある程度は予測があたります。
企業の株価は、トレンドで予測できる理屈はありません。
しかし、戦争で爆撃でもうけない限り、企業の従業員、資産などは、1夜にして変化することはあり得ません。つまり、ここには、時定数の効果があります。インデックスファンドが成功する理論は、この時定数を使っています。
とはいえ、市場の構造が大きく変わる時には、時定数効果は小さくなります。
例えば、ガソリン自動車が、EVに変わる時、デザイナーの仕事が、AIでできるようになったときなどです。
データから、時定数効果を読み取るのであれば、利用可能なデータは、市場構造が変化していない最近のものだけです。
図1のグラフのように10年以上前のデータをいれて、フィッティングすれば、市場構造が異なった時代のデータに過剰な重みをつけてしまいます。

図2は、拡大図です。水色の線は、令和1年度(2019年度)です。この年を最後に、減少幅が減っています。
因果推論では、この変化の原因を考えます。
2019年までは、一人当たりの米の消費量を減少させてきた原因が、2020年以降なくなったと考えます。
これは、食生活の変化を考えれば、わかります。
一人当たりの米の消費量を減少させてきた原因は、ご飯(米)より、おかずを食べるようになったからであると思われます。
逆に、2020年以降、おかずより、ご飯(米)よりを食べるようになったと推定できます。
これがわかれば、原因は、可処分所得の減少であることがわかります。
所得が減ったので、より少ない支出で、満腹になるコメの消費が拡大しているのです。
アメリカでは肥満が問題になっていますが、安価で満腹になれる炭水化物の消費量の多い貧困層の方が、肥満の割合が高くなっています。
インフレになり、円安になり、可処分所得が減れば減るほど、一人当たりのコメの消費量が増加するという因果構造が理解できます。
これは、統計学の範囲で、因果を推定しているので、因果推論ではありません。
しかし、相関は、因果でないことを理解することは、統計学の最初の授業で説明されます。
パールは、<統計学の講座を受ければ、必ず全員が1時間目に「相関関係は因果関係ではない」と教わる>(因果推論の科学、p.19)といいます。
パールは、「言語がなければ問うことができない。問うことができない問いに答えることはできない」といいます。
農林水産省の職員、政治家、有識者の誰一人として、統計学の言語(相関関係は因果関係ではない)が理解できていなかったといえます。
「米の消費及び生産の近年の動向について」は、使用したデータを公開していませんので、検証はできません。
図3は、人口をかけた「主食用コメ等の需要予測の推移」です。

政府は、水色のトレンドで予測しています。
人口変化が無視できると仮定して、緑色のトレンドで推定すれば、次になります。
713 ー 673 = 40万トン
702 ー 691 = 11
702 + 11 = 713
政府の予測673万トンとの差は、以下です。
713 ー 673 = 40万トン
減少推定と増加推定の間のずれは、備蓄米100万トンの40%になります。
700万トンのコメの生産量が10%増加(770万トン)した場合と10%減少した場合(630万トン)の差は、140万トンです。この程度の変動は想定されます。
令和6年11月末時点の全国の民間在庫量は260万トンで、11月としては過去最低の水準でした。
コメの需給変動は、統計の言語があれば、モデル化できます。
リスクは、保険会社のようなモデルを作れば、計算できます。
民間在庫量の260万トンは、コメの月別消費のバラツキを平均化します。
一方、140万トンのような大きな年変動は、民間の収穫年をまたぐ、繰り越し在庫量でしか調整できません。
繰り越し在庫は、民間企業の収益を悪化させますので、民間企業は、繰り越し在庫を最少化します。(ただし、今回のように、繰り越し在庫のコストを払っても、利益がより大きくなる場合には、その限りではありません)
つまり、コメの供給を安定化させるのであれば、備蓄米の量を調整して、繰り越し在庫量を安定化させる必要があります。
2024年7月には、民間の繰り越し在庫量が小さくなるので、2024年収穫米の備蓄米の購入をやめて、2023度収穫米の備蓄米の放出をすればよいことになります。
それでも、不足する場合には、輸入米の関税の免除枠を一時的に変更します。
これは、統計学(確率)の言語があれば、大学院の修士レベルの問題にすぎません。
マスコミに出て来る有識者は、誰一人、統計学の言語をもっていません。
予測値には、コメの需給バランスとコメの価格があります。
前者の予測ができなけば、後者の予測はできません。
前者の予測は、統計の言語(統計モデル)が理解できれば、可能です。
統計モデルをつくるメンタルモデルの段階で、備蓄米制度には効果がないことがわかります。
部屋の温度をエアコンで調整するときには、エアコンは、室温が高い時には、冷房で温度をさげ、室温が低い時には、暖房で温度をあげます。室温を一定にするように、このような動作をしないエアコンは、故障しています。
備蓄米制度は、民間の繰り越し在庫量が変動しても、全く、反応しません。これは、備蓄米制度が、最初から壊れたエアコンと同じように、全く機能しないように制度設計されていることを示しています。
そうなった原因は、政策関係者が誰も、統計学の言語を持たなかったためです。
少なくとも、パール流の説明をすれば、こうなります。
コメの価格が上がれば、小麦シフトが考えられます。
しかし、既に、肉から、炭水化物へのシフトがかなり進んでいると思われますので、小麦シフトの影響はあまり大きくないと思われます。
インフレがおさまる、可処分所得が増えるなどの変化がなければ、今後もコメの需要増が続きます。
今回のコメの価格上昇は、可処分所得の少ない世帯を狙い撃ちにしています。
このような問題は、平均値の議論では、わかりません。
統計学の言語がなければ、「問い」をたてることすらできないのです。
放出米の価格が下がっても、誰がその安い米を買うことができるかは、抽選にあたるようなものです。安いコメが、可処分所得の少ない世帯に優先的にわたることはないと思われます。
つまり、選挙対策としては、不十分になり、与党不利の状況は変わらないと思われます。