1)コメの価格は下がるか
農林水産大臣が交代しました。
コメの価格はさがるでしょうか。
この問題は、幾つかの前提条件付きで検討することができます。
現時点では、データがないので、前提条件をチェックすることはできません。
なので、前提条件が正しければという前書きがつきます。
前提:需給バランス
2024年の日本の主食用米の需要量は約669万トンと見込まれています
2024年の日本の主食用米の生産量は約683万トンと見込まれています。
これは、2024年6月までの需要量約674万トンを上回るため、供給は安定していると考えられます。
政府は2025年5月から7月まで毎月10万トンの備蓄米を放出する方針を発表しました。
第3回の入札では10万164トンが落札され、これまでの売渡し数量の合計は31万2296トンに達しています。
以上の数字では、需給バランスでの不足は生じません。
そこで、仮に、主食用米の需要量は約669万トンが正しいと仮定して、1割が不足していると仮定すれば、2024年の日本の主食用米の生産量は約603万トンになります。
31万2296トンが追加されても、30万トンが不足します。
これ以外に、需給バランスの変化は、コメの消費量が、パスタなどの小麦で代替される場合です。
需給バランスが改善しても、コメの価格がさがるためには、コメが売れ残るリスクが必要になります。
既に、仕入れ値が上がっているので、需給バランスの差が小さくなっても、コメが売れのこるリスクが発生しなければ、価格は下がりません。
2025年7月28日に任期満了を迎える参議院議員の選挙があります。
つまり、2か月後に、価格が下がらなければ、選挙に選挙に勝てません、
7月末までに、コメが売れ残るリスクが発生するとは、思えません。
考えられるシナリオは、次の2つです。
第1は、追加の備蓄米の放出をする場合です。その場合には、2022年産を使うことになります。
これから行われる4回目の(政府備蓄米)放出の入札の8割はいわゆる古古米です
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【ほぼ全文】コメ失言で辞表の江藤農相「7カ月懸命に働いた」アピール「正直やらせてほしかった」
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2022年産は、品質が悪いので、価格がさがります。しかし、その影響が、品質のよい2024年産の価格に影響を与えるとは思えません、需要量約669万トンのうち、2022年産を30万トンつぎ込めば、その分の価格はさがりますが、のこりの630万トンの価格は変わらないと思われます。
第2は、市場原理を無視して、放出米の価格を政治的に売値を下げる方法です。
既に、現在の店舗に並んでいるコメは、仕入れ値が高いので、価格を大きく下げることは困難です。しかし、JAに政治圧力をかけて、赤字でコメを卸させることは可能です。この場合には、赤字額は、税金で補填することになります。これは、ガソリンの補助金と同じ仕組みです。ガソリンと同じように、JAだけでなく、全業者に補助金を設定することも可能です。
こうした政策は、見かけの値下げだけで、全くの問題解決ではありませんが、与党の常套手段なので、あり得ると思います。
また、野党も、高等学校の授業料の無償化のように、補助金政策が大好きなので、反対する可能性は低いと思われます。ただし、野党が、この政策を選挙の論点にする場合には、話は変わります。今の状況では、コメの価格が下がらない方が、野党に有利になります。その場合には、野党は、コメの販売価格に補助金を入れるのではなく、農家に直接支払いをすべきであると主張する可能性があります。
しかし、野党がこの主張をして、選挙で多数をとった場合には、野党は短期的にコメのみかけの価格を下げる政策を封印することになります。それも、悩ましい問題になります。
野党としては、選挙までは、コメの値段が下がらず、選挙で多数をとってから、コメの値段が下がることが可能であれば、それが、一番望ましいシナリオになります。
野党は、圧力をかけて、農林大臣を事実上の更迭に追い込みました。
これは、野党には、次の選挙に向けて、有利になる次の手(シナリオ)があったと考えることもできます。
たとえば、野党が、選挙で過半数をとったあとで、コメの販売価格への補助金政策を考えていた場合、農林大臣を更迭しない、選挙までは、失政を繰り返してもらうことがベストシナリオになります。
実際には、野党は農林大臣を更迭に追い込んだので、よりよいシナリオを持っていたと推測できます。
野党が、コメの輸入拡大を考えている可能性があります。野党が、自由貿易と直接支払いのセットにもちこむシナリオを描いていれば、農林大臣の続投を期待する必要はありません。
つまり、7月までに実現の見込みの薄い第3の方法に、輸入米の関税を下げる方法があります。
第3の方法は、「野党が、この方法を与党が取ることはないが、野党は採択できる」と考えている点が重要です。
筆者は、野党が、第3の方法があると確信したことが、農林大臣の更迭につながったと考えます。
朝に、ここまで、原稿を書いてから、昼間に進展がありました。
ひろゆき氏の意見は次のとおりです。
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進次郎氏は21日夜、初登庁した農水省で就任会見に臨み、高止まりするコメ価格の引き下げに向けた決意を表明。備蓄米の放出量については「仮に需要があった場合は、無制限に出す」と述べた。
ひろゆき氏は、進次郎氏の会見での発言を受け、「株と一緒で、政府が本気を出したら市場価格は動くので、高値狙いの中間業者は早く手放さないとドンドン安くなる」と指摘。「アナウンス効果としても、小泉進次郎さんはアホみたいな量を出して関係者の度肝を抜く天然っぷりを発揮しそう」と推測した。
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ひろゆき氏、小泉進次郎氏の備蓄米放出めぐる“手腕”推測「アホみたいな量を出して…」2025/05/22 日刊スポーツ
https://news.yahoo.co.jp/articles/8ea786c8876de964ae5cf16097e6fa296a45b1d0
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小泉農相は、つぎのようにポストしています。
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小泉農相は「備蓄米5キロ2990円で店頭に JA全農長野が公表 卸に6割出荷済み(日本農業新聞)-Yahoo!ニュース」と記事の見出しだけでポストしている。記事は、JA全農長野が確保した備蓄米を卸にすでに62%出荷しており、価格も税別ながら5キロ2990円としているとして、A・コープファーマーズ南長野店の精米売り場を報道陣に公開してPRしたもの。
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小泉進次郎農相、就任一夜明け「コメ5キロ2990円」記事ポスト「仕事はやっ!」ツッコミ多数 2025/05/22 日刊スポーツ
https://news.yahoo.co.jp/articles/c06374aa518c9ba44088004865ea43b299dc0aaa
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日本農業新聞は、事実上のJAの広報誌なので、サンプリングバイアスがあります。
山下 一仁氏は、次のように言っています。
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コメの値段大幅引き下げの特効薬
石破総理が本気でコメの値段を下げようとするなら、無税で輸入しているミニマムアクセスのうちの10万トンの主食用輸入枠(SBS米)の輸入量を拡大するか、キログラム当たり341円という枠外輸入の関税を引き下げるかして、ジャポニカ米の輸入量を増やすしかない。
コメ価格低下の特効薬がある。キログラム当たり341円の関税を1年間に限りゼロにするのだ。
より抜本的には減反の廃止と主業農家への直接支払いである。
以上が週末の議論を聞いた感想である。農林族議員ではない小泉進次郎なら減反を廃止できるかもしれない。
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「コメが売るほどある」江藤大臣には一生わからない…「高いコメを買わされる国民」を国会議員が軽視するワケ 2025/05/21 President 山下 一仁
https://news.yahoo.co.jp/articles/3c968c2145a6e0491364240c5b2c10b1184d8d7a?page=1
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山下 一仁氏は、デープステートは、農林族の議員と農林官僚であって、石破総理は悪くないという立場です。しかし、総理には、大臣の任命権がありますので、このロジックには無理があります。
山下 一仁氏は、放出米の効果は限定的であると考えています。つまり、第3の方法が必要であると考えています。
橋下徹氏は、第2の方法の放出米には、効果があると考えています。
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日本に流通している700万トンのコメのうち、100万トンの備蓄米を、仮に(随意契約で)0円で市場に放出すれば、今、4000円のやつが3000円になりますよ。
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橋下徹氏「野党も…ちょっと卑怯だな」小泉進次郎農相を批判の玉木雄一郎代表らに言及 コメ問題
https://news.yahoo.co.jp/articles/f6a99bedaa3a3ebc925ae416ef4cb637324cf4de
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随契の話も出ています。
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小泉進次郎農相は21日の就任記者会見で、政府備蓄米を集荷業者に売り渡す入札をいったん中止すると発表した。石破茂首相から随意契約を活用した売り渡しを指示されたことを理由に挙げた。
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小泉農相、備蓄米の入札中止を発表 石破首相が随意契約を指示 2025/05/21 毎日新聞
https://news.yahoo.co.jp/articles/aed42ee6bf4c946911d5a75bd95605d509f12370
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仮に、赤字を政府がかぶって、随契でコメの価格を下げれば、それまでに、高値で仕入れた業者は、損をしてしまいます。
これは、財産権の侵害であり、憲法に違反します。
憲法違反をするためには、非常事態宣言で、憲法の執行を一時的に停止する必要があります。
これは、クーデタか戦時扱いなので、今回の随契には、無理があります。
まとめると、論点は、3つです。
第1は、従来どおり追加の備蓄米の放出をする場合です。放出の効果には、タイムラグがあるので、この方法で、コメの価格が下がる可能性があります。しばし待つ対策です。
現時点では、この方法の支持者は、少数派です。
この方法は、農林大臣が更迭されなかった場合のシナリオになります。
理由は不明ですが、野党は、農林大臣を更迭して、この第1の方法のシナリオを封印した方が、選挙に有利になると考えたと思われます。
第2は、市場原理を無視して、放出米の価格を政治的に売値を下げる方法です。
この方法は、第1の方法よりは強力ですが、効果があるか否かの判断は、人によって分かれます。
この方法は、財産権の侵害になるので、実行できるか不明です。
野党は、この第1の方法のシナリオを封印した時に、第2のシナリオを想定していたのでしょうか。
第3は、輸入米の関税を下げる方法です。この方法は、確実に効果があります。
しかし、農業政策の転換になります。
山下 一仁氏は、関税を1年だけさげる方法を提案していますが、一度、関税をさげると、効果が明らかになりますので、よほど、大きなマイナスの影響がない限り、関税は引きさげられたままになります。
第4は、第2の派生形で、ガソリンのように、コメの販売価格に補助金を付ける方法です。
日本維新の会の吉村代表は、<「輸入米もっと認めていい」「輸入米を制限しているから、高いコメしか選択肢がない」>といいます。
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日本維新の会・吉村代表「輸入米もっと認めていい」「もっと生産を強化すべき」農水相辞任より「むしろ大事なのはコメ価格対応」政策の転換訴え
https://news.yahoo.co.jp/articles/1cdf2202e7d5e0c48da47944ab80b56e683b9296?page=2
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これは、日本維新の会は、第2の方法を予想していなかった可能性を示唆しています。
時間が十分にあれば、以上の4方法のうちのどれかで、問題は解決するでしょう。
しかし、野党にとっては、選挙までは、問題が解決されず、その後、速やかに問題が解決することが望ましいです。
2)選挙の課題
さらに、都議選が影を落としています。
産経新聞の説明は、次のとおりです。
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平成21年7月の都議選は、民主党が20議席増となる54議席を獲得し、初めて都議会第1党に躍り出た。自民党は10議席減らし、過去最低(当時)の38議席にとどまった。
翌8月の衆院選では民主が308議席を獲得、自民は119議席と大敗し政権交代が実現した。
25年6月に実施された都議選では自民が59議席を獲得して第1党に返り咲き、民主は15議席と惨敗した。
直後の7月の参院選では、前年12月の衆院選で政権を奪還していた自民が65議席と大勝。衆参で多数派が異なる国会のねじれ状態が3年ぶりに解消された。
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東京都議選は国政選挙の先行指標に? 投開票日まで残り1カ月、過去には国政選と連動も 2025/05/22 産経新聞
https://news.yahoo.co.jp/articles/2ae61b7065a511fb0f3fc7dc5f726a2a4e61699a
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都議選で、政権交代のムードができてしまう可能性があります。
都議選までは、1か月になります。
過去の第1の方法のタイムラグは1か月以上あります。
第3の方法と第4の方法は、法改正を必要とするので、野党の反対があれば、間に合いません。
第2の方法は、憲法違反ですが、野党は、農林大臣を辞任に追い込んだことで、与党の政策選択の余地をなくしてしまったということができます。
都議選を考えれば、利用できる時間は、2週間になります。
与党は、都議選に向けて、パンとサーカス(水道料金の無償化)にたよるところまで追い込まれています。
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東京都は猛暑対策や物価高対策などから、都内全ての一般家庭およそ800万世帯を対象に、今年の夏の水道料金の基本料金を無償化する方針を固めました。
無償化をめぐっては、きのう自民党、公明党、都民ファーストの会が暑さ対策として実施するよう小池知事に申し入れていました。
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東京都が今夏の水道基本料金を無償化へ…全800万世帯が対象 猛暑や物価高対策として 2025/05/20 FNN
https://news.yahoo.co.jp/articles/4da975034dbc404a2eb016e5ae1d44632cd18ed1
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5月20日に紀尾井町戦略研究所のアンケート結果が出ました。要点を引用します。
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[KSIオンライン調査] 2025東京都議選に関する意識調査
■調査の概要
東京都議会議員選挙が2025年6月13日告示、22日投開票の日程で行われます。都議選での関心政策、都議会自民党による政治資金の不記載問題の影響、昨年の都知事選に立候補した石丸伸二氏(前広島県安芸高田市長)が設立した地域政党「再生の道」への期待などについて、都内在住の18歳以上の1,000人に対して5月7日と8日にオンライン調査を実施しました。
■調査結果サマリ
都議選に必ず投票43%
都議選について「必ず投票に行く(期日前投票を含む)」43.2%、「投票に行くつもりだ(同)」32.9%、「分からない」14.2%、「投票に行かない」8.8%となった。「必ず投票に行く」と答えた人を年代別に見ると、10代を除く60代以下の各層は3から4割台だったのに対し、70代以上では6割台に達した。支持政党別に見ると、立憲民主党、国民民主党、共産党が6割台で最も高かった一方、「支持する政党はない」とする無党派層は3割台で最低だった。
投票したい政党・会派の候補者は
都議選でどの政党・会派の候補者に投票したいか聞くと、国民民主党10.1%、東京都議会自由民主党6.7%、都民ファーストの会東京都議団4.7%、れいわ新選組4.0%、東京都議会立憲民主党2.7%、日本共産党東京都議会議員団2.2%、東京維新の会1.8%、都議会公明党1.5%、再生の道1.4%、日本保守党1.0%、参政党0.8%、都議会生活者ネットワーク0.4%、社民党0.1%、その他0.8%、わからない6.4%、まだ決めていない48.4%、投票には行かない(選挙権なしを含む)7.0%だった。
「必ず投票に行く」とした人に限って見ると、国民民主が14.1%に達し、2位の自民9.3%に一定の差を付け、3位にはれいわ5.8%が入った。
都議選で関心の高い政策は物価高対策が最多
都議選で関心が高い政策、テーマを複数回答で聞くと、「物価高対策」70.2%が最多で、以下は「政治とカネの問題」40.2%、「経済活性化、産業振興」39.4%、「医療、介護、障害福祉」32.1%、「防犯や治安対策」28.8%と続いた。
夏の参院選の比例代表で投票したい政党、投票したい候補者が所属する政党を聞くと、上位は国民民主12.5%、自民10.1%、立憲6.1%、れいわ5.4%、共産2.3%となった。未定は41.8%。
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都議選、投票予定候補の所属先 国民10%、自民6%、都ファ4%、れいわ4%、立憲2% 2025/05/20 PRTimes 紀尾井町戦略研究所
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000110.000065702.html
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都内有権者の参院比例投票先は、国民民主が自民を上回っています。
この調査は、野党が、農林大臣の更迭に向けた活動の原因になっている可能性があります。
また、自民党が参議院の過半数を取れなくなれば、総理大臣の不信任決議案が可決する可能性があります。現時点の野党勢力では、野党の意見をまとめる総理大臣を出すことは困難です。しかし、解散総選挙をすれば、野党の議席数が増える可能性があります。野党には、暫定的な首相を選出して、衆議院の解散に持ち込むシナリオが描けます。
こうなると、農林族の議員の利権よりも、自民党全体の議員の利権を優先する論理が通ります。民主党政権の魔女狩り(行政仕分け)の悪夢の再来を避けるためであれば、官僚がコメの価格の引き下げに協力する余地があります。