2)反事実と歴史のif
パールは、「因果推論の科学」(pp.59-61)で、次のように言います。
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「状況が違ったらどうなるか」という問いに答えられれば、私たちは歴史から学ぶことができる。
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これは、歴史のifがあって、初めて、「私たちは歴史から学ぶことができる」という主張です。
パールは、次のようにいいます。
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(なぜという)問いに答えるには、時間をさかのぼって歴史を改変し、もし、Xをしなかったらどうなっていたか」を問う必要がある。
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なお、「因果推論の科学」では、Xには、「アスピリンを服用」が入っていますが、ここでは、一般的表記に換えています。
パールは、「因果推論の科学」(pp.26)で、次のように言います。
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反事実推論は、私たちの世界モデル構造を反映したものである。
同じ構造の因果モデルを共有する人であれば、誰もが同じ反事実的判断をする。
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世界モデル構造(因果モデル)の主要部分は因果ダイアグラムです。
因果ダイアグラムの基本的な構造がメンタルモデルになります。
つまり、メンタルモデルについて、議論して、メンタルモデルの共有ができれば、バカの壁がなくなります。
逆にいえば、メンタルモデルの共有ができなければ、バカの壁が存在するので、議論することは時間の無駄になります。
簡単に言えば、因果ダイアグラムを書いて議論しないと時間の無駄になるといえます。
2-1)財政規律
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消費税を廃止すれば家計の可処分所得が増加し、個人消費が確実に拡大する。景気が上がれば税収はアップします。2025年度当初予算では77兆8190億円と過去最大の税収が見込まれていますが、消費税を廃止すると25兆円減となります。現在の23.2%の法人税率を40%に戻せばよいです。法人税率を引き下げても内部留保金となるだけで投資に向かわなかったわけですから。消費税の廃止と同時にAIなどの投資の即時償却を実施、直後の数年間は赤字国債を発行せねばならないでしょうが、投資や消費が大幅に拡大し、バブルではない内需主導の経済で消費税相当の税収アップが見込めます。
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西田氏は、森山幹事長にも消費税廃案プランを伝え、「参考にします」との返答を得ています。
森山幹事長は「財源の裏付けのない減税政策は国際的な信用を失う」(2025年4月13日、鹿児島の講演)、「いままでも(現金給付は)何回かしたことはあるが、預金に回ったと受け取れる結果となった」(14日、記者会見)と消費減税、現金給付ともに否定的な姿勢を崩していません。森山氏は小泉政権で財務政務官を務めるなど“大蔵族”で財政規律派。竹下内閣、橋本内閣などの消費税導入や増税に腐心してきた過去の政権への敬意もあり、減税に承諾することはないだろうと言われています。
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「消費税そのものを廃止せよ」石破首相に退陣要求の爆弾男・西田昌司議員が明かす「仰天プラン」2025/04/25 FRIDAY 岩崎大輔
https://news.yahoo.co.jp/articles/40c80d271a285af8152b10a2aa805dfcc6fee88c
https://friday.kodansha.co.jp/article/422547?
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西田氏の発言は、「法人税率を40%から現在の23.2%に減税して、消費税を増税したこと(原因)が、家計の可処分所得が減少し、個人消費が減った(結果)の原因であるという説明です。
この因果モデルが正しいか否かは、別にして、西田氏の発言は、因果モデルになっています。
つまり、西田氏の発言は、「時間をさかのぼって歴史を改変し、もし、<法人税率を40%から現在の23.2%への減税と消費税の増税と(原因)>をしなかったらどうなっていたか」いう反事実の問いによって、科学的に答えることが可能です。
パールは、「因果推論の科学」(p.40)で次のように言います。
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ともかく今では、たとえそれがどれほど複雑なものであろうと、あらゆる反事実的な問いに対し、答えとなる値(あるいは確率)を求めることが可能になっている。
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ここで、科学的に答えることが可能という意味は、データがなくて、判断がつかないという場合も含んでいます。つまり、答えがでるか、答えが出ないかを含めた科学的な検討が可能であるという意味です。
一方、森山幹事長の推論は、因果モデルではなく、段落の論理になっています。
財政規律派の主張には、因果構造がないので、検証可能ではありません。つまり、検証可能な科学的な主張ではありません。
例えば、西田氏の主張には、「減税=>経済成長=>税収の増加」あるいは、「増税=>経済の停滞=>税収の減少」という因果モデルが含まれています。
財政規律派は、このような因果構造を無視しています。
パールは、「因果推論の科学」(p.13)で、「因果推論によって、データを基礎とするほぼすべての分野の科学者の考え方が変化した」といいます。
財政規律派は、科学的な因果推論ができていません。
2-2)コメの価格
窪田順生氏は、次のように書いています。(筆者要約)
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一部の専門家らは、 2024年夏から続くコメ不足やコメ高騰の元凶(原因)は「減反政策」にあると言います。しかし、これを50年以上も続けて莫大な税金を投じてきた農水省としてはそれだけは絶対に認められない(無謬主義、段落の論理)。そこで「コメは足りている」という白々しい「嘘」をつき、それを誤魔化すためにまた苦しい言い訳を重ねています。
政策の転換が簡単にできないのが「変わらない国・日本」です。減反政策廃止の最大のネックは、これまで補助金でどうにか生産を維持してきた「兼業農家」です。兼業農家票に支えられる自民党にこうした改革は決してできません。「農業+サラリーマン収入」という兼業農家の家計安定化によって成長したJAバンクを抱えるJAにとっても認められません。
「利権構造」を踏まえると、兼業農家へのバラマキも継続するしかありません。もし日本が減反政策をやめて、コメの大増産に踏み切ると、これまでの減反政策の補助金に追加する形でさらに莫大な補助金がかかってしまいます。
こうした「霞ヶ関の事情」から、農水省には「現状維持」しか選択肢がありません。つまり、「50年に及ぶ減反政策の大失敗」だということは農水省にも自覚があるが、今更、補助金のバラマキを打ち切ることはできない。「コメは足りてます」と壊れたラジオのように繰り返し、これまで続けてきた減反政策を続けていくしかない。詰将棋で言えば完全に「詰み」の状態です。
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「頭じゃなくて米価を下げろ」農水相謝罪に国民から猛ツッコミ!…それでも政府が「コメ高騰政策」を平然と続けるワケ DIAMOND 窪田順生
https://diamond.jp/articles/-/363796
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2-3)中小企業
窪田氏は、続けます。(筆者要約)
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「詰み」の状態は、日本のあらゆる政策に当てはまります。代表は中小企業政策です。
日本企業数の99.7%は中小企業が占め、その約6割は社員が数名という小規模事業者です。日本の労働生産性が低く(OECD加盟38カ国中29位)、平均賃金が低い原因は、中小企業の労働生産性と賃金が低いからです。
日本政府は50年近く、「中小企業は国の宝」といい、成長しない潰れそうな中小企業を補助金や優遇策などで支えてきました。
つまり、政府の政策は中小企業を補助することで、生産性の向上を阻止しています。
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2-4)法の支配
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成長する中小企業をどんどん応援したいが、成長しない中小企業の倒産を防ぐことも「平等」に力を注がなければいけない、となると結局、財源も限られているので、どちらも中途半端になり、日本の中小企業の生産性はいつまでも向上しません。
この「詰み」状態はコメ政策(「50年以上続いた減反政策」)も同じです。
減反政策によって50年以上恩恵を受けて、家計を維持して、子どもを育て上げて、老後の蓄えをしている人々が無数にいる。
そういう政策を簡単に「問題があるから転換だ」とはなりません。特に政治家は選挙があるので票を減らす利権には手をつけられません。結局、稼げる農家も、稼げない農家もどちらも補助金を差し上げましょう、という「玉虫色の決着」に落ち着くはずです。
よく「日本は変わらない」と言われる。そのことについては政治家が悪い、霞ヶ関官僚が悪い、と目の敵にされることが多い。だが、実は彼らがどうこうという以前に、我々国民の中にも「変わりたくない」を望む人たちがたくさんいるからです。
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筆者は、窪田氏の推論には、2つの問題点があると思います。
第1は、今までの政策がなかった場合という反事実を封印していることです。
パールは、「因果推論の科学」(p.26)で、次のようにいいます。
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(反事実思考によって)私たちは自分の過去の行動を振り返って反省し、別の行動をとった場合の結果を想像してみることができる。この能力が私たちの自由意思とそれに対する社会的責任の基礎をなすのだ。
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第2は、法の支配を無視している点にあります。
<我々国民の中にいる「変わりたくない」を望む人たち>は、利権の利害関係者(中小企業経営者、農家、霞ヶ関官僚、政治家)です。
利権は、法治主義で行われていますが、法のもとの平等を実現する法の支配に違反しています。
例えば、国会議員であれば、政治資金規正法をを使って、事実上の合法的な脱税ができます。
これは、納税の義務に対する平等を著しく欠いています。
人権には、法のもとでの平等が含まれます。
つまり、政治資金規正法は、人権を無視する法律です。
法の支配では、個別法で合法であることより、人権を優先します。
法の支配に照らせば、政治資金規正法は、間違っているので、修正する必要があると言えます。
同様に、特定の業界に補助金、つまり、税金を投入(所得移転)することは、法のもとでの機会の平等に違反しています。
技術開発をするより、利権を使って、所得移転する方が、大きな利益をあげられる世界では、技術開発は、停滞します。コメ農家と中小企業の生産性が向上しない原因は、補助金にあります。
窪田氏は、<「詰み」の状態は、日本のあらゆる政策に当てはまる>といいます。
「詰み」の原因は、利権は全てに優先するという法の支配の欠如にあります。
次回は、「詰み」の例を追加してみます。