5)株価を巡って
パールは、「因果推論の科学」(p.14)で、「私たちは、自分の知識とデータを組み合わせることで、(先にあげた5つのような)因果関係に関する問いに答えることができる」といいます。
5つの例以外に、経済政策の策定に、因果推論を使うことができるとも言います。
経済政策の策定に、因果推論を使うことができれば、企業の経営策の策定にも、因果推論を使うことができるはずです。企業経営が順調であれば、企業の株価があがります。
これから、企業の経営策に因果推論を使って、企業の株価の予測ができることがわかります。
この場合の因果モデルは、「企業の経営策(原因)=>株価(結果)」になります。
株価を決定する原因には、企業の経営以外の原因もあります。
ファンドマネージャーは、株式の売買をします。
企業の経営策は、時定数が大きいので、短期的な変動はしません。
しかし、株式売買における時定数は、ゼロに近いので、短期的な変動が大きく、売買の予測は、困難です。
政府の経済政策も、株価(結果)を変動させる原因になります。
トランプ大統領は、関税政策を頻繁に変更しています。
「関税政策(原因)=>株価(結果)」
2025年4月23日現在、来週のトランプ大統領の関税政策の変更を予測することは困難です。
関税政策の変更は、「関税政策(原因)=>株価(結果)」の因果構造の修正を意味します。
因果推論を使えば、将来の予測をすることができます。
その前提には、将来の因果構造に対する主観的な評価があります。
宇宙飛行士は、物理学の法則に従って、作られたロケットにのります。
ロケットが予測通りに飛んでいくためには、将来の因果構造の予測が必須になります。
物理学の場合には、将来も、物理法則(因果構造)は変化しないと考えます。
この信念の根拠は主観になります。将来何が起こるかは、観測してデータをとってみるまでは、わかりません。
アインシュタインは、ニュートン物理学を修正しました。そのような芸当ができるためには、物理法則(因果構造)が時間が経っても変化しないこと、因果構造の検証に必要な膨大なデータを収集できるという前提が必要になります。これらの前提が成り立たない場合には、相対性理論のような精緻な因果モデルを検証することはできません。
よいガソリンエンジン自動車を作れば(原因)、自動車が売れる(結果)という因果モデルは、EVが出てくると成り立たなくなります。つまり、EVの出現は、因果構造の変化になります。
ペニシリンのような抗生物質を服用すれば(原因)、病原菌の増殖を押さえる(結果)こととができます。しかし、耐性菌ができると、この因果構造は、使えなくなります。
物理モデルのように、半永久的に使える因果モデルは例外です。多くの因果モデルには、賞味期限があります。また、賞味期限があるので、モデル作成や検証に使えるデータには、制限があります。データにはノイズが含まれるので、複雑なモデルを作ることは不可能です。
パールは、「因果推論の科学」(p.29)で、<科学研究においては、「仮定」の単純化が必須になる>といっています。
企業の経営努力を原因として、因果推論を使えば、株価の予測ができます。
ファンドマネージャーや政府の介入が原因で生じる株価変動は、企業の経営努力が原因で生じる株価の因果モデルでは予測ができません。
このようにみれば、因果モデルは、原因毎の成分分離フィルターであるとも言えます。
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2010年以降、日本銀行はETFを介して日本株式市場に約37兆円の資金を投入し、株価上昇によりその規模は約70兆円(時価ベース・2024年9月末現在)にまで膨らんでいます。
日銀保有ETFは、東証株価指数(TOPIX)の時価総額における7%超を占めます。
上場するETFは86兆円(同)に過ぎないため、ETF全体に占める日本銀行保有比率は80%を超えています。
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対応間違えば株価下落も 時価70兆円、巨額の⽇銀保有ETFに「出⼝」はあるのか? 2025/04/03 平山賢一
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/87488
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つまり、トランプ大統領の関税政策と同じように、日本銀行のETF資金への介入が原因で生じる株価変動は、企業の経営努力が原因で生じる株価の因果モデルでは予測ができません。
これは、企業経営が、経営努力以外の要因が原因で決まることを示しています。
中国では、アリババの経営に政府の介入がありました。日本では、日本銀行のETF資金が同様の機能をしています。今後、日銀が、ETFを売れば、株価が変動するでしょう。
投資家は、第1には、企業の経営者の能力を信用して、資金を出します。株価が、企業の経営者の能力できまるという因果モデルが通用しない場合には、投資のリスクが高くなります。
日本のFDIが非常に低い原因は、非関税障壁共に、投資のリスクが高い点にあります。
さて、日本では、ルービン流の因果モデルが主流です。
物理法則は、客観的であると考える人もいます。
しかし、将来起こることをデータから予測することはできません。
因果モデルではあるデータに対して意味を持ちます。将来得られるだろうデータにいて、因果モデルを客観的に当てはめる方法はありません。
因果ダイアグラムをつかった因果モデルであれば、株価のうち、予測可能な部分と予測できない部分を分離して、経営努力をした場合に、将来の株価がどうなるかという因果関係に関する問いに答えることができます。
ルービン流の因果モデルでは、このような問いに答えることは、かなり、困難であると思われます。