1)象徴の操作
政治学者の永井陽之助氏は、「政治の世界で人を動かす原理は、1:利益の供与、2:脅迫、3:象徴の操作である」といっていました。
パールは、「因果推論の科学」(p.47)で、ハラリしの「存在しないものを想像する能力」が「進化の超絶的スピードアップ」を生み出した鍵であるという説に賛同しています。
パールは、共同幻想(common fantasies 、神への信仰)や共同の期待(common expectations)によって、信頼の範囲が親族や部族を超えて、結束できるようになったこと「進化の超絶的スピードアップ」を生み出したと考えています。
パールは、「因果推論の科学」(p.286)で、「科学と文化の対立は、科学の発見に合わせて、文化を再調整しない限り収束しない」といいます。
共同幻想は、文化であり、共同の期待は、科学であると思われます。
民主主義を前提とすれば、永井陽之助氏の「1:利益の供与と2:脅迫」は、論外になります。
問題は、「3:象徴の操作」の内容になります。
脇田晴子氏は、特攻は、天皇制の文化が原因で起こったといいます。
この論理では、天皇制の文化が、「3:象徴の操作」になります。
水林章氏は、法度体制が、特攻の原因であると主張します。
この論理では、法度体制が、「3:象徴の操作」になります。
永井陽之助氏、脇田晴子氏、水林章氏の説明は、「3:象徴の操作」です。
パール流に言えば、共同幻想です。
ここには、共同の期待(科学)は出てきません。
これは、パール流に考えれば、人文科学の研究者は、科学(自然科学)の言葉をもっていないためと思われます。
この問題は、社会科学にも共通しています。
社会科学の研究者は、技術を表現する言葉をもっていません。
経済学者の議論では、技術は生産性の向上という表現になります。
そこには、個別の技術を示す言葉はありません。
人工知能が将来の経済への影響を考える場合に、シンギュラリティ(Singularity)がいつくるかという議論をする人がいます。
しかし、生成AIが出て来るまで、大学の入学試験問題を解けるAIはありませんでした。AIの変化は、技術のブレークスルーによって、不連続に起きます。時系列は因果ではないので、トレンドで議論することは不可能なはずです。
こうしたおかしな推論が起きる原因は、必要な科学の言葉を使って議論しないからです。
2)情報の権力
永井陽之助氏の「政治の世界で人を動かす原理は、1:利益の供与、2:脅迫、3:象徴の操作である」という主張には、科学が入っていません。
そこで、例によって、英語版のウィキペディアの「フランスとレイヴンの権力基盤(French and Raven's bases of power)」を紹介します。なお、この見出しは、「フレンチとレイヴンの5つの権力基盤(French and Raven's five bases of power)」の改訂になっています。
フレンチとレイヴンのモデルが、英語圏では、標準的なモデルと考えられています。
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社会的な権力基盤は、関連分野における高度な研究と理論的発展の恩恵を受け、長年にわたり進化してきました。研究と証拠に基づき、当初の理論は多くの発展と精緻化を遂げてきました。フレンチとレイヴンは、変化の依存関係を概説し、それぞれの権力基盤をさらに明確にした独自のモデルを開発しました。
元の類型
社会的な権力基盤は、関連分野における高度な研究と理論的発展の恩恵を受け、長年にわたり進化してきました。研究と証拠に基づき、当初の理論は多くの発展と精緻化を遂げてきました。フレンチとレイヴンは、変化の依存関係を概説し、それぞれの権力基盤をさらに明確にした独自のモデルを開発しました。

社会的影響力の大部分は、依然として6つの権力基盤によって理解できるというのが一般的な理解である。しかし、その基盤はより詳細に説明され、さらに細分化されてきた。表2は、社会的権力基盤をさらに細分化したものである。

権力の基盤
前述のように、社会コミュニケーション研究において、現在一貫して研究されている権力戦略には6つの主要な概念があります。それらは、強制的、報酬的、正当的、指示対象的、専門家的、そして情報的と説明されます。さらに、研究によると、情報源の信頼性は、説得における権力の基盤に明確な影響を与えることが示されています。
注:自動翻訳をつかっているため、表と文章の用語には、若干のずれがあります。
1:強制力(Coercive power)
強制力は、力の脅威を用いて他者の従順を引き出します。力には、身体的、社会的、感情的、政治的、経済的な手段が含まれます。影響の対象者は、強制を必ずしも認識しません。 この種の力は、強制という概念に基づいています。この概念の背後にある主な考え方は、誰かが望まないことを強制されるというものです。強制の主な目的は、従わせることです。強制力の影響は、社会的に、影響を与える主体が望んでいる変化に対象者がどう関わっているかに依存します。さらに、変化の効果を持続させるためには、影響を与える主体が常にその人を監視していなければなりません。
2:報酬力(Reward power)
報酬力とは、他者が期待されている、あるいは望まれていることを行ったことに対して、有形、社会的、感情的、または精神的な報酬を与えたり拒否したりする権利を、一部の人が持つことです。報酬力(正の報酬)の例としては、(a) 成績の良い子供に1ドルが与えられる、(b) 優秀な努力をした学生が優等生協会に入会する、(c) 退職者が退職パーティーで長年の勤続を称賛され、祝われる、(d) 2001年9月11日のニューヨークの消防士たちの行動が英雄として称えられる、などが挙げられます。
3:正当な権力(Legitimate power)
正当な権力は、選挙で選ばれた、選ばれた、または任命された権威の地位から生まれ、社会規範に支えられている場合がある。この権力とは、他者に一定の義務感や責任感を抱かせることができる能力のことである。「部下を褒賞したり罰したりすることは、一般に正式または任命された指導的役割の正当な一部とみなされており、職場の組織におけるほとんどの管理職には、ある程度の褒賞と罰が期待されている。」このタイプの正式な権力は、権威階層における地位に依存している。時折、正当な権力を持っている人は、自分が正当な権力を持っていることに気づかず、自分の目的を達成するために周囲の人々が動き回っていることに気づき始めることがある。正当な権力の3つの基盤は、文化的価値観、社会構造の受容、および指名である。文化的価値観は、ある主体が他の主体に対して正当な権力を持つための一般的な基盤を構成する。このような正当性は他者によって付与されるものであり、この正当性は当初の付与者、その指定者、またはその相続人によって取り消される可能性がある。
4:指示力(Referent power)
指示権力は、私たちが作る提携関係や、私たちが所属するグループや組織に根ざしています。グループへの私たちの提携関係やグループの信念は、ある程度共有されています。 指示権力は類似性を強調するため、影響力のあるエージェントの優位性に対する尊敬は、影響の対象によって損なわれる可能性があります。この権力基盤の利用とその結果には、否定的な場合もあれば、肯定的な場合もあります。強い提携欲求と好感度への関心によって動機付けられた変革エージェントは、この権力基盤を好み、リーダーシップのスタイルに影響を与えます。影響力のあるエージェントは、おべっかやお世辞、共同体意識を利用して影響力を高める場合があります。
5:専門家の力(Expert power)
専門家としての力は、その人が知っていること、経験、特別なスキルや才能に基づいています。専門知識は、評判、専門知識を証明する資格、行動によって実証できます。専門家としての力の基盤の有効性と影響は、否定的にも肯定的にもなり得ます。レイヴンによると、動機が達成の必要性である場合に、専門家としての力はより多く使用されます。情報、知識、または専門知識を他の人に与える能力。(例:医師、弁護士)。専門家としての力や知識の結果として、リーダーは部下に信頼を寄せさせることができます。専門知識は本物である必要はありません。専門知識の基盤を提供するのは専門知識の認識です。個人は、ある人が優れたスキルや能力を持っていることを認識または想定すると、その人に権力を与えます。
6:情報力(Informational power)
フレンチとレイヴンによる元々の 5 つの力は、何年も経って変化をもたらし、レイヴンは 6 つ目の力の基盤を追加しました。情報とは、影響力のあるエージェントが情報という資源を通じて変化をもたらす能力です。レイヴンは、権力が潜在的な影響力を持つということは、論理的に情報も影響力の一形態であることを意味し、情報力という社会的権力の基盤がそこから派生したとほぼ信じていました。情報的影響力は、影響対象の認識と受容につながります。特定の変化のエージェントではなく情報を通じて開始される行動変容の能力は、社会的に独立した変化と呼ばれます。 情報力を確立するために、影響力のあるエージェントは、将来の説得に効果的となるよう基礎を築くために、影響対象にベースライン情報を提供すると考えられます。情報力、制御、協力、満足度の間には関連があると仮説が立てられ、ラボでの研究でテストされています。その結果、チャネル メンバーによる他者の戦略の制御は、情報力の源とともに高まることがわかりました。レイヴンによれば、動機が達成欲求であり、行為者の自尊心にも影響される場合、情報力はより多く用いられる。フェルドマンは、情報力は最も一時的な力であると要約している。情報を与えれば、力も失われる。これは他の形態の力とは異なり、特定の状況の内容について知っていることに基づいている。他の形態の力は、内容とは無関係である。
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6番間の情報力は、2004年の論文から追加されています。
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Raven, Bertram H. "Power, Six Bases of." Encyclopedia of Leadership. Ed. . Thousand Oaks, CA: SAGE, 2004. 1242-49. SAGE
https://study.sagepub.com/sites/default/files/reference1.4.pdf
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3)対応関係
共同幻想(文化、3:象徴の操作、法度体制)には、「3:正当な権力」と「4:指示力」が対応しています。
共同の期待(科学)には、「6:情報力」が対応しています。
「5:専門家の力」は、この2つに、またがっています。
政治学では、権力とは行為者の行動、信念、行動に影響を与えたり、指示したりする能力のことです。
つまり、科学による権力基盤とは、行為者が行動変容した場合に、起きることについて、共同の期待を表現する必要があります。
パールは、「因果推論の科学」(p.56)で「環境への介入を伴う問いには、受動的にデータを収集するだけでは答えられない」といいます。
政府は、問題があると有識者会議に丸投げします。有識者会議が、データがないので、結論を先延ばしにしたことはありません。
つまり、有識者会議は、因果推論の科学どころか、統計学の水準すら超えていないことになります。
こうなると、有識者会議は、「5:専門家の力」ですが、科学ではないことは明白です。
「6:情報力」が、拡大しています。
その結果、「3:正当な権力」、「4:指示力」、科学ではない「5:専門家の力」は、後退しています。
つまり、今起こっていることは、権力基盤の再編です。
科学ではない「5:専門家の力」は、生成AIに勝てません。
パールは、「因果推論の科学」(p.286)で、「科学と文化の対立は、科学の発見に合わせて、文化を再調整しない限り収束しない」といいます。
文化に基づく権力基盤(「3:正当な権力」、「4:指示力」、科学でない「5:専門家の力」)は、科学に基づく権力基盤(科学的な「5:専門家の力」と「6:情報力」)に入れ替わりつつあります。
たとえば、専門家のアドバイスより、生成AIのアドバイスを優先することがあります。
生成AIの推論においては、使用するデータを指定することができるので、データを使わない専門家のアドバイスより、生成AIのアドバイスを優先させることには、合理性があります。
これは、法度体制(年功型雇用、象徴の操作に基づく政治)の崩壊を意味します。
つまり、情報化社会へのレジームシフトは、政治システムの再編を引き起こします。
既得利権の利害関係者は、これを分断と呼びますが、パール流にいえば、「科学の発見に合わせて、文化を再調整することで、科学と文化の対立を解消するプロセス」になります。