1)答えられる問い
パールは、「因果推論の科学」(p.35)で、こう言います。
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行動や介入の影響についての情報は、対照実験の手法に則ってデータを集めていない限り、生データからは全く得られない。
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2)地方政策の効果
アベノミクスの大規模金融緩和に効果があったかという議論が、10年以上続きました。
同様の政策の効果に対する議論が多く行われています。
新書大賞を受賞した「日本辺境論」で知られる内田樹氏は、次のようにいいます。
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今回の激甚災害の被害は、少子高齢化で人口が減っている過疎地に集中しています。過疎地に復興コストをかけるのは無駄だと考える人が政策決定にかかわって、復興を意図的に遅らせている。
「健康で文化的な生活がしたかったら、都市部に引っ越せばいい。山の中の過疎の集落のために道路を通す、橋をかける、トンネルを通すとか、そんなところに予算を投じることはできない。行政コストの無駄遣いだ」、そういうことを公然と語る人もいます。
江戸時代の人口はだいたい3000万人前後で推移していました。276の藩があり、これらの藩は原理原則としてエネルギーと食料に関しては自給自足でした。それが人口1億2500万人では「人が少なすぎて」不可能になったと言われても、納得できません。
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能登の復興が進まないのは政府に「復興させる気」がないから…地方を見捨てる日本人に伝えたい"歴史的事実" 2025/04/08 President 内田 樹
https://president.jp/articles/-/93668
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経済合理性を無視した、経済合理性よりも利権を優先する政策は、田中角栄氏によって確立しました。
渡辺喜美氏は、永井陽之助氏の言葉を引用して、次のように説明しています。
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「政治の世界で人を動かす原理は3つ。①利益の供与、②脅迫、③象徴の操作である」(政治学者・永井陽之助)。
古今東西どこにでもある人類の原理だとも言えるだろう。③は分かりやすく言えば、マインドコントロールによって信者を作ることに他ならない。
この3つの原理を縦横無尽に駆使し、伝説の政治家になったのが田中角栄だ。
①道路や橋を作る利益誘導から始まって、②政治的に刃向かうものには「日干しにするぞ」と脅す。そして、③列島改造を掲げ、叩き上げの「今太閤」として国民を熱狂させた。信者は今なおいる。
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「解体しろ」と叩かれる財務省が“ぜひとも避けたい”次の総理は?いま政治の主要軸になる「財務省との距離感」2025/04/01 JBPress 渡辺喜美
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/87467
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永井陽之助氏の言葉は、共産主義の政治原理です。ここには、人権と経済合理性を追及するリバタリアンはいません。
3)段落の論理とパラグラフの論理
段落の論理には、論理構造がありません。
デモのように、大きな声をあげれば効果があると思われています。
しかし、パラグラフの論理では、トピックセンテンスに納得してもらうためには、論理展開とデータについて納得してもらうことが必要になります。
パールの主張に従えば、「生データからは、結論は全く得られない」ことになりますので、推論の方法を議論して、検討する必要があります。
ところが、段落の論理に陥ると、論理構造とデータは無視をして、ともかく正しいと思われる答(反論)を主張すればよいという判断になります。
反論を受ける側も、反論に、論理的にこたえる必要性を感じていません。
パラグラフの論理では、データから結論が得られない場合には、正しいと思われる答(反論)するよりも、反例を示せばよいことになります。
たとえば、内田樹氏の江戸時代の人口規模の3000万人あれば、地方を切り捨てる必要はないはずであるという主張に対して、正しいと思われる答(適正な人口規模の推定方法)を提示するのではなく、3000万人規模で、地方を維持することは困難であるという反例を示せばよいことになります。
読者は、反例を示すだけでなく、正しいと思われる答(適正な人口規模の推定方法)を提示すべきであると考えるかも知れません。
しかし、十分なデータがなければ、正しいと思われる答(適正な人口規模の推定方法)を提示することはできません。
反例を示して、反例をクリアできる因果モデルを作成して、初めて、前向き研究で、データをとることができます。
パールは、「因果推論の科学」(p.57)で、「具体的にどういうデータがあればいいのか。自分がどういうデータを必要としているかを知る方法があるか」という問いに答えるのが因果推論の科学であるといいます。
この問いに答えるためには、因果ダイアグラムが必要になります。
内田樹氏の「持続可能な人口3000万人論」には、エネルギーという交絡因子が無視されています。
明治時代の5万分の1の地図をみれば、山の中にまで、字が設定されています。
これは、山の中に人が住んでいたことを表しています。
山の中で生計ができた理由は、山には、薪と炭のエネルギーがあったからです。
現在のエネルギーの中心は、石油です。山には、売れるエネルギーはありません。
山が自然エネルギーの生産場になれば、山の中に人が住むことが可能になるかも知れません。
たとえば、太陽光パネルや風力発電が起こすエネルギーに対して課税して、その収入が、地方税になれば、状況は大きく変わります。
サッチャー政権は、合理化と民営化で、英国経済を立てなおしたという説明が通説です。
しかし、ジム・ロジャーズ氏は、北海油田が、交絡因子であり、北海油田がなければ、合理化と民営化だけで、英国経済を立て直すことは出来なかったと考えています。
この仮説を検証するデータはありません。
なので、「合理化と民営化だけでは、英国経済を立て直せなかった」という仮説を検証する方法は、ありません。
いずれにしても、無理に、正しいと思われる答えを出すメリットはありません。