因果ダイアグラムの外科手術(2)

4)構造方程式モデリング

 

因果ダイアグラムをもう少し考えます。



図2 自動車の燃費の因果ダイアグラム



 

 

図2は、自動車の燃費の因果ダイアグラムです。

 

通勤に自動車を使っている人は、平日は、1人で乗車します。

 

週末に家族で出かけるときには、乗車人数が増えます。

 

しかし、その変化に対しては、同じ図2の因果ダイアグラムを使うことができます。

 

こうした因果ダイアグラム(パス図)をつかって、構造方程式モデルをつくれば、重回帰分析と同じように、パス係数を求めることができます。

 

乗車人数が変化すれば、重量と燃費を結ぶパス係数が変化します。

 

図2には、重量へのバックパス経路がありませんので、介入する変数に合わせて、因果ダイアグラムの外科手術は不要です。

 

5)工場の因果ダイアグラム2(介入後)

 

図2を参考にして、前回の図1の右の工場の因果ダイアグラム1(介入後)を図3の工場の因果ダイアグラム2(介入後)に書き直しました。

 

図1には、2枚の因果ダイアグラムがあるので、左の介入前を「工場の因果ダイアグラム1(介入前)」、右の介入後を「工場の因果ダイアグラム1(介入後)」と読んで、区別します。

 

図2のダイアグラムでは、政府補助金の介入前には、黄色の矢印の自己資金と借入が、資金の原因になります。

 

政府資金の介入後は、黄色の矢印は、削除され、その代わりに、政府補助金の赤色の矢印が有効になります。

 

それ以外の青色の矢印には変化はありません。




図3 工場の因果ダイアグラム2(介入後)



 

図4は、図1の右側の「工場の因果ダイアグラム1(介入後)」(再掲載)です。

 

この場合には、政府補助金の介入によって、非常に多くの矢印が消えています。




図4 工場の因果ダイアグラム1(介入後)

ここには、介入後について、「工場の因果ダイアグラム1(介入後)」と「工場の因果ダイアグラム2(介入後)」の全く異なった2つの因果ダイアグラムがあります。

 

どちらが、正しいのでしょうか。



パールは、「因果推論の科学」(p.143、p.145)で言います。

因果ダイアグラムは、分析すべき因果プロセスのトポロジーについての自身の質的な信念の反映

パスダイアグラムの作成には、主観がどうしても必要

二人の研究者がそれぞれ全く別の因果ダイアグラムを作って同じデータを解析することも可能であり、その場合はおそらく両者の得る結論は同じにならないだろう

 

つまり、政府補助金による介入の因果ダイアグラムを、客観的に、1つに絞りこむことはできます。

 

因果ダイアグラムが主観に基づく理由は、次の2つです。

 

第1に、因果ダイアグラムで、観測可能な部分は、変数だけです。グラフのパスは、観測できません。グラフのパスは、主観です。

 

第2に、反事実を扱うには、データだけでは不十分です。反事実をあつかうには、反事実のデータの作り方が因果モデルに含まれている必要があります。

 

パールは、「因果推論の科学」(p.22)で、「モデルは、データが作成されるプロセスを表現するもの」であるといいます。

 

6)まとめ

 

図3の「工場の因果ダイアグラム2(介入後)」が使えるのであれば、前回筆者が主張した、「工場の因果ダイアグラム1(介入後)」に基づく、政府補助金は、技術進歩を阻害するという説明はなりたたなくなります。

 

ラピダスを例にとれば、ラピダスの工場建設の因果ダイアグラムは、「工場の因果ダイアグラム1(介入)」と「工場の因果ダイアグラム2(介入後)」のどちらが、適切であるかは主観の問題になります。

 

ただし、ニュースによれば、ラピダスの工場建設で話題になっている変数は政府補助金ばかりなので、その情報を基準にすれば、筆者は、「工場の因果ダイアグラム1(介入)」が、「工場の因果ダイアグラム2(介入後)」より適していると判断します。

 

パールが指摘するように、異なった因果ダイアグラムは、異なった結論を導き出します。とはいえ、モデルの検証はできるので、モデルの検証によって、不適切な因果モデルは、棄却できます。

 

因果モデルには、2つの主観があります。

 

第1は、パスを含む因果ダイアグラム(因果構造)のモデルの主観です。

 

第2は、因果ダイアグラム(因果構造)の再現の主観です。

 

筆者は、政府補助金によって工場を建設する時の因果ダイアグラムとしては、「工場の因果ダイアグラム1(介入後)」が適切であると考えます。

 

しかし、筆者は、政府補助金の供給がストップすれば、因果ダイアグラムは、「工場の因果ダイアグラム1(介入前)」に復帰すると考えます。

 

たとえば、リーマンショック後に、アメリカの金融機関は、政府補助金を受け入れました。

 

このときの状態は、「工場の因果ダイアグラム1(介入後)」のようになります。

 

しかし、その後、「工場の因果ダイアグラム1(介入前)」に復帰したと考えています。

 

一方、日本のバブル崩壊の処理は、10年以上かかっています。こうなると、「工場の因果ダイアグラム1(介入前)」に復帰が大幅に遅れます。復帰に10年以上かかれば、人材の質が変化してしまいます。

 

あるいは、エルピーダメモリジャパンディスプレイの場合では、政府補助金が、数次にわたって投入されています。つまり、「工場の因果ダイアグラム1(介入後)」の状態が、繰り返されて、常態化しています。こうなれば、技術は消滅してしまいます。

 

あるいは、太陽光発電でも、DXでも、政府の補助金が数次にわたって投入された業界は、技術競争力を失っています。

 

モデルの因果構造と、モデルの因果構造が、いつ当てはまるかは主観の問題になります。

 

この主観は、ベイズ統計と同じように検証することは可能ですが、データからは、導きだせません。

 

「因果推論の科学」で、パールは、因果モデルとその基礎となるメンタルモデルは、客観ではなく、主観であると断わっていますが、説明だけで、理解できた人は少ないと思います。

 

補足:

 

英語版のウィキペディアの次の見出しに、大変優れた解説があります。

 

自動翻訳でも、十分理解が可能です。

 

和書で、ここまで、モデル利用上の留意点を整理しているものはないと思われます。

 

構造方程式モデリング(Structural equation modeling)

 

因果モデル(Causal model)

 

最近、英語版のウィキペディアに勝てる大学の講義は少ないと感じています。

 

大学で講義をうけるよりも、英語版のウィキペディアと英語版のYou tubeの方が遥かに理解が深まります。