1)因果推論の科学
パールの「因果推論の科学」に、相関と因果の説明があります。
伝統的な統計学では、相関と因果は異なるという説明だけで、因果について考えることは封印されています。
原因に介入すれば、結果がかわります。
結果に介入しても、原因は変わりません。
「因果推論の科学」では、何が原因で、何が結果であるかを表現する言語は、因果ダイアグラムです。
2要素に限定すれば、「原因=>結果」という矢印が因果の方向を示します。
この因果の方向の矢印を決める方法は、主観です。
これは、パール流にいえば、因果推論のレンズ(世界モデル、メンタルモデル)を通して世界を見ていることになります。
CauseNetのように、アルゴリズムを使って、客観的に、矢印の方向を決める方法もありますが、万能ではありません。
ルーピンの因果モデルのように、欠測データの問題に置き換えて、矢印を付ける方法もありますが、万能ではありません。
こうした問題に対するパールの姿勢は、一貫していて、数学的に証明できない手法は、万能ではないという立場です。
原因に介入すれば、結果がかわります。
結果に介入しても、原因は変わりません。
パールは、その例をあげています。
<ニワトリが鳴いたから朝にはるわけではない>(p.16)
<気圧計の針を無理に下げても、嵐が来る確率に変化は起きない>(p.24)
パールは、因果がなく、相関にみに支配される世界を説明しています。
<患者は病気なる確率をさげるために病院に行くことを避ける>(p.24)
<自治体は、火災の発生を減らすために消防士を解雇する>(p.24)
パールは、「因果推論の科学」(p.63)で、次のようにいいます。
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物事を理解することは、分野を問わず、あらゆる科学者にとって「聖杯」のようなものである。物事を理解すれば、私たちは、実際に見ていない世界で何が起きるかを予測できる。
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パールは、理解とは、反事実的な問いに答えられる世界モデル(メンタルモデル)の習得であるといいます。
さて、読者は、因果関係(の世界モデル)を「理解」できたでしょうか。
2)嵐の海
パールは、因果の理解できない人たちに因果関係(因果ダイアグラム)を認めさせる闘いを嵐の海の航行に例えています。(p.205)
ガソリンの価格が上昇したので、政府は、補助金をつけました。
経済成長しないので、大規模金融緩和をしました。
コメの価格があがったので、備蓄米を放出しました。
賃金があがらないので、春闘の賃上げ率をあげました。
などなど。
これらの政策は、全て、原因ではなく、結果に介入しています。
パール流にいえば、<気圧計の針を無理に下げて、嵐が来る確率を下げる>方法です。
この方法では、原因は変わりませんので、変わらない日本が繰り返されます。
税金を原因の解消ではなく、結果に投入すれば、問題解決ができないので、継続して税金を投入し続けることになります。そうなれば、税負担は増え続けます。
賃金は結果で、原因は、生産性の向上です。しかし、政府は、賃金をあげて、その分を価格に転嫁することを推奨しています。賃金上昇の便益をうけるのは。一部の大企業だけです。春闘で、賃金をあげても、大企業の労働者以外の可処分所得は増えませんので、価格があがった分だけ、購買量が減ります。実体経済(モノの動き)は小さくなります。
典型的例は、コメです。コメの価格があがれば、購入量が減ります。消費者は、輸入比率の高く価格の上昇の小さな小麦や輸入米に切り替えています。結局、生産性の低い日本のコメをつくることはできなくなります。売れるコメをつくるには、生産性の向上(原因)に介入する必要があります。しかし、政府は、コメの販売価格(結果)に介入し続けました。この方法では、原因が変わらないので、問題が解決しません。
国産品の価格があがれば、輸入品を買うことになります。しかし、輸入品を買うためには、外貨が必要です。
2023年9月21日の円の対ドル相場は1ドル=148円台になり、「実質実効為替レート」が1970年以来、53年ぶりの低水準となりました。これは、円が1ドル=360円の固定相場制だった時代と同水準でした。
その後も、円安は加速しています。
この原稿を書いている2025年4月3日のレートは、149.25円で、最近では、円高になりますが、2024年の最安値では、160円を超えています。
外貨の稼ぎ手の中心は、自動車産業ですが、日本企業は、自動運転とEVの技術開発に乘り遅れています。
また、BYDは、ほぼ無人の工場の開発に成功しています。無人工場には、労働者がいないので、労働者の賃上げ(春闘)はありません。
AI時代には、景気(生産性の向上)を左右するのは、AIの性能であって、人間ではありません。
自動車は、労働者がいなくても作ることができます。この方法でつくった自動車がもっとも生産性が高く価格競争力のある自動車です。
「生産性(原因)=>経済成長(結果)」という因果モデルで考えれば、賃上げをして、結果に手を入れても、問題である原因は解決しません。
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構造的な賃上げによる経済好循環の実現に向けて 2024/01/17 経団連
https://www.keidanren.or.jp/policy/2024/008.html
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パールは、「残念ながら、計量経済学と呼ばれる分野では、いまだに、同様な(確率と因果を取り違えた)研究と考察が行われている」(p.83)といいます。
経済学者は、因果ダイアグラムを書かないので、原因と結果の区別がつかないのです。
AIの技術レベルで考えれば、日本の自動車メーカーが5年後に生き残る確率は限りなく小さいです。
これは、エンジニアの養成と適正な処遇(原因)をしてこなかった結果です。
補助金では、問題は解決しません。
香港の英字紙サウスチャイナ・モーニング・ポストによると、中国民用航空局は2025年3月29日、億航智能と合肥合翼航空に運航証明を交付し、両社による自動操縦旅客飛行(ドローン)の運航を許可しました。
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中国、空飛ぶタクシーに初の運航許可...ドローン旅客時代が始まる 2025/04/03 Newsweek シェーン・クラウチャー セオ・バーマン
https://www.newsweekjapan.jp/stories/business/2025/04/544976.php
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4月13日にはじまる大阪万博の「空飛ぶクルマ」は、先端技術ではなく、既に営業中の普及技術になりました。
大阪万博で検索をかけると、次のような質問がトップにきました。
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大阪万博2025が中止になった理由は何ですか?
AI による概要
2025年大阪・関西万博が中止になる可能性は、建設スケジュールの遅延やコロナ禍による資材不足、複数の国による参加辞退などが要因として考えられています。
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大阪万博の内容は、AIに見透かされています。
日本の高度人材の海外への出稼ぎは既に始まっています。
今後、自動車の輸出ができなくなれば、外貨が得られなくなるので、スキルのある人材は、出稼ぎするはずです。資金も国内から海外に逃避するはずです。
売り上げと企業活動の中心が海外にある企業は、円安と外貨不足の影響を受けないので、安定した経営が可能ですが、輸出に依存している企業は、行き詰る(倒産する)と思われます。
パール流にいえば、、<気圧計の針を無理に下げても、嵐が来る確率を下げられない>ことを理解できない人が、経営者や政府の中枢にいる場合には、打つ手はありません。