5)問題の所在
問題点のイメージを図1に示します。
横軸に、所得階層別人口をとります。
縦軸は、納税額です。
以下では、単純化した線形モデルを使います。
国民には、納税の義務があるので、L1の線のように、所得に、準じた納税額が生じます。
L3は、最低限の生活に必要な費用です。
L3がないと生活できませんので、所得ラインが、L4以下の人には、生活費が支給されます。
所得ラインは、L4以下の人の場合、税金を納めれば、生活できなくなりますので、税金は免除され、生活費が支給されます。
問題は、L4のラインの位置です。
累加人口割合で考えた所得がL4ライン以下の人の割合をZ%とします。
税金の免除も、年金の最低支給額も、データから、L4ラインとZ%の実態を求めて検討する必要があります。
ところが、政府は、この検討をしていません。
Z%が、20%以下であれば、国民の8割が納税している健全な社会です。
Z%が、50%を越えると、納税している人が過半数をわってしまいますので、社会の維持が困難になります。
所得税ではありませんが、法人税については、約半分の企業が赤字を理由に、納税していません。その場合には、納税の義務を果たしている企業が損をしているイメージになって、社会の維持が困難になります。これは、制度に問題があることを示しています。
それでは、Z%は、どこにあるのでしょうか。

図1 問題の所在
6)熊野英生氏の分析
熊野英生氏は、住民税非課税世帯を次のように分析しています。(筆者要約)
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厚生労働省「国民生活基礎調査」(厚生労働省、2022年)によると、総世帯の24.2%が住民税非課税世帯だ。国立社会保障・人口問題研究所の推計では、24年の総世帯数は5,696万世帯だから、その24.2%は1,381万世帯と推定される。
年齢別にみた住民税非課税世帯の割合は、20歳代が24.2%、30歳代9.2%、40歳代9.2%、50歳代11.3%、60歳代19.2%、70歳代34.9%、80歳以上44.7%だ。住民税非課税世帯のうち74.7%が65歳以上(大半が年金生活世帯)で占められている。
総務省「家計調査」(総世帯、2024年7月から9月)では、無職世帯の割合は37.37%である。賃上げの恩恵を受けられる勤労者世帯は53.53%である。賃上げの恩恵が及ばない無職世帯≒年金生活世帯とすると、4割近くに達する。無職世帯の年間収入は307万円と、勤労者世帯の656万円に比べて半分以下である。
総世帯(単身世帯+2人以上世帯)の所得分位ごとの年収が過去10年間でどう変わったかを図表2に示す。
平均値では確かに世帯年収は上がっている。下位10%や下位10%から20%の年収階層では、2015年から2024年(各年7月から9月)の世帯年収の水準が下がっている。下位20%から30%や下位30%から40%の年収階層では、世帯年収は、ほとんど上昇していない。勤労者世帯では、春闘などの賃上げの恩恵はあるが、年金生活世帯では恩恵がない。この間、消費者物価は食料品とエネルギーが上昇している。2022年以降に進んだ生活必需品の価格高騰のダメージも、年金生活者には大きかった。

図表2 家計の所得分布階層別の年間収入の推移
2004年の年金改革によって、現役世代の人口減少などを反映させて公的年金の給付水準を実質的に切り下げていくマクロ経済スライド制が導入されていて、物価にスライドする上昇幅を抑える仕組みになっている。この仕組みは、年金生活世帯を物価上昇に対して脆弱にする。2004年の年金改革は「100年安心」と言われたが、その実態は年金生活者の所得環境を追い詰めている。
2013年以降、長期金利が物価上昇率よりも低い状態が当たり前になった。運用利回りの低さは、年金生活者の金利収入によるサポートもできなくしている。
2020年に、国民1人当たり10万円、住民税非課税世帯向けに、2021年に10万円、2022年に10万円、2023年夏に3万円、2023年末から2024年初に7万円、2024年秋に3万円を配っている。
2004年の年金改革で決めた給付削減分を補う暗黙の保障としての意味合いから、毎年、何らかの給付をし続けていると理解できる。
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またまた住民税非課税世帯に給付金が配られる訳 2024/11/22 第一生命ホールディング 熊野英生
https://dlri.co.jp/report/macro/388442.html
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総世帯の24.2%が住民税非課税世帯です。
無職世帯の割合は37.37%で、勤労者世帯は53.53%です。
住民税非課税世帯の74.7%が65歳以上(大半が年金生活世帯)で、25.3%が、65歳未満です。
住民税非課税世帯の4分の3が、65歳以上で、4分の1が、65歳未満です。
本来であれば、次のようなクロス集計をすべきです。
無職世帯 勤労者世帯
37.37% 53.53%
住民税課税世帯 75.8% a b
住民税非課税世帯 24.2% c d
クロス集計できるデータは公開されていません。未知数が4つで、方程式は、合計が100%を考えると不足して未定になります。
たとえば、数字をを丸めた場合に、次の2組の値は、縦横の合計に合いますが、唯一の解ではありません。
無職世帯 勤労者世帯
40% 60%
住民税課税世帯 75% 20 55
住民税非課税世帯 25% 20 5
無職世帯 勤労者世帯
40% 60%
住民税課税世帯 75% 30 45
住民税非課税世帯 25% 10 15
熊野英生氏は、cを問題にしていますが、dには、触れていません。
恐ろしいことに、cとdのデータはありません。
cは、無職世帯の貧困問題です。
dは、勤労者世帯の貧困問題です。
この2つは、わけて検討する必要があります。
ジニ係数は、貧困対策には使えません。
国連のデータベースは、SQL条件で検索抽出できます。
総務省のデータは、全て、集計後の2次元の表で、SQL条件での検索ができるファクトを含んでいません。
7)所得階級別の世帯数
図表3 所得金額の階級別に世帯数の分布を示します。
ファクトデータがないので、図表2と図表3の関係が整理できません。

図表3 所得金額の階級別に世帯数の分布
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所得の分布状況
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa09/2-2.html
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図表3の所得金額の階級別に世帯数の分布をみると、「200~300万円未満」が14.6%、「100~200万円未満」が13.0%、「300~400万円未満」が12.7%で特に多く、これらをあわせた100万円以上400万円未満は40.3%でボリュームゾーンとなっている。中央値は423万円となっています。
400万円未満の累加人口比率は以下になります。
6.7+13.0+14.5+12.7=47%
図表2の2022年の下位40%から50%の年間平均収入は404万円です。
単純に内分すれば、下位45%境界の年収が404万円になります。
図表3の中央値は、427万円です。
図表2の2020年の下位40%から50%の平均年収が404万円、下位50%から60%の平均年収が489万円です。
下位45%境界の年収が404万円、下位55%境界の年収が489万円とすれば、下位50%境界の年収は、が446.5万円になります。427万円は、これより少し少ないですが、オーダーとしてあっています。
ところで、アメリカの所得分布は4人世帯に換算されています。
日本の2022年の4人世帯の所得分布を図表4に示します。

図表4 日本の2022年の4人世帯の所得分布
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「米国では年収1400万円は低所得」は本当か? 2022/06/09 HumanCapital 海老原 嗣生
https://project.nikkeibp.co.jp/HumanCapital/atcl/column/00071/060600001/
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図表5は、アメリカの世帯所得分布です。恐らく、4人家族換算と思われます。

図表5 アメリカの世帯所得分布(青色)
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アメリカの世帯所得分布
https://144thousandshares.jp/income/USA/USA
American Community Survey
S1901Income in the Past 12 Months (in 2023 Inflation-Adjusted Dollars)
https://data.census.gov/table/ACSST1Y2023.S1901?q=household+income&g=040XX00US06,36
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今回は、ここまでにします。
ジニ係数には、最低限の生活を保障する意味はありません。
確率変数は、ヒストグラムを書いて、分布を確認しないと議論ができません。
こうした統計学の最低条件をクリアしない記事が蔓延しています。
図表5と図表3を見れば、アメリカの所得分布の方がフラットに見えます。少なくとも、納税するレベルの収入がある人の割合は日本より高いと思われます。
海老原嗣生氏は、アメリカの統計は、4人家族換算なので、図表4を使うべきであるといいます。しかし、図表4は、図表3とはことなり、貧困問題のほとんどない世界です。