1)野口悠紀雄氏の分析
野口悠紀雄氏の賃金の分析を要約します。
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「賃金構造基本統計調査」によって2023年から24年にかけての賃上げ率を見ると、図表1の「名目」欄に示すとおりです。
消費者物価(インフレ率)は、「住居費を除く総合」で、2024年の対前年比は、3.19%を使用しています。
図表1 企業規模別賃上げ率(2024年、%)
名目 実質 差(インフレ率)
計 3.738 0.549 3.189
1000人ー 5.144 1.955 3.189
999ー100人 3.857 0.668 3.189
10ー99人 1.699 -1.49 3.189
大企業の名目賃上げ率は、5.1%と高く、連合による春闘最終集計結果5.1%にほぼ等しい。連合集計では、組合員数300人未満の中小組合では平均賃上げ率が4.45%としていましたが、1000人未満の中小企業の平均賃上げ率は、それより低い3.9%でした。
実質賃上げ率は、大企業では1.95%ですが、中企業でほぼゼロ、小企業ではマイナス1.49%です。
「毎月勤労統計」の2024年の対前年比賃金の変化は以下の通りです。
図表2 企業規模別賃上げ率(2024年、%)
名目 実質 差(インフレ率)
40人ー 3.3 0.1 3.2
39ー5人 2.8 -0.3 3.1
政府や人事院は、賃上げが転嫁によって行われていることを認め、かつそれが望ましいことだとして、転嫁による賃上げを進めようとしています。
あらゆる場合に賃上げ分の転嫁ができるようにするのは、およそ現実を無視した話です。
便乗値上げが続けば、物価高騰は収まりません。そして、賃上げは消費者が負担になります。
現在の状況から脱却するためには、利上げを行なって円高を実現し、輸入価格の下落を実現することが必要です。それによって、物価上昇率を引き下げる必要があります。
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「春闘で好調」なのは大企業だけ…!置き去りにされる「中小企業の苦境」と、ますます拡大する「貧富の格差」2025/03/20 現代ビジネス 野口悠紀雄
https://gendai.media/articles/-/149202
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2)加谷珪一氏の分析
20204年の加谷珪一氏の分析を要約します。
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連合は2024年の春闘において、昨年実績を大きく上回る5%の賃上げ目標を掲げている。通常、組合側と経済界側は主張が食い違うものだが、経団連は連合の方針について「労使での検討・議論に資する」としており、前向きに評価している。
春闘で提示される賃上げ率は、大きく分けると2つの項目で構成される。ひとつは賃金全体の底上げを示すベア(ベースアップ)、もうひとつは年次によって給料が上がる定期昇給分である。定期昇給分は厳密に言えば、賃上げではない。
2023年の春闘では約3.6%の賃上げが実現したとされるが、ネットの賃上げ率(ベアの数字)は2%である。
2024年の春闘では定昇昇給分を含む5%の目標が掲げられており、連合はベアの目標を3%としている。もしこの目標が達成できれば、2023年は2%のベア、2024年は3%のベアとなるので、2022年を基準にした単純計算では約5%の上昇率になる。
2021年1月と比較した物価上昇率は7%を超えており、この賃上げ水準では実質的には物価に追い付いていない。物価にギリギリ賃金が追い付いたという感覚を得るためには、ベアで4%程度、定期昇給分(3%)を含んだ数字の場合、7%程度が必要になる。
政府は賃上げ税制を適用する要件を見直し、最大優遇を得るための賃上げ率を7%にする。この数字の7%には、上記の意味がある。インフレと従業員の生活状況をよく理解して、7%以上の賃上げを表明している企業もある。
少なくとも2024年の春闘ではベアが(予想される物価上昇の、筆者注)3%超えが実現するよう、上場企業の経営者は努力すべきである。
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メディアが報じる「賃上げ」の誤った数字の見方…「ベア」に拘らないと、意味がない 2024/01/31 現在ビジネス 加谷珪一
https://gendai.media/articles/-/123629?imp=0
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3)問題点の整理
加谷珪一氏の主張を野口悠紀雄氏と同じ形に整理すれば以下になります。
図表3 2024年推定賃上げ率(2024年、%)
名目合計 名目定昇 名目ベア 実質ベア 差(インフレ率)
5.0 3.0 2.0 -1.0 3.0
次に、図表1と図表3をドッキングします。
図表4 企業規模別賃上げ率(2024年、%)
名目合計 名目定昇 名目ベア 実質ベア 差(インフレ率)
計 3.738 3.0 0.738 -2.541 3.189
1000人ー 5.144 3.0 2.144 -1.045 3.189
999ー100人 3.857 3.0 0.857 -2.332 3.189
99ー10人 1.699 3.0 -1.301 -4.679 3.189
4)2025年の予測
2024年の春闘のベア要求は、3%でしたが、この数字は、2025年の春闘でも変わっていません。
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労働団体の「連合」は2024年11月28日、2025年の春季労使交渉(春闘)における賃上げ目標を正式決定し、基本給を底上げするベースアップ(ベア)は3%以上、定期昇給(定昇)を合わせた賃上げ率は5%以上に設定しました。
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【市川レポート】2025年に国内企業の賃金はどれくらい
上がりそうか 2025/02/28 三井住友DSアセットマネジメント
https://www.smd-am.co.jp/market/ichikawa/2025/02/irepo250228/
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20204年の大企業の名目賃上げ率は、5.1%で、連合による春闘最終集計結果5.1%にほぼ等しかったです。
連合が公表した2025年春闘の賃上げ率が平均5.40%でしたので、20204年の大企業の名目賃上げ率を5.40%と予測することができます。
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経団連の十倉雅和会長は25日の定例記者会見で、連合が公表した2025年春闘の賃上げ率が平均5.40%と過去の最終集計と比べ34年ぶりの高水準となったことについて、「非常にいいスタートを切れた」と評価した。
その上で、賃上げ定着に向けて「確信が深まっていくことを期待している」と述べた。
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賃上げ定着へ好スタート 高水準回答の25年春闘 経団連会長 2025/03/25 時事通信
https://news.yahoo.co.jp/articles/d412ac41b8ce56b46921a025fc512a623d31ebc6
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2024年の連合集計では、組合員数300人未満の中小組合では平均賃上げ率が4.45%でしたが、「999ー100人」の中小企業の平均賃上げ率は、それより低い3.9%でした。
2025年の連合集計では、組合員数300人未満の中小組合では平均賃上げ率が4.92%でした。したがって、1000人未満の中小企業の名目平均賃上げ率は、4.37%と予測できます。
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日本商工会議所の小林健会頭は24日の記者会見で、連合が公表した2025年春闘の賃上げ率(第2回集計結果)が、組合員300人未満で4.92%となったことについて、「中小組合が相当頑張った結果だ」と述べ、評価した。
小林氏は、こうした賃上げの勢いは「組合がない中小企業にも大いに影響がある」と説明。「これを広めていかなければいけない。会員企業に働き掛けをしていきたい」と語った。
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中小が「相当頑張った結果」 連合の春闘集計 日商会頭 2025/03/24 時事通信
https://news.yahoo.co.jp/articles/9988a7848e2053474bb67ae9e1453a9566a0e7a1
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2024年の「999ー100人」規模の企業の名目平均賃上げ率は 3.857%でしたが、「99ー10人」規模の企業の名目平均賃上げ率は 1.699%でした。ここには、2.158%の差があります。この差の原因は不明ですが、企業規模により設備投資の差があり、労働生産性の差があることがわかっています。つまり、中小企業は合併して規模拡大が出来なければ、賃金をあげられません。
2025年の春闘で、連合は、中小企業の賃上げ率を大企業以上にする(格差が縮小する)目標を掲げましたが、実現していません。ここでは、企業規模の違いによる労働生産性の差が、賃金に反映していると仮定します。
こう考えると、2.158%の差が残り、2025年の「99ー10人」規模の企業の名目平均賃上げ率の予想値は 2.212%になります。
図表4を2025年に向けて書きなおすことができます。
図表5 企業規模別賃上げ率予測(2025年、%)
名目合計 名目定昇 名目ベア 実質ベア 差(インフレ率)
計 4.251*1 3.0 1.251 -2.249 3.5*2
1000人ー 5.40 3.0 2.400 -1.1 3.5
999ー100人 4.37 3.0 1.37 -2.13 3.5
99ー10人 2.212 3.0 -0.879 -4.379 3.5
*1 合計は、理論上は、規模別の重み付平均になりますが、統計データは、別途収集されています。2024年の計(平均)の名目合計は、3.738%で、「999ー100人」の 3.857%に近いが、若干小さくなっています。ここでは、この偏差( 3.857- 3.738=0.119 )が変わらないと仮定して、「999ー100人」規模の予測値をもとに、名目合計の計を作成しています。
*2
インフレ率は、2024年までは、概ね3%であり、2024年の実測は、3.189%でした。
しかし、政府は、価格転嫁を推奨していますので、3.189%より小さなインフレ率になるとは思えません。ここでは、3.189%より大きなインフレ率で、切りの良い数字である3.5%を仮定しています。
図表4と図表5をまとめると以下になります。
1000人以上の大企業では、2024年に、実質ベアが、1.045%減になり、2025年に、実質ベアが、1.1%減になり、 合わせて、2.145%減になります。
「999ー100人」の企業では、2024年に、実質ベアが、2.332%減になり、2025年に、実質ベアが、2.13%減になり、 合わせて、4.462%減になります。
「99ー10人」の企業では、2024年に、実質ベアが、4.679%減になり、2025年に、実質ベアが、4.379%減になり、 合わせて、9.058%減になります。
計(重み付平均)では、2024年に、実質ベアが、2.541%減になり、2025年に、実質ベアが、2.249%減になり、 合わせて、4.79%減になります。
「99ー10人」の企業では、平均賃金が低いので、実質ベアが、2年で9.058%減になれば、食べていけません。
水平分業であれば、部品の調達企業が倒産しても、代わりの企業を探すことができます。しかし、垂直統合では、下請け企業が倒産すれば、発注企業も倒産してしまいます。しかし、中小企業の生産性を上げる特効薬はありません。
「99ー10人」の企業では、平均賃金が低いので、実質ベアが、2年で9.058%減になれば、これは危険信号です。このように、賃金の低い階層の賃銀減少が突出していると治安が悪化したり、政権交代が起こっても不思議ではありません。次回は、この点を考えます。