法の支配(8)

17)大船渡山林火災の報道

 

岩手県大船渡市における大規模火災により被災・避難された皆さまに心よりお見舞い申し上げます。

 

4日(火)の夜から5日(水)にかけて、ようやく広範囲でまとまった降水となる見通しです。

 

早急に火災が鎮火することを願っています。

 

さて、岩手県は3月2日午前、同県大船渡市の大規模山林火災の焼失面積が約1400haから約1800haに拡大したと発表しました。

 

マスコミは、こぞって、約1800haの数字を報道しています。

 

しかし、この数字は、大船渡市、岩手県、政府のどこのHPでも確認できませんでした。

 

つまり、約1800haは、ファクトチェックできませんでした。

 

山林火災というオブジェクトは、3種類のインスタンスを含みます。

 

第1は、燃焼してしまった面積です。

 

第2は、燃焼中の面積です。

 

第3は、これから、延焼するリスクエリアです。

 

大船渡市の大規模山林火災では、3つのインスタンスは、刻々変化します。

 

その変化に伴って、3つのインスタンスを最新のものに更新することで、大船渡市の大規模山林火災について、共通のメンタルモデルを持つことができます。

3つのインスタンスが異なる場合には、コミュニケーションに問題が生じます。

 

大船渡市、岩手県、政府のHPには、個別の消防や避難のデータがのっています。

 

しかし、効率的な消火活動と避難をするためには、大船渡市の大規模山林火災の3つのインスタンスを更新することが必要です。

 

約1800ha全体を消火活動の対象とすることは不可能です。

 

既に、燃えてしまったところは、消火活動の対象外になります。

 

消防隊の消火能力は、火災の規模に比べて小さいので、消火活動の中心は、「第3のこれから、延焼するリスクエリア」に隣接する、「第2の燃焼中の面積」で、なおかつ、「第3のこれから、延焼するリスクエリア」の資産価値の高い部分に集中しているはずです。以下では、このエリアを重点エリアと呼びます。

 

火災の状況は、刻々変化していますので、重点エリアの抽出は、随時更新する必要があり容易ではありません、

 

3月2日時点では、重点エリアについての報道はありません。

 

そもそも、1800haは、どのデータに基づいて、どのようにして計算したのでしょうか。

 

高橋浩祐氏は、次のように説明しています。(筆者要約)

2月19日に、最初の大船渡市三陸町綾里田浜下の山林火災が起きました。陸上自衛隊岩手県からの災害派遣要請を受け、20日からヘリコプターによる消火活動に加わっていました。

 

2月24日、上空から火の手が見えなくなり、市は空中消火の必要がなくなったと判断して、ヘリコプターによる消火活動は終了しました。岩手県は24日、災害特別警戒本部を廃止し、自衛隊に撤収を要請しました。

 

岩手県山火事防止対策推進協議会は、27日になって、全県を対象に山火事警戒宣言を発令し、中谷元防衛相は27日、通常の10倍の消火能力を持つ大型輸送ヘリコプター「CH47」2機を追加投入することを発表しました。

<< 引用文献

大船渡の山火事 岩手県はいったんは自衛隊に撤収を要請していたものの、自衛隊の大型ヘリ2機追加投入へ 2025/02/27 高橋浩祐

https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/bb96aa451aa89bb3858de4ed6de253e7861a7af9

 

高橋浩祐氏の説明に基づけば、岩手県は、ヘリコプターからの火の手の目視を基準に判断していたように思われます。ヘリコプターからの目視で、1800haを算出したのでしょうか。

 

パラダイムの世界では、文章には、データと手順の説明がつきます。その説明が長い場合には、最低限でも、リンク先情報が添付されます。

 

段落の世界では、1800haは、岩手県というお上が提示した数字なので、文章を疑ったり、根拠を求めてはいけないことになります。

 

山火事は、生態系の自然現象です。草が燃えて、木が生き残ることもあります。

 

山火事は、進化の正常なプロセスなので、アメリカでは、財産や人的被害の予想されない山火事は消火しません。山火事は、生物多様性に必須のメカニズムと考えられています。



山林火災のファクトには、大きく2種類があります。

 

第1は、歴史的なデータです。

 

第2は、リアルタイムのデータです。

 

効率的な消火活動と避難に使えるデータは、第2のリアルタイムのデータになります。

 

2月27日21時のNHKの報道には、27日午後3時頃の火災被害のエリアが出ています。

 

以下に、引用します。

 



 

 

このデータには。国土地理院のコピーライトがありますので、国土地理院の作成したデータと思われます。

 

しかし、国土地理院のHPでは、大船渡の山火事の情報を見つけることはできませんでした。

 

<< 引用文献

【詳しく】岩手 大船渡の山林火災 避難指示 1340世帯3306人に 2025/02/27 21時 NHK

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250227/k10014734551000.html

>>

 

28日19時のNHKの報道には、同じ27日の午後3時の別の図が出ているので引用します。

 

 

27日の報道と同じ時間帯(27日午後3時)であるにもかかわらず、火災被害のエリアは一致していません。

 

このあと、HPには、ヘリコプターで、火災の煙の目視をしている動画が続きます。

 

<< 引用文献

岩手 大船渡の山林火災 東日本大震災で大きな被害 支援広がる 2025/02/28 19時 NHK

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250228/k10014735911000.html

>>

 

18)大船渡山林火災のファクト

 

秋山文野氏は、欧州宇宙機関のSentinel-2衛星が2月27日午前10時30分ごろ観測した大船渡市の画像を処理して、火災の熱で強く赤外線を発している部分を擬似的に色付けし(フォルスカラー)火災部分を強調した画像を表示して、その後に、衛星データの活用について、説明しているので引用します。(筆者要約)

 

地球観測衛星は50年以上も林野火災対策に利用されており、「人命を危険にさらすことなく火災の全容を広域に把握できる」という長所に加え、高頻度観測による即時性、情報提供までの時間短縮の取り組みが進んでいる。

 

最近では、NASAの山火事観測情報「FIRMS」や欧州宇宙機関(The European Space Agency)の無償の衛星画像でリアルタイムに近い火災モニタリングが可能だ。さらにGoogleは52機の小型地球観測衛星の画像をAIで解析し、15から20分おきに5m四方の小さな火災を発見する体制を整えようとしている。

<< 引用文献

岩手県大船渡市で続く林野火災 人工衛星による林野火災観測は安全性・広域性から即時性にも対応へ 2025/02/27 秋山文野

https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/056f8e9e797fd7017595776e44300f442eb12480

>>

 

欧州宇宙機関には、「Sentinel-3 World Fire Atlas」というHPがあり、次のデータをダウンロードすることができます。

 

製品 ID Sentinel-3 PDGS のファイル名規則 MMM_SL_L_TTTTTT_yyyymmddThhmmss_YYYYMMDDTHHMMSS_YYYYMMDDTHHMMSS_[インスタンス ID]_GGG_[クラス ID] を使用して処理されたレベル 1B SLSTR 製品の名前。(詳細については、Sentinel-3 PDGS ファイルの命名規則を参照してください)

時間 センシング開始時刻。

衛星 ミッション ID (例: S3A = Sentinel-3A)。

F1 熱 IR 火災放射バンド (輝度温度) のピクセルの値。

X 単一シーン内の X ピクセル位置。

Y 単一シーン内の Y ピクセル位置。

緯度 ピクセルの地理座標の緯度。

経度 ピクセルの地理座標の経度。

 

<< 引用文献

Sentinel-3 World Fire Atlas

https://s3wfa.esa.int/

https://s3wfa.esa.int/viewer

>>

 

衛星画像をダウンロードするには、火災が写っているシーンを抽出する必要があります。

 

「Sentinel-3 World Fire Atlas」は、こうした目的に使うことができます。

 

ただし、3月2日にアクセスしたときには、最新のデータは、2月28日でした。

 

つまり、「Sentinel-3 World Fire Atlas」を使う方法では、「リアルタイムに近い火災モニタリング」はできません。

 

秋山文野氏は、2月27日投稿に、27日のSentinel-2衛星データを使っているので、ターゲットエリアと時間が決まっている場合、つまり、火災エリアの抽出が不要な場合には、「Sentinel-3 World Fire Atlas」は不要で、単純に最新のデータをダウンロードして、解析すればよいだけと思われます。

 

秋山文野氏の解析は、フォルスカラー画像であり、火災面積を抽出した画像ではないので、そのままでは、面積推定にはなりません。



JAXAは、発災前(2024/8/1 02:42:06)と発災後(2025/2/27 02:42:07)の差分画像を公開しています。

 

衛星は、ALOS-2/PALSER-2です。火災のデータは、27日11時24分になります。

<< 引用文献

【火災(森林火災)】山林火災_大船渡(2025-00006-JPN) JAXA 

https://daichi-bousai.dpif.jaxa.jp/externalif/disaster/2025-00006-JPN/

>>

 

19)リアルタイムデータ

 

調べた範囲では、大船渡山林火災の面積について、入手可能なリアルタイムデータは、2種類しかありませんでした。

 

第1は、NASA FIRMSのデータです。

 

NASA FIRMSは、衛星データをつかって、毎日、世界中の山火事などの災害のデータを集めて公開しています。

 

このデータの難点は、グリッドの解像度が、375mである点です。

 

375mでは、1グリッドが、14haになります。約1800haというオーダーの数字には使えるかも知れませんが、消火活動と避難に使うには粗すぎます。



<< 引用文献

NASA FIRMS

https://firms.modaps.eosdis.nasa.gov/map/#d:2025-03-01..2025-03-02;@141.79,39.03,12.67z

>>

 

第2は、Google Mapのデータです。

 

Google Mapでは、「大船渡市南東部の山火事、おおよその火災地域」という表示とともに、該当するエリアが、シェープファイルで表示されます。

 

このデータは、毎日2回、更新されています。

 

以下の注意書きがついています。

 

「影響を受けた地域はおおよその目安であり、情報提供のみを目的としています。詳しくは、公式の情報提供元をご確認ください」

 

筆者が、1800haのファクトを調べた理由は、この注意書きにあります。

 

すなわち、1800haの「公式の情報提供元をご確認」したわけです。

 

Google Mapの「公式の情報提供元」は、 火災アラート(Fire alert)です。

 

Fire alertは、次のように書かれています。

 

Fire alert FAQs

 

    火災アラートとは

 

    火災アラートは、火災地域周辺のユーザーが自分自身を守れるように、火災の範囲や安全に関する情報を提供します。

 

    重要: 火災の影響を受けた地域はおおよその目安であり、情報提供のみを目的としています。詳しくは、公式の情報提供元をご確認ください。

 

火災警報を見つけるにはどうすればいいですか?

 

お近くの火災警報を検索するには:

 

お使いのデバイスで、位置情報サービスをオンにします。

 

google.com にアクセスします。

 

「火災」を検索します。

 

特定の場所の火災警報を検索するには、検索に場所を含めます。

 

Google が火災アラートを生成する方法

 

リアルタイムの衛星画像に基づいて火災の範囲を追跡するディープ ラーニング モデルを使用して、火災アラートを生成します。このモデルは、次のようなサードパーティの衛星からのハイパースペクトル画像を超高解像度で融合した画像に基づいています。

 

    GOES-16

    GOES-18

    GK2A

    ヒマワリ 9 号、EUMETSAT [2023] のメテオサット 9 号およびメテオサット 11 号

 

    Aqua および Terra(MODIS イメージャー搭載)

 

    S-NPP、JPSS-1(VIIRS イメージャー搭載)

 

 Googleは、火災アラートの情報提供をしています。

 

秋山文野氏は、次のように言っています。

Googleは52機の小型地球観測衛星の画像をAIで解析し、15から20分おきに5m四方の小さな火災を発見する体制を整えようとしている。

 

 現在のGoogleの火災アラートは、そこまでの精度はありませんが、現状では、ベストのリアルタイムデータであると思われます。

 

岩手県は、住民に避難指示を出しています。

 

その指示は、どのデータに基づいているのでしょうか。

 

東日本大震災の前までは、避難に自動車を使うことは、否定されていました。

 

しかし、現在では、場合によっては、自動車を使った避難も選択すべきという判断に変わっています。

 

津波や洪水の避難計画には、ハザードマップが使われます。

 

ハザードマップは、合理的な不動産の評価方法です。アメリカでは、30mの解像度のハザードマップビジネスをしている企業もあります。

 

しかし、ハザードマップのデータは、リアルタイムに更新されません。

 

つまり、ハザードマップは、避難計画に使うべきではありません。

 

Googleは52機の小型地球観測衛星の画像をAIで解析し、火災アラートサービスを計画しています。

 

もうすぐ、住民は、行政の避難指示と、Googleの火災アラートサービスを選択するようになります。

 

科学的に考えれば、リアルタイムデータに基づかない避難指示には、合理性がなくなります。

 

北朝鮮からミサイルが飛んでくるとアラートがなります。

 

しかし、そのアラートには、周囲のデータに基づいた具体的な避難指示はありません。

 

Googleに位置情報を伝えておけば、アラートサービスは、具体的に、逃げるべき方角を指示します。

 

今回の話は、岩手県の避難指示の問題ではありません。

 

リアルタイムデータとAIに基づくサービスが実用化すれば、それまでの行政サービスは、崩壊するだろうという予測です。

 

スマートウォッチの健康管理システムの精度があがれば、医療費は削減できます。その場合には、一部の医師は失業します。これは、現在の高額医療問題を解決する方法の一つです。

 

リアルワールドデータが整備されれば、恐らく、医師が失業する前に、薬剤師が失業すると思われます。

 

ただし、そのような変化は、パラグラフの世界でしか起きません。

 

段落の世界は、変化から取り残されます。

 

これが、現在の日本でおきている現象です。