15)「財務省前デモ」
時事通信は、次のように伝えています。
<
自民、公明両党は、国会に提出した2025年度税制改正関連法案の修正案に所得税の課税最低限「年収103万円の壁」の見直しを盛り込んだ。
政府案の123万円から160万円に引き上げる。ただ、基礎控除の上乗せ額が年収に応じて4段階で異なる新たな仕組みを導入。制度が複雑化した上、減税額は年間2万円程度と、物価高対策などとして税負担を軽減する効果も乏しい。
>
<< 引用文献
「壁」引き上げ、制度複雑化 効果乏しく 自公の税法修正案 2025/03/01 時事通信
https://news.yahoo.co.jp/articles/cb2bd4f41999e77f4ed71fa92050ab73707fcaef
>>
200万円を超える基礎控除が、2年間の時限ですから、ふりをしているだけで、何も変わっていません。
現代ビジネスは、「財務省前デモ」について、次のように書いています。(筆者要約)
<
元財務官僚の経済学者である高橋洋一氏や「ザイム真理教」と言う言葉をつくった故森永卓郎氏等らの長年にわたる財務省批判の言論の影響がありました。
その結果、緊縮財政の背後に、どうやら「財務省」という特定省庁がいるのだという一般の国民にも、その「永田町の常識」「霞ヶ関の常識」「真実」を国民が理解し始めました。
「財務省前デモ」は、このことを示しています。
>
<< 引用文献
このままでは参院選で自民大敗は必至、歳入庁創出も…!「財務省前デモ」で高まる「ラスボス」への大不満 2025/03/01 現代ビジネス
https://news.yahoo.co.jp/articles/fb623cca336d0be14fc95e4401aac33583208b2d
>>
筆者は、リフレ派ではないので、高橋洋一氏と故森永卓郎氏と意見が一致しているわけでは、ありません。
「年収103万円の壁」の見直しは、実質、全く進みませんでした。
このことは、過去30年に行われた政策が、全く、実質的な検討や改善がなされなかったことを示しています。問題は、「年収103万円の壁」にとどまらず、政策決定のプロセスにあります。政府と与党は、失われた30年問題の解決(経済成長、所得増加)よりも、現状の法度体制の維持を優先してきました。
論理構造がない段落の世界が、政策決定を法度体制(封建制度)で行うことを可能にしています。
16)緊縮財政のウソ
日本で、何が起こっているかを考えるには、法度体制のない世界、つまり、パラグラフの世界の緊縮財政を考えれば理解できます。
土田陽介氏は、EUの財政運営ルールに関連して次のように言っています。(筆者要約)
<
トランプ政権の発足で米国と欧州の関係は急速に冷え込んでいる。防衛費の増額を求めるトランプ政権に対応するため、EU各国は防衛費の増大を迫られているが、EUは加盟国に対して厳格な財政運営ルールを課しており、防衛費の増大は簡単ではない。仮に増やすことができたとしても、沈静化しつつあるインフレを再燃させることになりかねない。
>
<< 引用文献
トランプの前に詰みつつあるEU、米国の要求通り防衛費の積み増しを進めれば、インフレ再燃で有権者の怒りも沸騰か 2024/02/24 JNpress 土田 陽介
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/86782
>>
EUの財政ルール遵守に向けた手続きは、マーストリヒト条約で大枠が規定されました。この手続きは、1997年に2本の規則と決議から成る安定・成長協定(Stability and Growth Pact: SGP)として策定されました。SGPは、1997年の制定以降、数次にわたり改正されています。
つまり、SGPを見れば、EUの緊縮財政と日本の緊縮財政の違いが理解できます。
SGPの日本語解説は、次で入手できます。
<< 引用文献
EUにおける財政ガバナンスの改定 2024/07 経済財政分析ディスカッション・ペーパー DP/24-4 茂野正史 内閣府
https://www5.cao.go.jp/keizai3/discussion-paper/menu.html
https://www5.cao.go.jp/keizai3/discussion-paper/dp244.pdf
>>
「年収103万円の壁」の見直しとは、異なる点が2つあります。
第1は、SGPは、パラグラフの世界でできています。
自民党の「年収103万円の壁」の見直し案では「200万円を超える基礎控除が、2年間の時限」ですが、なぜ、「2年間の時限」が良いのかという説明はありません。
つまり、「年収103万円の壁」の見直し案は、論理構造のない段落の世界の文章になっています。
SGPは、個別の金額数字には触れずに、予算作成のルールについて書いています。
SGPの 基本ルールは、閾値を指定しています。
加盟国は、過剰財政赤字(excessive government deficits)を防ぐことが求められます。過剰財政赤字とは、一般政府(中央政府・地方政府・社会保障基金の合計)の単年度財政赤字(net borrowing)が対GDP比3%を超える場合、または、債務残高(total gross debt)が対GDP比60%を超える場合です。
パラグラフの世界では、第1に検討すべき内容は、個別の金額数字ではなく、個別の金額数字を決めるルールです。
プライマリーバランスは、意味のあるルールではありませんが、それでも、プライマリーバランスをまもりたければ、SGPと同じように、法律を作って、法律に数字(閾値)を書き込めばよいことになります。EUもアメリカも、そうした法律を持っています。
日本の政治家は、段落の世界の住民であって、そこには、ルール(論理)を優先するというパラグラフの世界の発想ではありません。
パラグラフの世界からみれば、財政規律の法律がないのですから、財政規律を守るつもりはないと判断できます。
第2に、財政規律を実現する主たる手段は、歳出の削減です。
馬場康郎氏は、SGPを日本に適用した場合の試算をしています。
その結果、毎年4兆円の歳出を削減する必要があります。
<< 引用文献
EUにおける財政(規律)ルール見直しと日本への示唆 2024/03/21 東京財団 馬場康郎
https://www.tkfd.or.jp/research/detail.php?id=4472
>>
防衛費の増額についても、財源は無視されています。
つまり、政府は、パラグラフの世界ではありえないことを、段落の世界で行っています。
欧米は、パラグラフの世界なので、論理的に破綻した政策をすれば、選挙に落選します。
極右政党で、怪しい議論をする政党もありますが、論理的破綻した政策は、マスコミの批判の対象になります。
段落の世界を容認すれば、議論は不可能です。
政府は、歳出を削減するつもりはないのですから、財政規律を守るつもりはありません。
政府は、既存の歳出(既得利権)には、手をつけないルールを守っています。
その結果、効果のない政策が蔓延しています。