12)高額医療費問題
JCASTニュースは、次のように伝えています。(筆者の要約。なお、「切り取り」が問題になっているので、 石破氏の発言の部分は、基本は、JCASTニュースのままで、大きな要約をしていません)
<
2月21日の衆院予算委員会で石破氏は、「人が死んでもいいとか、そんなことは夢さら思っておりません。『受診を抑制しなければならない』とか、そういうような方が出ないために政府として最大限考えております」と前置きをした上で、がん免疫治療薬「オプジーボ」や白血病などの点滴薬「キムリア」といった具体的な薬剤を挙げて、高額な薬剤が財政を圧迫していることを説明した。
石破氏は「いかにして負担を減らすかということと、制度をどうやって持続可能なものにするかということの、ギリギリの接点が今回の結論でございます」とも話した。
石破氏の発言に対して、東京新聞が「石破首相、がんや白血病の治療薬を『名指し』して医療費逼迫を強調 患者側から『薬を使う患者を傷つけた』の声」の見出しでウェブサイトで報じ、批判の声が上がっていた。
2月26日の衆院予算委員会では、岡本氏が東京新聞の記事を印刷したパネルを手に、「記事では、轟理事が「『負担上限額が引き上げられるのはキムリアやオプチーボを使っている患者がいるからだ』という説明には、ネット上でもすごく批判の声が上がっています」と指摘。その上で、石破氏に対して21日の発言の撤回を求めた。
石破氏は東京新聞の報道について「ですから、『切り取り』というのはこういうことであってね」と反発し、「私はキムリアとかオプチーボがあるから(といった)、そういうことに責任を押し付けるような気は全くありません」と、岡本氏の解釈を否定した。
「逆に捉えるというのは、それは考え方がおかしくないですか?」
「『受診を抑制しなければならない』ことがないように、高額の医療費と薬を抑制しています。それを逆に捉えるというのは、それは考え方がおかしくないですか?」
東京新聞の初報では、具体的な薬剤名を挙げた説明の直前に石破氏が語っていた受診抑制を防ぐ必要性に関する発言については言及がなかった。
岡本氏は、「ネットでがん患者当事者の方は、『私たちの高額治療費が原因で治療費が上がった』という反応になっていると言いました。
石破氏に「切り取り」とされた東京新聞は同日、ウェブサイトに、問題となっている石破氏の答弁全文を公開した。記事は会員向け記事だが、無料会員でも読むことができる。
>
<< 引用文献
「キムリア」で炎上の石破首相、原因は「切り取り」報道なのか 東京新聞は反撃「答弁を全文掲載」 2025/02/27 JCASTニュース
https://news.yahoo.co.jp/articles/9e7b607d69f1f78b4bf6591c58aedd5fd9ea928e?page=1
>>
この議論も、段落の世界の問題と思われます。
基本的には、次の連続式が成り立ちます。
総医療費=受診回数 X 平均治療費
総医療費を下げるためには。受診回数tと平均治療費のどちらかを抑制する必要があります。
石破氏は、受診回数が減少しなければ、平均治療費を下げても問題がないと言います。
岡本氏と轟理事は、キムリアとオプチーボの治療のための受診が抑制されるといっています。
つまり、この2種類の受診は、インスタンスが違います。
石破氏の受診とは、キムリアとオプチーボの治療のための受診を含まない受診です。
岡本氏と轟理事の受診とは、キムリアとオプチーボの治療のための受診を含む受診です。
パラグラフの世界では、このようなすれ違いは、必ず修正されます。
文章が論理構造を持たない(文章が論理的に破綻している)段落の世界では、すれ違いが放置され、議論は収束しません。、
医療費財源は無制限ではありませんので、ある種の高額医療は健康保険の対象にはなりません。
しかし、その判断は、リスク計算に基づく費用対効果を算定基準にする必要があります。
石破氏は、「いかにして負担を減らすかということと、制度をどうやって持続可能なものにするかということの、ギリギリの接点が今回の結論でございます」と言いますが、科学的な根拠を示していません。
つまり、段落の世界で議論が終結しています。
法度体制であれば、総理大臣は、最上位者なので、総理大臣には、説明責任はありません。
つまり、段落の世界で問題はありません。
しかし、法度体制を受け入れない場合には、つまり、パラグラフの世界では、この説明は、受け入れられません。
医療費財源は無制限ではありませんが、「法の支配」の視点では、今回の決定には、問題があります。
医療費の半分以上は、70歳以上の老人の治療に使われています。
今後、医療費の拡大を抑制するために、健康保険でカバーできる範囲が縮小される可能性が高いです。
その場合には、現在の社会保険料の担い手である若年層と壮年層が、高齢になったときには、より低いレベルの健康保険の適用を受けることになります。
これは、世代間では、法の下の平等が担保されていない、「法の支配」が機能していないことを示します。
官僚は科学と統計学を理解できていない可能性があります。
その場合には、メンタルモデルのギャップ(バカの壁)があり、相互理解は不可能です。
13)人口予測
毎日新聞の報道を引用します。
<
厚生労働省は2025年2月27日、人口動態統計の速報値を公表した。2024年の出生数は72万988人で、統計を取り始めた1899年以来過去最少となった。速報値は在日外国人や在外日本人を含むため、6月ごろに公表される国内の日本人に限った概数では、出生数が70万人を割る可能性が高い。
出生数は9年連続の減少で、23年の75万8631人から3万7643人減り、前年比5%の減少となった。国立社会保障・人口問題研究所の将来推計人口(中位推計)では出生数が72万人台となるのは39年で、推計よりおよそ15年早いペースで少子化が進んでいる。在日外国人らの出生数は毎年2万から3万人で、過去10年の平均的な減り幅で計算すると2024年の国内の日本人に限った出生数は69万人台となる見通しだ。
>
<< 引用文献
24年の出生数、過去最少の72万人 推計より15年早く 厚労省 2025/02/27 毎日新聞
https://news.yahoo.co.jp/articles/2c1bbad5463fca9039df6368d420c347e96ef481
>>
毎日新聞は次のようにも言います。
<
社人研は、中位推計と現状が乖離している原因を、2020年に発生した新型コロナウイルスのパンデミックに求めている。社人研の担当者は「コロナの影響は24年になっても続いている」と説明する。
第一生命経済研究所の星野卓也主席エコノミストは「2019年時点で出生数の減少や出産適齢期とされる年代の女性の出生率低下が加速している。妊娠から出産までの時間差を踏まえれば、コロナが出生数に影響するのは主に2021年以降なので、出生率の減少のおもな原因は、コロナの影響ではない」という。
>
<< 引用文献
出生数72万人過去最低 国推計より15年前倒し 予測がずれた事情 2025/02/27 毎日新聞 塩田彩
https://mainichi.jp/articles/20250226/k00/00m/040/039000c
>>
星野氏の予測は、「プラグマティズムの研究(8)」でも、引用しています。
星野氏の2024年の出生予測は、68.4万人です。
<
林芳正官房長官は27日の記者会見で、年間出生数が9年連続で過去最少を更新したことを受け、子育て支援策の拡充や若年層の所得向上に取り組む方針を示した。
「希望する誰もが子どもを持ち、安心して子育てができる社会の実現に向け、総合的に施策を推進していく」と強調した。
>
<< 引用文献
出生数最少「総合的に施策推進」 林官房長官 2025/02/27 時事通信
https://news.yahoo.co.jp/articles/2fc7a5d0d42d22535300cfbffed574ee5202e137
>>
毎日新聞の報道は、「現在の少子化対策には、効果がないのではないか」という疑問です。
パラグラフの世界では、「現在の少子化対策(原因)」と「出生数の減少(結果)」の間の論理を問題にします。
EBPM(エビデンスに基づく政策)では、エビデンスがあることが望ましいですが、「効果がない」場合には、「現在の少子化対策(原因)」を変化させて変化をみることが基本姿勢になります。
官房長官の発言は、無謬主義です。(出生数の減少に歯止めがかからないというファクトにもかかわらず)現在の政策に間違いはないので、現在の政策を継続するといっています。
官房長官は、現在の政策を説明していませんが、その政策は、「こども・子育て政策の強化について(試案)」にのっているものと同じであると思われます。
令和5年3月 31 日に、こども政策担当大臣の名前で、「こども・子育て政策の強化について(試案)ー次元の異なる少子化対策の実現に向けてー」が出ています。
その「参考資料集」から一部を引用します。
<
我が国の家族関係社会支出は、着実に増加。近年は特に現物給付を重点的に充実。
少子化社会対策大綱の主要施策に従い整理した少子化対策関係予算(当初予算ベース)は、待機児童対策、幼児教育・保育の無償化、高等教育の無償化等の様々な施策の充実により、着実に増加。
2013年度の約3.3兆円から2022年度には約6.1兆円と過去10年間でほぼ倍増。
男性の若い世代の有配偶率についてみると、正規雇用に比べて、非正規雇用の男性が顕著に低い。
「自国はこどもを生み育てやすいと思うか」との問いに対し、日本では約6割が「そう思わない」
「日本の社会が結婚、妊娠、こども・子育てに温かい社会の実現に向かっているか」との問いに対し、約7割が「そう思わない」。
2030年代に入ると、我が国の若年人口は現在の倍速で急減し、少子化はもはや歯止めの利かない状況に。
2030年代に入るまでのこれからの6から7年が、少子化傾向を反転できるかどうかのラストチャンス。
>
<< 引用文献
こども政策の強化に関する関係府省会議
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/kodomo_seisaku_kyouka/index.html
参考資料集
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/kodomo_seisaku_kyouka/pdf/sankou1.pdf
>>
要するにここに書かれていることは、予算を増やしたということだけです。
政策の効果については、全く評価されておらず、ファクトも、エビデンスもありません。
繰り返しますが、政府の資料に、ファクトとエビデンスがない理由は、ファクトとエビデンスが無謬主義(法度体制)を崩壊させるので、これを避けるためです。
毎日新聞は次のようにも伝えています。
<
2023年2月、国会内で開かれた自民党議員の会合で講演した国立社会保障・人口問題研究所の鎌田健司氏(現・明治大専任講師)は、国内外の研究成果に基づき経済的支援は「出生率改善の効果が見えづらい」と説明したところ、児童手当の大幅拡充を持論とする議員らから怒られたといます。
>
<< 引用文献
少子化対策なぜ「ずれる」 自民会合を緊張させた人口学者の分析 2023/05/14 毎日新聞
https://mainichi.jp/articles/20230613/k00/00m/040/091000c
>>
「こども政策の強化に関する関係府省会議」は、「関係府省会議」なので、法度体制の維持を最優先しています。
「こども政策の強化に関する関係府省会議」の資料には、法度体制の脅威となる情報は削除されています。
1995年に日経連が出した経営改革ビジョン「新時代の日本的経営」も、削除されています。
少子化は、「新時代の日本的経営」の経営改革ビジョンが実現した結果です。
間違って少子化したのではなく、経営改革ビジョン通りに、少子化が実現しています。
経営改革ビジョンでは、年功型雇用体系(法度体制)を維持するために、事実上は、社員ではない非正規雇用の拡大こそが、「新時代の日本的経営」であると主張しました。この夢は、現実のものになっています。それが、少子化の世界です。
年功型雇用体系(法度体制)を維持するために、平均賃金を下げることを目的として、非正規雇用が拡大されました。これは、能力主義のジョブ型雇用ではありません。ジョブ型雇用ではないので努力して、能力をアップしても、賃金は増えないのです。したがって、出生数が減少することは、必然の結果です。能力は活用されないので、生産性は上がりません。この能力は、人間の能力だけでなく、コンピュータの能力も含みます。
中央日報は、次のように伝えています。
<
中国で開発された生成型AI(人工知能)モデルのディープシークを導入した企業が200社を超えるという集計結果が出た。
中国では、ディープシークがすでに医師の一部の役割を代替していると、中国の羊城晩報が伝えた。
南部広東省の一部病院がディープシークを「AI医師」または医師の強力な助手として活用している。
広東省広州市の南方医院の場合、ディープシークをAI健康診断の報告書の解析システムと一般検診報告書の生成ツールなど活用のための実際のテストに入った。
広東省湛江市や天津市静海区などの地方司法当局も、システムに「ディープシーク」を相次いで導入している。
>
<< 引用文献
中国のディープシーク導入企業200社を超える…医師の助手の役割まで 2025/02/21 中央日報
https://news.yahoo.co.jp/articles/dc3d79ed455cbaf20fe98dbd126d73dacef3ff80
>>
このままでは、日本社会の生産性は、中国以下になり、人当たりGDPは、中国にに抜かれます。
「新時代の日本的経営」は、エンジニアが経営のトップにはなれない身分制度です。GAFAMなどのビックテックでは、企業が拡大するステージでは、エンジニアがトップになっています。
「新時代の日本的経営」が、まともな経営ビジョンであるという主張に対しては、多くの反例が見つかります。
「新時代の日本的経営」は、株主利益を損なっています。これは、日本が、法度体制の社会主義であって、資本主義ではないことを示しています。
日本の法度体制の社会主義者は、強欲資本主義キャンペーンを張っています。しかし、資本主義では、能力があれば、給与は増えます。資本主義では、あるいは、人権思想では、チャンスの平等性が保たれます。非正規雇用の拡大は、規制緩和ではなく、法度体制という規制の維持を目的としています。「新時代の日本的経営」には、そのように書かれています。
14)社人研の中立性
鎌田健司氏のように、社人研の職員でも、政治的中立を試みる人はいます。
しかし、鎌田健司氏は、「おこられた」と言っているように、社人研が政治的に中立である、科学に基づく主張ができるとは限りません。
社人研はおよそ5年毎に、人口予測を改訂してます。
最新版は、令和5年(2023年)で、その前の、平成29年(2017年)と比較してみました。

図1 社人研の出生数予測 縦軸(出生数、単位千人)
<< 引用文献
日本の将来推計人口(令和5年推計)
https://www.ipss.go.jp/pp-zenkoku/j/zenkoku2023/pp_zenkoku2023.asp
>>
2017年の予測は、「こども・子育て政策の強化について(試案)」で、用いられて、中位推定より8年前倒しになっていると述べられています。
今回は、8年が15年前倒しになっています。
「プラグマティズムの研究(8)」では、次のように書きました。
<
2022年の社人研の予測では、出生数50万人割れは2076年です。
2024年の星野論文を参考にした予測(-6%)では、出世数50万人割れは2030年です。
2024年の星野論文を参考にした予測(-5%)では、出世数50万人割れは2031年です。
2024年の星野論文を参考にした予測(-4%)では、出世数50万人割れは2033年です。
>
この場合には、44から46年前倒しになります。
図1をみれば次のことがわかります。
実測にもっとも近い2017年の予測は、下位推定です。
つまり、ファクトからみれば、2023年の改訂版の出生数予測は、2017年版より、出生数を小さめに予測するはずです。
驚くべきことに、高位予測と中位予測は、2032年以降の予測値に、変化がありません。これは、2017年の出生数の予測は改訂されていないことを意味します。
社人研の推定は、ベイズモデルではありません。
社人研は、一時的な「コロナの影響」が終われば、出生数がするが回復するモデルです。
しかし、星野氏の分析のように、この仮説は、ファクトに合いません。
2023年の改訂版の出生数予測の高位と中位の値は使うべきではありません。
2023年の改訂版の下位出生数予測は、2017年版より、出生数を小さめに予測しています。この値を使っても、出世数50万人割れは2050年です。
この場合には、26年前倒しになります。
「8年ー>15年ー>26年」とトレンドでみれば、人口減少は止まりません。
しかし、出生数の原因には、「生産年齢人口の女性の人口、婚姻率、子供の数」
の3つのパラメータがあります。「生産年齢人口の女性の人口」は時定数が大きいですが、「婚姻率」と「子供の数」は、時定数がより小さいです。
時定数が小さい場合には、原因が変われば、あまり、時間をおかずに結果も変わります。
社人研の推定は、トレンドモデルであり、因果モデルではありません。
少子化の原因が、「新時代の日本的経営」であると仮定すれば、「新時代の日本的経営」、つまり、法度体制が崩壊すれば、少子化には、歯止めがかかることになります。
そのためには、段落の世界を拒否して、パラグラフの世界に切り替える必要があります。
イーロン・マスク氏が率いる政府効率化局(DOGE)では、混乱が続いています。
法度体制が崩壊する場合には、それ以上の混乱が起こることを覚悟して、受け入れる必要があります。