トランプ関税の理解(1)

日本では、法度体制の利害関係者が多いので、マスコミは、トランプ関税に反対していますが、その主張には、法度体制の維持を目的とした、データに基づく政策決定を回避する意図があります。

 

トランプ関税の特徴は、政策決定権をUNなどの国際機関ではなく、2国間協議に持ち込む交渉カードです。

 

今まで、アメリカは、UNなどの国際機関に、膨大な資金援助と、その引き換えとして、主なポストに代表を送り込んできました。

 

しかし、この政策は、中国の政策の前に破綻しています。

 

つまり、アメリカは、新しい国際政治のフレームワークの構築に迫られています。

 

従来の2国間の手法は、アフガニスタンの派兵や、ウクライナへの軍事支援でした。

 

この手法は、ネオコン軍事産業の利益にはなりますが、余りに非効率です。

 

ある国に関税をかければ、その国が対抗策として、関税を引き上げる可能性があります。

 

これは、一見すると関税という政策に効果がないように見えます。

 

しかし、関税であれば、2国間協議で、調整が可能です。

 

UNやWTOに提訴しても、タイムラグが大きすぎます。また、以前のように、アメリカは、国際機関に多数の代表を派遣できなくなっています。

 

トランプ関税は、交渉カードであり、戦術です。

 

関税は、派兵と軍事支援の代りになります。これが、トランプ氏がウクライナに関心がある理由です。

 

トランプ関税は、戦術であり、戦略ではありません。

 

中国は、「中国製造2025」という戦略を公表して、批判がでたので、ポスト「中国製造2025」を控えめに公表しています。

 

戦略の難しいところは、手の内を見せないためには、戦略カードの非公開が望ましいですが、国内の協力を得るためには、戦略カードを公開せざるをえない点にあります。

 

つまり、「中国製造2025」のような戦略カードには、公開版と非公開版があるはずです。

 

中国に半導体輸出制限をかける手法は、戦術です。

 

中国は半導体を輸入できなくなれば、内製します。

 

中国の人材のレベルが高いので、数年すれば、高い水準の半導体を内製できるようになります。

 

したがって、半導体輸出制限の戦術には、賞味期限があり、数年で効果がなくなります。

 

トランプ氏も、そのことは理解しています。

 

しかし、その数年の間に、戦略が効果を生じれば、関税を使った場合と、関税をつかなかった場合の結果(将来予測)は大きく異なります。

 

トランプ氏は、関税も、半導体輸出制限も、データをみながら政策を調整しています。

 

日本には、「中国製造2025」のような戦略カードはありません。

 

これは、デジタル社会へのレジームシフトが起こっている現在では、戦略カードが法度体制を破壊してしまうためです。

 

日本は、戦術カードも持っていません。

 

日本には、アメリカ軍が在住していますので、アメリカを直接のターゲットにした戦術カードを切ることはできません。

 

しかし、アメリカだけでなく、他の国も合わせたグループに対する(アメリカを間接のターゲットにした)戦術カードを切ることは可能です。

 

つまり、アメリカ以外の国が、関税カードを切るか否かで、日本の戦術の選択範囲は大きく変わります。

 

EUは、アイルランドを除けば、アメリカに対して、大きなデジタル赤字を抱えています。

 

EUは、中国に対して、大きな貿易赤字を抱えています。

 

このままいくと、EUは、先進国から脱落する可能性があります。

 

EUは、中国に対しては、トランプ関税とおなじ関税政策をとっています。

 

EUは、デジタル赤字に対しては、今のところ、関税ではなく、規制で対応してます。

 

アップルに対しては、独占禁止違反として、アップルストア以外でのソフトウェアの配布を義務づけました。

 

その結果、iPhoneのポルノアプリが初めて出現して、アップルは怒っています。

 

有害なアプリや情報を公開しないと法律に書くことは簡単にできます。

 

しかし、その識別は、困難で、コストがかかります。

 

アップルストアでは、アプリ掲載の最終判断は、全て、人間が行っています。

 

この判断には、高度な知識が必要です。

 

アップルストアのマージンは高いですが、それなりのコストがかかっています。

 

iPhoneは、寡占ですが、独占ではありません。

 

アップルストアのアプリ価格が高価であると感じるのであれば、アンドロイドを使う選択肢があります。

 

規制と関税カードを比較すれば、規制の方が必ずしもよいとは言えません。

 

英語圏と中国と韓国以外の国には、AIの技術競争力がありません。

 

今後、デジタル赤字の拡大に伴い、関税は拡大すると予測できます。

 

日本は関税カードを使うのでしょうか。

 

EVが拡大した場合、ホンダと日産には、価格競争力がありません。

 

ホンダと日産の輸出と海外生産は、減少しています。

 

トヨタは、ハイブリッド車を多く販売しています。しかし、EVが主流になった場合には、価格競争力がありません。

 

また、日本の自動車メーカーは、自動運転のレベルで、Google、テスラ、中国の自動車メーカーに負けています。

 

これは、AI技術者がいないためで、補助金で解決できる問題ではありません。

 

自動車の主流が、自動運転車になった場合、日本の自動車メーカーが勝てる可能性は低いです。

 

Bloombergによると、<BYDは、2025年2月10日夜に深圳で開催されたイベントで、運転支援システム「ゴッズアイ(God’s Eye)」を10万元(約210万円)以上の車種に標準装備するとともに、人気のハッチバック「シーガル(海鴎)」など複数のより低価格のモデルにも搭載すると発表しました>

 

<< 引用文献

BYD、新たな価格戦争仕掛ける-追加費用なしで運転支援機能搭載へ 2025/02/11 Bloomberg

https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2025-02-11/SRHY3XT1UM0X00

>>

 

日本の液晶メーカーは、価格競争に破れて、ジャパンディスプレイしか残っていません。

経営再建中のジャパンディスプレイ(JDI) <6740> は2025年2月12日、2025年3月期の連結純損失予想が、従来の393億円から620億6800万円に拡大すると発表しています。

 

最近の自動車の価格は上がっています。この状態で、中国から、低価格の自動運転車が入ってきた場合には、日本の自動車メーカーに、勝算は、ほとんどありません。

 

液晶と同じ歴史を繰り返す可能性があります。

 

36KrJapanは、2024年11月に、次のように伝えています。(筆者要約)

 

中国のロボット大手「優必選科技(UBTECH Robotics)」と傘下のスマート物流企業「優奇(UQI)」は2024年11月5日、上海市で開かれた展示会「CeMAT ASIA 2024」で、人型ロボットと無人車両が協働するフルスタックの無人物流ソリューションを発表しました。

 

フルスタックの無人物流ソリューションは、すでに湖南省長沙市にある中国自動車大手「比亜迪(BYD)」の工場で試験的に運用され、完全無人ロジスティクスを実現しています。同工場では、UBTECHの産業用人型ロボット「Walker S1」が、UQIの無人搬送ロボット(AGV)「瓦力(Wali)T3000」や無人物流車「赤兎(Chitu)」とシームレスに協働し、ピッキングから搬送、物流までを完全自動で実行しています。

<<

人型ロボットと無人車両で「完全無人ロジスティクス」、BYDの自動車工場で導入進む 2024/11/18  36KrJapan

https://36kr.jp/315573/

>>

 

韓国の毎日経済は、2024年12月に、次のように伝えています。

中国最大の電気自動車メーカーであるBYDがロボット市場に本格的に進出するため、大々的な専門人材の迎え入れに乗り出した。 電気自動車の製造過程に人工知能(AI)技術を搭載したロボットを活用するためだ。 電気自動車に続きロボットまで中国企業が産業を先導するかに関心が集まっている。 18日、香港サウスチャイナ・モーニング・ポスト(SCMP)によると、BYDは最近、中国のソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)である「ウィーチャット」にグローバル採用公告を出した。 募集対象は△感覚アルゴリズム△ロボット工学△ソフトウェアなどロボット関連10分野の先任エンジニアだ。

 

BYDは2022年に「EI(Edge Intelligence)」チームを発足させ、ロボットの意思決定能力の向上と産業用EIアプリケーションの開発に集中してきた。 EIチームは発足後、協同ロボット、モバイルロボット、ヒューマノイドロボットなど多様なタイプの製品の開発に成功したという。 これと関連してSCMPは「データ処理を現場で遂行できるようにするEIはヒューマノイドの核心技術」と伝えた。

 

これに先立ち、BYDの創業者である万川副会長は先月、AIと自動車技術を統合するのに1000億人民元(2兆1000億円)を投資すると明らかにした。 BYDは先月、物流ロボットチームを募集すると発表した。

 

国際ロボット連盟の最新報告書によると、中国はここ数年間、製造業で自動化使用の拡大を推進してきた。 その結果、産業用ロボットの導入率でドイツと日本を上回った。

 

ロボット産業は中国経済の「未来成長動力」と位置づけられている。 現在8万の関連企業があり、2030年には4000億元(8兆4000億円)規模に成長すると予想される。

 

[北京 ソン・グァンソプ特派員]

<< 引用文献

毎日経済 2024/12/18 SONG Kwnagsub

https://www.mk.co.kr/jp/world/11197865

>>

 

既に、日産は追い詰められていますが、こうした状況の変化には、全く対応していません。

 

日本政府は、実謬主義を貫いているので、現在の貿易自由化政策(低関税政策、プランA)が、失敗した場合(関税化政策、プランB)を検討しません。プランBの検討はタブーになっています。

 

トランプ関税は、戦術であり、使い捨ての交渉カードです。

 

トランプ関税は、戦略ではないので、中長期の見通しとは関係がありません。

 

日本も、EUと同じように、EVに、高関税をかけて、時間を稼ぐしか、対策がなくなる可能性が高いです。

 

日本経済には、トランプ関税を批判できるだけの余力は残っていません。

 

BYDは、2030年をターゲットにしています。

 

2024年の国際収支速報によると、デジタルに関連した収支は6兆6506億円の赤字と過去最大を更新しています。 比較可能な2014年からの10年で3倍超に達しています。

 

この赤字は、主にクラウドサービスによるものです。AI赤字が入ってくれば、2030年までに、赤字が2から3倍になると思われます。

 

日本のITゼネコンは、2024年には、AIサービスを増やして、利益を上げています。しかし、フルスタックの無人物流ソリューションのAIの場合には、中レベルのAIでは、国際競争力がないので、日本のITゼネコンが、この分野で生き残れる可能性は、ほぼありません。

 

高性能AIが、コストを40%削減して、中性能AIが、コストを20%削減したと仮定します。

 

その場合には、中性能AIでは、価格競争力がなくなります。