21-6)推論の方法
帰納法は使えません。
前々回は、なし崩しに推論をしましたが、帰納法に代る推論を整理しておきます
帰納法に代わる推論は、パースが推奨する「アブダクション」です。
「アブダクション」の説明をWEBで検索するとパースの濡れている芝生と雨の例がヒットします。
この説明は、パースの文章のコピーです。パースの文章をコピーをするのであれば、「アブダクション」を理解する(アブダクションのメンタルモデルを形成する)ことがなくともできます。
「アブダクション」を理解しないで、説明している人の解説では、重要な前提が欠落していることもあります。
こうした解説が流布していますが、こうしたこなれていない解説を読むと頭が混乱します。
過去には、「アブダクション」の説明をした本を翻訳して、「アブダクション」に、「あてずっぽう」という訳語をあてた人もいます。
ここでは、筆者のメンタルモデルを使って、「アブダクション」の説明をします。
「アブダクション」は、結果から、原因を推定する推論です。
この「全体の社会変化」節の頭で、筆者は、次のように書きました。
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第2の「雇用と労働が、デジタル社会へのレジームシフトに耐えられるか」(社会変化)の全般を考えます。
ここでは、ゴールから逆算した必要なシフト量を推定する検討方法をとります。
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社会変化が起きた状態(ゴール、結果)から、原因を推定する方法がアブダクションになります。
生成AIが出てくれば、医師の診断、裁判官と弁護士の裁判の一部は、生成AIで代替可能です。
つまり、社会変化を起こすためには、医師、裁判官、弁護士が、仕事の一部を生成AIに譲って、その分野からリタイアする条件整備が必要です。
この問題は、DX全般の問題です。
工場や事務、あるいはマイナンバーカードの活用でも同じです。
筆者は、先日、車検をうけましたが、依然として、申請書に住所と氏名を手書きで書き込みました。
手書きの氏名には、本人確認の目的がありますので、省略は困難ですが、住所は、運転免許証やマイナンバーカードとリンクづければ、記入の必要はありません。
筆者の個人情報は、車検を代行するディーラーがもっていますが、申請書に、事前に住所が印刷されていなかったので、その個人情報を車検の申請をコピーすることは、禁止されているように思われます。
車検を代行するディーラーは、筆者の手書きの申請書のデータを、キーボードで打ち込んでいる可能性が高いです。この場合には、コストがかかり、入力ミスの可能性があります。
運転免許証か、マイナンバーカードのデータを参照して、申請書に住所と氏名を自動的にコピーすることは簡単にできます。
結局、DXが進まない原因は、技術にあるのではなく、DXが進むと損をする利害関係者が反対しているためと思われます。
話を、生成AIに戻します。ここでは、医師の診断を例に、医師の診断業務を、生成AIに置き換える条件を「アブダクション」で推論します。
医師が、基本的な診断業務からリタイアする場合は、次の2つに分かれます。
第1は、競争原理が働いて、基本的な診断業務からリタイアしないと医院の営業が困難になる場合です。
第2は、基本的な診断業務より、より魅力的な(収入の多い)ジョブが発生して、労働移動が起こる場合です。
第2の場合は、医師が経済的に見合わなくなった場合と思われます。
第1の場合は、医療費が点数制度では起きません。
トータルで考えると、現在の医療システムには、「医師の診断業務を、生成AIに置き換える」ドライビングフォース(原因)はありません。
したがって、日本の医療には、生成AIの導入は進みません。
医師免許を持っていることによる機会費用は減少しません。
これは、生成AIによる医療の社会変化が起きないという予測になります。
以上の考察では、鎖国状態を想定しました。
海外の動向を考えます。
医療保険会社は、治療費の安いインドでの治療を推奨することもあります。
生成AIによる医療診断は、医療費を下げるので今後、急速に拡大する可能性が高いです。
医療保険は、高額なので、医療保険に加入していない人もいます。
メディケア・メディケイドが十分に機能しているとは言えません。
こう考えるとアメリカでは、今後、生成AIによる医療診断が拡大する可能性が高いです。
中国は、労働力の減少と高齢化問題を抱えています。
中国は、医療費の歳出を、今後減らすことに取り組んでいます。
中国も、アメリカ同様に、AI先進国なので、今後、AIによる医療診断が拡大すると予想できます。
2025年現在、アップルウォッチに代表されるような医療機能のついた腕時計やリングの製造は、アメリカと中国の企業が圧倒的なシェアを持っています。
AIによる医療診断は、単独では機能せず、こうしたウェアラブル端末とリンクして、実現すると思われます。
ウェアラブル端末とリンクしたAIによる医療診断は、今までの治療を中心とした医療から、予防と健康維持を目的とした医療へのレジームシフトを生み出すと思われます。
このレジームシフトに成功すれば、医療費の増大を押さえることが可能になります。
日本では、生成AIによる医療の社会変化が起きないという予測になりますが、その予測は、海外の先端医療から、日本の医療が取り残されることを意味します。
これは、社会変化が起きない場合のSociety 5.0の姿になります。
21-7)第3の方法
実は、以上では検討しなかった第3の方法があります。
これは、現在、政府が実際に行っている方法で、アブダクションを無視しています。
政府のメンタルモデルは、法度体制のミームに洗脳されているので、お上(上位者、政府)が、医師に、「基本的な診断業務からリタイアして、基本的な診断業務を生成AIに、渡せ」と命令する場合が、本命であると考えています。
法度体制のミームは、日本流の「悪法もまた法なり」です。お上が命令(法律)をだせば、お上の命令で世の中は動くと考えています。
しかし、「基本的な診断業務からリタイアして、基本的な診断業務を生成AIに渡す」ことで、医師の収入が減る場合には、そのお上が命令(法律)は、財産権の侵害になり、憲法と民主主義に違反しています。
政府が、薬価や診療報酬を一方的に決めることは、財産権の侵害になり、憲法と民主主義に違反しています。
財産権を認めない第3の方法は、社会主義です。
徴税は、財産権の侵害になります。徴税をゼロにすることはできません。しかし、徴税は、憲法と民主主義に基本的には違反しますので、最小限にとどめ、その最小限の徴税の歳出についても、合理的な説明が必要です。これが、リバタリアンの思想になります。
アメリカでは、リバタリアンでない場合でも、「徴税は最小限にとどめ、その最小限の徴税の歳出についても、合理的な説明が必要」という原則に反対する人は、民主主義ではありえないと思います。
リバタリアンとそれ以外の人の違いは、最小限の許容範囲の見解の違いであると思われます。
日本人は、法度体制のミームに洗脳されていて、リバタリアンがいません。
徴税の歳出は無制限に拡大しているため、増税が止まりません。
公民館のカルチャースクールや、エコ家電の購入など、なければ少し不自由ですが、生存に問題のない対象に対する歳出(補助金)が、生活保護や年金に対する歳出に優先するとは思えません。
このような不合理な補助金がある理由は、補助金が、政治利権のシステムに組み込まれているためです。
政治家は、生活保護や年金に対する歳出を増やしても、選挙に当選できませんし、生活保護や年金だけで生活している人は政治献金をしてくれませんので、利権のある不合理な補助金を優先していまます。
そのためには、費用対便益分析とその応用であるエビデンスに基づく政策選択は、封印されています。
リバタリアンは、徴税と歳出を最小限にとどめるべきであると主張します。
「最小限の徴税の歳出についても、合理的な説明をすれば」、生存に問題のない対象に対する歳出(補助金)を廃止して、生活保護や年金に対する歳出を優先することになります。歳出の削減は、このような基準がなければ、出来ません。費用対便益分析は、このプロセスを体系的に行う方法です。
与党が、リバタリアンの政党になれば、生活保護や年金に対する歳出は増えます。生活保護や年金が生存不可能なレベルにまで下がれば、治安が悪化して、夜警国家といえども、社会コストが増大します。そうなれば、増税になります。リバタリアンは、社会コストの増大を許容できないので、生活保護や年金に対する歳出を増やします。一方、リバタリアンは、生存に問題のない対象に対する歳出(補助金)は、民主主義の敵であると考えているので、認めることはありません。
リバタリアンは、生存に問題のない文化や芸術を無視している訳ではありません。こうした活動は、利権がらみの政府の裁量ではなく、寄付で行うべきであると主張します。メリンダ財団の活動をみればわかりますが、どこにどれだけの寄付をするかは、重要な課題です。大きな寄付組織は、その選別に膨大なコストをかけています。これは、政府の裁量による根拠のない(あるいは利権優先の)文化や芸術の支援より、寄付組織の方がはるかに効率的な支援ができているという自信のあらわれでもあります。
民間の支援が政府の支援より効率的になれば、法度体制は崩壊してしまいます。したがって、日本では、「民間の支援が政府の支援より効率的かもしれない」と考えることはタブーです。そのタブーに到達しないための安全装置が無謬主義になります。
「与党が、リバタリアンの政党になれば、生活保護や年金に対する歳出は増える」ことは、不都合な真実なので、法度体制の利害関係者は、リバタリアンは、金持ち優先であって、法度体制の方がよい政治システムであるとキャンペーンを張っています。
現在の日本の状況は、太平洋戦争の末期と同じ社会システム構造になっています。
ファクトとエビデンスを無視した効果のない戦術(政策)が繰り替えされています。
ロジスティック(最低限の生活保障、人材育成)は崩壊しています。
戦況(経済状態、実質賃金)は、毎年悪化しています。
終戦(経済破綻、国家破綻)が来るまで、法度体制が崩壊しない可能性もあります。