Society 5.0は永久に来ない(11)

21-2)AIの経営モデル

 

2025年1月に、名前が広く知られるようになったディープシーク(DeepSeek、深度求索)は2023年5月に設立された浙江省省都杭州市に本社を置くスタートアップです。創業者は、39歳の梁文鋒(Liang Wen feng、リャン・ウエン・フォン)氏です。

 

梁氏は、幼い頃から成績優秀で、中学時代には高校の勉強をすべて学び終えており、「高考(ガオカオ=大学統一入学試験)」では「状元」(トップ)の成績で浙江大学に合格しました。梁氏は、2010年に情報・通信工程専攻の修士課程を卒業しています。

 

梁氏は、浙江大学在学中に完全自動の株取引アプリの研究を始めて、金融取引を始め、卒業後に、AIを使った金融取引を行うヘッジファンド「High Flyer(ハイ・フライヤー、幻方)」の共同創立者となり、1兆円を超す資産を運用するようになりました。2016年には、幻方はディープラーニングに基づく初のトレーディングモデルを立ち上げ、クオンツ投資の戦略を完全AI化することに成功してます。今では、中国国内クオンツプライベート・エクイティ分野の「四天王」の1つに数えられています。

 

梁氏は、2023年に杭州市で「深度求索」(杭州深度求索人工智能基礎技術研究)を設立し、DeepSeekを立ち上げました。

 

深度求索の社員数は140人で、社員の多くは20から30代です。梁氏は社員は、(清華大学北京大学などの)一流大学の新卒者、博士号取得者(4、5年目のインターンも)、数年の経験を積んだ若い才能だけです」と語っています。社員は数学やコンピュータ、大規模言語モデル(LLM)など多様な分野の最先端で博士号を取得した俊英です。米メディアは、社員の1人は他社から年俸1000万元(約2億円)のオファーを受けたが、それを断ってディープシークに残ったと報じています。

 

梁氏は、「DeepSeekは完全にボトムアップ型の組織です。役割分担もあらかじめ決めていません。誰もがユニークな経験とアイデアを持っており、押し付ける必要がない。課題にぶつかると、自然と他の人を巻き込んだ議論が起きます。一方、あるアイデアに可能性が見いだされれば、そこからはトップダウンでリソースを配分します」と言います。

 

<< 引用文献

中国AI企業DeepSeekの素顔…「2億円人材」もいる創業1年半の天才集団、「イノベーションには好奇心と創造的な野心」 2025/02/02 JBPress

https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/86390

 

DeepSeekはまるで認知戦兵器?低コスト・高性能より怖い本当の破壊力、中国の公式見解を世界に広げられる最強ツール 2025/02/01 JBPress 福島香織

https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/86381

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DeppSeekでは、LLMの性能に関心が集まっていますが、筆者は、DeepSeekの前に、クオンツの戦略を完全AI化した部分が重要であると考えます。

 

クオンツの戦略の基本は、リスクとリターンのバランスをとることです。リスクとリターンのバランスをとる問題は、1952年にマコーウィッツが事前情報と正規分布が与えられる場合について、定式化(MPT、Modern portfolio theory,、現代ポートフォリオ理論)しました。ここで、大きな問題は、実際の分布の推定と分布の相関の推定です。これらの問題は、解析的には、解けないので統計学がコンピュータ化した1990年頃以降に発展しました。2025年時点で、問題が完全に溶けてはいませんが、クオンツの戦略を完全AI化できたことは、人間のパフォーマンスを超えたことを意味します。この解法は、LLMだけではないことに注意してください。

 

梁氏が成功をおさめた理由は、ビッグデータとデータサイエンスは、経験に優るという事実(ファクト)を示しています。

 

梁氏のような若年でもビッグデータとデータサイエンスを使いこなせる経営者と、高齢の経験豊富な経営者が競合した場合、勝者は前者であり、敗者は後者になります。

 

経験は、科学(データサイエンス)に勝てなくなりました。

 

2016年のクオンツ投資の戦略を完全AI化は、その分岐点を示しています。2016年にかけて、LLMの組み込みが行われています。より正確にみれば、2016年以前の2010年から2016年の間にMPTモデルの改良の部分はできていたと思われます。

 

今後、経営者が高齢者で、年功型雇用の日本企業が、ビッグデータとデータサイエンスを使いこなす若年の経営者をもつジョブ型雇用の企業に、負ける例が増えるでしょう。

 

経営者が高齢者で、年功型雇用の企業は、日本にしかありませんので、年功型雇用が解体しない限りは、日本企業は、海外企業に負け続けると言い換えることもできます。

 

シャープは液晶に、パナソニックはプラズマディスプレーに膨大な投資をして、経営が傾きました。その経営判断は、不完全な情報に基づいています。経営判断は、リスクとリターンのバランスをとる必要があります。最適な経営判断は、MPTモデルを参考にすべきです。シャープとパナソニックの幹部は、MPTモデルを参照したでしょうか。もちろん、梁氏が、MPTを発展させたように、良いMPTモデルでなければ、使いものになりません。

 

著名な投資家のバフェット氏の投資戦略を調べてみれば、わかりますが、バフェット氏は、良いMPTモデルを作ることのできるスタッフを抱えています。バフェット氏の投資歴は長いですが、その時々の最先端技術を導入しています。

 

梁氏は、Deep Seekは、ボトムアップ組織であると言っています。これは、組織がフリーハンドであることを意味しません。経営者も、社員も、経営が、MPTモデルのような経営モデルに従って行われることを納得しているはずです。新しいアイデアは、投入する経営資源が小さな場合には、自由な探索が可能ですが、投入する経営資源が、あるレベルを超える場合には、経営モデルを使った評価がなされているはずです。

 

ホンダと日産の経営統合が破談になりました。このニュースは驚くべきものです。

 

ホンダと日産が、共に、経営モデルを使って、経営統合を評価している場合には、経営統合のモデル予測のずれの発生源を点検すれば、経営統合の合意ができます。

 

このニュースは、日本の自動車メーカーが、AIの経営モデルを使えていないことを示しています。この経営陣では、株主利益が失われますので、株主は、経営陣を変えるべきです。日産の株価が低迷した原因は、株主の怠慢にあったとも言えます。

 

<< 引用文献

【速報】ホンダとの経営統合が破談 日産が協議“打ち切り”方針を固める ホンダからの「子会社化」提案に反発 幹部「到底受け入れられない」 2025/02/05 TBS

https://news.yahoo.co.jp/articles/58091daa3caa5a6e40f96c38a5650bbec20bd2c0

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 2005年頃、官僚など、法度体制の利害関係者は、外国資本の会社が株主になって、経営陣を入れ替えると法度体制が崩壊するので、「会社はだれのものか 」と反対しました。

 

その結果、日本のFDIは、北朝鮮以下の世界最低レベルになりました。

 

つまり、FDIの鎖国が完成しています。

 

2024年にも、自社株を購入して、株式公開を中止した企業があります。

 

これらの企業は、法度体制企業であって、本来の株式会社ではなかったと言えます。

 

水林章氏は、法度体制が、江戸政権によってつくられたといいます。これは、法度体制が、村八分鎖国を内包していることを示唆しています。

 

ジャーニーズ問題の解決には、海外のマスコミ方法が必要でした。

 

これは、ジャーニーズ問題には、法度体制が組み込まれていて、鎖国状態であったことを示しています。

 

フジテレビ問題も、真相は闇のなかですが、経営陣が高齢であること、海外の株主の要請が、記者会見のきっかけであったことを考えると、法度体制の問題が組み込まれていると考える根拠があります。

 

Society 5.0では、AIの経営モデルのアドバイスを無視した経営や人事ができなくなります。

 

つまり、年功型雇用で、前任者が後任者を指名する人事はできなくなります。

 

 パナソニックホールディングスは2025年2月4日、同社が開催したグループ経営改革に関する説明会でパナソニックHDは、収益性の乏しい事業の再編や、家電事業を専業の1社へ集約するといった改革方針を明らかにしていました。

 

パナソニックホールディングス(HD)は2月5日、一部メディアが報じたテレビ事業撤退の可能性についての一連の報道について、「テレビ事業を含む課題事業に関しましては、抜本的な収益構造の変革に向けて、あらゆる可能性を視野に検討しておりますが、売却・撤退も含めて現時点で決定している事実はありません」と述べました。

 

テレビ事業の収益性が悪い問題は、シャープが液晶事業でつまずいて、2016年に、鴻海精密工業の子会社になったころから続いている問題です。シャープは、2024年5月に、 テレビ向け液晶パネルの生産を年内で停止する決定をしています。2016年は、「パナソニック プラズマディスプレイ」が解散した年でもあります。

 

テレビ事業の収益性問題は、このように以前からある問題です。「あらゆる可能性を視野に検討しておりますが、売却・撤退も含めて現時点で決定している事実はありません」は、戦術を検討しているという発言で、戦略はないということです。

 

パナソニックにかぎらず、日本企業には、戦略がない場合が多いです。

 

TSMCの成功は、長期的な戦略に基づいています。

 

加谷 珪一氏は約30年前、創業間もない同社の本社工場を取材しています。

 

加谷 珪一氏は次のように言っています。(筆者要約)

TSMCは、当時、まったくの無名の半導体業界では単なる製造下請け企業のひとつでした。

 

加谷 珪一氏は、TSMCは、吹けば飛ぶような小さな会社だが、20年先を見据えた大胆な経営戦略を描いていると聞き、TSMCに、取材に行っています。日本の半導体業界の幹部に、TSMCの話をしても、「技術力の低い下請けメーカーから話を聞いても何も得られないよ」と鼻で笑われたそうです。

 

加谷 珪一氏が、TSMCの経営幹部から話を聞くと、当時からTSMCは現在で言うところのファウンドリー事業の青写真をしっかりと描いており、それに向けて着々と準備を進めていく高い戦略性を持っていました。

 

パソコンの登場によって、半導体業界は、垂直統合が水平分業の産業構造にパラダイムシフトする可能性が指摘されていました。しかし、実際に目に見える形の変化は、その当時の業界にはありませんでした。

 

TSMCのような新興企業が巨大企業に成長するためにはゲームチェンジが不可欠であり、目に見える形で業界が動き出してからでは遅すぎます。TSMCは、このパラダイムシフトシナリオに、社運をかけていました。

 

当時の台湾当局は、日本メーカーが行っている典型的な垂直統合半導体企業をイメージしており、TSMCのチャン氏のアイデアとは相反するものでした。

<< 引用文献

TSMCが世界1位になれた理由、開花するまでの「30年にわたる孤独な戦い」の全貌 2023/04/21 Media+IT 加谷 珪一

https://www.sbbit.jp/article/cont1/112167

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30年前には、垂直統合が事実で、水平分業は、反事実でした。

 

TSMCが成長して水平分業が事実になった後で、帰納法によって、スマホ半導体製造には、水平分業が必要であると推論することはできます。

 

しかし、30年前に、反事実である水平分業を基本戦略に設定する場合、帰納法は無効です。因果推論のような反事実を扱える推論が必要になります。

 

反事実を扱えなければ、戦略を描くことはできません。

 

「AIRankings.org」の人材ランキングに見るように、日本企業は、中国企業に技術力で勝てる可能性は当面はありません。

 

岸田前首相は、こうした現実を無視して、企業に補助金をつけたリスキリングすれば、技術競争に追いつくと主張しました。法度制度に組みこまれた経団連などの経営者団体も、リスキリングを支持しました。

 

「AIRankings.org」の人材ランキングをみれば、日本に必要はことは、リスキリングではなく、「中国製造2025」のような戦略の日本版をつくり、その中で、中国が、2018年以降行ったような、大学の学部課程に2000余りのAIプログラムを追加することです。

 

政治家は、利権のキャッシュバックにしか関心がありません。そのためには、お題目を唱えて補助金が配れれば、人材育成には関心がありません。しかし、企業が政治家に同調すれば、日本企業はつぶれてしまいます。

 

筆者は、法度体制の年功型雇用と併存するSociety 5.0をイメージすることができません。

 

日本の大企業は、年功型雇用を維持して、春闘を続けるつもりです。

 

日本の大企業の経営者は、法度体制を維持して、企業が継続できると考えてます。

 

日本の大企業は無謬主義であるといわれます。これは、大企業が、法度体制の一部になっていることを意味します。大企業は、無謬主義を否定する技術革新を拒否しています。

 

無謬主義とは、戦略を否定して、成果のでない戦術をくりかえすことです。

 

作戦の効果が計測されれば、戦術が改善されます。しかし、戦術を改善すれば、それまでの戦術が間違っていたことになります。法度体制は、上位者の発言に間違いがないという前提でなりたってます。この前提を維持するためには、戦術の効果を計測しないことと、戦術が失敗した場合を考えてはいけないことになります。無謬主義とは、戦術の失敗を考えないこと、考えることを禁止することを指します。戦術の失敗を考えることは、反事実の戦術のプランBと実際に行われた事実の戦術のプランAを比較することです。これは、因果推論の基本です。原因がわかれば、問題解決ができます。しかし、上位者の発言と違う方法で、問題解決ができてしまうと、上位者の権威がなくなり、法度体制が崩壊してしまいます。政治家であれば、政治主導が失われます。法度体制では、原則は、問題解決ができないことが望ましい状態になります。

 

この無謬主義が、日本の大企業が、「中国製造2025」の日本版をつくりたがらない原因であると思われます。

 

日本の大企業の経営者は、AI経営モデルのアドバイスを無視して、過去の経験で、経営判断ができると考えています。

 

しかし、10年前に、データサイエンスは、そのような世界を消滅させています。

 

21-3)帰納法の限界

 

ジェンダーギャップは、企業の経営にマイナスになります。

 

Society 5.0では、AIの経営モデルのアドバイスを無視した人事はできなくなります。

 

ある大学の研究者は、女性の生涯賃金は出産する場合としない場合で、40%以上の差があると言っています。この研究手法は、不適切な帰納法を使っています。

 

帰納法の研究は、現状を追認するので、法度体制を維持します。

 

組織が、ジョブ型雇用であり、経営モデルを使った経営をする場合には、ジェンダーギャップはありません。能力による賃金差はあります。男性と女性の能力は全く同じではないので、賃金は、同じにはなりません。しかし、賃金差が、性別ではなく、能力による場合には、それは、直接のジェンダーギャップではありません。能力は、教育でも変化します。女性が、教育を受ける機会が少なければ、能力差が生じます。この間接の能力差の原因は、企業の人事ではないので、企業は、間接のジェンダーギャップの能力差に伴う賃金を補償する責任はありません。

 

アファーマティブ・アクションaffirmative action)には、経過措置としての合理性がありますが、恒久化すべき理由はありません。たとえば、男女間で、うける教育のレベルに差がある問題は、企業は、能力差に伴う賃金を補償するのではなく、うける教育のレベルの差を解消することで解決すべきです。

 

アメリカでは、アジア系が起こした訴訟の結果、2023年の最高裁判決は、大学入試選考における「人種だけを理由にした優遇措置」は違憲としています。

 

これは、大学に入る前の教育レベルの差を、大学が補償する責任はないはずだという論理になります。大学が補償すれば、逆差別になるという論理です。

 

帰納法の研究では、これらの疑問に何ひとつ答えることができません。

 

ジェンダーギャップの原因は何かは、因果推論をしなければ、解くことができません。

 

問題を解決するには、問題の原因が何かを推定する必要があります。

 

ジョブ型雇用で、AIの経営モデルを使えば、ジェンダーギャップは生じません。

 

なぜなら、ジェンダーギャップがあれば、経営効率が落ちるからです。

 

ジェンダーギャップの原因は、法度体制の年功型雇用にあります。

 

今後、経営者が高齢で、年功型雇用の日本企業が、ビッグデータとデータサイエンスを使いこなす若年の経営者をもつジョブ型雇用の企業に、負ける例が増えるでしょう。

 

つまり、今後、ジョブ型雇用へのシフトに伴い、ジェンダーギャップは解消されます。

 

ジェンダーギャップを早く解消するためには、株主が利益を確保するために、高齢の経営者と年功型雇用をできるだけ早く追放すればよいことになります。

 

これは、年齢差別ではないので、全ての高齢の経営者を追放する必要はありまません。

 

若年の経営者と対等に、ビッグデータとデータサイエンスを使いこなすことのできる高齢の経営者は、生き残ることができます。しかし、高齢の経営者の絶対数は減るはずです。

 

女性の生涯賃金は出産する場合としない場合で、40%以上の差があるという帰納法の研究では、こうした解決策を提案することはできません。40%以上の差があるという帰納法の研究対象は、主に年功型組織です。その結果、この研究では、もし年功型雇用がなくなったらという反事実を考えることができません。反事実を扱えなければ、解決法の探索ができません。いい換えると、帰納法の研究は、年功型雇用が主流であるという事実に基づくため、帰納法の研究には、事実(年功型雇用)を固定化するバイアスが働きます。帰納法の研究は、法度体制を維持してしまいますので、ジェンダーギャップを固定化してしまいます。

 

繰り返しになりますが、マスコミなどで情報を得る場合には、その情報が、法度体制のミームに汚染されていないかをチェックすることをお勧めします。