1)バージョンアップ
筆者は、「リスキリング(2)」で、次のように書きました。
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ソフトウエアは、1年に、数回バージョンアップします。
古いバージョンのソフトウェアは、メンテナンスされなくなります。
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ソフトウェアは、巨大化しています。メンテナンス可能なソフトウェアは限定されてきています。
切り離した評価は難しいですが、NVIDIAの成功は、GPUを活用できるソフトウエア・ライブラリーの充実にあります。
Googleは、昔、巨大な図書館の蔵書を全てデジタル化する計画を進めていましたが、その計画を途中で放棄しています。Googleを支えているデータは、WEBのクラウド上にあるデータです。
これは、利用価値があり、メンテナンスできるデータは、限られていることを示しています。
ベイズ更新で考えれば、データが古くなれば、現在の条件付き確率に与える影響が少なくなります。
データには、利用価値からみれば、賞味期限があります。
メンテナンス可能なデータとソフトウェアの特徴を把握することが、経営戦略上、重要になります。
2)カメラの世界
フィルム時代のカメラは、レンズに空き箱が付いたものでした。
カメラの性能の大半は、レンズの性能でした。
レンズの設計は、手作業で、よいレンズの素材は非常に高価でした。
たとえば、歪の少ないレンズをえるためには、大きなガラスのかたまりから、レンズを磨きだしていた時代もあります。2010年頃から、レンズは、プラスチックでモールド成形が可能です。特殊材料のコストは劇的に下がっています。
スマホのカメラの性能は、レンズサイズの制約を除けば、フィルム時代のカメラを超えています。
レンズサイズの制約のない単独のカメラであれば、全ての点で、フィルム時代のカメラを超えています。
歴史に名を残した昔のプロのカメラマンの機材に比べれば、単独のカメラであれば、安いカメラでも、十分な性能を持っています。
つまり、よい写真がとれない原因は、カメラの問題ではなく、カメラマンの腕の問題のはずです。
しかし、筆者は、最近になって、この考えを変えざるをえなくなりました。
デジタルカメラは、レンズとセンサーとソフトウェアからなります。
現在、もっとも、開発コストがかかる部分はソフトウェアと思われます。
最新のソフトウェアであれば、飛んでいる鳥に焦点を合わせて、自動で撮影することができます。
これは、プロのカメラマンであっても、人間にはできない技法です。
プロのカメラマンは、自動撮影ソフトウェアに勝てないのです。
ただし、「飛んでいる鳥に焦点を合わせて、自動撮影できる」性能のソフトウェアを実現しているカメラメーカーは、トップの2社だけです。
現時点では、この2社以外のカメラでは、「飛んでいる鳥に焦点を合わせて、自動撮影でき」ません。
今後、考えられるシナリオは3つあります。
第1は、既に、「飛んでいる鳥に焦点を合わせて、自動撮影できる」ソフトウェアを提供しているメーカーは、売上げが大きくなり、開発コストを負担できるが、それ以外のメーカーは、開発コストを負担できないので、市場から撤退するというシナリオです。
第2は、「飛んでいる鳥に焦点を合わせて、自動撮影できる」ソフトウェアは、普及技術になって、どのメーカーのカメラにも実装されて、差別化につながらないというシナリオです。
第3は、Lidarなどの他のセンサーとの合わせ技による新しい技術が主流になり、現在の「飛んでいる鳥に焦点を合わせて、自動撮影できる」ソフトウェアは陳腐化するシナリオです。
第1のシナリオの場合には、先行する2社以外のメーカーは市場から、撤退することになります。
また、プロのカメラマンの仕事は、シャッターを押すことではなく、ライティングや、構図の決定などにシフトすると思われます。プロのカメラマンの仕事はなくなりませんが、既に、マーケットは縮小しています。
第1のシナリオは、ソフトウェアの開発コストが下がらない場合に、対応します。
3)自動運転の課題
筆者は、今後、自動車の世界でも、カメラの世界と同じように、ソフトウェアが製品の価値を決めると考えます。
カメラのソフトウェアの性能が、自動焦点で決まるように、自動車のソフトウェアの性能は、自動運転で決まると思われます。
そして、自動運転の性能の悪い自動車は、売れなくなると考えます。
カメラの第1のシナリオは、ソフトウェアの開発コストが下がらない場合でした。
今後、基本的なAIの画像認識モジュールの性能が劇的にグレードアップしない限り、自動車の自動運転ソフトウェアの開発コストが下がることはないと考えられます。
NVIDEAのGPUは、並列処理によって、CPUの性能を劇的に向上させ、インテルの経営を圧迫しました。
「基本的なAIの画像認識モジュールの性能が劇的にグレードアップ」する場合は、NVIDEA対インテルのような構図が生まれている時であると思われます。
仮に、そのような構図が生まれなければ、自動運転ソフトウェア開発に、巨大な資金投入ができるテスラとGoogleに比べて、日本の自動車メーカーが生き残る可能性は低いと言えます。
2024年の現状では、日本の自動車メーカーの自動運転ソフトウェアは、スポーツに例えれば、予選落ちの水準にあります。
これからある本選で、日本の自動車メーカーの自動運転ソフトウェアが、勝ち残ると考える合理的な根拠はありません。
トッド氏は、ウクライナ戦争の死命を決するのは、リアルの爆薬と銃弾であって、サイバー戦ではないと言います。これが、ロシアが負けない理由であるといいます。
トッド氏は、「ソフトウェアは、リアルの世界ではないという分類」をします。
しかし、ドローンの自動操縦ソフトウェアの性能がアップすれば、1台のドローンが、2台以上の働きをする場合もあり得ます。
このような場合には、「ソフトウェアは、リアルの世界ではないという分類」は、適切ではありません。
マスク氏は2024年11月24日にXで、中国の小型ドローン(無人機)の大群が編隊飛行する動画に「一方で、いまだにF-35のような有人戦闘機をつくっているマヌケもいる」とコメントしています。
日本の自衛隊のドローンのソフトウェア技術は低いです。そもそも、日本には、競争力のあるドローンメーカーはありません。
防衛省は、国産の装備の使用を優先しています。国産の装備は、メーカーが、武器輸出ができないので、海外製品の3倍近い価格になっています。
マスク氏は、米軍の予算の無駄を指摘していますが、日本の自衛隊は、それ以上の無駄を抱えていると思います。つまり、防衛費増額の効果は、全く、期待できません。そして、それ以前に、効果測定のデータが公開されていません。
ドローンが撃墜されても、死亡する兵士はいません。戦闘機が、撃墜されれば、兵士が戦死します。代替手段があるにも関わらず、命を落としてもよいという判断は、特攻に通じています。
日本は、ソフトウェアを軽視してきました。
これは、日本が、反事実を扱えない科学ではない学問を教育してきた結果と思われます。
反事実を扱えない科学ではない学問では、まともなDXやソフトウェア開発はできないと言えます。
マスク氏の言い方をすれば、日本の教育は、マヌケを作ってきたことになります。