4-1)レトリックと認知バイアス
「論理的思考とは何か 」(p.48)の視点は、「何が<論理的>だと感じさせるのか」です。
ここでは、科学的な正しさは、追究されていません。
「論理的思考とは何か 」(p.18)には、次のように書かれています。
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レトリックは、人を説得する技術であるので、「理性(ロゴス)による論理的な説得」のみらず、話し手の「倫理(エトス)」と受け手の「感情(パトス)」も視野に入れている。
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つまり、「論理的思考とは何か 」で、問題にしている「論理的思考」とは、レトリックのことになります。
しかし、「<論理的>だと感じさせる」ことを目的変数にとり、効果的なプロセスを探索すれば、認知バイアスを使う手法がヒットします。
認知バイアスを使う方法は、騙されないために、熟知すべきかも知れませんが、論理的思考として、積極的に教育すべき内容であるか疑問です。
グルメ雑誌にのっているフード写真は、食べられません。氷の代わりに、アクリルのダイスをつかいます。料理は、写真写りがよい、形が崩れない火があまり通っていないものをつかいます。
ファッション雑誌に出ているモデルは、痩せていて、実際には、病気寸前の人が多いです。最近では、あまりに、非現実的だということで、より健康的な(太め)のモデルに人気があります。
消費者が商品の品質について評価をする時に、最初に目にした価格(アンカー)が購買判断に影響する心理効果(アンカリング効果)が知られています。
歴史的には、感情に訴えるレトリックの名手としては、ヨーゼフ・ゲッベルスが知られています。
政治家は、選挙に勝ち残るために、レトリックを活用します。
しかし、その結果、経済成長(生産性の向上)は後回しになり、貧困対策は、現金給付になっています。
現代の認知バイアスの活用で最も成功しているのは、SNSです。
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スウェーデンでは犯罪組織がSNSを使って若者を仲間に引き入れ、殺人や爆破を実行させる事例が急増しており、政府はSNS運営会社が対策を講じなければSNSの利用に年齢制限を設けることを検討しています。
スウェーデンは犯罪組織による犯行が急激に増加しました。20年前には欧州最低だった国民1人当たりの発砲による死者数は、現在は、欧州最多です。
スウェーデン警察によると、犯罪集団の間ではこの2年間にSNSで10代の若者を「リクルート」する動きが起きている。こうした若者は国内や他の北欧諸国で殺人や爆破の実行役となっており、中には11歳で犯行に及んだケースもありました。
2024年1から7月に殺人事件に関与した疑いで捜査対象となった15歳未満の子供は93人と、前年同期の3倍となっています。
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<< 引用文献
スウェーデンもSNSへの年齢制限導入を検討...犯罪利用急増で 2024/12/10 Newsweek
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2024/12/528286.php
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オーストラリア議会は、2024年11月28日、16歳未満の子供のSNS利用を禁じる法案を可決しました。1年後をめどに施行されます。
フランスでは2023年、保護者の同意がない15歳未満の子供のSNS利用を禁じる法律が制定されました。一方、米ユタ州でも類似の法案が制定されたが、連邦地裁によって一時的に差し止められています。
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<< 引用文献
最大約50億円の罰金、オーストラリア発「16歳未満はSNS禁止」の波紋...各国で同様の動きが 2024/12/02 Newsweek イワン・パーマー
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2024/12/526978.php
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認知バイアスをつかって、説得する手法があります。それも、学習の要素です。
しかし、認知バイアスを使う方法は、論理的思考のカリキュラムに含めるべきではありません。
4-2)論理的思考
「論理的思考とは何か 」には、英語のタイトルはついていません。
論理的思考をそのまま英語に移せば「logical thinking」になります。
日本語版のウィキペディアには次のように書かれてます。
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ロジカルシンキング(logical thinking)とは、一貫していて筋が通っている考え方、あるいは説明の仕方のことである。日本語訳として論理思考あるいは論理的思考(参考→思考#思考の種類)と置き換えられることが多い。日本で育まれており、論理学に由来する考え方やコンサルティング業界に由来する考え方に分かれる。後者に「重複なく・漏れなく」対象を分析するMECEといった考え方がある。
英語辞書に logical thinking という語彙を持つものは少なく、あっても十分な説明になっていないことが多い。例えば「筋の通った(理路整然とした)論理的な思考」(thinking that is coherent and logical)であるとの説明が見られるが、この説明はほぼ同語反復と言える。またロジカルシンキングの英語訳として critical thinking(批判的思考)が選択されることも多い。日本でロジカルシンキングや論理思考の概念が広まった契機は照屋・岡田以来、主にコンサルタント系の著者たちによりロジカル・シンキングのための様々なツールや手法が企業向けに提唱され、ビジネス書のブームとなったことにある。以上のことから、logical thinkingは英語圏で広く通用する一般的な語彙ではなく、特定の経営コンサルティング会社あるいは業界用語とみなすことができる。
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「論理的思考とは何か 」には、批判的思考(critical thinking)は、出てきません。
批判的思考(クリティカル・シンキング、Critical thinking)のウィキペディアの説明は、日本語版と英語版で異なります。
日本語版はローカルルールなので、ここでは無視します。英語版のウィキペディアには、次のように書かれています。
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論理的議論の研究はクリティカル・シンキングの研究に関連している。論理は議論の分析、その正しさや誤りの評価に関係している。認識論の分野では、クリティカル・シンキングは論理的に正しい思考であると考えられており、論理的に正しい陳述と論理的に誤った陳述を区別することができる。
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つまり、クリティカル・シンキングが論理的に正しい陳述と論理的に誤った陳述を区別する基本になります。
批判的思考(Critical thinking)がないと、論理が成り立ちません。
論理的とは、「<論理的>だと感じさせる」ことではありません。
推論の根拠(reason)を明示することです。
したがって、英語版のウィキペディアには、ロジカルシンキング(logical thinking)はありませんが、論理的推論(Logical reasoning)があります。
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論理的推論(Logical reasoning)は、厳密な方法で結論に到達することを目的とする精神 活動です。これは、一連の前提と推論から始めて、これらの前提によって裏付けられた結論に至る推論または議論の形で行われます。前提と結論は命題、つまり事実に関する真または偽の主張です。これらが一緒になって議論を形成します。論理的推論は、合理的な人なら誰でも納得できる正しい議論を定式化することを目的としているという意味で、規範に基づいています。論理的推論を研究する主な分野は論理学です。
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ちなみに、因果推論は、Causal reasoningになります。あくまで、reasonを追及する脳の働きです。