プロセスの発見(4)

4-1)「103万円の壁」

 

「103万円の壁」の問題がもめています。

 

4-2)科学的推論とデータの類型

 

科学的推論とデータの類型には、次の対応があります。

 

なお、以下の説明は、少数の例外を無視した基本的な説明です。

 

ファクト(観察研究によるデータ)からは、相関関係はわかりますが、因果関係はわかりません。

 

エビデンス(介入研究によるデータ)からは、因果モデルを作ることができます。

 

つまり、エビデンスに基づく推論が科学的な推論になります。

 

相関関係が、因果関係に合致するという幸運がありますが、確率は低いです。データはありませんが、イメージとしては、10%くらいと考えれはよいと思います。

 

つまり、ファクトに基づく推論は、疑似科学になります。

 

最後に、データを引用しない推論は、フィクションになります。典型は、宗教になります。

 

フィクションには、専門家の意見が含まれます。

 

まとめると次になります。

 

表1 科学的推論とデータの類型

 

EBL3:エビデンスに基づく科学(因果関係)

 

EBL2:ファクトに基づく疑似科学(相関関係)

 

EBL1:データに基づかないフィクション

 

表1は、推論のプロセスを問題にしています。

 

4-3)フィクションの成立条件

 

フィクションには、科学的根拠はありません。

 

しかし、人間は、多くの場合、フィクションを信じます。

 

どうして、人間がフィクションを信じるかという問題は、未解決です。

 

疑似介入、アブダクションのコピー、神経回路の学習などが、関係している可能性が考えられます。

 

アリス・コリンズ氏は、CAMについて、次のようにいっています。

補完・代替医療(CAM)の利用は1970年代の約25%から2000年以降は49%と、近年増加傾向にある。昨年のある調査では、癌患者の52%がCAMを利用、5%がCAMを優先して従来型の治療を後回しにしていた。

 

イギリス在住の元乳腺外科顧問医師のリズ・オリオーダン氏は、「皆が信じるのは、この手の(代替療法の)製品の巧みな販促マーケティングと、そうした製品にすがりたい患者の思いがあるからだ」といいます。

<< 引用文献

代替療法で治る」に騙されてはいけない...科学的根拠ゼロの「がん治療体験」をセレブが広める問題 2024/12/04 Newsweek アリス・コリンズ

https://www.newsweekjapan.jp/stories/woman/2024/12/post-1129.php

>>

 

新しいがん治療は、エビデンスに基づいています。

 

CAMを信じることは、科学的ではなく、不合理ですが、人間の認知システムは、科学の方法に順応してはいません。

 

パブロフの犬の実験のように、ある神経回路を頻繁に使うと、人間の認知システムは、使用頻度の高い神経回路を優先して使います。

 

標準医療ではなく、CAMの情報に頻繁に接しているとCAMの情報を優先するようになります。

 

これは、神経回路の特性なので、ニューラルネットワークを使ったAIにもあてはまります。

 

つまり、AIも、人間と同じように、科学的な間違いを犯します。

 

AIが、エビデンスに基づく推論をする場合には、こうした間違いは起きませんが、ファクトに基づく推論をする場合には、AIも、人間と同じように、科学的な間違いを犯します。



4-4)税制改革の課題

 

「103万円の壁」を取り払うと、財源が不足してくるという議論が繰り返されています。

 

筆者は、富裕層にまで拡大して、「103万円の壁」を取り払うべき理由はないと考えます。

 

こうした筆者の意見は、脇において、ここでは、「科学的推論とデータの類型」から、「103万円の壁」を取り払うプロセスの問題を考えます。

 

「財源が不足してくる」という推論は、因果モデルによっていないので、EBL3の科学の方法ではあります。

 

データの引用法が怪しいですが、いくつかのファクトを引いていますので、この推論は、疑似科学の可能性があります。

 

疑似科学では、将来の予測はできませんので、「財源が不足してくる」という主張は間違いです。

 

疑似科学では、将来の予測はできませんので、疑似科学をつかった政策の場合には、問題があれば、政策を中断するプロセスがあればよいことになります。

 

これは、効果があるかも知れない新薬を飲んで、効果がなければ、投薬を中断するプロセスになります。

 

因果推論の科学は、エビデンスが確立した状態を指すので、そこに到達するまでは、科学以前の状態が発生します。

 

さて、ファクトをみますと、過去の法人税の減税と消費税の増税を行っています。

 

その結果、GDPは成長していません。

 

個人所得は、消費税の増税の時に、いったん減ります。

 

これから、過去の法人税の減税と消費税の増税の効果(結果)を個人所得で見ることはできません。

 

しかし、個人所得ではなく、消費税の増税後の個人所得の変化であれば、消費税の影響を直接受けません。

 

個人所得の変化をみれば、減り続けています。

 

つまり、ファクトでみれば、政府の税調の政策は失敗であったことになります。

 

政府の税調は、ファクトを無視した政策を継続していることになります。

 

そう考えると、「103万円の壁」を取り払う政策が、現行の政策より悪いと考えるべき、ファクトはありません。

 

これが、プロセス思考の方法の例です。

 

政府の税調が、ファクトに基づく推論をしていれば、「法人税の減税と消費税の増税」を取り消しているはずです。

 

しかし、政府の税調は、ファクトを無視しています。

 

そう考えると、政府の税調は、EBL2ではなく、EBL1のフィクションになります。

 

森永卓郎氏は、政府の税調は、「ザイム真理教」であるといいます。

 

政府の税調は、EBL1なので、この表現もあながち間違いではないと思われます。



4-5)補足

 

以上の推論で、経済成長(GDP)の原因が、税制の変化であるというモデルには、違和感があったかも知れません。

 

なぜなら、政府は、大規模金融緩和やインフレによって経済成長すると主張しているからです。

 

経済成長に影響する可能性のある要因は、インフレに限定されません。「法人税の減税と消費税の増税」をすれば、内需が減りますので、経済成長に影響します。

 

このように、通常は、複数の要因が、結果に影響します。

 

相関モデルは、このうちの原因らしい要素を1つだけ取り上げ、他の要素(交絡因子)を無視します。

 

これは、当然、間違いなので、疑似科学と呼ばれる理由になります。

 

現在の政府の政策は、エビデンス(因果推論の科学)を無視しています。

 

上記では、EBL2を確認するために、政府のエビデンスを無視した推論を再現しています。