プロセスの発見(1)

1-1)連立方程式の問いと答え

 

次の連立方程式を考えます。

 

x+y=2

xーy=0

 

この方程式の問いは、変数Xとyの値を求めることです。

 

x=1とy=1が、答えになります。

 

変数をオブジェクト、値をインスタンスと呼ぶこともあります。

 

写真に、犬が写っている場合を考えます。

 

この写真の犬が、オブジェクトです。

 

インスタンスは、「柴犬」であったり、「タロー」であったり、「柴犬のタロー」であったりします。

 

オブジェクトを扱う場合には、常にインスタンスが問題になっています。

 

1-2)お金持ち

 

お金持ちというオブジェクトに対するインスタンスは、資産の評価額の大きな人になります。

 

資産を増やす方法には、銀行強盗をする方法もあります。

 

しかし、この方法は、あまりに、副作用が大きいので、通常は選択されません。

 

実は、お金持ちというオブジェクトが問題になることはあまりありません。

 

通常、問題になるオブジェクトは「お金持ちになる方法」です。

 

対応するインスタンスは、プロセスになります。

 

問い(オブジェクト)に対応する解答(インスタンス)が、ファクトである場合とオブジェクトになる場合があります。

 

株式を購入してお金持ちになるには、銘柄を選ぶ必要があります。

 

このときの銘柄は、ファクトです。

 

しかし、この問題は、良い銘柄を選ぶプロセスがあれば、ファクトがなくとも問題がありません。

 

証券会社の人は、決して「良い銘柄を選ぶプロセス」を教えてくれません。

 

なぜなら、「良い銘柄を選ぶプロセス」がわかれば、証券会社の人は失業してしまうからです。

 

1-3)連立方程式のプロセス

 

例題の連立方程式の解答は、x=1とy=1でした。

 

しかし、この解答を暗記しても役には立ちません。

 

なぜなら、解答の値は、式が異なれば変化するからです。

 

連立方程式の学習は、プロセス(解法の手順)を学習することになります。

 

スマホが普及して、暗記の価値はほとんどなくなりました。

 

これは、問いと答えの関係が、変化して、答えの内容がファクトから、プロセスに変化したことに対応しています。

 

ファクトを知っている人は、プロセスを理解している人に勝てなくなりました。

 

1-4)プロセスはファクトに勝る

 

ホワイトヘッドは、「プロセスはファクトに勝る」というアイデアを明確に打ち出したのは、パースが最初であるといいます。

 

パースは、「ブリーフの固定化法」で、プロセスを問題にしました。

 

「ブリーフの固定化法」では、ブリ―フの固定化に科学の方法を使うことを推奨しました。

 

科学の方法は、プロセスです。

 

典型的な科学の方法は、実験というプロセスです。

 

今まで、室内実験ができない分野では、プロセスの基準化ができていませんでした。

 

エビデンスに基づく手法は、室内実験ができない分野でも、科学のプロセスを基準化する試みです。

 

1-5)アベノミクスのプロセス

 

一人当たりGDPで評価すれば、アベノミクスは、失敗です。

 

アベノミクスとは、日本国版の「お金持ちになる方法」です。

 

パース以前の人は、「プロセスはファクトに勝る」というアイデアを明確に打ち出せませんでした。

 

これは、多くの人には、ファクトにとらわれ、プロセスを無視する認知バイアスがあるという事実をしめしています。

 

証券会社の人の推奨通りに株式を購入しても、お金持ちにはなれません。

 

なぜなら、証券会社の人は、手数料の多い商品を推奨するからです。

 

プロセスの間違いは、結果が出る前に評価することができます。

 

官僚が推奨する政策は、天下りポストなどの手数料が大きい政策になっている可能性があります。

 

政治家が推奨する政策は、政治献金へのキャッシュバックのための補助金などの手数料が大きい政策になっている可能性があります。

 

つまり、政策の妥当性を判断するためには、結果を待つ必要はありません。

 

政策の妥当性を判断するためには、プロセスの評価ができれば、十分です。

 

科学的なプロセスには、たとえば、エビデンスに基づく政策があります。

 

1-6)プロセスを調べる

 

日産自動車の業績が大幅に悪化しています。関連する記事には、ファクトしか出てきません。

 

「プロセスはファクトに勝る」というアイデアに従えば、日産自動車の業績が大幅に悪化した原因は、プロセスの問題です。

 

ところが、プロセスに関する情報は皆無です。

 

過去に、経営難に陥った企業に、膨大な税金が投入され、再建に失敗した例が多くあります。

 

税金を投入すれば、見かけ上、企業は黒字になります。

 

しかし、健全な経済活動をしている企業と比べれば、社内の意思決定のプロセスは全く違います。補助金は、銀行強盗ではありませんので、違法ではありませんが、不労収入です。経営の意思決定プロセスに不労収入がある場合とない場合では、社内の意思決定のプロセスが異なります。

 

この問題は、法人税の減税、円安による差益でも同様に存在します。

 

2024年には、日本企業の多くは、売り上げ、株価といったファクトでみれば、大変よい成績をあげています。しかし、その数字に漠然とした不安を感じている人もいます。その不安の原因は、プロセスがまったく改善されていない点にあります。



私立大学の評価が偏差値で決まった時代がありました。私立大学では、偏差値を上げるために、数学を入学試験から外したところも多くあります。偏差値はファクトです。しかし、数学のできない学生を入学させれば、学習のプロセスが全く変わってしまい、教育の質を維持できなくなります。しかし、「プロセスはファクトに勝る」というアイデアを使った大学は、ほとんどありませんでした。

 

石破茂首相は2024年11月29日、衆参両院本会議で所信表明演説に臨みました。経済の活力を取り戻すため「コストカットではなく付加価値の創出に力点を置いた経営・経済への転換」を提起しました。

 

ここには、政策決定プロセスの改善はありません。また、「付加価値を創出」するプロセスについては何ものべられていません。

 

したがって、「プロセスはファクトに勝る」というアイデアに従えば、政府の新しい政策は、失敗すると言えます。

 

簡単に言えば、今までの政策選択の失敗プロセスを今回も繰り返すと言っているのですから、変化が起こると考える理由はありません。