1)ストックとフロー
ストックとフローの計算は、微分方程式でできます。
この場合の基礎方程式は、次の2つです。
連続方程式
フローの計算では、全てのオブジェクトにマーカーをつけることが難しいので、コントロールボリュームを設定したオイラー座標系を使います。
この典型例は、流体力学で、応用例は、GCM(気候予測の地球流体モデル)です。
GCMでは、運動方程式には、近似式を使い、この式の設定の違いによって、モデルが微妙にことなります。つまり、ここには、議論があります。
一方、連続方程式は、どのGCMモデルでも同じです。
連続方程式の違いが議論になることはありません。
これは、GCMでは、流体の総量は変わらない(物質不滅の法則)ことを意味します。
2)経済学のストックとフロー
経済学では、お金のストックとフローを計算します。
筆者が、経済学のモデルを見ると、頭が混乱します。
市場均衡は、流体力学でいえば、静水の力学や定常流れのように見えます。
運動方程式で言えば、静水の力学(V=0)と定常流れ(V=const)には、加速度項がありません。
市場均衡は、定常流れ(V=const)ですらない、静水の力学(V=0)に見えます。
市場均衡をつかった一般均衡モデルには、時間の変数はありません。
時系列解析は、因果モデルではないので、基本的に、以前のトレンドが将来も続く(加速度がゼロの慣性項で運動が支配される)という前提になります。
加速度項が効いてくる場合には、時系列解析は使えません。
以上のように考えると、経済学の運動方程式の記載は、きわめて不十分なものです。
しかし、GDMでも、運動方程式の取り扱いは、議論になります。
経済学の運動方程式が怪しいとしても、やむを得ない部分があります。
3)野口悠紀雄氏の指摘
野口悠紀雄氏は、明言していませんが、次の文献の指摘は、筆者には、<連続方程式からみれば、リフレ派の「インフレになると経済成長する」は、間違いである。連続方程式から見れば、物価と賃金の好循環は不可能で、物価と賃金の悪循環が必須である>という主張にみえます。
<< 引用文献
今や「賃上げ」こそが「物価」を押し上げる危険な原因に…「物価対策」の負担を国民に押し付ける政府の無策 2024/11/29 現代ビジネス 野口悠紀雄
https://gendai.media/articles/-/142342
>>
さて、疑問は、ここからです。
いったい、経済学者は、連続方程式を無視しているのでしょうか。
物理学では、連続方程式は、絶対の条件です。
連続方程式が、なりたたない世界では、魔術のように、ものが出現したり、消滅します。
永久機関もつくり放題です。
このようなことを主張する物理学者は、学会から永久追放されてしまいます。
経済学では、経済政策によって、経済成長をすると考えます。
いったい、経済成長とは、何でしょうか。
経済学では、第1には、扱いの簡単な名目の価格を扱います。
しかし、インフレがあれば、名目の価格では、連続方程式が成り立ちません。
これが、野口悠紀雄氏の指摘です。
たとえば、名目のGDPが2倍になっても、生産量に変化がなく、物価が2倍になれば、実質のGDPには変化がありません。
名目の価格では、経済成長は評価できません。
名目の価格では、連続方程式が成り立ちません。
経済学では、名目の価格をインフレ率で補正した実効価格で評価します。
これは、実効価格を使えば、連続方程式は成り立つという願望を示しています。
これは願望であって、エビデンスに基づいて実証されていません。
イメージしやすい実効価格には、ビッグマック係数があります。
これは、ビックマック(実体)と価格の対応を調べることで実現しています。
ところで、経済モデルでは、価格と実体の対応関数には、生産関数があります。
筆者には、経済モデルの生産関数以外の部分は、実体のない価格の値の中で閉じているように見えます。
仮に、生産関数を固定するか、無視します。
その場合、野口悠紀雄氏が指摘するように、インフレ補正をすれば、経済モデルの中では、経済成長が表現できないように思われます。
実効価格には、致命的な結果があります。
実効価格の値は、事前に予測できないという点です。
現在の実効価格は、ビッグマック係数のように事後に調べて補正します。
しかし、経済政策を考える上では、実効価格(インフレ率)の事前の予測値が必要です。
なぜなら、この値がなければ、連続方程式が成り立たないからです。
現在の経済政策は、連続方程式を無視していることになります。
これを回避するひとつの方法は、インフレ率を変化させて、感度分析をする方法です。
しかし、経済政策のための経済モデルは、名目価格で表現されていて、実効価格に補正されていません。
4)まとめ
経済学の連続方程式は、インフレ補正をした実効価格で考える必要があります。
インフレ補正をした連続方程式では、経済成長は表現できない可能性があります。
経済成長は、同じ実効価格(費用)に対して、ものとサービスの生産量をあげることで実現できます。
筆者には、この条件を除外すると経済モデル上では、経済成長が表現できないように思われます。
同じ実効価格に対して、ものとサービスの生産量をあげる方法は2つあります。
第1は、生産関数の改善によるものです。
第2は、産業間の生産のシフトによるものです。
第2の条件は、市場均衡によって、生産性の低い企業が撤退して、生産性の高い企業に入れ替わることで実現します。
社会会計行列を使った経済モデルでは、社会会計行列で表現される経済構造は大きく変化しない前提で、計算されています。つまり、第2の条件の検討は困難です。
第2の条件は、政府の失敗を避けるために、政府の市場への介入を減らすことで実現できますが、現在の日本政府の政策は、政府による介入を増やす方向で動いており、逆行しています。