言葉=オブジェクト+インスタンス

1)言葉の性質

 

言葉には、オブジェクトだけでなく、インスタンスが必要です。

 

推論をするときには、言葉が必要です。

 

言葉がなければ、考えることができません。

 

このときに、インスタンスに注目する必要があります。

 

インスタンスのない言葉は、機能不全になります。

 

集合論でいえば、オブジェクトが変数名で、インスタンスが値になります。

 

1-2)部分集合

 

オブジェクトを扱う場合、制約付きオブジェクトと対応する部分集合を問題にすることが多いです。

 

この場合には、制約付きオブジェクトが「問い」になり、対応する部分集合が「答え」になります。

 

たとえば、賃上げは、賃金のデータの部分集合になります。

 

賃金のデータは、賃上げに相当する集合と、賃上げに相当しない集合の2つに分かれます。

 

ここで、賃上げの検討対象の賃金の母集団(全体集合)は、将来の賃金です。

 

ここでは、簡単に、次年度の賃金を検討対象の賃金の母集団であると考えます。

 

制約条件の賃上げは、賃金が上がることです。

 

賃金の上昇を計算する基準をここでは、ベースラインと呼ぶことにします。

 

そうすると賃上げのインスタンスの抽出には、次の2条件が必要になります。

 

第1は、ベースラインの計算方法です。

 

第2は、ベースラインからの上昇分です。

 

ベースラインの計算方法を考えます。

 

次年度の物価がa%あがり、賃金がb%あがった場合、単純に考えれば、「b-a」%が賃金上昇になります。

 

しかし、この方法は、定期昇給のある年功型賃金では、間違いです。

 

定期昇給分をc%とすれば、賃金上昇は、「b-a-c」%になります。

 

次年度の物価上昇は、未知です。つまり、「b-a-c」%は計算できません。

 

そこで、次年度の物価上昇率の近似値として、本年度の物価上昇率をaaを使えば、賃金上昇は「b-aa-c」%になります。

 

この計算式には、まだ、改善の余地があります。

 

基軸通貨は、ドルです。円安になれば、実質賃金は下がってしまいます。

 

円ドルレートの変化による補正項をdとします。

 

賃金上昇は「(b-aa-c)*d」%になります。

 

次年度の円ドルレートの変化は、不明なので、今年度の補正係数ddで代用すれば、賃金上昇は「(b-aa-c)*dd」%になります。

 

この定式化では、ベースラインは、(aa+c)*ddです。名目賃金上昇は、bですが、bは、賃金上昇を表しません。

 

したがって、「(b-aa-c)*d」%を問題にしないと、賃金上昇のインスタンスが、求まりません。

 

賃金上昇を計算するもう一つの方法は、企業の収益の変化に連動させる方法です。これは、労働分配率が一定の場合の賃金上昇を計算する方法です。詳細は省略します。

 

賃金上昇というオブジェクトに対して、インスタンスを求めるためには、数学の言葉が必要になります。

 

推論をする場合には、インスタンスが適切に設定されているかを点検する必要があります。

 

1-3)春闘の勘違い

 

FNNは、次のように伝えています。

 

連合は中央委員会を開き、2025年の春闘で大手を含む全体の賃上げ率の要求を、2024年と同じ5%以上とすることを正式決定しました。

 

中小企業については全体より1%上乗せした6%以上の賃上げを要求し、企業規模による格差の是正を図ります。

 

連合の集計では、2024年の春闘の賃上げ率は33年ぶりに全体で5%を越える高い水準となりましたが、中小企業では4.45%で、大手と中小の格差は広がっています。

<< 引用文献

【速報】2025年春闘「5%以上の賃上げ要求」連合が決定…中小企業は6%以上要求で大手との格差是正図る 2024/11/18 FNN

https://news.yahoo.co.jp/articles/1ba39bf4c611d0b8dbc01d815fdac49891a71f67

>>

 

「5%」は、実質賃金の賃上げではありません。つまり、「5%」は、「賃上げ」というオブジェクトに対するインスタンスになっていません。

 

これは、連合が、「賃上げ」という言葉をもっていないことを意味します。

 

言葉がなければ、考えることができません。

 

アベノミクスの10年で、実質賃金は下がりつづけました。

 

これは、労働組合が、「賃上げ」という言葉をもっていなかったことに原因があると考えれば、説明がつきます。

 

労働組合は、賃上げと言いましたが、インスタンス(実質賃金)は賃下げでした。

 

以上のように考えれば、賃金交渉の対象は、賃上げ率ではなく、第1に、ベースラインの算定方法にすべきです。

 

連合は、中小企業については全体より1%上乗せした6%以上の賃上げを要求しています。しかし、この要求は、企業の収益の変化に連動していません。中小企業は、労働生産性が低いので、DXを進めれば、賃金があがりますが、その時には、人減らしになると思われます。

 

つまり、「6%以上の賃上げ」というオブジェクトに対応するインスタンスを点検する必要があります。インスタンスを確認しないで、オブジェクトを振りまわしても、問題は解決しません。

 

マルクスは、資本主義の最も進んだ国で、労働者が、共産主義革命を起こすと主張しました。ロシアでは、共産主義革命が起きましたが、それは、労働者ではなく、知識階級が引き起こしたものでした。

 

マルクスの予言の妥当性は脇において、ロシアで、労働者が、なぜ、共産主義革命を起こさなかったのか、その理由は、簡単にわかります。労働者は、革命という言葉(=オブジェクト+インスタンス)をもっていなかったからです。

 

日本の労働組合の知識レベルは、ロシアの革命前の労働者よりは高いですが、統計学などの科学についてみれば、十分とは言えない点があります。

 

「賃上げ率の要求5%以上」には、根拠となるファクトが示されていません。