エビデンスの何が問題か(5)

9)政府とEBPM

 

岡村麻子氏は、日本政府がEBPMを推進しているといいます。

 

今回は、この点を検証します。

 

9-1)エビデンスの階層とブリーフの固定化法

 

最初に、前⽥裕之氏の「エビデンスの階層」を復習します。

 

表1 エビデンスの階層

 

階層  内容

 

EBL4 メタアナリシス

EBL3 RCTやエビデンスに基づく研究

EBL2 観察研究

EBL1 個人の経験談・専門家のエビデンスに基づかない意見

 

<< 引用文献

経済学はどこに向かうのか 前⽥裕之

https://www.mof.go.jp/pri/research/seminar/fy2023/lm20231102.pdf

>>

 

筆者は、以前、次のように書きました。

前⽥裕之氏は、経済学は、近い将来、データサイエンスにのみ込まれるだろうと言う人もいるといいます。

 

これは、いい換えれば、すべての科学は、4つのエビデンスレベルのどこかに位置づけられるということです。

 

エビデンスの階層」が主張することは、EBL3とEBL4以外は、科学ではない(根拠となるエビデンスがない)ということです。

 

つまり、EBL1とEBL2の学問は、近い将来になくなるだろうということです。

 

今回の検討は、エビデンスに基づく政策形成です。

 

つまり、上記の「科学」を「政策形成」に置き換えることになります。

 

エビデンスの階層」が主張することは、EBL3とEBL4以外の政策は、科学に基づく政策ではない(根拠となるエビデンスがない)ということです。

 

EBL1とEBL2の政策は、科学的な間違いなので、時間の問題で追放されると予測できます。

 

エビデンスの階層と「政策形成」の対応は分かりにくいので、ここでは、参考までに、「政策形成」を含むパースの「ブリーフの固定法」との対応を示します。

 

この対応は、筆者の考えです。



表1 エビデンスの階層とブリーフの固定法

 

階層  内容

 

EBL4 メタアナリシス

EBL3 RCTやエビデンスに基づく研究          =>科学の方法

EBL2 観察研究                    =>固執の方法(前例主義)

EBL1 個人の経験談・専門家のエビデンスに基づかない意見=>権威の方法・形而上学

 

9-2)政府の対応

 

以上の準備ができたので、EBPMに対する政府の対応を検証します。

 

以前に、引用した2018年の岡村麻子氏の文献の日本のEBPMの普及を要約します。

2013 年、「経済財政運営と改革の基本方針」(骨太の方針)に「エビデンス」という用語が使われた。

 

2014 年の統計改革(公的統計の整備に関する基本的な改革)で、公的統計が EBPMを支える基礎としての位置付けが明記された。

 

2016 年施行の「官民データ活用推進基本法」により、政府横断的なEBPM 機能を担う組織として、EBPM 推進委員会が設置された。

 

2017 年に、政府全体が証拠に基づく政策立案(EBPM)を進める方針が示された。

 

2018 年より EBPM 推進統括官(政策立案総括審議官又は政策立案参事官)が各府省に置かれた。

<< 引用文献

0.3 政策形成におけるエビデンスと「科学技術イノベーション政策の科学」2018 岡村麻子

https://scirex-core.grips.ac.jp/0/0.3/main.pdf

>>

 

2018年以降の活動のレビューの検索には、次の2点がヒットしました。

 

<< 引用文献

EBPM(証拠に基づく政策形成)の取組と課題 2020/03/17 国会図書館

https://www.ndl.go.jp/jp/diet/publication/document/2020/index.html

 

エビデンスに基づく政策形成の実践等に関する支援及び調査 2020/03 三菱UFJリサーチ&コンサルティング

https://www.meti.go.jp/meti_lib/report/2019FY/000051.pdf

>>

 

内容は、岡村麻子氏の文献と大差はありません。

 

三菱UFJリサーチ&コンサルティングは、レポートの最初に、エビデンスの用語について、分かりやすい説明をしていますので、引用します。

 

エビデンスとは何か

 

EBPM の基本的な考え方を理解する上では、まず「エビデンス」の定義から考える必要が

ある。エビデンス(Evidence)とは、一般的に「証拠」や「根拠」を意味するが、医療をはじめとした Evidence-Based の取組が先行する分野の蓄積に照らして考えれば、行政の政策評価プロセスにおいては「政策とその成果(アウトカム)の間の因果関係を示す証拠」と捉えるべきである。因果関係が証明できれば、当該政策には、その目的を達成する上で一定の成果があったか否かを評価することができる。一方、政策を立案する際に、社会課題やそれが生じている原因を明らかにするための事前分析を行う必要があるが、そこから得られる

事実(ファクト)や要因分析もエビデンスと呼ばれることがある。しかし、これらは政策の

因果効果を示すものではなく、あくまで政策立案の事前段階で活用され得る情報である。そ

こで本調査事業では、このような情報を「ファクト」と呼び、政策の因果効果を表す「エビ

デンス」とは区別して使用していく。

 

補足します。

 

因果モデルで使えるデータ(エビデンス)は、介入を伴う前向き研究で得られたものです。前向き研究とは、データをとる前に、因果モデルを設定して、収集すべきデータを選別して、原因の介入の前後の結果のデータを計測することです。これは、因果推論の科学のdo演算子に対応するデータになります。ここでは、RCTは必須ではありません。

 

観察研究で得られるデータは、因果モデルを前提としない観測で得られた値で、介入(do)にともなう属性をもっていないので、因果モデルでは使えません。

 

観察研究で得られるデータ(ファクト)は、交絡因子の影響があるため、因果モデルには使えません。

 

因果推論の科学でいえば、do属性を持つデータが、エビデンス、do属性を持たないデータが、ファクトになります。

 

エビデンスとファクトの区別を使えば、「エビデンスの階層とブリーフの固定法」は、次のように整理できます。

 

表1 エビデンスの階層とブリーフの固定法

 

階層  内容

 

EBL4 メタアナリシス

EBL3 エビデンスに基づく因果研究  =>科学の方法

EBL2 ファクトに基づく観察研究   =>固執の方法(前例主義)

EBL1 ファクトにに基づかない意見  =>権威の方法・形而上学



2023年4月、「EBPM推進委員会」が、デジタル庁から、行政改革推進会議内閣総理大臣が議長。行政改革に関する重要事項の調査審議等を実施)の下に、移管されました。

 

2023年9月26日に、行政改革推進会議の下で、最初(通算4回目)のEBPM推進委員会が開かれています。

 

議事要旨を以下に引用します。

第4回 EBPM推進委員会(令和6年9月26日)議事要旨

 

昨年から引き続き、EBPM推進委員会でお伝えしているように、レビューシートにおいて「政策効果の発現経路と目標をロジカルに説明し、事後的にデータに基づいて見直す」というごく当たり前のことを着実に行うことを徹底するという方針は変わらないのでよろしくお願いする。

 

1点目。今年度よりレビューシートなどの作成がシステム化され、9月より、全府省庁のシートが、「行政事業レビュー見える化サイト」で一元的に一般公開されたところ。今後も「見える化」やデータ利活用について改善方策の検討を進めていく。各府省庁においても、レビューシートの更なる質の改善に向けて幹部・管理職が責任を持って取組を継続してほしい。各府省庁の負担軽減につながるよう、引き続き行革事務局等からも支援をしていく。

 

 2点目。EBPMを各府省庁において継続的な取組とすることで、政策立案の質を高め、PDCAのA、事業の改善につなげることが重要である。原課担当者任せにせず、各府省庁の行政事業レビュー推進チームが積極的に関与して、事業の改善に向けた自己点検に取り組んでいただきたい。自己点検において、事後的にデータに基づいて見直すことで、その事業が改善につながっているかが明らかになり、レビューシートの予算編成過程での活用が進み、予算と政策の質の向上につながるものと考えている。

 

 3点目。デジタル行財政改革会議の取りまとめにおいてEBPMの推進を担う人材の育成が重要であるとされているところ。行革事務局でさらに議論を深めることとしているが、各府省庁においてはレビューの取組を通じて、幹部が考えている政策目的や課題認識、政策の目指す効果を広く共有することを意識していただきたい。これにより、コミュニケーションを活性化し、若手職員がこれまで以上にやりがいをもって政策立案に参画するプロセスを作っていただきたい。このほか、やる気がある若手職員が積極的にEBPMに取り組むことができる環境を整えることについても、各府省庁内で徹底してほしい。

<< 引用文献

第4回EBPM推進委員会(令和6年9月26日)https://www.kantei.go.jp/jp/singi/gskaigi/ebpm/dai4/gijiyousi.pdf

>>

 

<レビューシートにおいて「政策効果の発現経路と目標をロジカルに説明し、事後的にデータに基づいて見直す」というごく当たり前のことを着実に行うことを徹底するという方針>で扱っている事後的なデータは、観察研究によるファクトであって、エビデンスではありません。

 

つまり、EBPM推進委員会は、EBPM(Evidence Based Policy Making)は、「証拠に基づく政策立案」推進員会ではなく、FBPM(Fact Based Policy Making)「ファクトに基づく政策立案」推進員会になっています。ファクトは、EBL2であり、科学的に間違った政策立案に相当します。

 

現在、実験ができないほとんどの学問は、EBL2に止まっています。

 

これから抜け出す(EBL3)には、因果推論の科学が必要になります。

 

つまり、エビデンスの階層は、実験系ではない多くの学識経験者にとって、不都合な真実です。

 

前⽥裕之氏は、経済学は、近い将来、データサイエンスにのみ込まれるだろうと言う人もいるといいます。しかし、前⽥裕之氏のように、率直な意見をいう人は例外で、多くの学識経験者は、利害関係を優先します。これは、科学の否定なのですが、その点については、口をつぐみます。

 

例えば、科学技術基本法には、改訂によって人文科学独自の科学的な方法があるとういう科学的に間違った記載が追加されています。

 

人文科学独自の科学的な方法のエビデンスレベルは、EBL1とEBL2であり、科学的に違ってます。

 

EBL3に達しない人文科学は、検証可能な科学の条件をみたしていません。

 

欧米では、EBL3の人文科学が進んでいて、「人文科学独自の科学的な方法」(EBL2とEBL2)は衰退しています。

 

これは、前⽥裕之氏が、経済学について述べたことと同じ状況です。

 

「人文科学独自の科学的な方法」による人文科学には、小説のようなフィクションとしての価値がありますが、科学ではありません。

 

エビデンスの階層」を認めない、あるいは、「エビデンスの階層」を歪曲する学識経験者が後を絶ちません。

 

ある学識経験者は、「因果関係が全てではなく、実質的な効果が重要」であるといいます。

 

その根拠は、伊藤 公一朗氏や中室 牧子氏・津川 友介氏の著書です。これらの著書は、特定分野の事例を紹介したもので、EBPM全般を扱っていません。また、ルービン流の因果モデルになっています。

 

「因果関係が全てではない」という主張は、パール流の因果モデルでは否定されています。

 

つまり、この学識経験者は、都合のよい文献だけを権威(EBL1)の方法として、引用しています。

 

この引用の偏向は、日本語のウィキペディアに似ています。

 

現在、EUでは、実務につかうためのEBPMのガイドラインが出ています。

 

EBPMについて、国会図書館三菱UFJリサーチ&コンサルティングに調査を依頼することは、無駄で非効率です。

 

EUの実務につかうためのEBPMのガイドラインを自動翻訳すれば、より詳細で、正確な情報が入手できます。

 

これは、国会図書館三菱UFJリサーチ&コンサルティングの人の能力の問題ではありません。

 

EUでは、2000年頃から、EBPMを採用し始めて、その実績を元に、EBPMのガイドラインを作成しています。

 

EBPMのガイドライン作成のコストと手間を考えれば、日本語の文献に価値はありません。

 

エビデンスの階層に基づいて説明すれば、「EBPMとは、EBL1とEBL2の効果のない政策をやめましょう」ということです。

 

政府は物価高対策などを盛り込んだ総合経済対策の規模について、2024年度補正予算案の一般会計の支出を13兆9000億円程度、民間支出を含めた事業規模を39兆円程度とする方向で最終調整に入りました。石破首相は2024年11月22日の閣議で対策を正式に決定し、11月28日召集の臨時国会で、財源の裏付けとなる補正予算案の成立を目指す考えです。

 

EBPMに基づけば、39兆円が、EBL1とEBL2で構成されている場合、政策効果に科学的根拠のない政策(効果のない政策、無駄づかい)が含まれていることになります。

 

EBL3のEBPMに基づけば、39兆円は、半分以下で十分と思われます。つまり、EBPMに基づけば、減税と財政収支の均衡が可能になります。

 

もちろん、その場合には、パーティ券と天下り先は消滅してしまいます。

 

しかし、EUでもアメリカでも、政府は、EBPMに向かって進んでいます。

 

アメリカの大統領選挙では、巨額の寄付金がありました。つまり、EBPMが効いていない世界もあります。

 

しかし、アメリカは州の権限が強く多様性があります。EBPMが効いている世界もあります。いったん、政策にEBPMが採用されれば、後戻りすることは、困難と思われます。

 

EBPMにくらべれば、「106万円の壁」撤廃による税収源の変化は、問題にならないくらい小さいです。

 

9-3)EBPMの具体例

 

加谷珪一氏は、<教員の仕事に対する前向きな感情を引き下げているのは授業以外の業務であり、問題の根本原因を考えると、(政府の)年収を一律に引き上げる方策は効果を発揮しない可能性が高い>といいます。

 

<< 引用文献

モンペ(モンスターペアレント)対応、無制限残業...教員の「ブラック労働」の改善は、日本全体の「生産性向上」の試金石に 2024/11/21 Newseek 加谷珪一

https://www.newsweekjapan.jp/kaya/2024/11/post-302.php

>>

 

加谷珪一氏は、政府の対策は、因果関係を無視していると批判しています。

 

政府は、学校に専門のカウンセラーを配置しました。

 

しかし、カウンセラーは、夕方5時になると帰宅します。

 

時間外のカウンセリングは、結局、教師の負担になっています。

 

政府は、カウンセラー配置(原因)が、問題のある生徒の治療(結果)や、教師の負担軽減(結果)に結びついているというエビデンスを検証していません。

 

政府の政策の効果は疑わしいものになっています。

 

KYODOは、医師の偏在について、次のように伝えています。

 日本医師会(日医)の関連組織「日本医師会総合政策研究機構(日医総研)」は、2022年5月に公表したレポートで、次の指摘をしています。

 

 1:内科系の医師が増えていない。一方で、美容外科は絶対数は少ないものの、顕著な伸びを示している

 2:診療科の偏在解消以前に、保険外の自由診療の診療科に従事する医師の流出を防ぎきれてない

 3:過去には、若手医師が主たる診療科として美容外科を選択することはほとんどなかったが、2020年は診療所の35歳未満の医師1602人のうち、15.2%にあたる245人が美容外科で勤務している

 「いくら医師養成数を増やしても、保険診療ではなく(美容外科や美容皮膚科などの)自由診療を主とする診療科への医師の流出が避けられない状態にある」

 

 2024年3月に、共同通信が高度医療を担う特定機能病院を対象に実施したアンケートの結果、回答した57病院の7割近い39の病院が、働き方の改善のために必要なこととして「診療科の医師偏在解消」を挙げています。

 

ある専門家は次のように言っています。

 

 ―地方で働く医師を確保するため、国や医療機関はどんな対策をとるべきか

 

 医師の地域的偏在対策のため、初期研修、専門医研修を通じて地方に定着してもらえる工夫が必要だ。そうでなければ居着くことは少ない。各地の大学病院は研修先としての魅力を向上する努力をすべきだ。

<< 引用文献

保険診療はもう限界」追い詰められた若手医師、次々に美容整形医へ… 残った医師がさらに長時間労働の「悪循環」 #令和に働く 2024/11/22 KYODO

https://news.yahoo.co.jp/articles/4dd6e2c41e0664ff6305f901eabd55e42e556aca?page=1

>>

 

ここには、教員問題と共通性があります。

 

第1に、労働市場がありません。

 

第2に、公的部門では、ジョブの分担ができていません。

 

教師も医師も、ジョブ記述がなく、なんでもさせられています。

 

教師と医師の仕事のかなりの部分は、AIで代用することができます。しかし、こうした対応はとられていません。

 

第3に、これが、最大の課題ですが、エビデンスに基づいた解決策がとられていません。

 

共同通信が紹介した専門家は、医療関係者です。日常でEBMに接しているはずです。

 

にもかかわらず、提案している解決策(各地の大学病院は研修先としての魅力を向上する努力)は、因果モデルになっていません。

 

つまり、提案している解決策はEBL2であって、エビデンスに基づく解決策(EBL3)ではないので、効果はないと推測できます。

 

トランプ氏は、大統領に就任したら、教育省を廃止するといっています。

 

法手続きの上で、大統領に、教育省を廃止する権限がないという指摘もあります。

 

教育省が廃止されるか否かは、わかりませんが、権限と予算は縮小されるでしょう。

 

トランプ氏のこの政策は、教育を荒廃させるでしょうか。

 

国の教育の権限を、州に移譲する政策が成功するか否かは、州の政策に関わっています。

 

州が、エビデンスにもどつく効果のある政策を実施すれば、アメリカの教育は改善される可能性があります。

 

日本のマスコミは、トランプ氏に対して、「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」になっています。

 

日本も中央政府が、エビデンスに基づかない効果のない政策を継続するのであれば、中央政府を解体した方が、問題解決が進む可能性を否定できるでしょうか。

 

9-4)因果推論と未来予測

 

前節の問題の場合、政策の効果は、政策を実施する前には、わからないはずであると考える人が多いと思います。

 

因果関係は、役に立たないという意見です。

 

しかし、因果推論の科学では、政策の効果は、政策を実施する前にわかると考えます。

 

これは、科学を使って未来を予測できるかという一般的な問題の一部です。

 

英語版のウィキペディアカール・ポパーの一部を引用します。

偽証と帰納法の問題

 

ポパーの哲学への貢献の中には、哲学的帰納法の問題を解決したという主張がある。彼は、太陽が昇ることを証明する方法はないが、毎日太陽が昇るという理論を定式化することは可能であると述べている。もし特定の日に太陽が昇らなければ、その理論は誤りであり、別の理論に置き換える必要がある。その日まで、理論が正しいという仮定を否定する必要はない。(中略)

 

ポパーは、明日も太陽が昇るだろうという心理的信念がしばしば存在し、過去に常に昇ってきたというだけの理由で、明日も昇るだろうという仮定に論理的な正当性はないという点でデイヴィッド・ヒュームに同意した。ポパーは次のように書いている。

 

私はヒュームを通して帰納法の問題に取り組みました。帰納法は論理的に正当化できないと指摘したヒュームの考えは完全に正しいと私は感じました。

 

問題は2つに分かれます。

 

第1は、「毎日太陽が昇るという理論を定式化することは可能」と言っているように、法則を定式化することです。

 

第2は、「明日も昇るだろうという仮定」、つまり、法則が継続するという仮定を受け入れるという点です。

 

ポパーの議論は、帰納法を対象にしていますが、一般の法則についても適用できます。(注1)

 

例えば、物理学は、ニュートンの法則で未来を予測します。

 

第1は、ニュートンの法則の定式化です。

 

第2は、法則が継続するという仮定を受け入れることです。

 

パール氏は、「因果推論の科学」で、次のように、このポパー流の整理を採用しています。

 

第1は、エビデンスに基づく因果モデル(因果構造)の定式化です。

 

第2は、因果モデル(因果構造)が継続するという仮定を受け入れることです。

 

第2の部分には、科学的な根拠はありません。

 

パール氏は、第2の部分は、主観的な判断になると言います。

 

筆者の家の近くにパン屋さんがあります。

 

パン屋さんの例をあげます。

 

第1は、「毎日パン屋さんにいけば、パンが手に入る」という法則になります。

 

第2は、この法則の継続を受け入れることになります。

 

筆者は、パン屋さんの店主が高齢化していることを知っています。

 

恐らく、パン屋さんは、店主の引退に伴って、閉店するか、新しい後継者を見つけることになるでしょう。

 

第2の条件は、第1の因果構造がどこまで、継続するかという判断になります。

 

筆者の主観は、パン屋さんの店主が高齢化を見ながら、因果構造が継続しない場合も想定しています。

 

有権者の間で、このような因果構造の継続性に関する主観が一致すれば、因果モデルをつかって政策を実施する前に、将来の政策の効果を判定することが可能になります。

 

EBPM 推進委員会は、2016 年施行の「官民データ活用推進基本法」により、政府横断的なEBPM 機能を担う組織として設置されています。

 

しかし、EBPM 推進委員会は、EBL1のアベノミクスに対して、全く機能しませんでした。

 

効果が検証されない政策が、これほど長期にわたって継続した例は、世界的にも稀です。

 

その理由は、議事録をみれば、わかります。

 

第4回EBPM推進委員会の議事録には、「幹部が考えている政策目的や課題認識、政策の目指す効果を広く共有することを意識」と書かれています。「幹部が考えている政策目的や課題認識、政策の目指す効果」は、EBL1です。これは、EBPM 推進委員会が、EBL1で活動することを求めていることを示しています。EBPM 推進委員会は不都合な真実エビデンス、EBL3)に触れることを禁止しています。

 

「幹部が考えている政策目的や課題認識、政策の目指す効果」は、ブリーフの固定化でいえば、EBL1の権威の方法になります。

 

最初の問いは、「日本政府がEBPMを推進しているか」でした。

 

結論は、「EBL2のファクトでなく、EBL3のエビデンスに基づくEBPMは、推進されてない」ことになります。さらに、EBPM推進委員会は、EBL1の権威の方法を尊重するように求めています。

 

つまり、因果推論の科学でみれば、政府の政策に効果があるとは期待できないことになります。

 

注1:

 

ポパーの科学哲学は、物理学をモデルにしています。

 

物理学では、交絡因子が問題になることは稀です。

 

相関と因果の違いが問題になることも稀です。