1)EBXの解釈
エビデンスにもとづいたX(EBX:Evidence Based X)が注目されています。
しかし、筆者には、EBXは正確に理解されていないように思われます。
前⽥裕之氏は、講演「経済学はどこに向かうのか」で、図1の「エビデンスの階層
」を示しています。
なお、図1には、説明の都合上、エビデンスのレベルをしめすEBL1からEBL4を書き込んであります。
図1 エビデンスの階層
<< 引用文献
経済学はどこに向かうのか 前⽥裕之
https://www.mof.go.jp/pri/research/seminar/fy2023/lm20231102.pdf
>>
最初に、質問があります。
図1のエビデンスのレベルはいくつでしょうか。
この問いに答えられない場合には、EBXが理解できていないと言えます。
2)言葉(言語)の問題
前⽥裕之氏の「経済学はどこに向かうのか」は、財務省の講演資料です。
言葉(オブジェクト、変数名)には、インスタンス(値)が対応します。
集合論でいえば、言葉(集合名)には、言葉の指し示す内容(集合の要素)が対応します。
言葉があっても、言葉の指し示す内容(集合の要素)がない場合は、因果推論では、言葉(言語)がないといいます。
言語がない場合には、推論をすることができません。
言葉があっても、言葉の指し示す内容(集合の要素)がない場合を、別の表現では、形而上学と呼びます。
専門家のエビデンスに基づかない意見とは、言葉の指し示す内容(集合の要素)が、リアルワールドにないので、形而上学になります。
イギリス流の経験主義の立場をとるエマニュエル・トッド氏は、「言葉あそび」と言う表現をしますが、これは、形而上学を指しています。
さて、以上の点に注目すれば、「エビデンスの階層」が理解できていることは、EBL1からEBL4の階層に示された用語に対応するインスタンスが提示できればよいことになります。
なお、「エビデンスの階層」は、前⽥裕之氏のオリジナルな図ではありません。
類似の図は、統計学や疫学で使われています。
筆者が、前⽥裕之氏を引用する理由は、最も単純化されている点にあります。
さて、図1の画像データを毎回引用するのは、煩雑なので、以下では、次の表1を図1の代りに使うことにします。
表1 エビデンスの階層
階層 内容
EBL4 メタアナリシス
EBL3 RCT(ランダム化比較試験)
EBL2 観察研究
ところで、その検討に入る前に整理すべき点があります。
「専門家のエビデンスに基づかない意見」は、EBL1でした。
それでは、「専門家のエビデンスに基づく意見」は、どこに入るのでしょうか。
この疑問は、「表1 エビデンスの階層」に問題があることを示しています。