アジアのデジタル化

1)「中国製造2025」の影響

 

日本は、2013年から、アベノミクスが始まり、インフレになれば、経済成長するという原因と結果を取り違えた(相関と因果を区別しない)統計学的に間違った経済政策が、10年以上続いています。

 

ドイツで始まったインダストリー4.0の影響を受けて、2年間かけて、専門家と技術者が作成した「中国製造2025」が、2015年5月に、スタートしています。

 

1990年から、日本経済は、停滞が20年以上続きましたが、中国経済は、目覚ましい発展を遂げました。

 

ASEANの国は、日本ではなく、中国をモデルに経済成長を図っています。

 

「中国製造2025」をモデルに、DX戦略を構築して、デジタル産業とデジタル人材の育成を国策とするASEANの国が増えています。

 

石破総理大臣が、ASEANで、NATOを構築する提案をしました。

 

しかし、2024年現在、ASEANロールモデルは、日本ではなく、中国です。

 

日本の提案が、ASEANで受け入れられる素地はありません。

 

この10年間で、日本の外交は、途上国の支持を受けるという点で、完全に行き詰まっています。

 

2024年現在、ASEANの国のDXレベルは、まだ、高いとはいえません。それでも、過去10年を振り返れば、それなりの前進をしています。2015年頃に始まった、ASEAN各国のDXの長期計画は、10年間の第1期が終了しています。

 

2024年には、第2期が始まっています。

 

次の10年、つまり、2035年を考えれば、日本のDXが、ASEANの登場国のDXに追い越されている可能性が高いと思われます。

 

これは、ウサギとカメの問題になります。ASEANの国のDXの進展は、カメの速度でゆっくり進んでいます。

 

ウサギの日本は、カメに負けることはないだろうと、惰眠をしています。

 

2)第三の矢

 

2013年のアベノミクスでは、「第三の矢」が、実現しなかった政策であると評価されています。

 

しかし、第3の矢は、デジタル社会の実現ではありません。

 

③民間投資を喚起する成長戦略(成長産業や雇用の創出を目指し、各種規制緩和を行い、投資を誘引すること)という3本の矢によって、日本経済を立て直そうという計画です。

<< 引用文献

日本再興戦略

https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/pdf/saikou_jpn.pdf

 

これまでの成長戦略について

https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/kettei.html

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「第三の矢」と「中国製造2025」は全く異なります。

 

「成長産業」、「雇用の創出」、「規制緩和」はすべて、テクニシャンの言葉です。

 

何が、「成長産業」であるかは、後出しジャンケンです。

 

「成長産業」という単語は、エンジニアの辞書にはありません。

 

エンジニアが作成した「中国製造2025」では、「成長産業」という言葉は使いません。

 

クラウドサービス、Eコマースなど、エンジニアリングの個別の言葉を使います。

 

「第三の矢」は、規制緩和に対する反対勢力があって、実現しなかったという解釈が一般的ですが、その解釈は間違いであると断言できます。

 

その理由は、「第三の矢」には、エンジニアリングの言葉がないからです。

 

「中国製造2025」には、エンジニアの言葉がつまっています。中国では、それを実現するために、「中国製造2025」は、2年間かけて、専門家と技術者が作成しています。

 

政府の成長戦略には、技術の言葉がありません。

 

政府の成長戦略は、技術について何も考えられなくなっています。

 

なぜなら、そこには、インスタンス(値)のある言葉がないからです。

 

2024年の現在でも、インフレになれば、経済成長すると主張する政治家や経済学者がいます。

 

状況は、2013年と全くかわっていません。

 

政治家や経済学者の発言には、技術の言葉がありません。

 

防衛費を2倍にする議論が進んでいます。しかし、ウクライナ戦争をみれば、現在の戦争の中心はドローンとミサイルです。ドローンとミサイルをつくる技術、ドローンとミサイルを自動運転する技術のあるエンジニアがいなければ、予算があっても、戦力にはなりません。

 

本来であれば、ドローンとミサイルをつくる技術、ドローンとミサイルを自動運転する技術を検討する必要があります。しかし、政治家や経済学者は技術の言葉を持たないので、コミュニケーションができません。

 

時事通信は次のように伝えています。

 財務省が11日発表した2024年度上半期(4~9月)の国際収支速報によると、海外とのモノやサービスの取引、投資収益の状況を示す経常収支は15兆8248億円の黒字でした。

 

黒字額は前年同期比12.3%増で、半期ベースで過去最大。配当金や利子収支を示す第1次所得収支の黒字拡大が主因です。

 

 第1次所得収支は22兆1229億円の黒字。黒字額は13.3%増で過去最大となった。海外金利の上昇や、円安の影響で債券利子の受け取りが増えたほか、海外子会社からの配当金も伸びました。4~9月の円相場は平均1ドル=152円51銭と、前年同期比8.2%下落しました。

 

 輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は2兆4148億円の赤字で、前年同期に比べ赤字幅は拡大しました。輸出額は5.0%増の52兆2222億円、輸入額は7.1%増の54兆6369億円。パソコンなど電算機類や、医薬品の輸入が増え、輸入額の伸びが輸出額の伸びを上回りました。

 

 輸送や旅行などのサービス収支は1兆9748億円の赤字。ネット広告などサービスの取引を示すデジタル関連収支は3兆7160億円の赤字だったが、訪日客の増加で旅行収支が過去最大の3兆992億円の黒字となり、サービス収支の赤字幅は縮小しました。

 

 同時に発表した9月の経常収支は1兆7171億円の黒字。20カ月連続の黒字となりました。

<< 引用文献

今年度上期の経常黒字、過去最大 15.8兆円、配当金など増加 財務省 2024/11/11 時事通信

https://news.yahoo.co.jp/articles/9df66ae90d1af34f517f9e759d7df82883f2c8b2

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黒字は、配当金や利子収支を示す第1次所得収支の黒字拡大が主因です。

 

つまり、外国の株式をもっているか、海外生産比率が高い日本企業の株式をまっていれば、収入が増えました。

 

貿易収支は2兆4148億円の赤字で、製造業で働いても、内需を除けば、収入は増えません。

 

可処分所得と人口が減っていますので、内需は縮小しています。

 

これから、製造業で働いても、収入が増えないことがわかります。

 

デジタル関連収支は3兆7160億円の赤字なので、日本には、稼げるデジタル産業がないことがわかります。

 

旅行収支が過去最大の3兆992億円の黒字でした。

 

しかし、旅行収支をみ出す人件費は安いです。

 

ASEANの国は、生産性の高いデジタル関連収支の黒字化を目指しています。

 

例えば、タイは、GDPに占める旅行収支の割合が高い国です。

 

しかし、タイは、生産性の高いデジタル関連収支の黒字化を目指しています。

 

3)タイの事例

 

菊池博文氏が、「タイ 最新IT事情」をまとめているので、その一部を引用します。

2016年 「デジタル経済社会省(MDES)」新設

 

2016年 「Digital Thailand Plan」策定

-> 20年間(2018~2037)にわたる長期計画

 

デジタル経済社会省(MDES)の5ヵ年計画(2023-2027)

新型コロナ後のDXを見据えた5ヵ年の活動計画

- 名称「RECODES Thailand 2023-2027」

- 7つの標語による戦略

 

標語1) Resilience : 新型コロナパンデミックからの復興に向けデジタル技術を活用

標語2) Engagement/Empower : 市民のDXへの参画促進と市民のデジタル・リテラシーの向

標語3) Collaboration : デジタル技術によるMDESの内外の組織との協働

標語4) Organizational Assets : MDESの保有する全てのアセットの効率的活用

標語5) Data-driven decision : データに基づく政策の策定

標語6) Eco-system enhancement : DXとデジタル競争力向上に向けたエコシステム整備・強化

標語7) Strategic Sustainability : SDGsに沿ったタイの持続可能なDXに向けた戦略策定



 Digital Economy Promotion Master Plan(Phase-1:2018-2022)>

【戦略1】デジタル人材の育成

  1. a) デジタルスキルを保有する人材数(Digital Manpower)

目標500,000人/実績682,000人 -> 達成

  1. b) デジタル技術を活用可能な市民数(Digital Citizens)

目標30,000,000人/実績20,588,000人 -> 未達

 

(以下省略)

 

Digital Economy Promotion Master Plan(Phase-2:2023-2027)

 

【戦略 1】デジタル経済・社会のための人財を変革

指標 a) デジタル産業従事者数 -> 目標 500,000人

 

【戦略 2】伝統的な経済から高価値のデジタル経済への転換

指標 a) デジタル産業価値の向上 -> 目標 12%

指標 b) デジタル産業の投資増加 -> 目標 10%

指標 c) デジタル事業の数 -> 目標 100,000

 

【戦略 3】新たな機会の創出と包括的な経済発展の実現

指標 a) 世界の住みやすいスマートシティトップ10入り -> 目標 1都市のランク入り

指標 b) デジタルスキルを持ちデジタル技術へアクセス可能な人の割合 -> 目標 95%

 

【戦略 4】デジタルインフラの最適利用

指標 a) 実行するデジタルインフラプロジェクトの数 -> 目標 3プロジェクト

指標 b) タイに投資する世界のハイテク企業の数 -> 目標 3企業

<< 引用文献

タイ 最新IT事情 2024年 2月 8日 国際情報化協力センター 菊池博文

https://cicc.or.jp/japanese/wp-content/uploads/20240208-01th.pdf

>>

 

日本のデジタル庁は、2021年9月1日に発足しました。 

 

タイの「デジタル経済社会省(MDES)」は、2016年に新設され、 20年間(2018~2037)にわたる長期計画をたてています。「Digital Economy Promotion Master Plan(Phase-1:2018-2022)」は、すでに、終了しています。

 

「【戦略1】デジタル人材の育成」については、「a) デジタルスキルを保有する人材数(Digital Manpower)」の目標500,000人に対して実績682,000人の結果がでています。

 

日本では、リスキリングというお題目で、補助金がばら撒かれましたが、達成目標も、補助金の効果のエビデンスの計測も行われていません。

 

日本では、DXが進まないのは、官僚が努力しているので、止むをえないと考える人がおおいかも知れませんが、DXの進展速度をみれば、タイは、毎年少しずつですが、前進しています。日本は、停滞しています。

 

「中国製造2025」をモデルにした政策は、効果が出ています。

 

前⽥裕之氏は、「経済学は⽇本版EBPMに役⽴つか」で、次のように述べています。

すれ違う官と学の思惑

 

研究者=⽇本の⾏政データ、とりわけ⾏政記録情報がオープンになり、研究の⽬的を満たせるデータを⾃由⾃在に⼊⼿できるシステムを望む。⾏政データをフル活⽤できれば論⽂を書きやすい。

→現状では⽇本版EBPMは論⽂の材料にはなりにくい。

⾏政官=情報漏洩のリスクを冒してまで研究者に論⽂の材料を提供する意味はない。⾏政データを活⽤した研究者の論⽂が予算要求の裏付けとして役⽴つ可能性も低い。

→EBPMは予算編成の作業⼯程を増やすだけの存在になりかねない。

 

官と学の深い溝

 

  • 計量経済学の⼿法を援⽤した教育政策の研究の中には因果推論のための⾼度なテクニックや内⽣性バイアスなどの議論に終始し、分析のもととなるデータの性質やクオリティへの関⼼が薄い論⽂がある」(政策担当者)
  • 「理論と整合するような事象を切り取り、理論の含意を検証するのがミクロ経済学の実証論⽂での典型的なアプローチ。EBPMと学術論⽂の執筆は似て⾮なるモノ」(ミクロ経済学者)
  • 「研究者は政府が保有する膨⼤な⾏政記録情報をほとんど使えない。⾏政記録情報の活⽤を促すためには研究者とデータを保有する⾏政機関の間に⼊る組織が必要。複数の統計調査や⾏政記録情報を統合した⾏政ビッグデータの作成を望む」(⺠間シンクタンク研究員)
  • 「特定の対象に対する政策介⼊には倫理⾯や公平性の問題があるうえ、政府の意思決定には時間がかかり、フィールド実験に踏み切るのは困難。フィールドの範囲は狭いが、⺠間企業やNGOと連携する⽅が成果が⽣まれやすい」(RCTに取り組む研究者)

<< 引用文献

経済学はどこに向かうのか 前⽥裕之

https://www.mof.go.jp/pri/research/seminar/fy2023/lm20231102.pdf

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しかし、筆者には、前⽥裕之氏の問題のとらえ方、テクニシャンの視点に見えます。

 

エンジニアの視点では、現状の問題点に基づく帰納法による推論はしません。

 

前⽥裕之氏の「EBPM」の問題は、タイでは、より一般化して、「デジタル政府開発計画2023-2027」の「標語5) Data-driven decision : データに基づく政策の策定」で解決済みです。

 

前⽥裕之氏の「⾏政官=情報漏洩のリスクを冒してまで研究者に論⽂の材料を提供する意味はない。⾏政データを活⽤した研究者の論⽂が予算要求の裏付けとして役⽴つ可能性も低い。→EBPMは予算編成の作業⼯程を増やすだけの存在になりかねない。」という議論は、タイでは、既におわっています。

 

以下に、「Empowering Thailand’s digital government with open data 」から、2枚の図を引用します。この図をみれば、タイのDX戦略は、日本の先をいっていることがわかります。

 

政府は、保険証を廃止して、マイナンバーカードにきりかえる計画ですが、理解可能な説明ができていません。

 

これは、政府が、保険証とマイナンバーカードは、2枚の図のどこに位置するかが整理できていないことを示しています。

 





 

 

 

<< 引用文献

Empowering Thailand’s digital government with open data 

https://theodi.cdn.ngo/media/documents/Empowering_Thailands_Digital_Government_with_Open_Data.pdf

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