米大統領選の結果(3)

3ー1)経済学の基本

 

経済学の最大の課題は、貧困の解消です。

 

問題の解決は、2つの条件に分かれます。

 

第1の条件は、経済成長によって、富を増やすことです。

 

第2の条件は、格差を是正し、あるいは、社会的な安定に必要な公共財の供給によって、社会を安定させることです。

 

第2を優先した社会主義は、経済成長を達成できませんでした。

 

第1の条件は、数学的な最適化になり、市場原理を活用することになります。

 

しかし、完全な市場が存在しないので、市場経済は、理念に留まる部分がでてきます。

 

問題は、第2の条件にあります。

 

これは、おおざっぱに考えれば、富裕層から、貧困層への所得移転になります。

 

しかし、日本のように、労働市場が存在せず、第1の条件が満たされない場合には、問題は、富裕層から、貧困層への所得移転に止まりません。

 

例えば、円安やインフレは、家計から企業への所得移転を生みます。

年金を現役世代が負担すれば、世代間の所得移転が生じます。

 

こうなると、第1の条件が満たされていない可能性が高くなります。

 

第1の条件を満足するように、自由貿易をすれば、地球全体の富は最大化できます。

 

しかし、富裕国が貧乏国に所得移転することは期待できません。

 

つまり、第2の条件については、経済学は、合理的な解を提示できていません。

 

3-2)移民の経済学

 

アメリカの経済は、移民によって、新産業ができて、成長しています。

 

今まで、多くの先進国では、移民は、経済成長のプラスであるという前提がありました。

 

しかし、この前提は揺らいでいます。

 

EUでは、既に、移民は、経済成長のプラスであるという前提は崩れてしまいました。

 

トランプ氏も、移民は、経済成長のプラスであるという前提を否定しています。

 

デジタル社会になって、コンピュータやAIが人間の代わりをしてくれる社会になれば、労働者の数としても移民は、経済成長にはプラスになりません。

 

労働者の質としても移民(高度人材)は、経済成長にプラスになります。

 

今までは、高度人材の育成(教育)は、先進国でのみ可能でした。

 

多数の原石としての移民を受け入れ、その中から、教育によってダイアモンドを探し出すプロセスが必要でした。

 

しかし、2024年現在、この前提は崩れています。

 

インド工科大学のように、途上国でも、高度人材の教育ができるようになっています。

 

あるいは、インターネットがつながっていれば、WEBで独習することも可能です。また、特定のテーマについて、関心のあるグループができていて、インターネットを通じて、途上億の人材をヘッドハントすることも可能です。

 

ビザなしで、一方では、国境を越えて、不法入国を希望する人が多数います。不法入国者が、アメリカンドリームを実現する可能性は、ゼロではありませんが、デジタル社会になれば、不法入国者が、アメリカンドリームを実現する可能性は、きわめて低くなってしまいました。

 

つまり、移民の経済学から考えれば、トランプ氏の移民政策には、経済的な合理性があります。

 

日本の外国人人口は3%未満で、移民の認定(許可)が限定的です。

 

トランプ政権を「分断」であると批判する専門家もいますが、日本が、ドイツのように、人口の4分の1が移民系になった場合でも、「分断」であると批判できるかを考える必要があります。

 

3-3)デジタル社会の課題

 

筆者には、アメリカが、「分断」社会かは、わかりません。エビデンスが不明です。

 

アメリカは、デジタル社会になって貧富の差が拡大しています。

 

アメリカは、ジョブ型雇用です。株式からの収益、ストックオプションを除けば、貧富の差の拡大は、個人の生産性の差の拡大を反映しています。

 

アメリカは、貧富の差が大きく、日本は、貧富の差が小さいので、日本の方が、「分断」社会でないと主張する人もいますが、この批判は表面的です。

 

日本は、ジョブ型雇用ではないので、能力を発揮する場がありません。その結果、日本人の社会人の学習意欲は世界でも最低レベルになっています。日本は、努力しても稼げない社会(身分制度社会)になっていて、経済成長が止まっています。

 

アメリカは、貧富の差が大きいですが、富裕層が膨大な富を抱えているので、所得の再配分をする余地があります。

 

日本は、富裕層の富が小さく、経済成長もないので、所得の再配分をする原資がとても小さくなっています。

 

筆者は、アメリカは、デジタル社会に進むことで、経済成長を達成していますが、貧富の差(生産性の差)が拡大するというデジタル社会固有の問題に、世界に先駆けて、遭遇していると考えています。

 

デジタル社会化に伴うアメリカ固有の問題を、トランプ氏の個人的な性格の問題にすり替えれば、問題を見逃すことになります。

 

例えば、自動運転が実用化してドライバーがいなくなれば、生産性があがります。

 

しかし、失業したドライバーは、何を仕事にすべきでしょうか。OpenAIのアルトマン氏は、ベーシックインカムで対応せざるを得ないと考えています。とはいえ、ベーシックインカムでは、仕事の満足感を得ることができません。

 

ベーシックインカムがあるので、収入に不安がないので、無給でも、ドライバーをするという人がでるかも知れません。

 

しかし、自動運転が実用化すれば、自動運転の事故率は、人間のドラーバーより低くなっているはずです。その場合には、無給で人間がドライバーをすれば、事故率があがってしまいます。働かない方が、社会のためになります。

 

仮に、アメリカ政府が、ベーシックインカムを実施するのであれば、経済難民の受け入れは困難になります。

 

デジタル化をすれば、生産性が急激にあがるので、経済成長します。これは、産業間労働移動によって実現します。このことが理解できていれば、インフレになっても、経済成長しないことがわかります。なぜなら、インフレになっても、デジタル化は進まないからです。

 

2020年代の世界の経済成長の中心は、アジアにあります。

 

中国は、「中国製造2025」でデジタル化の促進を打ち出し、経済成長しています。不動産部門には、問題を抱えていますが、デジタル技術では、アメリカと競争しています。

 

2024年現在、アジアの国は、中国にならって、デジタル化の促進による経済成長計画に走っています。

 

アジアで、デジタル化に前進がなく、そのことが、経済発展の致命傷であると考えていない国は、日本だけです。

 

次回は、この点を考えます。