1)選挙は序盤
利権タイプの政治は、中抜き経済を前提としています。
利権タイプの政治が実現できた条件は、以下です。
C1:人口ボーナスと若年層の賃金抑制(年功型雇用)によって、つけを将来に回すことで、安い賃金が実現できた。
C2:国債を発行し続けることで、つけを将来に回して、中抜き経済の原資を捻出できた。
C3:安い賃金によって、家電と自動車で、巨額の貿易黒字を生み出すことができた。
C4:規制と行政指導によって、新しい技術開発の芽を潰してきたが、この弱点は、技術開発の速度が遅かった1990年頃までは、表面化しなかった。
C1とC4の条件は、1994年には、成り立たなくなりました。
C2がなくなる時は、利権タイプの政治による中抜き経済ができなくなる時です。
2010年以降に大きな変化が生じた部分が、C3とC4です。
2)家電の敗北
2010年には、貿易黒字を生んでいた家電は、2020年には、輸出できなくなりました。
2-1)船井電機
船井電機は、トヨタ生産方式を徹底的に研究することで生み出した、製造ラインに負荷をかけ、課題をあぶりだすことで生産効率を高める「F.P.S.(フナイ・プロダクション・システム)」と言うシステムで成功します。船井電機は、日本で成功した方式を、1990年代に中国で稼働した工場にもそのまま導入して成功しました。
製品は、自社ブランドによる販売よりも、主に日本国外への輸出、および他メーカーへのOEM供給が中心でした。
北米の低価格帯テレビ市場への依存から脱却できず、2010年代以降、北米の低価格帯テレビ市場で中国・台湾メーカーとの競争が激化して経営が悪化し、2024年10月24日に破産手続開始決定が出されました。
船井電機は、2000年代後半に日本メーカーがテレビ事業から次々と撤退する状況でも、OEMにより北米市場ではSamsung・LG・VIZIOに次ぐ4位の座を死守し、安定した収益を確保していました。しかし販売価格の下落と市場シェアの低下、中国メーカーとの販売競争の激化が続き経営が悪化しました。
船井電機のように、中国(海外)に工場移転をした日本企業は、当初は、コストダウンによる利益を得ることができます。しかし、現地メーカーが、実力をつけて、価格競争になると敗退しています。
こうした場合、高品質・高価格路線をとる家電メーカーが出てきますが、価格差ほどの品質の差がないので敗退しています。
2-2)NTTドコモ
加谷珪一は次のように述べています。(筆者要約)
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NTTドコモが携帯電話の基地局で使用する通信機器選定に際して、国産優先の方針を転換する。
同グループはもともと富士通やNEC、沖電気工業など、旧電電公社時代から付き合いのある企業群(いわゆる旧電電ファミリー)から機器を調達するのが慣例となっていた。
通信機器は、高いシェアを獲得できなければ巨額の研究開発費を捻出できず、競争力が低下する。
基地局通信機器のシェアは、中国ファーウェイ(華為技術)、スウェーデンのエリクソン、フィンランドのノキア、中国ZTE(中興通訊)、韓国サムスン電子の上位5社で世界市場の90%以上を占めている。
富士通やNECのシェアはわずか1%程度にすぎず、市場での競争力を失っている。
ここ10年で、日本メーカーのシェアと技術力が著しく低下し、海外上位5社でなければ十分な品質を保てない。
にもかかわらず、政府・与党は、NTTグループに対して、国産メーカー採用の継続を要請した。その結果、同社では、2023年頃から、目玉サービスの5Gのデータ通信速度が低下する不具合が続いて、深刻な顧客離れが懸念されていた。
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<< 引用文献
「国産メーカー優先」をやめたNTTドコモ...経済安全保障を最優先することで生まれるリスクとは? 2024/10/23 Newsweek 加谷珪一
https://www.newsweekjapan.jp/kaya/2024/10/post-299.php
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これから、2つのことがわかります。
第1に、通信機器は、高いシェアを獲得できなければ巨額の研究開発費を捻出できず、撤退になります。
第2に、政治主導(政府・与党が、国産メーカー採用の継続を要請)は、技術の低下をまねき、維持不可能になります。
第1の「通信機器」の公式は、電気製品やソフトウェアにもあてはまると思われます。
例えば、デジタルカメラでも、高いシェアを獲得できなければ巨額の研究開発費を捻出できず、製品の品質が落ちたり、価格が高くなります。
現在のデジタルカメラのシェアは、CANONとSONYの2強になっています。
昔のカメラのように、カメラの性能がレンズの性能できまり、職人技が発揮できる部分が大きければ、巨額の開発経費は不要で、シェアは問題になりません。
しかし、現在のカメラは、コンピュータになっていて、スマホの技術の流用が可能です。
また、デジタルカメラのシェアは、CANONとSONYの2強というデータには、監視カメラは含まれていません。
監視カメラのシェアは、中国メーカーの寡占になっています。
「通信機器」の「シェアー開発経費」公式からすれば、CANONとSONYの経営が盤石とは言えないことになります。
3)自動車の課題
2024年現在、自動車は、貿易黒字を生み出しています。
しかし、自動車の貿易黒字がいつまで継続できるかには、疑問があります。
第1は、EVへの対応の遅れです。
電池の価格競争力において、中国以外のメーカーが、中国メーカーと競争できる可能性は低いです。
第2は、自動運転への対応です。これは、AIに、関係します。
AIについて、デジタル赤字に見られるように、日本企業の技術競争力は低いです。
第2は、「通信機器」の「シェアー開発経費」公式から、テスラのように潤沢な開発資金をもっている企業と競争することはかなり困難です。
つまり、日本の自動車産業の貿易黒字の継続には、黄色信号が灯っています。
4)次の10年
次の10年がデジタル経済中心で動くとすれば、経済成長は、人材を見れば分かります。
また、デジタル赤字は、中抜き経済を終了させると思われます。
日本は、ITエンジニアの数が少ないので、中国との技術競争に勝てるとは思えません。
熊本にTSMCの工場ができて、九州の自治体では、IC関係の工場誘致を進めているところもあります。
日本にTSMCの工場ができるということは、次の10年の経済成長は、台湾が日本を上回るということになります。
おそらく、次の10年の日本の経済成長は、最大でも1%程度であり、台湾と韓国に追い抜かれるのは、必然です。一人当たりGDPは、ベトナム、マレーシア、タイと同じレベルになる可能性が高いです。
C1からC4の条件が失われた1994年以降も、中抜き経済を前提として利権タイプの政治を続けた効果が出ています。
利権タイプの政治は、持続不可能なので、どこかで変わります。
アルゼンチンのように、一度先進国から脱落した国が、先進国に返り咲くハードルは、高いです。
日本の社会科学のレベルが低いことが、この一線を割り込んだ原因であると考えます。
一時は、経済がボロボロであると思われていた、イタリアとスペインですら、この一線を割り込むことはありませんでした。