反事実思考と科学

1)選挙

 

27日は、選挙です。

 

科学の視点から見れば、ちょっと、悲しくなるような選挙なので、コメントを書きます。

 

科学は、ガリレオが実験手法を導入してから、躍進しました。

 

実験とは、今まで起こらなかった、条件を設定して、何が起こるかを調べる手法です。

 

今までの事実で得られたデータでは、科学は作れません。

 

問題は、実験の困難な対象の取り扱いになります。

 

これは、厳密には、「因果推論の科学」を使うことになります。

 

「因果推論の科学」の基本発想は、反事実思考です。

 

反事実思考ができれば、見えてくる世界があります。

 

この世界は、帰納法では、決して見えない世界です。

 

例をあげます。

 

2)公約

 

田舎が出身母体のある政治家は、地元に、道路や橋の建設を誘導しました。

 

地元の有権者は、地元の生活の利便性をあげるために、地元に税金をもたらした政治家がよい政治家であると判断してきました。少なくとも、当選を繰り返しました。

 

これは、政治献金のキャッシュバックになる利権の政治です。

 

これが、過去30年の事実です。

 

次に、反事実思考をしてみます。

 

道路や橋を建設しなかったらどうなっていたでしょうか。

 

その分の財政支出は不要だったことになります。

 

消費税や社会保険料をあげる必要がなかったことになります。

 

消費税や社会保険料をあげる必要がなければ、出生率の低下は、ここまで、ひどくならなかったと思われます。

 

道路や橋は、生まれてこなかった赤ちゃんの墓碑銘のように感じる人もいるかも知れません。

 

仮説は、検証する必要があり、正しいかは分かりません。

 

しかし、反事実思考をすれば、いろいろな仮説を容易につくることができます。

 

今回の選挙公約は、ほとんどの政党が、財政支出の拡大をうたっています。

 

防衛費のように、財源が確保されていない案件もあります。

 

これらの公約を実施すれば、引き続き少子化が促進されると思われます。

 

3)円安

 

時事通信は、円安の影響を次のように伝えています。

 円安などの影響で物価が上がる一方、賃金の伸びは鈍く、苦しい生活を強いられる人も少なくない。

<< 引用文献

物価高、広がる生活苦 食料配布に700人、母子家庭も悲鳴 貧困問題【24衆院選】2024/10/26 時事通信

https://news.yahoo.co.jp/articles/fade41088c79377c3da0f11edca14b1ee085c7e3

>>

 

ロイターの木原麗花氏は、IMFのナダ・シュエイリ氏の発言を伝えています。

国際通貨基金IMF)の日本ミッションチーフを務めるナダ・シュエイリ氏は25日、輸出の増加が輸入コストの増加を上回っているため、円安は日本経済にとって有益だとの見解を示した。

 

石破茂首相は27日投開票の衆院選挙後、大型補正予算を編成する考えを示している。

これに対しシュエイリ氏は「補正予算の編成は経済の大きなショックが発生したときのために残しておいた方がよい」と述べた。

<< 引用文献

円安は日本経済に有益、来年は大幅賃上げが実現=IMF高官 2024/10/26 ロイター 木原麗花

https://jp.reuters.com/opinion/forex-forum/2VVBXHCXI5PY3NXILHIXYWU6FI-2024-10-25/

>>

 

木原麗花氏の記事は、IMFの権威による説明です。科学の方法は、権威の方法とは相いれません。

 

円安は、レートの変化なので、基本は、輸出と輸入に対して中立です。ただし、賃金は、円安になっても、すぐには上がりません。これは、円安になるとドル建ての実質賃金が減少することを意味します。その結果、見かけ上は、輸出の増加(変化)が輸入の増加(変化)を上回ります。これは、所得移転効果であって、経済成長には関係しません。円安で、実質所得が減少すると、内需が小さくなり、経済成長が抑制されます。これらの計算は、レートの影響をうけない基軸通貨のドルで行う必要があります。

 

経済成長をするためには、付加価値を増加させる必要があります。つまり、生産性の向上が必要になります。円安になっても、生産性はあがりませんので、経済成長することはありません。

 

さて、問題は、反事実思考です。

 

アベノミクスは、極端な円安をもたらしました。

 

円安の影響を考えるためには、反事実思考をしてみることが有効です。

 

円安にならなかった世界(反事実)と円安になった世界(事実)を比較すれば、円安の効果が推定できます。これは因果推論の科学の基本です。

 

ナダ・シュエイリ氏の「輸出の増加が輸入コストの増加を上回っているため、円安は日本経済にとって有益だとの見解」は、円安でない状態(without)と円安の状態(with)を比較していないので、間違った推論になります。

 

経済学では、効果とは、withとwithoutの差で定義されます。

 

ナダ・シュエイリ氏の方法では、円安の効果を評価することはできません。

 

反事実思考ができれば、権威の間違いを指摘することができます。

 

4)まとめ

 

ばら撒き政策の効果も、withとwithoutの差で計算できます。

 

この効果をばら撒き費用では割れば、費用対効果分析になります。

 

費用対効果分析を行って、効果の少ない政策を中止すれば、減税が可能になります。