生成AIの市場規模(2)

iPhoneが、好調で株価が上がったという記事がありました。

 

<< 引用文献

アップル株が史上最高値を更新、時価総額3.6兆ドル突破 iPhone 16好調で 2024/10/20 Forbs

https://forbesjapan.com/articles/detail/74376

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2024年のノーベル経済学賞受賞したアセモグル教授の見解を追加しておきます。

 

日経ビジネスは次のように伝えています。(筆者要約)

 

マサチューセッツ工科大学(MIT)の経済学者ダロン・アセモグル教授は、以前からAIの開発の方向性に対して「一部の関係者やエリートだけに意思決定させてはならない」と警告し、幅広い人々による倫理的な議論を呼びかけていた。2023年5月、技術が世界にもたらした経済成長と「力関係」の変化を書いたサイモン・ジョンソン氏との共著「Power and Progress: Our Thousand Year Struggle Over Technology and Prosperity」(Public Affairs)を発刊した。

 

アセモグル氏らは、過去1000年間にわたり、技術開発が世界の政治・経済・社会の歴史にもたらした変化を俯瞰して検証した。ほぼ共通していたのは「歴史上の技術の進化は、そのままでは労働者にほとんど恩恵がなく、ごく一部のエリートだけを力強く豊かにする傾向にあった」ことだった。

<< 引用文献

「人間の主体性奪うAI開発を抑制せよ」MITアセモグル教授の警鐘 2023/05/12 日経ビジネス

https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00351/050900081/

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「Power and Progress: Our Thousand Year Struggle Over Technology and Prosperity」の書評をDaniel Sarewitz氏が書いているので、引用します。(筆者要約)

権力と進歩:技術と繁栄をめぐる千年にわたる闘い

 

しかし、この本の議論は、ある変数を別の変数に置き換えることにかかっている。アセモグルとジョンソンが説明しているように、競争的な労働市場では、賃金は生産性の向上(労働者一人当たりの生産量)ではなく、労働の限界生産性、つまり労働者の追加によって生み出される生産性の向上によって決まる。著者によると、この区別は多くの経済学者や経済学の教科書が理解していないことだ。

 

著者らは「テクノロジーが不平等を拡大させたのは、主に企業やその他の権力者が行った選択による」と説明している。では、なぜ彼らはそうしないのでしょうか。それは、企業利益を最大化する生産性の向上が、より多くのより良い雇用を自動的に生み出すと私たちに信じ込ませる「盲目的な技術楽観主義」に私たちが説得されているからです。

ここまでが、要約で、以下は、批判的な書評になっています。

おそらくもっと驚くべきは、多くの相互依存産業(鉄鋼や鉄道など)における周期的なイノベーションの突発的な発生が、いかにして労働需要の急増と賃金上昇につながったかという議論である。これらの議論は、ジョセフ・シュンペーターの伝統を受け継ぐイノベーション経済学者の豊富な歴史的研究にまったく基づいていないようである。信じられないことに、シュンペーターは本書では言及も引用もされていない。 

 

なぜ明白なことを述べないのか? 企業の所有者と労働者の間の力関係の非対称性が続く限り、米国の労働者の賃金格差の問題は、ほとんど解決されないままとなるだろう。

<< 引用文献

Economists Being Economists By Daniel Sarewitz

https://issues.org/power-progress-acemoglu-johnson-review-sarewitz/

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<競争的な労働市場では、賃金は生産性の向上(労働者一人当たりの生産量)ではなく、労働の限界生産性、つまり労働者の追加によって生み出される生産性の向上によって決まる>

の部分は重要です。

 

これは、労働市場は、労働者の追加の部分に機能するが、既に働いている労働者には、機能しないという主張です。

 

転職時には、賃金が安ければ、転職しない自由があるので、労働市場が機能します。

一方、既に働いている労働者は、退職しないと、同じ賃金または、小さな賃金上昇を受け入れることになるので、市場原理が機能しないという主張です。

 

言い換えれば、春闘最低賃金では、十分な賃上げはできないと言えます。

 

労働市場がある場合、賃上げを実現する最適な手法は、転職することです。

 

生成AIをだれが使うのか(生成AIによって生産性が上がった場合、誰の所得が増加するのか)が、検討のポイントになります。

 

2024年4月に、アセモグル教授は、「The Simple Macroeconomics of AI」を書いています。

要約には、次のように、書かれています。

AIのシンプルなマクロ経済学 ダロン・アセモグル

 

この論文は、AI の新たな進歩がもたらす大きなマクロ経済的影響についての主張を評価します。まず、自動化とタスクの補完性を考慮した AI の効果に関するタスクベースのモデルから始めます。AI のミクロ経済的影響がタスク レベルでのコスト削減/生産性向上によってもたらされる限り、そのマクロ経済的影響は、ハルテンの定理(Hulten’s theorem)のバージョンによって与えられます。つまり、GDP と総生産性の向上は、影響を受けるタスクの割合とタスク レベルでの平均コスト削減によって推定できます。タスク レベルでの AI への露出と生産性向上に関する既存の推定値を使用すると、これらのマクロ経済的影響は、ささいなものではないものの控えめで、10 年間で全要素生産性 (TFP) が 0.66% 増加する程度です。この論文では、初期の証拠は習得しやすいタスクから得られているのに対し、将来の影響の一部は、意思決定に影響を与えるコンテキスト依存の要因が多く、成功の成果を学習するための客観的な結果尺度がない、習得が難しいタスクから得られるため、これらの推定値でさえ誇張されている可能性があると主張しています。その結果、今後10年間のTFP上昇率はさらに控えめで、0.53%未満になると予測されています。また、AIの賃金と不平等への影響についても検討しています。理論的には、AIが低スキル労働者の特定のタスクの生産性を向上させる場合でも(新しいタスクを作成することなく)、不平等は減少するのではなく、増加する可能性があることを示しています。経験的には、AIの進歩は、その影響が人口統計グループ間でより均等に分散されているため、以前の自動化技術ほど不平等を増加させる可能性は低いことがわかりましたが、AIが労働所得の不平等を減らすという証拠もありません。むしろ、AIは資本と労働所得の格差を拡大すると予測されています。最後に、AIによって作成された新しいタスクの一部は、社会的にマイナスの価値を持つ可能性があり(オンライン操作のアルゴリズムの設計など)、社会的にマイナスの価値を持つ可能性のある新しいタスクのマクロ経済的影響をどのように組み込むかについて議論します。

<< 引用文献 

The Simple Macroeconomics of AI,  Daron Acemoglu, April 5, 2024

https://economics.mit.edu/sites/default/files/2024-04/The%20Simple%20Macroeconomics%20of%20AI.pdf

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ハルテンの定理(Hulten’s theorem)は、日本語で検索しても、ヒットしないので、日本では使われていないと思います。

 

予測数字の正しさは、モデルの適合性によりますが、具体的な数字を計算できるパワーと能力には、脱帽します。「権力と進歩:技術と繁栄をめぐる千年にわたる闘い」でも、1000年分のデータを分析しています。

 

アセモグル教授の算出した数字に反論するには、異なったモデルとデータを使った別の推定を行う必要があります。モデルとデータのすり合わせータのすり合わせを行えば、議論は収束するはずです。これが、科学の方法です。

 

おそらく議論の1つは、次の箇所にあります。

この論文では、初期の証拠は習得しやすいタスクから得られているのに対し、将来の影響の一部は、意思決定に影響を与えるコンテキスト依存の要因が多く、成功の成果を学習するための客観的な結果尺度がない、習得が難しいタスクから得られるため、これらの推定値でさえ誇張されている可能性があると主張しています。

 

この論文では、AIは、人間の仕事を代替すると考えています。

 

AIが、人間の解けない問題を簡単に解くことはないと考えているように見えます。

 

AIが、パターンマッチングであれば、この仮定は正しいと思いますが、「成功の成果を学習するための客観的な結果尺度がない、習得が難しいタスク」を人間より高速に解くことができる場合が見つかっています。

 

アセモグル教授のこの研究は、他の予測とも比較されています。(筆者要約)

 

生成型人工知能

GDPの増加と格差の縮小の効果は控えめになる可能性が高い

 

生成型人工知能(AI)の進歩によるマクロ経済的影響に関する新たな研究では、GDPへの影響はおそらく中程度であると結論づけている。さらに、 MITのダロン・アセモグル氏がEconomic Policy誌に寄稿した研究によると、AIが労働所得格差を縮小させるという証拠はない。実際、一部のグループ、特に低学歴の白人女性やアメリカ生まれの女性は、実質賃金がわずかに低下すると予測されている。

 

この調査は、ChatGPT が急速に普及し、開始からわずか 2 か月で月間ユーザー数が 1 億人に達すると推定されていること、また、今後 10 年以内に AI の新たな進歩によって莫大な経済的利益がもたらされると一部で予測されていることに注目することから始まります。

 

より控えめに言えば、ゴールドマン・サックスは、世界のGDPが10年間で7%増加し、7兆ドルに相当し、米国の経済成長は年間1.5パーセントポイント加速すると予測している。マッキンゼー・グローバル・インスティテュートは、AIやその他の自動化技術の総合的な影響により、同じ期間に年間平均成長率が1.5から3.4パーセントポイント上昇する可能性があると予測している。

 

アセモグル氏の研究では、AI の効果に関するタスクベースのモデルから始めて、自動化とタスクの補完性を検討し、これらの主張を評価しています。AI のミクロ経済的効果がタスク レベルでのコスト削減と生産性向上によってもたらされる限り、GDP と総生産性向上に対する AI のマクロ経済的影響は、影響を受けるタスクの割合とタスク レベルの平均コスト削減によって推定できると結論付けられています。

 

AI への露出とタスク レベルでの生産性向上に関する既存の推定値を使用すると、これらのマクロ経済効果は、重要ではあるものの控えめで、10 年間で 0.71% を超える増加はありません。

 

しかし、これらの推定値でさえ誇張されている可能性がある。なぜなら、初期の証拠は「習得しやすい」タスクから得られたものであるのに対し、将来の影響の一部は「習得が難しい」タスクから得られるからである。「習得が難しい」タスクでは、意思決定に影響を与えるコンテキスト依存の要因が多く、成功するパフォーマンスを学習するための客観的な結果尺度がない。たとえば、卵のゆで方やコンピューターのサブルーチンの書き方は、外部学習では簡単だが、長引く咳の原因を診断するような問題ははるかに難しい。

 

この重要な違いを考慮すると、今後 10 年間の全要素生産性の予測増加率はさらに控えめで、0.55% 未満となります。

 

次に、この研究では、生成型 AI の賃金と不平等への影響について調査し、さまざまなタスクで生産性が向上したとしても、それが賃金の上昇や不平等の減少につながる可能性は低いと結論付けています。むしろ、賃金と不平等へのより好ましい影響は、労働者全般、より具体的には中低賃金労働者向けの新しいタスクの創出にかかっています。

 

研究によれば、実証的に見ると、AIの進歩は、その影響が人口統計上のグループ間でより均等に分散しているため、以前の自動化技術ほど格差を拡大する可能性は低い。しかし、AIが労働所得格差を縮小するという証拠もない。また、低学歴の白人女性、米国生まれの女性は、実質賃金がわずかに低下すると予測されている。AIは、資本所得と労働所得の格差を拡大するとも予測されている。

 

最後に、研究では、誤報、ディープフェイク、操作的な広告など、いくつかの新しいAIタスクの負の社会的価値と、それらの潜在的なマクロ経済的影響を考慮することが重要であると指摘しています。

<< 引用文献

Generative Artificial Intelligence .economic policy Daron Acemoglu

https://www.economic-policy.org/79th-economic-policy-panel/macroecon-of-ai/

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世界初の半導体のCPUは、インテルの4004で、2800個のトランジスタを使っていました。

設計者の嶋正利氏は、2800個のトランジスタでできた回路を記憶していました。

 

現在のGPUは、数億個以上のトランジスタを使っています。

 

もちろん、その回路を人間が記憶することはできません。

 

GPUの設計は、GPUを搭載したコンピュータを使って行われます。

 

同様に考えれば、いつかの時点で、生成AIの設計をする生成AIが出現する可能性があります。

 

「因果推論の科学」の著者のパール氏は、人工科学者ができる可能性があるといいます。

 

数億個以上のトランジスタをつかって回路設計は、コンピュータ(GPU)なしにはできません。

 

同様に、人工科学者ができる場合には、AIの助けが前提になると思われます。