ヒントン先生のノーベル賞受賞

カナダ・トロント大学のジェフリー・ヒントン教授と、米プリンストン大学のジョン・ホップフィールド教授が「人工ニューラルネットワークによる機械学習を可能にする基礎的な発見と発明」により、ノーベル物理学賞を受賞するという驚くべきニュースが入ってきました。

 

ホップフィールド博士は、アメリ物理学会の会長も務めているバリバリの物理学者なので、ノーベル物理学賞に違和感はありません。

 

しかし、ヒントン博士は、コンピュータ科学および認知心理学の研究者であって、物理学者とは思えません。

 

ヒントン博士の業績には、文句のつけようはありませんが、物理学賞にはおどろきました。

 

眞鍋淑郞博士が、2021年ノーベル物理学賞受賞を受賞したとき、ご本人は、この分野で、ノーベル賞をもらえるとは思っていなかったといっています。

 

恐らく、ヒントン博士も同様の驚きを持っているかも知れません。

 

受賞内容は、ホップフィールド博士が、1982年の「連想型ニューラルネットワーク」の発明と思われます。

 

ヒントン博士は、デイビッド・ラメルハート博士、ロナルド・J・ウィリアムズ博士とともに、1986年に発表された、多層ニューラルネットワークのトレーニングのためのバックプロパゲーションアルゴリズムを普及させた、引用数の多い論文の共著者です。

 

ホップフィールド博士と並べれば、この辺りの業績が受賞理由と思われます。

 

デイビッド・ラメルハート博士とロナルド・J・ウィリアムズ博士は既に亡くなっています。

 

ヒントン博士は、2001年にラメルハート賞の初代受賞者となっています。

 

ヒントン博士は1998年に王立協会フェロー(FRS)に 選出されています。

 

王立協会の選出証書には次のように記されています。

 

ジェフリー・E・ヒントンは人工ニューラルネットに関する研究、特に人間の教師の助けを借りずに学習するように設計する方法で世界的に知られています。

 

ヒントン博士は、ヤン・ルカン、ヨシュア・ベンジオとともに、ディープニューラルネットワークをコンピューティングの重要な要素にした概念的および工学的なブレークスルーにより、 2018年のチューリング賞を受賞しています。

 

学生のアレックス・クリジェフスキーとイリヤ・スツケバーと共同で設計したAlexNetの画像認識のマイルストーンは、 ImageNetチャレンジ2012のために設計されたもので、コンピュータービジョンの分野における画期的な進歩でした。

 

現在のAIブームは、この時に始まっています。

 

ジューディア・パール博士のベイジアンネットワークと人工知能への確率的アプローチ は、ラメルハート博士の多層ニューラルネットワークにヒントを得ています。

 

「因果推論の科学」は、生成AIのようにブームにはなっていないので、「因果推論の科学」は、当面はノーベル賞の対象分野にはならないと思います。

 

多層ニューラルネットワークの研究の実用性が注目されたのは、ImageNetチャレンジ2012からで、12年経っています。

 

人工ニューラルネットワークによる機械学習を可能にする基礎的な発見と発明」が、ノーベル物理学賞を受賞したということは、従来の教科書に載っているような物理学の改良では、社会的なインパクトを与えるような成果が期待できなくなっていることの裏返しです。

中期的にみれば、近年は生理学・医学賞と化学賞、物理学賞との境界が曖昧な分野が増えてきているといわれるので、ノーベル物理学賞は、物理学を狭く考えないようになっていくと思われます。

 

筆者は、パール博士の「因果推論の科学」は、20世紀のアインシュタインの物理学に相当する社会変化を21世紀に引き起こすと考えています。

 

ヒントン博士は、現在76歳ですが、パール博士は、88歳です。デイビッド・ラメルハート博士とロナルド・J・ウィリアムズ博士も生きていれば、ノーベル賞を受賞できたかもしれません。パール博士に残された時間は少ないと思います。パール博士は、「因果推論の科学」を最後の著書のつもりで書いたのかも知れません。