メンタルモデルの話(2)

2)メンタルモデルと機能

 

2-1)エアコンの話

 

エアコンは、ヒートポンプとファンの2つの部品から出来ています。

 

冷房の場合、ヒートポンプは、冷気のガスをつくります。

 

ファンは、冷気のガスを冷たい空気に変換します。

 

また、ファンは、室内の空気をかき混ぜて、室内の温度を均一にします。

 

エアコンは、2つの部品があり、3つの機能を実現しています。

 

このような機能(関数)の概念を中心にした、オブジェクトのモデルを、メンタルモデルといいます。

 

メンタルモデルの共有ができれば、コミュニケーションが可能になります。

 

例えば、エアコンが故障した場合、どの機能が失われ、壊れた部品がわかれば、修理を依頼することができます。

 

ヒートポンプは、空気の流れを作ることはできません。

 

ヒートポンプが、空気の流れを作ることができなくとも、ヒートポンプが故障している訳ではありません。

 

2-2)制御工学の基本

 

古典制御工学は、第2次世界大戦のときに、ベル研で開発されました。

 

古典制御工学では、目的値が1つで、制御量が1つです。

 

エアコンの温度を一定にするためには、基準点の気温を計測して、その温度が目標値になるように、ヒートポンプの出力を制御します。

 

昔のエアコンでは、風量の調整ボタンと設定温度の調整つまみしかありません。

 

これは古典制御工学を使っているためです。

 

現代制御工学では、複数の目的値を設定して、複数の制御量を変化させます。

 

現在制御のアイデアは、1960年頃からあり、数学的に方程式で定義がなされました。

 

この方程式を安定的に解くことができるようになったのは、1990年頃に、新しいアルゴリズムが開発されてからです。

 

このアルゴリズムを人間が代行することは、複雑すぎてできません。

 

2-3)経済成長と格差是正

 

経済学と経済政策の目標は、経済成長と格差是正です。

 

エアコンでいえば、ヒートポンプが経済成長で、ファンが格差是正です。

 

経済成長を実現するには、生産効率を最大化することになります。

 

生産性を最大化するためには、市場原理が機能するように、規制緩和をすることが原則になります。

 

規制緩和をするためには、財源は不要で、増税する必要はありません。

 

また、工業からデジタル産業にレジームシフトが起こっている場合には、産業間労働移動をする必要があります。

 

産業間労働移動は、非常に重要です。

 

日本は、農業から、工業化をしています。

 

産業間労働移動は、次のステップを踏みます。

 

農業=>工業=>デジタル産業

 

一方、開発途上国の場合には、工業化のプロセスをスキップすることができます。

 

農業=>デジタル産業

 

この現象は、アイルランドで起こりました。

 

アイルランドは、工業化に取り残されたEUの中で、貧しい地域でした。

 

貧しい地域であることは、産業間労働移動が容易になります。

 

アジアでは、中国とインドとベトナムの一部の地域では、工業化のプロセスをスキップする労働移動が起きています。

 

つまり、中国とインドとベトナムの一部の地域は、アイルランドのようなIT先進地域になる可能性があります。

 

さて、市場原理を導入すると経済格差がつくので、問題であるという人がいます。

 

こうした主張は、メンタルモデルの共有ができていないことを意味します。

メンタルモデルの共有ができていない場合には、コミュニケーションが成立しません。

 

エアコンでいえば、ヒートポンプが、空気の流れを作ることができないので、けしからんという主張になります。

 

メンタルモデルでは、1つの部品には、1つの機能があることが原則になります。このルールを守らないと議論ができません。

 

ヒートポンプで、部屋の温度のバラツキを減らすことはできません。

 

温度設定の値を声の大きな人に合わせて、上げ下げしても、格差是正の問題は解決できません。

 

部屋に、10人の人がいて、それぞれが希望する設定温度が異なる場合には、部屋を10区画に分割して、それぞれにエアコンをつけるしか方法がありません。そのようなことをすれば、効率(生産性)が低下して、皆が貧しくなってしまいます。

 

数学で不可能なことを議論することは、時間と労力の無駄です。

 

格差是正は必要ですが、実現可能な手段を提案しなければ、議論になりません。

 

生産性の向上と格差是正には、2つの部品が必要です。

 

これが、メンタルモデルの基本になります。

 

アベノミクスでは、法人税減税を行ないました。

 

その根拠は企業が豊かになれば、利益が波及するだろうという主張です。

 

これは、エアコンでいえば、ヒートポンプの近くの冷たい空気が、部屋の隅まで伝播するという主張(トリクルダウン)です。

 

冷たい空気は伝播するかも知れませんが、部屋の空気を循環させて、温度のバラツキを押さえるファンがついてないのですから、トリクルダウンをあてにすることはできません。

 

格差是正には、所得移転が必要です。この所得移転は、富裕層から貧困層への移転と、企業から家計への移転の2つの方法があります。

 

法人税減税をした後で、労働分配率はさがりましたので、企業から家計への所得移転が合理的な方法になります。

 

英国には、所得移転政策があり、政策効果は、ジニ係数の変化と貧困層可処分所得によって、検証されています。

 

日本には、ターゲットを明確にした所得移転政策はありません。



さて、市場原理を導入すると経済格差がつくので、問題であるという主張は、経済成長と格差是正のメンタルモデルを破壊して、コミュニケ―ションを破壊しています。

 

市場原理を導入すると経済格差がつくという主張は、ターゲットを明確にした所得移転政策がないという事実を隠蔽しています。

 

経済成長と格差是正のメンタルモデルが共有されれば、政策評価ができます。

 

政策評価ができると、政治献金によるキャッシュバックが受けられなくなります。市場原理を導入すると経済格差がつくので、問題であるという主張の目的は、弱者救済ではなく、既得利権の確保にあります。

 

中国とインドとベトナムの一部の地域では、工業化のプロセスをスキップする労働移動が起きています。

 

これに対抗できる労働移動ができなければ、日本経済は競争力を失って崩壊します。そのために必要な第1のステップは、メンタルモデルの共有になります。

 

メンタルモデルの共有が出来なければ、何がおこるかわかりませんので、デジタル産業への労働移動は起きません。

 

これは、デジタルスキルよりも、ポストにしがみ付く方が、所得が増えるのであれば、だれも、スキルアップしないことに対応します。

 

デジタル産業への労働移動のためには、ジョブ型雇用が必須ですが、ジョブとは何か、適正な給与はどのようにして決められるかというメンタルモデルの共有がなければ、デジタル産業への労働移動は起きません。