注:これは、ジューディア・パール、ダナ・マッケンジー「因果推論の科学―「なぜ?」の問いにどう答えるか」のコメントです。
(62)必要原因と十分原因(1)
1)前提
必要条件と十分条件を整理します。
よくある次の説明は間違いです。
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論理学の必要条件では、「X=>Y」の場合、Xを十分条件、Yを必要条件といいます。
X=>Y かつ、Y=>X の場合には、必要十分条件と呼ばれます。
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必要条件と十分条件は、因果の矢印の向きとは関係がありません。
一般に、「x=>y」は、図1のVenn図で説明されます。この場合、xの集合がy集合の部分集合になります。図1の場合、xは、十分原因になります。
必要条件のVenn図は、図2になります。
2)定義
図1と図2で、因果モデルを考えれば、十分条件は十分原因に、必要条件は必要原因になります。
図2が、間違っていない自信がないので、検索してたところ、verywell healthに、Elizabeth Boskey氏が、「科学と医学における必要十分原因の理解」というタイトルで次のような説明をしていました。(筆者要約)この説明を読む限り、図2で間違っていないと思います。
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AがBを引き起こす場合:
A が B に必要である場合 (必要原因)、それは A がなければ B は決して得られないことを意味します。言い換えると、あるものが別のものの必要原因である場合、それは原因がなければ結果は 決して発生しないことを意味します。ただし、結果がなくても原因が発生する場合があります。
A が B に十分である場合 (十分な原因)、それは、A があれば必ず B が存在することを意味します。言い換えると、何かが十分な原因である場合、それが起こるたびに結果が伴います。結果は常に原因に従います。ただし、原因がなくても結果が発生する場合があります。
必要だが十分ではない:エイズを発症するには、HIV に感染している必要があります。したがって、HIV 感染はエイズの必要原因です。ただし、 HIV 感染者全員がエイズを発症するわけではないため、エイズを引き起こすのに十分ではありません。エイズを発症するには、HIV 感染以上のことが必要になる場合があります。
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<< 引用文献
Understanding Necessary and Sufficient Causes in Science and Medicine 2022/08/15 verywell health Elizabeth Boskey, PhD
https://www.verywellhealth.com/understanding-causality-necessary-and-sufficient-3133021
>>
パール先生は、2つの概念のうち、十分原因がより一般的である(p.441)といいます。
わかりにくいのは、必要原因です。
3)実例
ここまで整理しても、実例を考えると、混乱します。
これは、必要原因の議論は、次の場合に問題になるためです。
x=>z
y=>z
あるいは、
x、y=>z
3-1)アオコ
アオコは、藻類の繁殖です。
アオコが発生する(Z=1)ためには、次の条件が必要です。
(X=1)藻類の胞子
(Y=1)富栄養な水
富栄養な水があっても、繁殖する植物や植物プランクトンは、アオコに限りません。
富栄養な水はアオコの十分原因に見えます。
アオコに相当する藻類が増えれば、アオコが発生します。
藻類には特異性があるので、必要原因に見えます。
ただし、X,Yの2つが揃わないとアオコは発生しません。
常に、起らない場合でも、十分条件とよぶことになります。
しかし、検討が、反応が起こることを前提にしているのであれば、問題はないように見えます。
3-2)スマホ
野口悠紀雄氏は、日本の家電が撤退した原因は、アップルのような水平分業ができなかったからであるという主張です。
しかし、アップルは、水平分業しただけでなく、優れた設計を持っていました。その設計図は、ハードウェアだけでなく、クラウドとの連携のような使い方に及びます。
アオコと並べると次の関係があります。
藻類の種 = スマホの設計図
富栄養な水 = 水平分業によるコストダウン
アオコの発生 = スマホの売り上げ
3-3)日本経済
藻類の種 = 生産性の向上
富栄養な水 = 資金調達の容易さ
アオコの発生 = 経済成長
経済成長には、人材の獲得も必要かも知れません。
4)まとめ
小幡 績氏は、日本の政治には、ばら撒きしかなく、経済政策がないといいます。
簡単に言えば、議論に値しないという主張です。
しかし、メンタルモデルの共有が出来なければ、問題は解決しません。
<< 引用文献
日本の政治に「経済政策」などというものはない 2024/09/07 東洋経済 小幡 績
https://toyokeizai.net/articles/-/824368
>>
筆者には、必要原因と十分原因は、大きな問題点に、見えます。