プラグマティズムの研究(2)

4)暗黙知と調味料の基準

 

4-1)調味料の基準

 

人間には、オブジェクトで推論して、インスタンスを忘れがちなバイアス(カプセル化バイアス)があります。

 

カプセル化バイアスを補正するには、推論プロセスに、インスタンスを取り込むことが有効に思われます。

 

推論にインスタンスカプセル化したオブジェクトを使う理由は、インスタンスのリストが、長くて扱いにくいためです。

 

つまり、推論プロセスに、インスタンスを取り込むことが有効であるとしても、全てのインスタンスを取り込むことはできません。

 

そこで、全てのインスタンスではなく、一部のインスタンスを取り込むことになります。

 

ここで、「推論プロセスに、インスタンスを取り込む効果を示せ」といった、課題を設定しても、証明は不可能と思われます。

 

なぜなら、効果は、インスタンスの選択によりますし、オブジェクトは多様だからです。

 

そこで、調味料の例を考えます。

 

調味料の基本は、塩と酢でした。酢は、食品を加工することで得られますが、塩ほどの汎用性はありません。

 

塩は、塩田または、岩塩から採取しました。

 

塩のあとで、砂糖が、更に、その後で、スパイスが調味料のリストに加わります。

 

砂糖は、サトウキビ、サトウダイコン、サトウカエデ、蜂蜜などから採取できます。

 

ここで、「料理の調味料に、砂糖を取り込む効果を示せ」といった、課題を設定しても、証明は不可能と思われます。

 

なぜなら、効果は、砂糖の種類によりますし、料理は多様だからです。

 

しかし、一般的な証明が不可能でも、調理に砂糖を使えば、料理の選択の幅が広がり、その効果は絶大です。

 

つまり、効果の証明ができなくとも、選択の幅が広がったことを効果の判定基準にしてもよいと考えられます。

 

「選択の幅が広がったことを効果の判定基準にする」方法を、ここでは、「調味料の基準」と呼ぶことにします。

 

さて、話題をカプセル化バイアスに戻します。

 

カプセル化バイアスを補正するには、推論プロセスに、インスタンスを取り込むことが有効です。

 

「調味料の基準」に従えば、ともかく、インスタンスを取り込んでみれば、効果がでると思われます。

 

一番簡単に、インスタンスを取り込む方法は、思考実験です。

 

思考実験は、他の方法にくらべ、コストと時間が最小になります。

 

インスタンスを取り入れた思考実験には、劇的な効果があります。

 

どのインスタンスを選定すべきかという明確な基準はありませんが、因果推論が可能な場合には、アブダクションによって、反例を検索する(バグを探す)方法が、基本になります。

 

インスタンスが、連続変数の時には、確率分布の代表点(20%、40%、60%、80%など)を選ぶ方法もあります。



4-2)暗黙知

 

暗黙知は、文字として、記録に残らないノウハウをさします。

 

暗黙知は、画像、音など、文字で記録することが困難な対象も含みます。

 

現在では、画像、音などは、デジタルデータとして記録することが可能なので、文字化できないこれらに関する知識を暗黙知に分類する必要はないかも知れませんが、楽譜などのカプセル化の理論は、未完成です。

 

さて、文字として、記録に残らないことと、文字を使って、推論できないことは異なります。

 

文字として記録に残る対象は、オブジェクトです。

 

数学の教科書には、変数(オブジェクト)が記載されていますが、数値例(インスタンス)は、記載されていません。変数をみても、インスタンスのメンタルイメージがなければ、メンタルイメージの共有ができないので、理解が出来ません。

 

このような場合には、数値例がのっている演習書で、学習して、インスタンスのメンタルイメージを獲得します。いったん、インスタンスのメンタルイメージができれば、数学の教科書は、難しくはありません。

 

この方法の難点は、期待される販売数の少ない教科書に対応した演習書がないことです。しかし、現在では、演習書を解く代わりに、サンプルプログラムコードを書いて、実行すれば、インスタンスのメンタルイメージが容易に形成できます。一昔前に比べれば、夢のような学習環境が成立しています。逆に言えば、プログラムを書かないで、どうして理解(インスタンスのメンタルイメージの共有)ができるのか、筆者には、わかりません。

 

数学の演習書が少ないように、汎用性のない(情報縮約でない)インスタンスは、記録には残りません。つまり、インスタンスを使った推論は、記録が少ないので、暗黙知に分類されてしまいます。

 

インスタンスを使った推論の記録は容易です。これを暗黙知と呼ぶことは、一般的な暗黙知のイメージにあいませんが、定義では、暗黙知になってしまいます。

 

4-3)事例

 

年金:

 

年金(オブジェクト)を考えます。

 

年金会計は、年金会計収入(オブジェクト)と年金会計支出(オブジェクト)から、構成されます。

 

100年安心の年金という場合の年金は、通常、個人の年金受取額になります。

 

年金会計の分析は、筆者の専門ではないので、例えば、野口悠紀雄氏の解説をご覧ください。

<< 引用文献

財政検証で判明、年金「100年安心」ではなかった  2024/08/12 東洋経済 野口悠紀雄

https://toyokeizai.net/articles/-/753368

>>

 

<年金「100年安心」>の年金(オブジェクト)は、年金会計が破綻しないことを指しているのか、個人の年金受取額が十分であること指しているのか、筆者には判断できません。

 

政府は、マクロ経済スライドを使っていますので、<年金「100年安心」>の年金(オブジェクト)は、年金会計が破綻しないことを指しているのであって、個人の年金受取額が十分であること指していないとも思われます。

 

個人の年金受取額が十分ないことを、「安心」と表現することは、明らかに誤解を与えるので、避けるべきであると思います。

 

年金問題の表現には、青い鳥の亡霊が動き回っていて、担当者にはインスタンスのメンタルイメージがないように思われます。

 

簡単な「個人の年金受取額」オブジェクトを考えます。

 

「個人の年金受取額」の分布は、正規分布ではないので、平均値は代表値ではありません。分布のパーセントで、代表値をいくつか選定します。最重要な代表値は、生活保護を受けないで自立している低所得層で、下位から20%付近にあります。

 

アメリカは、政府は年金に関与しませんので、例外です。

 

日本以外の政府による年金会計のある国では、科学的な計算をしています。

 

日本だけが、科学的に間違った計算をしています。

 

ジョブ型雇用では、科学的な計算ができない人は、解雇され、科学的な計算ができる人に入れ替わります。

 

科学的に間違った計算をすれば、食べていけない人が発生します。

 

飢餓が発生します。

 

これは、発展途上国の一部でみられる現象です。

 

4-4)まとめ

年金以外の事例は、今回は、省略しています。

 

年金のインスタンスの扱いは、科学を無視しています。

 

しかし、それでも、インスタンスを取り上げているだけ、マシかもしれません。

 

年金以外には、インスタンスの検討事例はありません。

 

ある経営方針や政策が提示されてたときに、メンタルモデルの共有が出来ていれば、議論(思考実験)ができます。

 

この議論には、インスタンスが含まれます。

 

ある経営方針や政策を作った人が、見落としているインスタンスもあります。

 

議論は、見落としたインスタンスの発見につながります。

 

年功型雇用は、経営方針や政策のバグとりを拒否しています。

 

ソフトウェアの開発では、バグは付き物です。

 

バグには、想定外のインスタンスに対応していないことが原因で発生するものもあります。

 

オープンソース化は、バグを効率よくとる手法です。

 

オープンソース化とは、エビデンスを示せば、誰でも議論に参加できるシステムです。

 

官僚は、無謬主義を主張します。

 

しかし、世の中に、バグのないシステムはありません。

 

つまり、無謬主義の官僚システムの実態は、バグだらけです。

 

バグが残される原因は、インスタンスを無視した形而上学にあります。

 

日本以外の国では、憲法を改正します。憲法を改正する理由は、憲法にバグがあるからです。バクは、インスタンスを参照することで見つかります。

 

筆者は、インスタンスを無視した憲法改正をイメージできません。

 

バグとりのプロセスは、ログには残りますが、公式文書にのることはありません。

 

バグとりは、暗黙知です。