君たちはどう生きるか(5)

8)宇宙船日本経済号

 

日本経済をスペースシャトルに例えれば、加谷珪一氏は、2018年には、Oリングが故障していて、事故になる確率は50%であったが、2024年には、その確率は80%になったという主張になります。

 

2028年までに、Oリングを修理しなければ、宇宙船日本経済号は、爆発事故を起こして、アルゼンチン化します。

 

「Science for People」の視点でみれば、宇宙船日本経済号が、爆発事故(アルゼンチン化)を起こすことを止められなければ、「何のための経済学なのか」、つまり、専門家(社会科学者、官僚、政治家、法曹関係者、企業経営者)には、「何のために生きるのか」という問題が残ります。

 

ここで、紹介した専門家は、アルゼンチン化に対して発言しています。

 

その発言が、問題解決に繋がるかは不明です。

 

しかし、目前の爆発事故のリスクを知りながら、何もしない専門家がいます。何もしない専門家の組織もあります。

 

そのような専門家の方が、マジョリティです。その人には、「何のための専門家なのか」、つまり、「何のために生きるのか」という問題が残ります。

 

官僚は、「仕事とは、予算とポストの獲得である」というメンタルモデルをもっています。因果推論で考えれば、このメンタルモデルは、レジーム・シフトを阻害します。

 

年功型組織も、レジーム・シフトを阻害します。

 

前例主義のブリーフの固定化法も、レジーム・シフトを阻害します。

 

ここにも、「何のために生きるのか」という問題が残ります。

 

太平洋戦争の時には、特攻を止めることができませんでした。

 

特攻は、宇宙船の爆発事故のようなものかも知れません。

 

しかし、戦前の軍人や官僚にも、「何のために生きるのか」という問題を考えてた人もいます。

 

農林官僚は、小作農の貧困問題の解消に関心がありました。

 

農業政策の中で、小作農の貧困問題の解消は、大きな課題でした。

 

戦後の農地解放は、小作農の貧困問題の解消を目的に導入されています。

 

9)推論とメンタルモデル



9-1)ベーコン流の帰納法

 

さて、「7)アルゼンチンの教訓」に登場して頂いた専門家の推論は、主に、ベーコン流の帰納法です。

 

ベーコン流の帰納法には、基本的な欠陥があります。

 

例えば、野口悠紀雄氏が、経済学の理論に基づく演繹的推論をする場合、その考察には、破壊的な威力があります。一方、ベーコン流の帰納法を使う場合には、混乱が起こります。

 

野口悠紀雄氏は、アップルを例に、ベーコン流の帰納法を使って、水平分業にのり遅れたことが、日本の産業の問題であるといいます。

 

アップルなどのスマホを対象に、帰納法を使えば、製造コストを下げるには、水平分業が有効であるという結論が得られます。しかし、この仮説を、スマホ以外の対象にどこまで拡げられるかというトランスポータビリティの問題があります。ベーコン流の帰納法は、トランスポータビリィティについて何もわかりません。

 

統計学で言えば、「製造コストを下げるには、水平分業が有効である」という因果モデルを使うには、交絡因子の違いを考慮する必要があるという問題です。

 

テスラや中国のEVメーカーは、垂直統合で生産しています。水平分業か、垂直統合かという二者択一の推論には、バイナリーバイアスがあります。経済合理性で考えれば、経営者は、コストを考慮して、水平分業か、垂直統合かの選択をすれば、良いことになります。

 

つまり、「水平分業にのり遅れたことが、日本の産業の技術革新の問題である」という課題整理もできますが、「経営者は、コストを考慮して、水平分業か、垂直統合かの選択ができなかったことが問題である」という整理も可能です。

 

これは、ベーコン流の帰納法の持っている問題です。



9-2)アブダクション

 

ベーコン流の帰納法には、トランポータビリティと交絡因子以外に、決定的な欠陥があります。

 

それは、反事実の推論が出来ない点です。技術革新には、反事実の推論が欠かせません。

 

飛行機をつくるときに、鳥をモデルにベーコン流の帰納法をつかっても、グライダーしか作れません。プロペラ機やジェット機をつくるには、現実には存在しないプロペラやジェットエンジン(反事実)の推論が必須です。

 

年功型組織と官僚の天下りは、産業構造のレジーム・シフトを阻害します。

 

「産業構造のレジーム・シフトの阻害がある(結果)」から、原因になりそうな要素をメンタルモデルで、探索する方法が、アブダクションです。

 

アブダクションでは、「年功型組織と官僚の天下りが無ければ(原因)=>産業構造のレジーム・シフトが起こる(結果)」という因果モデルを作ることができます。

 

橘玲氏の著書を再度引用します。

オーストラリア人の若者に「日本では、新卒で入った会社に定年まで勤めることが理想とされている」と話したら「Scary(おぞましい)」と言われたことがある。

>(テクノ・リバタリアン、p.258)

 

これは、年功型組織は、「Scary(おぞましい)」という主張です。

 

日本国憲法は、職業選択の自由や、能力に応じてチャンスが得られる人権を保障しています。

 

年功型の賃金体系は、人権無視の憲法違反になっています。

 

筆者は、このことが、性差別がなくならない原因であると考えます。

 

そこで、憲法違反の年功型組織は1年以内に解体しなけれならないという法律を作ったと仮定します。

 

その場合、労働市場ができるので、産業構造のレジーム・シフトが急速に進むはずです。

 

もちろん、これは、推論なので、間違っている可能性があります。確率で考えれば、正答率は、20%くらいかも知れません。

 

しかし、大切なことは、ベーコン流の帰納法では、このような反事実の推論がまったくできないという点にあります。

 

9-3)経済学の限界

 

経済学の理論には、市場が機能して、経済合理性が満足している前提があります。

 

この前提からの逸脱が、小さな場合には、経済学の理論が近似的に使えますが、逸脱が大きいと、理論は、現実と遊離して、使えなくなります。

 

年功型雇用が多い日本では、労働市場がありません。

 

これは、市場原理で説明できる労働経済学が存在しないことを意味しています。

 

市場を前提としないと微分法方程式が解けないので、経済理論はなりたちません。

 

現実には、市場が成立していない場合もあり、そのような場合は、中抜き経済または、ピンハネ経済になります。

 

円安が進めば、原材料の円の輸入価格が上がってコスト増になります。輸出企業は、コストが上がったぶんを円の製品価格に転嫁できます。

 

円安が進んでも、原材料のドルの輸入価格は変わりません。輸出企業は、ドルの製品価格を据え置きます。

 

一方、賃金は、円表示です。つまり、円安になると、ドル表示の賃金が下がります。

 

円安になるとドル表示の価格に変化がなくても、円表示の価格が上がります。

 

ここで、労働市場があれば、円表示の賃金は、円安前のドル換算の賃金になるまで、上昇します。その場合には、円安になっても、輸出企業のドル表示の利益に変化はありません。

 

円安になれば、輸出企業のドル表示の利益が増える理由は、円表示の賃金が、円安前のドル換算の賃金になるまで上昇しないためです。

 

つまり、円安で、輸出企業のドル表示の利益が増える理由は、労働市場がなく、中抜き経済になっているため、労働者から、企業への所得移転が生じるためと考えられます。

 

この推論は、労働市場の存在を否定している推論なので、経済学の教科書から逸脱しています。

 

この推論が正しければ、年功型雇用を解体して、労働市場をつくれば(つまり、経済学の教科書の理論が通用する世界にすれば)、円安を希望する経営者はいなくなり、労働者の実質賃金の低下は起らないことになります。

 

また、通貨安で企業がもうかるというメカニズムは、労働市場がない日本固有の現象であるという説明になります。

 

円安で、企業がもうかる仕組みは、労働市場がないことで生ずる中抜き経済に原因があるという仮説です。

 

この仮説は、反事実なので、アブダクションではつくることができますが、ベーコン流の帰納法では、生まれません。

 

系列取引をみていると、中間財の市場は、機能していない可能性が高いです。

 

市場が機能している場合には、原材料の価格が上がった場合に、その費用を転嫁できないという人がいます。系列取引は、中抜き経済であると言われています。そうすると、ここでも、労働市場がないことと、同様の問題が発生しています。

 

市場原理が働かない世界では、経済学は無力です。

 

資本主義は、市場原理を前提としています。市場原理が機能するためには、寡占を排除して、情報の公開や企業活動の透明性、経営判断からの利害関係者の排除が行なわれています。

 

市場原理が守られない場合には、企業経営が合理的に進められません。その場合、株価の将来予測は不可能になります。こうした企業の株式を購入することは、ギャンブルになり、推奨できません。

 

経済学は、経済成長を最大化するための資源の配分方法を検討する学問です。

 

経済学は、経済的な合理的な判断(意思決定)をする人間と市場経済を前提としています。

 

経済学が成り立たない場合には、資源配分の効率性が低いことになります。

 

経済学が成り立たない場合でも、ブリーフの固定化法(意思決定)を調べることができます。

 

恐らく、ベーコン流の帰納法で、過去の政治プロセスをみれば、そこには、権力闘争があり、お金やポストで、票を買うようなプロセスがあると思います。政治学者の中には、こうした過去の政治プロセスをベーコン流の帰納法で分析して法則を見出すことが政治学であると考えている人もいると思います。

 

しかし、ベーコン流の帰納法による推論には、トランスポータビリティと交絡因子の問題を抱えています。利権のシステムを使ってお金やポストで、票を買うようなプロセスをとった場合には、経済合理性がなくなり、重篤な貧困問題が派生します。そうなると、2024年7月のバングラディッシュのように治安が悪化して社会不安になります。

 

ブリーフの固定化をメンタルモデルで分析するアプローチは、人間の認知システムのモデルを分析する方法です。

 

政治が利権のシステムになるためには、総裁選で投票する国会議員が、政治とは利権のシステムであり、多数決をとれば、あとは無理ができるというメンタルモデルを共有していることが前提です。利権のシステムのメンタルモデルが共有されているのか、リバタリアンのように、利権のシステムを排除した最小規模の政府のメンタルモデルを共有しているかで、投票結果は変わります。

 

メンタルモデルの理論によれば、人間は、メンタルモデルをつかって推論を行ない、コミュニケーションをとります。メンタルモデルから、自由になって、推論ができる人間はいないことになります。

 

メンタルモデルが唯一の方法ではありませんが、筆者は、経済学が限界に達して、経済理論が使えない場合には、経済学者は、他のツールを併用する必要があると考えます。

 

9-4)メンタルモデルの越境

 

数学のメンタルモデルは、専門分野を超えて越境します。

 

これが、エンジニア(数学)教育が重要な理由です。

 

高度経済成長のときに、政府は傾斜生産方式をとりました。

 

この政府主導政策の評価は、場面によって分かれると思います。

 

筆者は、小学生の時、政府の主張を学習しました。

 

記憶に残っている範囲では、次のような説明でした。

 

日本は、土地や地下資源などの資源のない国である。

 

日本の唯一の資源は人材である。

 

日本が経済成長するためには、資源を輸入せざるを得ない。

 

資源を輸入して、人材を活用して、輸出する(加工貿易)ことが、国が経済成長する唯一の方法である。

 

生徒諸君は、よく勉強して、優秀な人材になるように心がけるべきである。

 

加工貿易を優先するので、資金は、輸出産業に集中して、国民にはまわらない。

 

しかし、我慢すれば、国民は、将来、必ず報われるはずである。

加工貿易を優先するので、資金は、輸出産業に集中して、国民にはまわらない」という主張は、池田首相の「国民は麦を食え」(米を食べないで、我慢せよ)という主張になります。

 

実際に、池田政権は、所得倍増計画を実現しています。

 

社会化の事業では、太平洋ベルトの工業地帯が大きく紹介され、工業地帯は日本の未来を開く、象徴でした。

 

この時代には、加工貿易による立国というメンタルモデルを、小学生も共有していました。

 

メンタルモデルの共有がありましたので、コミュニケーションが成立しました。

 

池田政権の所得倍増計画と、岸田政権の所得倍増計画を、メンタルモデルで比べれば、違いは明確になります。

 

さて、加工貿易モデルのメンタルモデルには、連続方程式のメンタルモデルが含まれます。

 

流体力学のメンタルモデルでは、コントロールボリューム(ここでは、日本国)への流入と流出は、コントロールボリューム(CV)の圧力変化が無視できる場合には、均衡します。

 

これは、物理学の物質不滅の法則に対応します。

 

つまり、加工貿易のメンタルモデルは、物質不滅の法則に対応しています。

 

式で書けば、次になります。

 

輸入(流入)+輸出(流出)=0 for CV=日本

 

この式には、時間が入っていません。

 

短期的には、「輸入=輸出」にはなりませんので、圧力変化に相当する「一時ストック」の項を追加する必要があり、次式になります。

 

輸入+輸出=一時ストック for 日本、期間

 

9-5)メンタルモデルの越境例

 

メンタルモデルの威力の例を示します。

 

題材は、野口悠紀雄氏の「どうすれば日本経済は復活できるか」です。ここで、筆者は、野口悠紀雄氏の推論のパターンは、経済学者のメンタルモデルを代表していると仮定しています。

 

「第3章 今後の日本経済はどうなる」の「3.貿易収支が20兆円の赤字に」と「4.経常収支が赤字になるとどうなる?」の2つの節で、経常収支の説明をしています。

 

ここでの推論の方法は、べーコン流の帰納法になっています。

 

今後、日本の経常収支は赤字になる可能性が高いです。野口悠紀雄氏は、「経常収支の赤字は、回避すべき」という主張があると紹介しています。

 

野口悠紀雄氏は「この考え方が正しいかどうかは疑問だ。アメリカは、経常収支の赤字を続けているが問題が生じていない。その理由は、国が成長できるという確信が持てるからである」といいます。

 

しかし、この推論は、ベーコン流の帰納法の問題を抱えています。

 

「経常収支の赤字は、回避すべき」という主張は、連続方程式に対応していて、物質不滅の法則になっています。筆者のメンタルモデルでは、物質不滅の法則の破綻した事例はありません。短期的には、流体力学の圧力変化に対応するストックの変化がありますが、時間を長くとれば、ストックの変化は、ゼロになります。このストック(圧力)の変化が、どのようなプロセス(例えばランダムプロセス、注1)に従っているかは、検討すべき事項ですが、「経常収支の赤字を、回避する必要がない」という主張は、連続方程式を無視しています。

 

統計学のメンタルモデルでは、「アメリカが、経常収支の赤字を続けていても問題が生じていない」とう現象は、交絡因子が効いていると考えることができます。

 

このメンタルモデルでは、経済学の課題は、交絡因子の解明になります。

 

中国は、EV(中心はバッテリー)の生産で、圧倒的な価格優位性を獲得しています。俗に産業のコメと呼ばれる素子や、エネルギー生産で、競争優位が得れば、交絡因子は大きく変化します。「国が成長できるという確信」は、実体のないプラセボ効果です。株価や資金調達には、プラセボ効果が影響しますが、ノイズを除去して、「産業のコメと呼ばれる素子や、エネルギー生産で、競争優位」のような実体経済の指標で交絡因子を分析する方法が、本筋であると考えます。

 

筆者には、「国(アメリカ)が成長できるという確信」に対応するインスタンスが想像できません。

 

「科学技術論文と宇宙開発のレベル」では、アメリカの優位は失われて、中国がトップになっています。「科学技術論文と宇宙開発のレベル」が、「国(アメリカ)が成長できるという確信」であれば、アメリカから中国へのキャピタルフライトが起こります。そうならない理由は、中国に対する投資が回収できなくなる可能性があるからです。もちろん、「中国に対する投資が回収できなくなる」か否かは、将来のことですから、ベーコン流の帰納法では検討できませんが、メンタルモデルで演繹すれば、判断が可能です。

 

アメリカは、対中国に対して、「国(アメリカ)が成長できるという確信」を維持できるビジョンを見失っています。

 

筆者には、野口悠紀雄氏(恐らく主流の経済学者は)は、ベーコン流の帰納法のメンタルモデルから抜けられていないように見えます。

 

「どうすれば日本経済は復活できるか」の「第3章 今後の日本経済はどうなる」のまとめには、「経常収支の赤字は、回避すべき」とは書かれていません。読者は、日本も、アメリカのように、「国が成長できるという確信」をつくれれば、経常収支の赤字を続けられると解釈する人もありえます。しかし、筆者には、この解釈は、野口悠紀雄氏の期待にあっていないと思います。

 

筆者には、経済学者は、物質不滅の法則は成り立たない世界を好むメンタルモデルを持っているように見えます。物質不滅の法則が成り立たない世界では、永久機関ができ、エネルギー問題は存在しません。

 

これが、MM理論の世界です。エンジニアのメンタルモデルでは、「経常収支の赤字を続けられる」と「MM理論」は、物質不滅の法則が成り立たない世界の議論に見えます。この問題を、べーコーン流の帰納法で論じても、過去に起ったことが未来も継続する理由はないので、何も得られません。

 

エンジニアのメンタルモデルでは、連続方程式は、今まで破られていない法則なので、加工貿易の理論なら、理解できます。現在の産業の中心は、工業ではなく、情報産業です。これに対応すれば、加工貿易の理論をリフォームすれば、デジタル貿易の理論になります。

 

高度成長期の政策を繰り返すのであれば、小学校の社会科に、デジタル貿易の理論をいれて、メンタルモデルの共有をはかります。「貧乏人は麦を食え」か、「欲しがりません勝つまでは」のメンタルモデルであれば、文系の区分をなくして、文系の大学は閉鎖します。法律と経済と文学は、AIに対応できるように、コンピュータを使った科学の方法に組み換えます。日本の資源は人材だけですから、ここで手を抜くわけにはいきません。人材不足であれば、明治政府のように外国人を使います。傾斜生産方式ですから、デジタル産業以外への補助金は打ち切ります。デジタルベンチャーへの資金供給を優先します。

 

これは、極論ではなく、加工貿易の理論をバージョンアップすれば、こうなるという分析です。

 

また、「文系の区分をなくして、文系の大学は閉鎖する」のは、デジタル社会へのレジーム・シフトでは必然的におきます。決して過激な想定ではありません。デジタル社会へのレジーム・シフトを拒否しない限り、この流れは止まりません。1980年頃に、チベットで牛車が街を走っている風景を見て、日本の平安時代であると言った日本人がいます。2024には、日銀が、新紙幣をだしましたが、それを、20世紀の中国だといった中国人がいます。技術革新から取り残された文系は、紙幣のようなものに見えます。

 

現状の日本は、デジタル赤字にあえいで、デジタル高度人材の海外流出が止まりません。

 

これは、デジタル貿易の理論のメンタルモデルで考えれば、最悪のシナリオが進行していることになります。

 

「8)宇宙船日本経済号」のメンタルモデルで考えれば、課題は、Oリングを見つけて修理することです。

 

「創造的破壊」のメンタルモデルでは、産業構造のレジーム・シフトの遅れが、Oリングになります。

 

アルゼンチン化を避けるには、全てを中断して、全リソースを「産業構造のレジーム・シフト」に、集中すべきです。

 

「欲しがりません勝つまでは」のメンタルモデルで考えれば、レジーム・シフトを遅らせるシェアライド、無人運転の遅れ、経済効果のないマイナンバーカードは、アルゼンチン化を進める国賊の仕業であると言えます。

 

「欲しがりません勝つまでは」のメンタルモデルには、「何のために生きるのか」という問題がある点に注意して下さい。

 

注1:

 

「ストック(圧力)の変化が、どのようなプロセス(例えばランダムプロセス)に従っているかは、検討すべき事項である」と書きましので、補足しておきます。

 

ベーコン流の帰納法は、微分(偏差)を使わなければ、対象を定常であると仮定していることになります。つまり、前例主義をモデル化することになります。

 

時系列解析(トレンド分析)では、定常でない過程を取り扱いますが、時系列は因果ではないので、過去のパターンが、将来繰り返すことはありません。

 

統計的因果モデルでは、原因と交絡条件に変化がなければ、トレンドが維持されます。これは、トレンド分析ではない点に注意が必要です。

 

時系列データ分析の応用に生存時間解析があります。がんであれば、ステージ毎に、1年、2年と5年先までの生存確率の数字を計算してくれる優れものです。生存時間解析では、原因(がんのステージ)と交絡条件に変化がなければ、時系列のパターンが維持されます。交絡条件の代表は、新薬の開発です。肺がんについては。過去10年の間に、新薬により劇的な生存確率の向上(時系列のパターンの変化)がみられています。

 

生存時間解析は、トレンド分析のように見えますが、原因(がんのステージ)を含んでいるので、因果モデルです。因果のない時系列データ分析から将来を予測することは出来ません。

 

「7)アルゼンチンの教訓」では、経済の専門家のデッドラインの予測を紹介しました。その数字は、トレンド分析のように見えます。

 

「創造的破壊」のメンタルモデルでは、産業構造のレジーム・シフトの遅れが、アルゼンチン化の原因です。

 

つまり、専門家のデッドラインの予測は、「産業構造のレジーム・シフトの遅れ」を考慮している場合には、因果モデルになっていて、これを考慮していない場合は、トレンド分析になっています。

 

トレンド分析には、科学的な根拠はありません。つまり、正確に言えば、「予測できない」と発言すべきです。

 

科学的根拠のない予言は、本来避けるべきですが、視聴率を優先するマスコミは好みます。また、それに、迎合する学者も多数います。学者が、科学的に、それは、予測できないと言えば、マスコミに登場することはありません。筆者、誤情報だらけのテレビはみませんが、テレビをみると、科学的根拠のない占いは当たるというメンタルモデルの洗脳を繰り返すことになります。

 

著名な投資家の推論は、徹底した因果推論です。2024年8月現在、著名投資家ウォーレン・バフェット氏の投資・保険会社バークシャー・ハサウェイは、株式を売って、過去最大のキャッシュを保持しています。これは、これから株価が下がるという判断です。バフェット指数でみるように、大局では、この判断に間違いはありませんが、バークシャー・ハサウェイ保有株を選抜をして売っています。今後、株価が下がれば、バークシャー・ハサウェイは、下がった株を選抜して購入するでしょう。この何を売って、何を買うかという銘柄選択の判断は、バークシャー・ハサウェイの因果推論モデルに依存します。そして、因果推論モデルは企業秘密になります。

 

日本では、株価が上がるという予測があれば、金融商品が売れるので、利害関係者として、科学的な根拠(因果推論モデル)なしに、株価があがると書く人が大勢います。

 

著名な投資家の推論は、これとはまったく異なる科学的な推論です。バークシャー・ハサウェイは、株価が下がるという予測で、投資家の信頼を得ています。投資家から預かった資金を現金化して、次の株購入の機会を待っています。

 

因果モデルでは、生存時間解析と同じように、「原因と交絡条件に変化がなく、時系列のパターンが維持される」場合を想定しています。

 

肺がんのように、新薬が開発されれば(交絡因子が変化すれば)、デッドラインは動きます。

 

ただし、デッドラインが近づいているので、「デジタル貿易の理論」レベルの劇薬の処方梨に、アルゼンチン化を回避することは難しいと思います。

 

時系列は因果ではありませんが、例外として、ランダムプロセスの近似が成り立つ場合には、ブラックーショールズ方程式で、時系列の確率予測が可能になります。

 

ストックの変化にランダムプロセス以外の近似を適用する可能性はありますが、現時点では、良い近似になるプロセスは見つかっていないので考えなくてよいと思います。