チャレンジャー号爆発事故は、1986年1月28日、アメリカ合衆国のスペースシャトル「チャレンジャー」が打ち上げから73秒後に分解し、7名の乗組員が全員死亡した事故です。
機体全体の分解は、右側固体燃料補助ロケット(Solid Rocket Booster、SRB)の密閉用Oリングが発進時に破損したことから始まった。
予報によれば、1月28日の朝は異常に寒く、発射台周辺の気温は打ち上げ実施可能な下限値である−1℃の近くまで下がるとされた。27日の夜、SRBの製造とメンテナンスを受け持つサイオコール社の技術者と幹部は、ケネディ宇宙センターとマーシャル宇宙飛行センターにいるNASAの幹部と遠隔会議を開き、気象条件に関する討議を行った。何人かの技術者(特に、ロジャー・ボージョレー)は、SRBの接合部を密封するゴム製Oリングの弾力性が異常低温によって受ける影響について不安を表明した。
結果としては、Oリングの損傷が、爆発の原因になった。
サイオコール社の担当者については、次の2点が問題になる。
第1は、サイオコール社は、チャレンジャー号爆発事故に対して、責任があるかという点です。
第2は、「なんのために生きるのか」という問題に基づけば、別の行動をとるべきではなかったかという疑問です。
5)日本経済の未来を賭けた戦い
「日本経済の未来を賭けた戦い:起業家対大企業(The Contest for Japan's Economic Future: Entrepreneurs vs Corporate Giants)2023/12/27」は、リチャード・カッツ(Richard Katz)氏の最近の著書です。
カッツ氏は、カーネギーカウンシルのシニアフェローで、フォーリン・アフェアーズ、フィナンシャル・タイムズなどにも寄稿する知日派ジャーナリストで、経済学修士(ニューヨーク大学を卒業しています。
この本には、次の点が書かれています。
(A1)問題点を分析して、ルーツの原因を推定している。
(A2)問題を解決する手順を提案している。
(A3)一般に専門家に共有されているメンタルモデルを使って説明がなされている。
リチャード・カッツは経済学者ではないので、推論はここまでですが、経済学者であれば、次が望まれます。
(A4)仮説の検証結果が提示されている。
あとで、日本の経済学者等の発言を分析する予定です。
カッツ氏を最初に引用する理由は、筆者が、日本人の問題解決にむけたアプローチが、カッツ氏のような国際標準のアプローチと異なると考えているためです。
AMAZON等の内容紹介は以下です。
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日本経済の未来を賭けた戦い:起業家対大企業
起業の波が戦後の日本の「経済の奇跡」を生み出したのと同じように、停滞した経済を復活させるには新しい世代の起業家が必要です。既存企業が支配する複雑な流通システムにより、新規参入者は製品を店頭に並べることさえ困難になっています。
幸いなことに、大きな社会の変化により、新しい機会が開かれています。仕事や男女関係に対する考え方の世代交代により、ますます多くの有能な人々が新しい企業に集まっています。これには、従来の企業で昇進を断られがちな野心的な女性も含まれます。電子商取引の台頭により、何万人もの新規参入者が従来の流通システムを回避し、何百万人もの顧客に製品を販売できるようになりました。30 年にわたる低成長により、エリート層と一般市民の両方で多くの人が変化の必要性を確信しました。
それでも、強力な勢力の抵抗により、進歩は依然として困難な道のりです。銀行融資は依然として非常に困難です。たとえば、「終身雇用」制度により、新規参入者が必要なスタッフを採用することは非常に困難になっています。銀行は大企業と同じ複合企業に属していることが多く、新興企業への融資には消極的です。政府の一部は新興企業をもっと促進しようと努めているが、他の部分は規制、税制、予算に必要な変更を加えることに抵抗しています。
日本の経済の将来は、この本で詳述されている競争によって決まるでしょう。
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<< 引用文献
The Contest for Japan's Economic Future: Entrepreneurs vs Corporate Giants Richard Katz
https://www.goodreads.com/book/show/149062220-the-contest-for-japan-s-economic-future
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「内容紹介」では、わかりにくい点があるので、Rochelle Kopp氏による書評の一部(筆者要約)を引用します。
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カッツ氏は、経済が繁栄し、生活水準が上昇するためには、シュンペーターが「創造的破壊」と呼んだ、古い企業が革新的な新しい成長企業に道を譲る必要があるという。
日本経済は、1950年代後半から1970年代前半の高度成長期には、そのようなダイナミズムを持っていました。しかし、1970年代の石油ショック後、日本の指導者たちは社会の安定を優先し、創造的破壊を減速させました。そして、その安定の要は、より広範な社会保障ではなく、労働者の現在の会社での仕事とされました。これにより、どんな犠牲を払ってでもこれらの雇用を守らなければならないという圧力が生まれ、政治家たちは「ゾンビ」企業を最盛期を過ぎても支え、余剰労働者の解雇を防ぐために賃金を補助しました。
その結果、新しい企業が成長するために必要な労働力、資金、不動産を得ることが難しい環境が生まれています。これらの資源は、既存の老舗企業によって独占されているからです。そのため、日本では新しい企業があまりに少なく、生産性の高い新しい企業に道を譲るために廃業する老舗企業もあまりに少ないのです。言い換えれば、変化や革新が難しい老舗企業の優位性が、日本経済全体の成長を鈍化させているのです。
最近の日本の起業家の波があります。また、世代間の考え方の変化、技術の変化、ジェンダー規範の進化、日本の人口減少の影響、低経済成長による政治的ストレスなど、メガトレンドの合流が日本に何か違うことをするきっかけを与えています。
かつては起業に不利な経済だとみなされていたフランスは、賢明な政策措置を講じることで態度を素早く変え、新しいスタートアップを育成できました。日本もそうできないはずがありません。税制優遇措置と政策の微調整を少し行えば、日本は起業家を奨励し、経済に活力を取り戻すことができます。必要なのは、日本の政治家が惰性や政策の骨抜き傾向を克服することだけです。
アベノミクスの3本の矢がなぜ大した効果をあげなかったのか、そして日本の政治制度がなぜ新しい政治体制を敷くのを難しくしているのかについて、カッツ氏は明快だが気が滅入る説明をしています。
日本政府の要職に就いている人たちがカッツ氏の本を読んで、日本社会の起業家精神を解き放つために必要な変革を起こすよう刺激を受けることを期待しましょう。そうならない限り、日本経済が以前のような活力を取り戻すことは難しいでしょう。
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<< 引用文献
Book review: The Contest for Japan’s Economic Future: Entrepreneurs vs Corporate Giants by Richard Katz by Rochelle Kopp
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要点を繰り返せば、日本経済が復活する(経済が繁栄し、生活水準が上昇する)ためには、シュンペーターが「創造的破壊」と呼んだ、古い企業が革新的な新しい成長企業に道を譲る必要があります。
日本経済の停滞は、1970年代の石油ショック後(田中内閣以降)、発生しています。田中角栄氏は、自民党政治の利権システムを完成させ、そのシステムが現在も生きています。
カッツ氏は、「政治家たちはゾンビ企業を最盛期を過ぎても支え、余剰労働者の解雇を防ぐために賃金を補助」してといいますが、その原型は、田中角栄氏の日本列島改造にあり、過疎集落に膨大な公共投資をして票を稼ぐことが政治であるというモデルを作りました。
令和6年能登半島地震の被災に対しては、公共投資が少ないので、弱者切り捨てであると批判する人がいます。日本列島改造では、過疎集落に対して、公共投資がなされた一方では、個人救済は放棄されています。政治家たちはゾンビ企業を最盛期を過ぎても支え、余剰労働者の解雇を防ぐために賃金を補助した一方で、解雇された個人に対する救済は放棄されています。これは、個人に対する救済では、政治献金の見返りが期待できないためです。日本では、所得は、個人の能力ではなく、属する企業組織と政府のヒエラルキーの関係で決まっています。日本語版のウィキペディアをみると小泉政権は、既得利権を切り崩したように書かれていますが、それは、法律のお題目であって、「新しい企業が成長するために必要な労働力、資金、不動産の資源は、既存の老舗企業によって独占されている」いる状況はまったく、変わっていません。
陳建甫氏は、バングラデシュの社会不安が、中国に伝播するリスクがあるといいます。
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1971年の独立後、バングラデシュは退役軍人とその子孫に公務員採用枠の30%を割り当てる政策を導入した。特別採用枠の復活を受けて各地で抗議デモが起き、同枠は最終的に廃止された。ところが、バングラデシュ高裁が2023年6月に再びこの特別採用枠を復活させ、それをきっかけに社会不安が一気に高まった。
中国では現在、毎年1,300万人以上の新卒者を輩出しているが、失業率が高く、雇用市場の悪化が進んでいる。こうした状況の中、中国政府は「鉄飯碗」制度(公共セクターの雇用を中心に国や政府が提供する終身雇用・雇用保障モデルのこと)での公平性の確保という課題に直面している。
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<< 引用文献
中国の「鉄飯碗」は崩壊するのか。バングラデシュから得た教訓 2024/08/27 中国問題グローバル研究所 陳建甫
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日本では、WEBをみると、どの大学に入学して、どの大企業に就職するかが最大の関心事です。企業ごとの平均年収のランキング記事には、人気があります。
ファーストリテイリング財団の理事長の柳井氏は、次のようにいいます。
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財団の活動のひとつとして、バングラデシュにあるアジア女子大学(AUW:ASIAN UNIVERSITY FOR WOMEN)の支援を行っています。貧困層や難民の女性たちに高等教育を提供するため、2008年に開学したんですけれども、卒業生の多くはオックスフォード大学だとか、コロンビア大学、パリ政治学院などに進学したり、政府系団体、世界銀行、WHO、グローバル企業などで活躍していますが、残念ながら現在日本で働いている卒業生は1人もいません。
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<< 引用文献
“このままでは日本人は滅びる” ファーストリテイリング柳井社長が語る危機感…世界から見て“年収200万円台の国”日本はどう生き残る?
https://news.yahoo.co.jp/articles/c1a844f91f6bd5449cd12427cf34542327f45b5c?page=1
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アジア女子大学のランキングは以下です。
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#2330 of 5,830 in Asia
#37 of 129 In Bangladesh
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Asian University for Women: Rankings
https://edurank.org/uni/asian-university-for-women/rankings/
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アジア女子大学は決して、ランキング上位の大学ではありません。
しかし、大学のトップの成績の生徒は、世界の一流を目指しています。
日本の年功型雇用が崩壊する時に、日本の大学の卒業証書は、価値がなくなります。
そのときには、バングラデシュのような社会不安が一気に高まると思われます。
そのときは、起業家が、大企業を逆転する時でもあります。
成田悠輔氏は、東大生の希望する就職先が、2000年代後半には、霞が関から、外資系の戦略コンサルティング会社や投資銀行に変わり、最近では、IT企業や商社、起業に変わっていると言います。(文芸春秋2024年8月号、p.133)
2000年代後半には、年功型雇用で、人材確保ができなくなり、高度人材は、人材の国際市場を目指すようになったといえます。
人材の国際市場を目指すのであれば、アジア女子大学の卒業生のように、日本の大学や日本企業はキャリアにはなりません。
既に、日本も、高度人材の国際市場に取り込まれています。
起業家が、大企業を逆転する時には、大企業には、高度人材がいなくなっていると思われます。人材がない企業には、価値がありません。