「因果推論の科学」をめぐって(47)

注:これは、ジューディア・パール、ダナ・マッケンジー「因果推論の科学―「なぜ?」の問いにどう答えるか」のコメントです。

 

(47)天気予報が世界を変える

 

1)陰陽師の世界

 

中世の日本では、陰陽師が活躍していました。

 

未来は不確定で、運が左右します。

 

運は、怨霊が、左右します。

 

怨霊とは、人間の自由意思の塊です。

 

マクロな物理学の世界観は、決定論の世界です。

 

人間の意思によって、物体の移動が変化することはありません。

 

世の中の全てが決定論であれば、人間の自由はなく、自由意思は幻想になります。

そうなると、努力しても無駄になります。

 

陰陽師のように、自由意思では何でもできるわけではありませんが、自由意思は幻想で、実は、自由意思ではなにもできないのも困ります。

 

現在では、陰陽師の世界をそのまま認める訳にはいきませんが、陰陽師は、人間の思考パターンを反映しており、その思考パターンがあると、進化の過程で、生き残るために有利であった可能性を考慮すべきであると思います。

 

陰陽師の思考パターンは、怨霊(自由意識)が原因で、結果が起こるという因果モデルになっています。

 

人間の思考パターンには、結果に対して、原因を求めないと不安になる傾向があります。

 

人間の思考は、常に、因果モデルを求めます。

 

一方で、モデルの検証には、まったく、無頓着です。

 

統計学を習得していない人は、交絡因子も気になりません。

 

さて、陰陽師は、運をあやつることができませんでした。

 

400年前に、賭博師は、運をあやつる方法を見出しました。

 

これが確率論の始まりです。(p.17)

 

賭博師たちは、「人を騙し、誤った選択をするように巧みに誘導する」(p.17)ようになりました。

 

「確率論」は、この問題を解決するために、開発されました。

 

投資のなりすまし詐欺があります。

 

効果のない民間療法があります。

 

がんの場合、手術をしなくても、治るという説明にのせられて、民間療法を受けて、手遅れになる人があとをたちません。

 

マスコミは、投資のなりすまし詐欺に注意するように、呼びかけています。

 

しかし、筆者は、こうした注意喚起の効果は小さいと思います。

 

それは、400年前に起こったことの再現に思われるからです。

 

詐欺にかからないためには、確率論を理解するしか方法がありません。

 

政府は、生成AIのフェイクを取り締まるといっています。

 

筆者は、それは不可能であると考えます。

 

生成AIのフェイクを取り締まることはできますが、そのための手順には、確率論が含まれます。

 

詐欺にかからないためには、確率論を理解するしか方法がないのです。

 

確率論なしに、生成AIのフェイクを取り締まることはできません。

 

2)確率のメンタルモデル

 

「因果推論の科学」には、確率のパラドックスの話が多数出てきます。

 

このパラドックスは、数学的には、何も問題はありません。

 

人間の因果のメンタルモデルと比較するとパラドックスに見えます。

 

人間は、直観を使って判断します。

 

確率論の学習が困難な理由は、数式を頭で理解するだけでは不十分で、この直観を補正する必要があるためです。

 

株価は、基本的にはランダムプロセスです。完全なランダムプロセスを前提としたブラックーショールズ式が公開されてから、ランダムプロセスから若干ずれていますが、大筋では、ランダムプロセスです。

 

いかさまのない賭博は、ランダムプロセスですが、人間の直観は、そのままでは確率からずれます。このずれの性質を理解していれば、胴元は、賭博で儲けることができます。

 

株式市場も同じで、人間の直観は、そのままでは確率からずれます。このずれの性質を理解していれば、株式市場で儲けることができます。これは合法ですが、株式では、ファンダメンタルズについての因果モデルも使えますので、直観のズレで儲けるか、ファンダメンタルズで儲けるかは、戦略の違いになります。

 

さて、詐欺にかからないためには、確率の直観を磨くことが大切であることがわかりました。

 

確率のメンタルモデルをトレーニングすればよいことになります。

 

3)天気予報

 

確率予報で、一番身近なものは、天気予報です。

 

天気予報の精度はかなり高いので、予測確率のメンタルモデルが形成されます。

 

8月8日に宮崎県で震度6弱の揺れを観測したマグニチュード7.1の地震が発生しました。

 

気象庁は、「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」を発表しました。

しかし、地震の予報の精度は低いので、地震予報のメンタルモデルを作ることはできません。

 

確率のメンタルモデルは、確率値と実際に起ったイベントを比較して学習すれば、作ることができます。

 

大切なポイントは、確率の正しいメンタルモデルができれば、詐欺にあったり、騙されるリスクが減るという点です。

 

パーティ券問題では、検察は、議員がパーティ券の会計処理に関与したかを問題にしています。

 

パーティを再開した議員もいて、パーティ券の会計処理に関与していなければ、問題がないと考えているようにみえます。

 

しかし、有権者からすれば、パーティで集金することは、利権の政治を行なっている可能性が高いことを意味します。会計処理の指示を誰がしたかは問題ではありません。

 

過去のデータから1年あたりのパーティの開催回数、集金額の統計値を求めることができます。

 

これらのデータから、次の1年に、各議員が、開催するパーティの回数と集金額の期待値(確率値)を求めることができます。

 

これらの予測数字と実際の事後の数字を比べれば、パーティ確率のメンタルモデルをつくることができます。

 

公約の達成度についても、同様に、確率を計算することができます。

 

これは、政治予報と言えます。

 

これらの確率のメンタルモデルをつくれば、選挙では、有権者のためと言いながら、実際には、利権を優先している詐欺の確率についてのメンタルモデルをつくることができます。

 

天気予報が当たれば、メンタルモデルができて、傘をもっていくかの判断ができるようになります。

 

同様に、政治予報の精度があがれば、誰に投票するべきかの判断ができるようになります。

 

パール先生がいうように、確率は非常に大切です。