注:これは、ジューディア・パール、ダナ・マッケンジー「因果推論の科学―「なぜ?」の問いにどう答えるか」のコメントです。
(46)メンタルモデル
1)因果推論の科学
「因果推論の科学」は、メンタルモデルを前提にしています。
メンタルモデルは、AIの研究の基礎に関係しています。
AIでは、人間の脳の活動をコンピュータ上にコピーします。
その際に、人間の脳の活動をどのようなモデルで表わすかが、システム設計の基本になります。
その代表的なモデルがメンタルモデルになります。
日本では、メンタルモデルがまったく理解されていないので、今回は、英語版のウィキペディアを中心に、メンタルモデルを学びます。
2)ウィキペディア
最初に、日本語版ウィキペディアを参照します。
2-1)メンタルモデル(日本語版ウィキペディア)
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メンタルモデル(英: mental model)とは、頭の中にある「ああなったらこうなる」といった「行動のイメージ」を表現したものである。表象 (representation) と密接な関係を持つ。
概要
メンタルモデルは、外界の現実を仮説的に説明するべく構築された内的な記号または表現であり、認識と意思決定において重要な役割を果たす。メンタルモデルが構築されると、時間とエネルギーを節約する手段として慎重に考慮された分析を置換する。
単純な例として、「野生動物は危険だ」というメンタルモデルがあるとする。このメンタルモデルを保持する人は、野生動物に遭遇したとき反射的に逃げようとするだろう。これは自身のメンタルモデルを適用した結果であり、野生動物に対するメンタルモデルが形成されていない人や違うメンタルモデルを保持している人はこのような反応はしないと考えられる。
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例によって、日本語版ウィキペディアには、サンプルが提示されているだけです。
「メンタルモデル」の概念(メンタルモデルによる記述)の説明がありません。
2-2)メンタルモデル(英語版ウィキペディア)
長いですが、英語版ウィキペディアの一部を引用します。
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メンタルモデル
mental mode
メンタルモデルとは、外部現実の内部表現、つまり、心の中で現実を表現する方法です。このようなモデルは、認知、推論、意思決定において重要な役割を果たすと考えられています。この概念の用語は、1943 年にケネス クレイクによって造られました。彼は、心は出来事を予測するために使用する現実の「小規模モデル」を構築すると提唱しました。メンタルモデルは、問題解決やタスク実行へのアプローチなど、行動の形成に役立ちます。
心理学では、メンタルモデルという用語は、一般的には心的表現や心的シミュレーションを指すために使用されることがあります。スキーマと概念モデルの概念は、認知的に隣接しています。他の分野では、フィリップ・ジョンソン=レアード(Philip Nicholas Johnson-Laird)とルース・MJ・バーン(Ruth M.J. Byrne)が開発した推論の「メンタルモデル」理論を指すために使用されます。
メンタルモデルと推論
人間の推論に関する 1 つの見解は、それがメンタル モデルに依存するというものです。この見解では、メンタル モデルは知覚、想像力、または談話の理解から構築できます (Johnson-Laird、1983)。このようなメンタル モデルは、その構造が、それが表す状況の構造に類似している点で、建築家のモデルや物理学者の図に似ています。これは、推論の形式規則理論で使用される論理形式の構造とは異なります。この点で、メンタル モデルは、哲学者ルートヴィヒ・ヴィトゲンシュタインが1922 年に説明した言語の絵画理論における絵画に少し似ています。フィリップ ジョンソン レアードとルース MJ バーンは、推論は論理形式ではなくメンタル モデルに依存するという仮定に基づく推論のメンタル モデル理論を開発しました (Johnson-Laird および Byrne、1991)。
歴史
メンタルモデルという用語は、ケネス・クレイクが1943年に著した『説明の性質』で初めて使われたと考えられている。 ジョルジュ=アンリ・リュケは、1927年にパリのアルカン社から出版された『子供の絵』の中で、子どもは内部モデルを構築すると主張し、この見解は児童心理学者のジャン・ピアジェなどにも影響を与えた。
ジェイ・ライト・フォレスターは一般的なメンタルモデルを次のように定義しました。
私たちが頭の中に抱いている周囲の世界のイメージは、単なるモデルに過ぎません。頭の中で世界や政府、国のすべてを想像する人はいません。人は選択した概念とそれらの関係性だけを持ち、それを使って現実のシステムを表現します (Forrester、1971)。
フィリップ・ジョンソン=レアードは1983 年に『メンタルモデル: 言語、推論、意識の認知科学に向けて』を出版しました。同年、デドレ・ゲントナーとアルバート・スティーブンスは『メンタルモデル』と題された書籍の章集を編集しました。彼らの書籍の 1 行目では、この考えがさらに詳しく説明されています。「この章の役割の 1 つは、明白なことを詳しく説明することです。つまり、人々の世界観、自分自身の見方、自分の能力、実行を求められるタスクや学習を求められるトピックに対する見方は、タスクに持ち込む概念化に大きく依存します。」(書籍『メンタルモデル』を参照)。
それ以来、ドナルド・ノーマンやスティーブ・クルーグ(著書「Don't Make Me Think 」)などの研究者によって、人間とコンピュータのインタラクションやユーザビリティの分野でこの考え方が盛んに議論され、利用されてきました。ウォルター・キンチュとテウン・A・ファン・ダイクは、状況モデルという用語を使用して(著書「Strategies of Discourse Comprehension 」(1983年))、談話の生成と理解におけるメンタルモデルの関連性を示しました。
チャーリー・マンガーは、ビジネスや投資の意思決定に多分野にわたるメンタルモデルの利用を普及させました。
メンタルモデルの原則
メンタルモデルは、少数の基本的な仮定 (公理) に基づいており、この点で推論の心理学で提案されている他の表現と区別されています (Byrne および Johnson-Laird、2009)。各メンタルモデルは可能性を表します。メンタルモデルは 1 つの可能性を表し、可能性が発生する可能性のあるさまざまな方法すべてに共通するものを捉えます (Johnson-Laird および Byrne、2002)。メンタルモデルは象徴的です。つまり、モデルの各部分は、それが表すものの各部分に対応しています (Johnson-Laird、2006)。メンタルモデルは真理の原則に基づいています。つまり、メンタルモデルは通常、起こり得る状況のみを表し、可能性の各モデルは、命題に従ってその可能性において真実であるもののみを表します。ただし、メンタルモデルは、反事実条件文や反事実思考の場合のように、一時的に真実であると想定された誤ったものを表すこともあります(Byrne、2005)。
メンタルモデルによる推論
結論がすべての可能性に当てはまる場合、人は結論が有効であると推論します。メンタルモデルによる推論の手順では、反例を利用して無効な推論を反駁します。つまり、結論が前提のすべてのモデルに当てはまることを保証することで、有効性を確立します。推論者は、複数モデルの問題の可能なモデルのサブセット、多くの場合は単一のモデルに焦点を合わせます。推論者が推論を行う容易さは、年齢や作業記憶など、多くの要因によって左右されます (Barrouillet 他、2000 年)。反例、つまり前提は当てはまるが結論は当てはまらない可能性が見つかった場合、推論者は結論を却下します (Schroyens 他、2003 年、Verschueren 他、2005 年)。
批判
人間の推論がメンタルモデルに基づくのか、それとも正式な推論ルール(O'Brien、2009 など)、ドメイン固有の推論ルール (Cheng & Holyoak、2008、Cosmides、2005 など)、あるいは確率 (Oaksford と Chater、2007 など) に基づくのかについては、科学的な議論が続いています。さまざまな理論の実証的な比較が数多く行われてきました (Oberauer、2006 など)。
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2-3)推論のメンタルモデル理論
「推論のメンタルモデル理論」は、「メンタルモデル」の以下の部分にありました。
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フィリップ・ジョンソン=レアード(Philip Nicholas Johnson-Laird)とルース・MJ・バーン(Ruth M.J. Byrne)が開発した推論の「メンタルモデル」理論を指すために使用されます。
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英語版ウィキペディアの内容は以下です。
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推論のメンタルモデル理論
Mental model theory of reasoning
推論のメンタルモデル理論は、フィリップ・ジョンソン=レアードとルース・MJ・バーンによって開発されました(ジョンソン=レアードとバーン、1991)。この理論は、空間的および時間的推論などの関係推論、条件的、選言的、否定的推論などの命題的推論、三段論法などの数量的推論、およびメタ演繹的推論を含む演繹的推論の主要領域に適用されてきました。
メンタルモデルと推論に関する継続的な研究により、理論は確率的推論 (例: Johnson-Laird、2006) と反事実的思考(Byrne、2005) を説明するように拡張されました。
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つまり、メンタルモデルは、「反事実的思考」に、繋がっています。
ジョンソン=レアード氏の次の公開論文で、推論のメンタルモデル理論の概要がわかります。
<< 引用文献
Johnson-Laird, P. N. (2010). "Mental models and human reasoning"
https://www.pnas.org/doi/10.1073/pnas.1012933107
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ジョンソン=レアード氏は、要約で次のように説明しています。
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合理的であるということは、推論ができるということです。30年前、心理学者は、人間の推論は論理計算のルールに似た正式な推論ルールに依存していると信じていました。この仮説は困難に直面し、別の見解につながりました。推論は、出発点、つまり世界の認識、一連の主張、記憶、またはそれらの混合と一致する可能性を想定することに依存しています。私たちは、それぞれの異なる可能性のメンタルモデルを構築し、そこから結論を導きます。この理論は、私たちの推論における体系的なエラーを予測し、証拠はこの予測を裏付けています。しかし、反例を使用して無効な推論に反論する私たちの能力は、合理性の基盤を提供します。この説明では、推論は私たちの知識で肉付けされた世界のシミュレーションであり、文章の論理的な骨組みを正式に再配置するものではありません。
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つまり、メンタルモデルは、最近30年間で、広く使われるようになったと言えます。
「反例を使用して無効な推論に反論する私たちの能力は、合理性の基盤を提供します」は、議論の基本です。
同調圧力は、合理性の基盤を破壊して、悲劇的な結末を約束します。
2-4)チャーリー・マンガー
チャーリー・マンガー氏については、以下のようにかかれていました。
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チャーリー・マンガーは、ビジネスや投資の意思決定に多分野にわたるメンタルモデルの利用を普及させました。
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英語版ウィキペディアの「チャーリー・マンガー」の一部を引用します。
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チャーリー・マンガー
Charlie Munger
チャールズ・トーマス・マンガー(1924年1月1日 - 2023年11月28日)は、アメリカの実業家、投資家、慈善家。ウォーレン・バフェットが支配する複合企業バークシャー・ハサウェイの副会長を務めた。バフェットはマンガーを最も親しいパートナーであり右腕であると評し、現代のバークシャー・ハサウェイのビジネス哲学の「設計者」であると称賛した。
:投資哲学
::「基本的な、世俗的な知恵」
複数のスピーチや2005年の著書『 Poor Charlie's Almanack: The Wit and Wisdom of Charles T. Munger』では、「世俗的な知恵」とは、重要なビジネス問題を解決するために格子状に組み立てられた一連のメンタルモデルであると述べられています
マンガーは、高い倫理基準が自身の哲学に不可欠であると述べ、2009年のウェスコ・ファイナンシャル・コーポレーションの年次総会で「良いビジネスとは倫理的なビジネスだ。策略に頼ったビジネスモデルは失敗する運命にある」と述べた。 2010年1月19日のハーバード・ウェストレイク・スクールでのインタビューと質疑応答で、マンガーは2007年から2008年の金融危機と責任の哲学についての議論の中で、アメリカの哲学者チャールズ・フランケルに言及した。マンガーは、フランケルが次のように考えていたと説明した。
システムは、決定を下す人々がその責任を負っている程度に比例して責任を負う。チャーリー・フランケルにとって、ローンを組んだ人々が嘘や戯言で即座に他の誰かにローンを押し付け、ローンの良し悪しに関わらず責任を負わないようなローンシステムは作らない。フランケルにとって、それは非道徳的であり、無責任なシステムである。
マンガーは自身の哲学の一環として、比較的質素なカリフォルニアの同じ家に70年間住んでいた。より豪華な家に住むことについて尋ねられたとき、マンガーは「ほとんどすべての場合、その人はより幸せではなく、より不幸になる」と述べたと伝えられている。マンガーは派手な家に住むことに比べて利点がほとんどない「基本的な家」の有用性を評価していた。マンガーは謙虚さを評価し、「あまり羨ましがらないこと」と「収入を使いすぎないこと」と述べた。マンガーは2023年にCNBCとの最後のインタビューで、自身の成功と長寿は長年の慎重さと「あらゆる標準的な失敗の方法を避ける」能力によるものだと語った。
::ロラパルーザ効果
Lollapalooza(極めつけのもの、異常なもの) effect
マンガーは、複数の偏見、傾向、またはメンタルモデルが同時に同じ方向に複合的に作用することを「ロラパルーザ効果」と呼んでいます。ロラパルーザ効果自体がメンタルモデルであり、メンタルモデル、偏見、または傾向が合流して一緒に作用するため、結果は極端になることが多く、非合理的な行動をとる可能性が大幅に高まります。
1995年にハーバード大学で行われた「人間の誤った判断の心理学」と題する講演で、マンガーはタッパーウェアパーティーと公開オークションについて言及し、「これらが3つ、4つ、5つ組み合わさって人間の脳をドロドロにしてしまう」と説明した。つまり、普通の人は同じ方向に働く複数の非合理的な傾向に屈する可能性が非常に高いということだ。タッパーウェアパーティーでは、返礼性、一貫性、コミットメント傾向、社会的証明がある。(主催者がパーティーを主催し、返礼する傾向がある。パーティー中に特定の商品が好きだと言ったら、購入することは自分がコミットした見解と一致する。他の人が購入している、これが社会的証明である。)公開オークションでは、他の人が入札するという社会的証明、返礼性、商品購入へのコミットメント、剥奪超反応症候群、つまり喪失感がある。後者は、個人が自分のものであるべきだ(または自分のものである)と信じているものの喪失感である。これらの偏見は、意識的または無意識的なレベルで、ミクロ経済的およびマクロ経済的規模の両方で発生することが多い。
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マンガー氏は、バークシャー・ハサウェイの副会長でした。
2024年8月5日に、日経平均が急落した原因は、ロラパルーザ効果で説明できるように思われます。
日本の証券会社の人は、株価が上昇しないと株式が売れないので、手数料が入りません。つまり、利害関係者として、株価が上昇するという予測が望ましくなります。WEBにも、利害関係者の希望的観測が溢れています。
バークシャー・ハサウェイの説明は、こうした利害関係者の説明とは、異なります。
マンガー氏の主張は、メンタルモデルを考えて、株式を購入しなさいというものです。
また、政治は利権のシステムであると主張する人もいますが、マンガ―氏の主張は異なります。
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マンガー氏は、2009年のウェスコ・ファイナンシャル・コーポレーションの年次総会で「良いビジネスとは倫理的なビジネスだ。策略に頼ったビジネスモデルは失敗する運命にある」と述べています。
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マンガ―氏の主張によれば、「経団連が政治献金による見返りを期待すれば(策略に頼ったビジネスモデルは)失敗する運命にある」ということになります。
3)メンタルモデルの理解
「因果推論の科学」では、フィリップ・ジョンソン=レアードとルース・MJ・バーンの「推論のメンタルモデル理論」は、参照されていません。
パール先生は、英語版ウィキペディア「メンタルモデル」の一般的なメンタルモデルを理化していると思いますが、その先は、メンタルモデル関係の文献が、参考文献にないので不明です。
ジョンソン=レアード氏は、パール先生の文献を引用しています。そのサマリーは、以下です。
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メンタルモデルの理論は、原因と可能条件の意味を区別しますが、この区別は英国法と大陸法ではまだ行われていません。事実上の原因に対する法的「but for」テスト(または絶対条件)は、省略と実行の両方で誤りを犯します。したがって、メンタルモデルの理論では、それを「原因」と「可能条件」に対するより正確なテストに置き換えます。これらと「近接」原因(「法的」原因とも呼ばれる)の拒否により、法学は因果関係の日常的な概念に近づくことになります。
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<< 引用文献
JOHNSON-LAIRD and BUCCIARELLI:Causation, the Law, and Mental Models Legal Reasoning and Cognitive Science: Topics and Perspectives
Special Publication / August, 2023, pp. 81-102
https://www.dirittoequestionipubbliche.org/page/2023_dq-recognise/d-01-Johnson-Laird_Bucciarelli.pdf
>>
因果モデルが、法学に影響を与えていることが分かりますが、逆向きの影響は不明です。
「因果推論の科学」の和訳の解説で、松尾豊氏が、主観について、「(深層学習によって)人間が客観的だと思ってきたものが、実は、何らかの事前知識ののったアルゴリズムによってたまたま得られるものであると分かってきた」(p.573-574)と説明しています。
松尾豊氏が、ジョンソン=レアードとバーンの「推論のメンタルモデル理論」を使っていれば、このような説明にはなり得ません。
パール先生の「因果推論の科学」のメンタルモデルと松尾豊氏のメンタルモデル(あるいは、メンタルモデルを前提としない松尾豊氏の説明)の間には、ギャップがあるように感じられます。
4)応用問題
4-1)経済問題
神田真人氏は、私的懇談会に、日本経済問題の解決策についての検討を依頼しました。
読売新聞は、次のように報道しています。
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懇談会は収支ごとに処方箋を示し、報告書にまとめた。貿易収支は、輸出産業の競争力低下や鉱物性燃料への輸入依存が背景にあり、生産性向上や原子力発電の稼働が赤字を減らすのに欠かせないとした。第1次所得収支が黒字でも、企業が海外でもうけた資金は現地の投資に使われ、日本に戻ってこないのはよくない。為替介入は、急激な市場の変動を食い止める効果はあるが、抜本的な解決にはならない。
報告書は「構造的な改革の必要性はこれまで長く指摘されてきたものの、その実施は遅滞してきたと言わざるを得ない。しかし、伸びしろは大きい」と締めくくる。
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<< 引用文献
退任した霞が関の「宇宙人」…神田真人氏が日本経済に送ったメッセージ 2024/08/07 読売新聞
https://www.yomiuri.co.jp/column/economy03/20240805-OYT8T50032/
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この報告書は、帰納法によって書かれていて、反事実(問題の解決方法)について言及していません。
なので、筆者は、評価しません。
さて、評価の問題以前に、更に重要な問題があります。
日本経済問題の解決策を見つける場合には、制約条件があります。
第1に、得られるデータに制約があり、不完全なデータであると考えるべきです。
第2に、脳には、メモリー制約があり、あるレベルを越えて複雑な思考はできません。
これから、エリートが一方的に解答を出して、その他の人が従うという意思決定モデル(権威の方法)は、間違いであることが分かります。
メンタルモデルやデータを共有して、議論を重ねることで、結論をだす必要があります。
これが、科学の方法になります。
「反例を使用して無効な推論に反論する私たちの能力」を使って、「合理性の基盤」を担保することが必要になります。
神田真人氏の私的懇談会の報告書は、この科学の方法にしたがっていませんので、「合理性の基盤」が担保されていない、間違いを多数含んだ報告書になります。
恐らく私的懇談会は期限までに、日本経済問題の解決策を提案することがミッションであると思っていた可能性があります。
パール先生は、「因果推論の科学」で「この問いには、現状の因果モデルでは答えられないということがある」(pp.31-32)といいます。
日本経済問題の解決策を提案する以上に重要なことがあります。
それは、メンタルモデルの共有をはかり、問題の解決策について、コミュニケーションができるようにすることです。
例えば、私的懇談会の報告書には、マンガー氏の「良いビジネスとは倫理的なビジネスである」という問題が出てきません。環境問題と日本経済の発展の関係もあまり議論されていないと思います。
世の中には、完全な報告書はありませんので、報告書が不完全であり、間違いが含まれていることは問題ではありません。報告書が議論に対して開かれていないことに問題があります。
「議論に対して開かれている」点を基準に考えれば、科学的に間違った権威の方法がみつかります。
自動車のエンジン認証の問題では、「認定基準は、議論に対して開かれていません」ので、科学の方法ではなく、権威の方法を使っています。これは、内容にかかわらず、アウトです。「反例を使用して無効な推論に反論する私たちの能力」を使っていませんので、「合理性の基盤」がありません。
文部科学省の学習指導要領は、「議論に対して開かれていません」ので、科学の方法ではなく、権威の方法を使っています。これは、内容にかかわらず、アウトです。「反例を使用して無効な推論に反論する私たちの能力」を使っていませんので、「合理性の基盤」がありません。
「合理性の基盤」がなく、権威の方法を振りかざせば、経済が破壊されます。
4-2)国際交渉
国際交渉の場では、議論を始める前に、メンタルモデルの共有化がはかられます。
メンタルモデルの概念がわかっていないと、本題に入る前に、長々とフレームワークの議論がなされるので、戸惑います。
日本国内では、メンタルモデルを使う場がすくないので、メンタルモデルのトレーニングが出来ていない担当者が多数です。例えば、米の輸入関税の場合でも、担当者は、日本にいる上司から、絶対阻止しろとか、1000%の関税率以下では、譲歩するなと指示をうけます。
交渉に行けば、交渉相手は、メンタルモデルの達人です。関税率の議論をするときに、利用可能なメンタルモデルの選択と共有から、議論を開始します。日本の担当者が、どのように対応してよいか戸惑っている間に、議論は先に進んでしまいます。日本の担当者は、メンタルモデルを使えませんので、交渉にならず、条件を受け入れることになります。
4-3)パーティ券
パーティ券問題でも、議論の中心は、記載の限度を5万円、10万円にするかという話でした。メンタルモデルを使って、議論する場合には、このような手順は起こりません。
限度額を議論するために、利用可能なメンタルモデルをまず、構築します。このメンタルモデルを使って限度額を決めます。この方法を使えば、なぜ、その限度額が設定されたのかが理解できます。