注:これは、ジューディア・パール、ダナ・マッケンジー「因果推論の科学―「なぜ?」の問いにどう答えるか」のコメントです。
(41)プラセボ効果
1)介入
パール先生は、2重盲検について、次のように説明しています。
<
人間が被験者となる臨床試験で、「引かれるカード」についての情報が被験者からも実験者からも隠される手法
>(p.230)
この説明は、フィッシャーのRCTの部分で行なわれています。
RCTの目的は、交絡因子をブロックすることです。
パール先生は、do演算子について、次のようにいっています。
<
介入に演算子であるdo(D)を使うのは、もし、寿命Lがに変化が観察されたら、それは薬の効果によるものであり、他の交絡因子によって寿命が伸びている、あるいは縮んでいるのではないことを保証するためだ。仮に、介入をせず、患者自身に薬を服用するか否かを決めさせた場合、他の交絡因子がその決定に影響を与えている可能性があり、薬を服用することで生じる寿命の長さの違いは、もはや薬のせいだけとは言えない。
>(p.23)
<
P(L|do(D))が存在せず、P(L|D)のみに支配される世界がもしあったとしたら、それは奇妙な世界になるに違いない。たとえば、患者は病気になる確率を下げるために病院に行くことを避けるだろう。自治体は火災の発生のために消防士を解雇するだろう。(中略)わずか30年前、科学者たちはそういう世界に住んでいたのである。do演算子の存在しない世界だ。
>(p.24)
パール先生の説明を分解してみます。
第1に、相関関係と因果関係を混同すると「自治体は火災の発生のために消防士を解雇する」ようなトンデモ世界が出現するので、相関関係と因果関係はdo演算子で分ける必要があります。
第2に、相関関係と因果関係を区別するためには、交絡因子をブロックする必要があります。
第3に、人間の自由意思(患者自身が薬の服用を選択、「引かれるカード」についての情報をもとに行動を選択)は、交絡因子発生の原因になります。
プラセボ効果は、第3の交絡因子に付けられた名前です。
パール先生は、作物試験について、言います。
<
同じくらい重要なのは、「カード」から「収穫量」に向かう矢印がないことだ。植物はカードを認識できないのでこうなる(対象が植物なので、こういう想定ができる。だが、ランダム化試験の対象が人間の場合には、この点が大きな懸念事項になる)
>(p.230)
2重盲検は、人間の薬の試験を主な対象にしていますが、プラセボ効果のリスクは、作物試験でもあります。
2)哲学は役にたつか
哲学(形而上学)は役に立ちません。
これは、メンタルモデルの消去法を使って証明できます。
役に立つ知識とは、リアルワールドの変化に対応する知識です。
医師であれば、患者の症状に応じて、病気の種類を想定して、治療します。
万能薬は存在しません。万能薬の宣伝があれば、眉唾です。
形而上学は、リアルワールドと切り離されています。
したがって、万能薬と同じ宣伝をしていることになります。
パースが、形而上学の哲学を放棄した理由はここにあります。
形而上学が役に立つ唯一の例外は数学です。
ウィトゲンシュタインは、数学以外の形而上学は、生き残らないと考えていました。
形而上学は、リアルワールドと切り離されています。
しかし、形而上学の効果は、リアルワールドで観測できます。
パール先生は、「植物は実験実施者の意識(カード)を認識できない」が、人間は、実験実施者の意識を認識できるので、交絡因子が生じて、プラセボ効果が発生するといいます。
プラセボ効果は、実験実施者と被験者の間の意識の共有があると生じる交絡因子が原因になるので2重盲検を使います。
プラセボ効果でも効果があればよいと主張する人もいますが、この主張は否定されています。
典型は、瀉血です。病気の人から血を抜き取る治療法です。出血すると血圧がさがり、気分が変わります。この気分の変化(プラセボ効果)を医師と患者の双方で治療法と認めていました。病気になると、体力が消耗します。この状態で、出血すれば、更に体力が下がるので、死亡確率が上昇します。しかし、治療効果について、アンケートをとれば、死人に口なしなので、治療効果がなかったという人のデータは集まりません。
プラセボ効果は、意識が介在する交絡因子によって発生します。植物のように、意識がなければプラセボ効果は生じません。
我が家の犬に哲学の話をしても、変化はおきません。
我が家の犬ドッグフードの量を減らせば、ダイエットできます。
これから、食事(ドッグフード)には、プラセボ効果はありませんが、哲学にはプラセボ効果があることがわかります。
「人文科学から、プラセボ効果を除いたら、何が残るのか」という疑問がわきます。
プラセボ効果には、良いプラセボ効果と悪いプラセボ効果があるという議論もあるかも知れません。
しかし、プラグマティズムは、形而上学を否定しますので、この立場では、良い、悪いの判断のアルゴリズムの問題になります。倫理判断ができるAIは、まだ、ありませんので、このアルゴリズムの開発は容易でないことがわかります。
瀉血の問題は、血液を温存して体力の回復を待つという治療法を否定して、プラセボ効果を優先したことです。
脇田晴子氏は、天皇制の文化が特攻の原因であるといいました。水林章氏は、法度制度の国には、爆弾が落ちてこないと信じられていたといいます。
これは、法度制度(天皇制の文化)というプラセボ効果が、実際の戦力に優先していたことを示しています。
特攻をすれば、貴重な人材が消耗しますので、戦力が低下して、戦争に負けるはずです。
瀉血すれば、貴重な血液を消耗しますので、体力が低下して、死亡するはずです。
つまり、特攻の法度制度の弊害も、プラセボ効果で説明することが可能です。
3)株価の低下
2024年8月2日の日経平均株価の下げ幅は、米国など世界的な株価大暴落「ブラックマンデー」の影響を受けた1987年以来2番目の大きさになりました。
なお、以下では、単純にするために、インフレの影響は考えていません。
株価は、次のように成分分解できると考えられています。
株価 = 企業のファンダメンタルズ + 企業の成長期待
「企業のファンダメンタルズ」は、現在の企業の売り上げ、利益、生産要素を意味します。
「企業の成長期待」は、一言でいえば、「企業の将来の利益の期待値」になります。
しかし、疑問Xがあります。
企業の成長期待 = 企業の将来の利益の期待値 + X
「企業のファンダメンタルズ」の1日の変動は小さいので、株価下落の原因ではありません。
株価下落の原因は、「企業の成長期待」の変動です。
経済学には、市場は正しいという前提があります。
この前提を認めると、株価に反映された「企業の成長期待」は正しいことになります。
正しいという表現は曖昧であると考えるのであれば、合理的な期待値であると置き換えることも可能です。
「株価に反映された企業の成長期待は合理的な期待値である」という仮説は、検証されていませんし、検証可能とも思われません。
合理性については、疑問がでています。
カーネマンは、プラスの効果とマイナスの効果の心理的なインパクトには、非対称性があるといいます。
株価が上昇する場合と株が下がる場合について、同じ金額でも、下がる方のインパクトを大きく感じるということです。
時系列は因果ではないので、株価の上昇プロセスは、その後の株価とは関係がありません。
ただし、人間には認知バイアスがあるので、株価が上昇し続けるという認知バイアスからのがれることは容易ではありません。
ソロス氏は、株式市場は、上昇面では、認知バイアスがあり、市場均衡からはずれるとかんがえています。
さて、プラセボは薬用成分の入ってない薬です。
プラセボ効果は薬が効くという期待が交絡因子になるためです。
株価は、株価が上昇するという期待があれば、簡単に変動します。
これから、「株価に反映された企業の成長期待は正しい」という前提には無理があります。
株価は、不合理な変動をします。このため、株式市場では、株価の取引の変動の上限と下限を設定しています。
これは、合理的でない株価変動があるが、それを分離できる適切なフィルタ―がないことを意味してます。
政府は、生成AIの間違った利用を取り締まる法律をを作るといっています。間違った行動と正しい行動を分離するフィルタ―が設計できるのであれば、そのフィルタ―を株式市場に適用すれば、変動の上限と下限といった理論的な根拠のないフィルタ―を使う必要はありません。
間違った行動と正しい行動を分離するフィルタ―が設計できるのであれば、そのフィルタ―を為替市場に適用すれば、為替介入をする必要はないはずです、
悲しいことに、間違った(不適切な)取引を分離するフィルタ―の理論は、まだ、開発されていません。
上記の定義を繰り返します。
企業の成長期待 = 企業の将来の利益の期待値 + X
Xが無視できれば、「株価に反映された企業の成長期待は正しい」と言えますが、Xが無視できず、Xを分離するフィルタ―がないのですから、「株価に反映された企業の成長期待は正しい」と言えません。
このXが何かはわかりませんが、筆者は、Xの主要な部分は、プラセボ効果だろうと予測しています。
株価 = 企業のファンダメンタルズ + 企業の成長期待 + プラセボ効果 + 残差項
その理由は、経済学者は、「株価に反映された企業の成長期待は正しい」という前提にたって、そもそもプラセボ効果を分離するつもりがないからです。
統計学は、交絡因子をブロックしない推論は破綻していると考えます。
パール先生は、「自治体は火災の発生のために消防士を解雇するだろう」といいます。
企業のファンダメンタルズから考えれば、プラセボ効果は交絡因子になります。
交絡因子が株価を変動させているからといって、それを放置するのは、正気ではありません。
8月2日の暴落を受けて、識者がコメントを書いています。
その内容は、プラセボ効果(思い込み)に関するものばかりです。ファンダメンタルズについて述べている識者はいません。もちろん、ファンダメンタルズは変化していないので、暴落の原因ではないので、当然ではあります。しかし、識者のコメントを読んでいると、株価は、プラセボ効果で決まるように思われます。筆者には、違和感があります。
交絡因子をブロックするフィルタ―を作成して、そのフィルタ―をとおした株価で売買が行なわれる株式市場をつくれば、不合理な株価の変動はブロックされます。株価の上昇は東証より小さいかもしれませんが、暴落するリスクは遥かに小さくなります。投資家が2種類の市場を選択できるようにすることは不合理ではありません。
こうした努力が行なわれない原因は、「株価に反映された企業の成長期待は正しい」という前提にあります。
4)経済政策
今回、プラセボ効果について、言及したかった理由に到達しました。
プラセボ効果を考えると筆者の経済成長のメンタルモデルは次になります。
経済成長 = ファンダメンタルズの改善 + プラシボ効果 + 残差項
アベノミクス以来、政府の方針は、合理的期待形成理論に基づいています。
筆者には、合理的期待形成理論は、プラセボ効果理論に見えます。
プラセボの問題点は、効果がないことではなく、効果があることです。
しかし、プラセボ効果は、身体と病気のバランスを改善しません。
合理的期待形成理論は、見かけでは、経済成長を実現します。
合理的期待形成理論は、ファンダメンタルズには直接介入しません。
年功型組織で、年功順で幹部になった人の場合、次のバイアスがあります。
第1に、年功型組織を崩壊させるファンダメンタルズを変える大きな改革をしなかったことが、昇進の原因になっているはずです。
第2に、ファンダメンタルズを変える大きな改革の経験はありませんし、自信もありません。あえて、リスクをとるメンタルはありません。
第3に、年功型組織の場合には、根回しと呼ばれる事前了解をとらないと、内部告発されて、過去の弱点を暴かれるリスクがあります。
ジョブ型雇用では、ファンダメンタルズを改善しないと昇進できません。
しかし、年功型組織では、ファンダメンタルズの改善は、昇進の障害になります。
そのような場合には、合理的期待形成理論というプラセボ効果理論は魅力的に映るはずです。
医学と薬学であれば、プラセボ効果は追放されていますが、経済学には、プラセボ効果理論があります。
円安で、企業の見かけの収益はあがりましたが、貿易統計をみれば、ファンダメンタルズは改善していないことがわかります。
特に、生産性の向上はまったく見られません。
プラセボ効果理論の効果は、人間心理に基づく選択バイアスに依存しています。
ファンダメンタルズの改善は、最初から織り込まれていません。
5)応用問題
理論的に考えれば、企業の経営を改善するには、ファンダメンタルズを改善することです。
しかしこの方法は、年功型組織を崩壊させます。そうなると、恨みを買って内部告発されて、昇進ができなくなる可能性があります。
ジョブ雇用では上手くいかなくなれば、転職すればよいのですが、労働市場のない年功型組織では、恨みを買うことは、昇進の障害になるだけでなく、失業のリスクがある行動であり、避けるべきです。
そうなると、昇進に有効な問題解決の方法は、プラセボ効果理論にのることです。
合理的期待形成理論は、経済学のプラセボ効果理論でした。
しかし、以上の考察(仮説)が正しければ、経済学以外でも、プラセボ効果理論が多用されているはずです。
少子化問題、教育問題、環境問題などでも、プラセボ効果理論があるはずであるという視点で検索すれば、それらしい理論が見つかるはずです。
最近、新聞の広告では、哲学の解説書が、やたらと目につきます。
正面から、ファンダメンタルズの改善ができるのであれば、哲学の解説書が売れるわけがありません。
筆者は、哲学の解説書が売れる理由は、プラセボ理論を求めている経営者が多いためだろうと考えます。
プラセボ効果理論が、蔓延しているとすれば、日本が、変わらない理由は、簡単に説明できます。
6)追記
記事を書いた日は、8月3日です。
8月2日に続いて、週明けの8月5日には、株価がさらに下がり、午前中に、サーキットブレーカーが作動しています。
東京株式市場で株価が暴落しました。5日の日経平均株価は、下げ幅は4400円を超え、過去最大となりました。
政府は、暴落とNISA政策には、関係がないという立場をとっています。合理的期待形成理論というプラセボ効果理論を使えば、株価の変動幅は拡大します。NISAによって、預金から株式に資金が移動すれば、株価の変動は大きくなります。日銀は、今後、国債と株式を放出します。8月時点では、国債と株式は、まだ放出されていませんが、株価は先の市場を織り込みますので、これも株価の変動が拡大する要因になります。
一方、企業の生産性などのファンダメンタルズは改善していません。
日本で、唯一の競争力のある産業である自動車産業は、EVに完全に乗り遅れています。
価格競争で、中国製のEVに勝てる見込みはありません。
2024年6月のNature Index 2024 Research Leadersでは、中国が躍進しました。
中国は、トップ10で7/10、トップ20で、11/20です。アメリカは、トップ10で1/10、トップ20で、4/20です。日本は、トップ20の19位に東京大学が入っています。
日本の大学と研究機関のリストは、以下です。
19 The University of Tokyo (UTokyo), Japan
47 Kyoto University, Japan
69 Osaka University, Japan
104 Tohoku University, Japan
119 Hokkaido University, Japan
123 RIKEN, Japan
128 Nagoya University, Japan
169 Tokyo Institute of Technology (Tokyo Tech), Japan
191 National Institute for Materials Science (NIMS), Japan
219 Kyushu University, Japan
333 University of Tsukuba, Japan
369 Keio University, Japan
385 National Institute of Advanced Industrial Science and Technology (AIST), Japan
453 Kanazawa University (KU), Japan
456 National Institutes of Natural Sciences (NINS), Japan
<< 引用文献
Nature Index 2024 Research Leaders: Chinese institutions dominate the top spots 2024/05/18 Nature
https://www.nature.com/nature-index/news/nature-index-research-leaders-chinese-institutions-dominate
>>
日本の人材育成と科学技術政策は破綻しています。
問題は、Nature Index 2024 Research Leadersの指標が低いことではありません。間違いや問題は、どこにでもあります。しかし、間違いを直して、問題を解決するシステムが存在しなければ、問題解決は不可能です。
日本が将来、製品の技術開発で、中国に勝てる可能性は、なくなりました。少なくとも、今後10年はこの状態が続きます。
アメリカも中国人を追い出してしまったので、競争劣位になっています。
中国が世界の技術大国になって、遣唐使時代が再来する可能性もあります。
2024年6月14日、国際卓越大学として選ばれた東北大学は、104位です。日本の日本の人材育成と科学技術政策には、プラセボ効果しかありません。政策効果の因果モデルの検証は、行なわれず、政策は、利権の配分を優先しています。
政策評価を行なう第3者機関がなく、三権分立でないので、政治主導と言う名の利権政治が止まりません、
数少ない高度人材は、能力を発揮する場がなく、海外流出しています。
さらに、人口が減少しています。
中期的に株があがると考える要因は見当たりません。
この状態で、NISAをすれば、資金流出が拡大します。
識者は、株価の低下の原因を説明しています。
しかし、ファンダメンタルズには触れません。
人間の脳には、なぜという疑問をいだき、その「答え(原因)が見つからないと不安になるメカニズム」(不安メカニズム)が組み込まれています。
これは、因果推論のメカニズムの一部です。
問題は、その先にあります。
人間は、科学的な因果推論ができません。
また、その答え(原因)が見つからないと不安になるメカニズムには、とりあえずそれらしい原因が見つかれば、安心してしまうメカニズムも組みこまれています。
「それらしい原因が見つかれば、安心してしまうメカニズム」は、「原因がみつからない宙ぶらりんの状態が不安になるメカニズム」(不安メカニズム)の裏がえしでもあります。
不安メカニズムが働くと、思考停止が起こり、科学は正しいという信念になります。
犯罪では、冤罪が発生します。
パール先生は、「因果推論の科学」について、次のようにいいます。
<
注意すべきなのは、統計学での伝統的な推定とは違い、「この問いには、現在の因果モデルでは答えられない」ということがありうる点である。
>(p.32)
科学は、その時点で、考えられるベストな解法を探しますが、常に解法がある訳ではありません。この点では、因果推論の科学は、伝統的な統計学の推定より、まともです。
NISAで、オルカンが売れました。
オルカンの主要部分は、S&P500なので、アメリカの株式市場の平均が下がれば、オルカンも下がります。
ネットでは、日経平均が下がっても、オルカンを持っていても良いのかという質問をする人がいました。
ある識者は、過去30年の実績を示して、オルカンは長期的には必ず回復するので、持っていてもよいと解答していました。
株式の中で、ボラリティが最小の株式は、オルカンです。
したがって、オルカン以上の安全な株式はない(大数の法則)と推定できます。
しかし、過去の時系列は因果関係ではないので、過去30年の実績(上昇)は、今後予想される実績とは関係がありません。
テクニカル分析は、因果モデルではないので、科学ではありません。
ポーカーの試合では、プレーヤーの心理を読んで当たれば、試合に勝つことができます。
同様に、株式市場でも、プレーヤーの心理を読んで当たれば、利益を得ることができます。
この方法を使う場合、テクニカル分析でも、因果関係が生じます。
しかし、これでは、ギャンブルの因果モデル(ギャンブル効果)になってしまいます。
ギャンブル効果は、短期変動に限定されると思われます。
ギャンブル効果を入れて、株価のモデルを修正しておきます。
株価 = 企業のファンダメンタルズ + 企業の成長期待 + プラセボ効果 + ギャンブル効果 + 残差項
筆者は、株式市場は、プラセボ効果を取り除くフィルタ―を持つべきであると書きました。
しかし、優先順位からすれは、株式市場は、ギャンブル効果を取り除くフィルタ―を持つことが先になります。
政府は、合理的期待形成理論という経済学のプラセボ効果理論を振興しました。
株価に占めるプラセボ効果の項の割合が大きくなれば、株価は不安定になります。
定性的には、株価変動が大きくなることは予測可能でした。
さて、著名投資家ウォーレン・バフェット氏は、「バフェット指標」を使います。
「バフェット指標」は単純な比率で、米国株の時価総額を国内総生産(GDP)の合計で割ったものです。
この指標は、株価に占める「企業のファンダメンタルズ」の割合を示しています。
2024年2月に、バフェット氏は、次のように言っています。
<
著名投資家ウォーレン・バフェット氏が率いる投資・保険会社バークシャー・ハサウェイは、手元現金水準が過去最高を更新した。バフェット氏は、「目を見張るような業績」を達成できるような有意義な案件がないと指摘した。
>
<< 引用文献
バフェット氏、「目を見張る」業績望めない-現金水準が過去最高に 2024/02/025 Bloomberg
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2024-02-25/S9DWGTT0G1KW00
>>
2024年8月には、バークシャー・ハサウェイは、過去最高の現金保有高に達しています。
<
著名投資家ウォーレン・バフェット氏率いる投資・保険会社バークシャー・ハサウェイは、4-6月(第2四半期)の大規模な株式売却の一環として、アップル株の保有を50%近く削減した。この結果、バフェット氏の現金保有高は過去最高の2769億ドル(約40兆5700億円)に増加した。
バフェット氏は5月に開催された年次株主総会で「リスクがほとんどなく、大きな利益を得られる」案件だと考えられなければ、現金の使用を急ぐつもりはないと述べていた。
>
<< 引用文献
バークシャー、アップル株の保有をほぼ半減-現金保有は過去最高 2024/08/04 Bloomberg
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2024-08-04/SHN74KT0AFB400
>>
バフェット氏は、株価の「企業のファンダメンタルズ + 企業の成長期待」に対して投資しています。
「バフェット指標」を使うということは、「プラセボ効果 + ギャンブル効果」は、リスクであると考えていることになります。
日本の証券会社の識者は、プラセボ効果を説明する原因を推定しています。
バフェット氏の関心は、「企業のファンダメンタルズ + 企業の成長期待」にあります。
バークシャー・ハサウェイは、「プラセボ効果 + ギャンブル効果」を取り除くフィルタ―を持っているのかも知れません。
筆者には、バフェット氏やジム・ロジャーズ氏は、「企業の成長期待」を推定する因果モデルを持っているように見えます、この因果モデルは、企業秘密です。また、特定の分野や特定の条件で機能する因果モデルであると推定しています。
パール先生は、「因果推論の科学」で、未来を予測する唯一の科学モデルは、因果推論モデルであると考えています。もちろん、その前提には、因果構造が未来も変化しないという前提が必要です。「因果構造が未来も変化しないという前提」は、主観(メンタルモデル)によります。
メンタルモデルの最初の説明は、マンモス狩りのモデル(p.49)です。マンモス狩りのモデルには、納得しやすいメンタルモデルです。しかし、現在は、マンモスは絶滅してしまったので、マンモス狩りのメンタルモデルは有効ではありません。
このように、どんなに単純なメンタルモデルにも、因果構造が変化してしまう利用限界があります。いつ利用限界がくるかという部分は、客観的に定義することはできないので、主観になります。
バフェット氏やロジャーズ氏は、因果モデルが変化しないと主観で判断して、投資していると思われます。素人の筆者には、その主幹判断はとても恐ろしいことに思われますが、それは、筆者が、専門家ではないからでしょう。
銀行や証券会社の人が、金融商品を勧める時には、過去の実績を示します。しかし、時系列は、因果ではありませんので、仮に、連続的に変化する現象が見られても、それは慣性項(質量)の効果にすぎません。慣性項(質量)は、「企業のファンダメンタルズ」に依存しますので、プラセボ効果の項を増やせば、質量は減少していくことになります。
銀行や証券会社の人の多くは、文系の推論(前例主義、時系列主義)で、メンタルモデルが違うので、因果推論が理解できず、議論することもできません。