1)比亜迪(BYD)の新製品
中国の新エネルギー車(NEV)大手の比亜迪(BYD)は5月28日、同社にとって第5世代となる最新のプラグインハイブリッド(PHEV)技術「DM」(「DM5.0」)を陝西省西安市で発表した。同社発表によると、エンジン熱効率は世界最高レベルの46.06%を達成(注1)し、100キロ走行時のガソリン消費は2.9リットル、ハイブリッド走行と電気走行を組み合わせた総合航続距離は2,100キロを超えたとしています。
<< 引用文献
BYD、第5世代プラグインハイブリッドシステム技術を発表 2024/06/10 Jetro
https://www.jetro.go.jp/biznews/2024/06/3e69fa4fad443e35.html
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2)BYDの工場
丸川知雄氏は、BYDの2020年と2022年の生産を比べて、仮に20万台が1工場であるとすれば、2年間で7工場が建設されたことになるが、自動車業界の常識では、1工場の竣工と運転開始までいは、1年以上かかるので、生産拡大速度が、今までの自動車業界を越えているといいます。
この拡大速度は、2023年も続いています。
2021年時点で、技術者は、6.9万人いて、うち、1.1万人は、高度技術者(恐らく大学院卒)です。これから、技術開発能力は侮れないことがわかります。
年 従業員 台数
2020 22万人 42万
2021 29万人
2022 57万人 188万 +146万 7工場
2023 302万 +114万台 6工場
<< 引用文献
突然躍進したBYD 2023/05/18 Newsweek 丸川知雄
https://www.newsweekjapan.jp/marukawa/2023/05/byd.php
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BYDは、東南アジアと中央アジアに工場を輸出しています。
<< 引用文献
各市場で中国製EVに存在感(アジア太平洋地域)2023/06/13 Jetro
今後は現地生産本格化の見込み
https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/2023/2913cad1e0fb5144.html
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3)中国製のEVの低価格の秘密
遠藤誉氏は、中国製のEVが低価格である原因は、電池製造コストにあると説明して、ニューヨーク・タイムズの時事の冒頭を引用しています。
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EV用の電池を製造できる国々は、数十年にわたって経済的および地政学的な利点を享受することになる。今のところ唯一の勝者は中国だ。西側諸国による数十億ドルの投資にもかかわらず、中国は希少鉱物の採掘、技術者の訓練、巨大工場の建設などで、遥かに先を行っており、世界の他の国々が追いつくには数十年かかるかもしれない。
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<< 引用文献
米メディアが分析する中国EVリチウムイオン電池の現在地 他の国は「数十年は追いつけない」2024/04/27 中国問題グローバル研究所 遠藤誉
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遠藤誉氏は、中国製の電池製造コストが低い原因に、基幹部品の大きなシェアがあるといいます。
リチウムイオン電池の国別生産シェアでは、中国が圧倒しています。
2021年のEVに使われているリチウムイオン電池の国別生産シェア
中国 79%
アメリカ 6.2%
ハンガリー 4%
ポーランド 3.1%
韓国 2.5%
日本 2.4%
ドイツ 1.6%
<< 引用文献
中国はなぜ安価なEVを生産できるのか? 2024/04/26 中国問題グローバル研究所 遠藤誉
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4)各国へ影響と対応
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ニューヨーク(CNN)によると 米電気自動車(EV)大手テスラが世界の従業員14万人のうち10%超を削減する方針です。
テスラの従業員数は2020年末以降、2倍近くに増えました。今回の人員削減はEV業界の競争激化と需要軟化を示す最新の例となります。
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<< 引用文献
米テスラ、従業員の10%超を削減か 報道 2024/04/16 CNN
https://www.cnn.co.jp/business/35217836.html
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テスラの人員削減は、販売不振が原因ですが、販売不振の原因は、中国製EVとの価格競争に負けている点が大きいと思われます。
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アメリカのバイデン大統領は5月14日、中国政府の補助を受けて過剰生産された製品が、アメリカの企業や労働者を脅かしているなどとして、不公正な貿易に一方的に制裁措置を発動できる通商法301条にもとづき、中国からの輸入品に対する関税を引き上げるよう通商代表部に指示すると発表しました。
具体的には「アメリカが歴史的な投資を行っている戦略的な分野を対象にする」として、中国製の電気自動車への関税をことし中に現在の25%から4倍の100%に引き上げます。
また、
▽電気自動車用のリチウムイオン電池への関税を7.5%から25%に、
▽太陽光発電設備への関税を25%から50%にことし中に引き上げるほか、
▽半導体への関税を来年までに25%から50%にするとしています。
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<< 引用文献
米 “中国製EVの関税100%” 中国からの輸入品関税引き上げへ 2024/05/14 NHK
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240514/k10014448601000.html
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EUの執行機関、ヨーロッパ委員会は5月12日、中国から輸入されるEVについて、すでに課している10%に加え、暫定的に関税を上乗せする方針を明らかにしました。
上乗せは最大で38.1%で、中国当局との協議で状況が改善しなければ、7月4日以降、発動するとしています。
対象となるのは、中国メーカーに加えて、中国で製造する欧米メーカーも含まれます。
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<< 引用文献
EU 中国製EVに38.1%の関税 上乗せする方針を発表 2024/06/13 NHK
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240612/k10014479281000.html
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アメリカの関税率の引き上げは、4月のイエンレン氏の訪中を受けた反応です。
現時点で、中国製のEVはアメリカには入っていませんが、バイデン大統領は大統領選挙にむけて、中国製のEVの輸入拡大が、落選の原因にならないように先手を打っていると思われます。
100%は、WTOを通らない可能性が高いので、最終的には、より低い税率に落ち着くと思われますが、バイデン大統領は大統領選挙までの時間かせぎが出来ればよいと考えていると思われます。
EUはドイツの自動車メーカーが競争力がないための対応と思われます。
アメリカとEUが、5月に、対応決定しているのに対して、日本は、6月中旬時点で問題にすらなっていません。
東京都は、住宅の太陽光パネルを義務づけましたが、これは、事実上、中国製の太陽光パネルの設置を義務づけたことになります。
アメリカが、「太陽光発電設備への関税を25%から50%にことし中に引き上げる」とは全く逆の対応で、中国の太陽光パネルメーカーから政治献金が流れていたのではないかという疑惑すら生じます。
太陽光パネルが望ましいかもしれませんが、この時期は、考えられる最悪の時期になります。
5)日本への影響
BYDは、日本では、クロネコヤマト、大和ハウス(物流施設)などの業界を中心に販売が拡大しています。
2024年6月現在、BYDは、日本国内の販売網を整備しつつあります。
BYDは、ATTO3を440万円、DOLPHINを、363万円から、日本で販売しています。
リチウムイオン電池の価格については、中国のメーカーが圧倒的に有利で、それが、EVの自動車価格に反映してきます。
丸川知雄氏は、「日本の自動車産業が全体として不要になる?」といい、半導体よりも、電池のコストダウンの方が優先順位が高いのではないかといいます。
<< 引用文献
EVと太陽電池に「過剰生産能力」はあるのか?2024/05/29 Newsweek 丸川知雄
https://www.newsweekjapan.jp/marukawa/2024/05/post-92.php
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「GX実現に向けた基本方針」が閣議決定されました
https://www.meti.go.jp/press/2022/02/20230210002/20230210002.html
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自動車は、日本の唯一の国際競争力のある製品です。
国際競争力のある製品が、ゼロになると、外貨が稼げなくなり、石油や食料が輸入できなくなります。
円安は全く止まらなくなります。
日本の自動車メーカーの海外生産比率は80%です。東南アジアの工場を失えば、それも大きなダメージになります。
丸川知雄氏は、現状では、電池と太陽光パネルの中国のシェアが高いので、CO2の排出抑制のスケジュールを先送りしない限り、中国製品の輸入は止められないので、関税強化の効果は一時的に止まると考えています。
「日本の自動車産業が全体として不要になった」場合、代替できる産業が育っていませんので、日本は、朝鮮戦争の前の状態に戻ることになります。
丸川知雄氏が指摘するように、関税強化は、日本の自動車産業の競争力の確保の問題解決にはつながらないかもしれませんが、検討を放棄するわけにはいきません。
円安が、問題解決を難しくしたとも言えます。