変化速度の計算

(変化速度ΔDを考えます)

 

1)DXの変化速度

 

日本経済が破綻しないためには、日本のDXが、IT先進国に追いつく必要があります。

 

「今後、5年で、日本のDXが、IT先進国に追いつく」ための条件は、次式でした。



ΔDXJ =   DXG/5 + ΔDXF

 

この条件は、IT先進国のDXの進展速度(ΔDXF)に、DXのギャップ量を目標年数で割った値(DXG/5)を加えたものになります。

 

期間が10年の場合には、5を10に置き換えればよいことになります。

 

この条件は、T先進国のDXの進展速度(ΔDXF)を上回る必要があることを示しています。

 

徐々に変化するのでは、ダメなことが分かります。

 

それでは、そのくらいの速度が必要でしょうか。

 

2)タケダの例

 

タケダは、2014年に、グラクソ・スミスクライン・バイオロジカルズから、CEOのクリストフ・ウェバー氏を受け入れ、ウェバー氏は、2015年からタケダの代表取締役社長CEOになっています。

 

ウェバー氏は、アイルランドの製薬大手シャイアーを約6兆円で買収し、2020年に、子会社の武田コンシューマーヘルスケア(アリナミン製薬)の売却をしています。日本の製薬会社の中では、ダントツの速度で、企業買収、子会社の売却、リストラ(希望退職)を繰り返しています。

 

タケダの平均給与は、製薬業界の平均の2倍で、1000万円を超えています。

 

これだけの猛スピードで変革を進めて、10年経ちました。日本の製薬会社の中で、ダントツの速度で、世界のトップ製薬会社の背中を追いかけているのですが、まだ、追いついてはいません。

 

世界のトップ製薬会社に追いつくという成果は、まだ、出ていません。

 

タケダは、製薬会社の事例ですが、DXやIT企業の状況も同じような条件です。

 

製薬会社は、トップ企業の規模が大きくなっています。

 

IT企業も、GAFAMの企業規模が大きくなっています。

 

仮に、10年かけて、GAFAMの背中が見えるレベルに、IT企業を改革しようとしたら、タケダ以上の速度で、変革を起こす必要があります。

 

少子化問題は、企業規模の問題ではありませんが、必要な変化速度は、タケダの場合と同じような条件になっています。

 

政府は2024年6月5日午後の記者会見で、「少子化の進行は危機的だ。対策は待ったなしの瀬戸際にある。少子化の要因は、経済的な不安定さや仕事と子育ての両立の難しさなど個々人の結婚や出産、子育ての希望の実現を阻む様々な要因が複雑に絡み合っている。いまだ多くの方の子供を産み育てたいという希望の実現には至っていない」と述べました。

 

これまでの政府の少子化対策が功を奏さなかったのはなぜかという質問には、保育所の待機児童数の減少したことなど一定の成果はあったと説明して、質問には答えていません。

 

政府の対策には、必要な変化速度がありませんので、政府は、対策を講じないと明言していることがわかります。

 

タケダのように、効果的な対策ができない人は、希望退職でリストラをして、人材の入れ替えをしても、間に合うかどうかの瀬戸際にあるのですから、政府は、対策を講じないと明言していると判断できます。

 

必要な変化速度に注目すれば、失われた30年があるのではなく、急速な変化を放棄して、

墜落を放置した30年があることになります。

 

ウェバー氏は、急速なリストラをしてきました。急速なリストラをするためには、必要な条件があります。それは、なぜ、リストラが必要であるか、リストラには、どのような効果が期待できるかを明確に説明できることです。

 

経営方針には、物理法則のような唯一の正解はありません。

 

その一方で、タケダは、世界のトップ製薬会社に追いつくという成果は、まだ、出ていませんので、経営方針の良し悪しを成果で評価することはできません。

 

唯一の正解がなく、成果で評価することができない問題があります。

 

しかも、この問題を解決する経営方針は、リストラなどの痛みを伴います。

 

幹部がつくった経営方針を社員が納得しなければ、経営は困難になります。

 

幹部がつくった経営方針を社員が納得する条件は、物理学の科学法則に準じます。

 

次の条件が必要です。

 

(C1)計画の経営方針が、比較しうる他の経営方針とくらべて、相対的に優位(優れている)と言える。

 

(C2)経営方式が上手くいかない可能性(反例)に対して、説得できる説明ができる。

 

この2条件は、クリティカルシンキングに近いものと考えられます。

 

3)日本の現状

 

日本では、法度制度のミームが生きています。

 

その結果、部下は上司の命令を、空気を読んで反論しません。

 

年功型雇用では、上司は、ポストを維持することを優先して、前例を踏襲した変革をさける玉虫色の経営方針を口にします。

 

上司は、会社の経営改善よりも、保身に走ります。なぜなら、この方式ではあれば無能な上司でも、ポストに止まることができるからです。

 

法度制度のミームでは、(C1)と(C2)の条件の検討が封印されます。

 

その結果、間違った経営が、延長され続けます。

 

具体例を上げます。

 

政府は、「これまでの政府の少子化対策が功を奏さなかったのはなぜかという質問」に答えていません。このような説明不足では、急速な変化を伴う政策に支持は得られません。つまり、問題は、政府の政策が間違っている点にありますが、(C1)と(C2)の条件の検討が封印された結果、間違った政策から抜け出せません。

 

岸田首相は10日の参院決算委員会で、公明党議員の質問に答えて、次のように、発言しています。

 

「生活や消費の下支えは、私も重視しており、そのために定額減税による手取り増の効果を国民の皆様にしっかりと実感していただくことで、消費者マインドを喚起し、消費の拡大や、さらに次の投資や賃上げにつながる経済の好循環実現していきたい。こうした経済の好循環、そして来年以降に物価上昇を上回る賃上げを定着させていくことを視野に入れれば、手を緩めることはあってはならず、賃上げの促進や価格転嫁対策、人手不足対策などを含め総合的・多面的な対策を今後とも講じていきたい」



「経済の好循環、そして来年以降に物価上昇を上回る賃上げを定着」という表現には、経済が好循環にあるという認識があります。

 

内閣府が16日発表した1〜3月期の国内総生産GDP)の速報値は、物価変動の影響を除いた実質の季節調整値が前期比0.5%減、年率換算で2.0%減でした。

 

5月の企業倒産件数は11年ぶりに1,000件を超えました。

 

GDP年率2.0%減の状態は、経済の好循環ではありません。

 

円レートは、110円が160円になり、基軸通貨のドルでみれば、賃金は、31%減少しています。春闘の数%の増減は、誤差の範囲にすぎません。 

 

政府の発言には、生産性の向上はでてきません。

 

「消費者マインドを喚起し、消費の拡大や、さらに次の投資や賃上げにつながる経済の好循環実現」は、1970年代に流行した「合理的期待形成理論(rational expectations hypothesis)」を表わしています。

 

合理的期待形成理論は、緩やかな仮定として考えれば、経済的に合理的な人間の仮定に一致します。経済学は、市場原理と経済的に合理的な人間の仮定を前提にしています。これは、微分計算が可能になる条件です。問題はありますが、この条件を外すと、経済学が成り立たなくなるので、必要悪の条件になります。

 

一方、合理的期待形成理論を過信して、広く採用することは、間違いです。日本には、労働市場がありませんので、合理的期待形成理論が成り立たないことは自明です。

 

合理的期待形成理論を過信すれば、DXや生産性の向上は不要になってしまいます。つまり、合理的期待形成理論では、どうしてデジタル赤字が発生するのか、どうしてDXが必要かが説明できません。

 

主流の経済学は、因果モデルを否定します。その結果、経済政策の因果の検証という科学に必要な基本ステップがなくなってしまいます。

 

因果の検証をすれば、直ぐに否定される合理的期待形成理論が、今だに、生きている原因には、法度制度のミームでは、(C1)と(C2)の条件の検討が封印されている点があげられます。



<< 引用文献

【速報】岸田首相「多面的な経済対策講じる」 定額減税に続く総合対策に意欲「手を緩めてはならない」2024/06/10 FNN プライム

https://news.yahoo.co.jp/articles/df852fb69a0cd66adb7d4f433a06d679f6e5e273

 

GDP年率2.0%減 1〜3月、消費や設備投資が落ち込む 2024/05/16 日本経済新聞

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA153OO0V10C24A5000000/

 

5月の企業倒産 件数が11年ぶりに1,000件超、全産業・全地区が増加 2024/06/10 東京商工リサーチ

https://news.yahoo.co.jp/articles/977223283de347bb138205a0848e96561b5ef035

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