鉄のトライアングルと副作用(3)

8)いつか来た道

 

年功型雇用は、日本の伝統的な雇用形態ではなく、戦時体制の一部として出来上がったことは、野口 悠紀雄氏が「1940年体制―さらば戦時経済」で明らかにしています。

 

年功型雇用は、戦争遂行のために、戦争にいっったり、戦死しても、その後の生活を補償して、徴兵制度をスムーズにすすめる目的で構築されています。

 

現在の鉄のトライアングルでは、年功型雇用に天下りシステムが組み込まれています。

 

そこで、疑問は、天下りシステムは、いつ組み込まれたかという点です。

 

有馬 哲夫氏は、NHK天下りシステムが組み込まれた経緯を次のように説明しています。(筆者要約)

 

 

1931年に満州事変が勃発すると、その年の9月から翌年の10月までの間に。NHKは、「時局関係番組」つまり、「満州は日本の生命戦であり、ここに進出していく国民の覚悟と奮起を促し、世論の方向を支持する番組」を260本も放送した。

 

私設無線電話施設者であるNHKは、国および軍部と一体化して、海外にネットワークを広げ、国策プロパガンダ機関になっていった。逓信省の元幹部がNHK天下り、かわりに受信料の支払いを郵便局で受け付け、不払い者には郵便局員を差し向けた。NHK逓信省はべったりの「特殊」な関係になっていく。

 

その結果、受信料があたかも公共料金であるかのように錯覚されることになった。

 

 

1931年以前のNHKは、私設無線電話施設者であり、ラジオ受信機の販売時にセットで、受信契約を結んで、料金を収集していました。NHKは、戦時体制の中で、天下りシステムが構築されたことになります。

 

「文藝春秋」2021年11月号で、現職の財務事務次官である矢野康治氏が、「日本(地方含)の債務はGDPの2.2倍にあたる1166兆円に上るにもかかわらず、政治では数十兆円規模の経済対策など『バラマキ合戦』のような政策論が横行している」という論文を発表しました。

 

これに対する反論には、「自国通貨を発行できる政府は財政赤字を拡大しても債務不履行になることはない」というでMMT(Modern Monetary Theory: 現代貨幣理論)の主張があります。しかし、状況証拠からして、MMTは間違いです。それは、MMTは、財政赤字が増えてから出てきた後付けの理論だからです。また、MMTは、積極財政をとるべきだと主張しますが、予算に占める国債の割合が増えると、予算規模に比べて、実効力のある予算は小さくなってしまいます。つまり論理的に破綻しています。

 

微分で考えれば、一番重要な労働生産性の改善を無視した議論には、ついていけません。

 

均衡財政が、経済にマイナスになるというエビデンスはありません。

 

2023年4月7日のビジネス+ITで、加谷珪一氏は、ドイツと日本を比較しています。(筆者要約)

 

 

ドイツは憲法で均衡財政が義務付けられている国であり、大幅な財政赤字は原則として許容されません。

 

ドイツの輸出製品の単価は戦後、一貫して上昇が続いています。これは製品を毎年値上げしても販売数量が落ちないことを意味しています。

 

日本の輸出単価は1980年代以降下がる一方となっています。日本は数量を維持するため値引きを余儀なくされている状況であり、製品競争力の差があります。

 

 

一般には、日本経済は失われた30年と言われ、問題は、1990年代のバブル以降に発生したと考えられています。しかし、 加谷珪一氏の指摘では、問題は、1980年には起こっていたことになります。

 

さて、年功型雇用と天下りがセットで強化されたのは戦時体制でした。そのころ、空気を読まずに、反戦を唱えれば、非国民として、村八分がまっていました。

 

イギリスでは、作曲家のブリテンは、1939年、4月のドイツのポーランド不可侵条約の破棄や第二次世界大戦の勃発に伴うイギリスの参戦など当時の世界情勢に危機感を抱いて、兵役拒否のために、6月にアメリカへ向かいました。

 

このような兵役拒否の活動をした日本人の話を聞いたことはありません。

 

2023年の日本は、1940年代の戦時体制の日本と驚くほど似ています。

 

空気を読まないことは批判されます。

 

国債を乱発した財政赤字は戦時体制と変わりません。

 

株価はバブル前をこえていまますが、筆頭株主が政府である株式会社も多くあり、戦時社会主義のような経済になっています。

 

賃金の原資は企業の利益にありますから、資本主義では、政府が賃金に口を出すことは考えられません、

 

しかし、政府は、賃金は、企業の利益とは、関係がないとばかりに、賃上げを要求しています。

 

これは、政府は、円安と非正規雇用の安い賃金を通じて、企業に所得移転をしているので、その一部を労働者にも還元しろと言っているようにも見えます。

 

つまり、異常な金融緩和に伴う円安や、同一労働同一賃金であればあり得ない非正規の安い給与を通じて、政府は、本来労働者に払われるべき賃金をピンハネして、企業に所得移転をしています。その一部を政府は企業に口利きをしたので、賃金が上がったという形式でキャッシュバックすることで、選挙を有利にする意図が見えます。

 

2023年5月10日の現代ビジネスで、加谷 珪一氏は、「日本が、いよいよ『強力な統制国家』になっている」と指摘していますが、この道は、いつか来た道ではないでしょうか。



引用文献

 

NHKが受信料を徴収できる根拠はもう存在しない…NHKが主張する「特殊な負担金」論のおかしな理屈 2023/06/01 ダイヤモンド 有馬 哲夫

https://president.jp/articles/-/70203

 

じつは日本が、いよいよ「強力な統制国家」になっていることに気づいていますか…? 2023/05/10 現代ビジネス 加谷 珪一

https://gendai.media/articles/-/110009

 

敗戦後日本の巨額の戦時国債はどのように処理されたのか 中央大学経済学部 関野満夫

https://www.mof.go.jp/pri/research/seminar/fy2022/lm20220519.pdf

 

日本経済がドイツ・韓国に完敗した理由、分岐点となる「90年代」に何を間違えた? 2023/04/07 ビジネス+IT 加谷 珪一

https://www.sbbit.jp/article/cont1/111058