ジャニーズ性加害問題と忖度

(ジャニーズ性加害問題を整理してみます)



1)発端

 

3月7日

BBCのドキュメンタリー「捕食者:Jポップの隠れたスキャンダル」

 

3月16日のコリン・ジョイス氏のNewsweekの記事を概要を整理してみます。(筆者の要約)




 

イギリスで3月7日、BBCのドキュメンタリー「捕食者:Jポップの隠れたスキャンダル」が放送された。ジャニーズ事務所の創業者である故ジャニー喜多川を取り上げたものだ。公平を期すために言うと、番組を担当した記者モビーン・アザーはこのスキャンダルを新事実として報じたわけではない。むしろこの番組は、性的虐待疑惑が何十年も前からあり、日本でも報じられ、民事裁判も行われて被害者や目撃者も証言してきたことを説明している。だからこそ問いかけたのは、喜多川がそれら全てを免れ、死後数年がたつ今もなお崇拝されているのは一体どういうわけか、という点だった。

 

1つ確かなのは、エンターテインメント業界とメディアがこの問題に深入りしないということ。喜多川は新たなタレントを育て上げることにかけて、格別の長きにわたり信じ難いほどの成功を収めてきた人物であり、彼の築いたジャニーズは今も成功を続けている。ハリウッドの「枕営業」カルチャーであれ、10代のファンに手を出すポップスターであれ、企業や組織は自分たちの売れ筋ビジネスに痛手を与えかねない出来事には目をつぶりがちだ。

 

重ねて言うが、これは日本だけの問題ではない。男たち、特にエンタメ界の男たちが何十年も性的虐待を働き、自らの名声や権力や金を駆使して罰を免れる、というお決まりのパターンが出来上がっている。

 

でも少なくともイギリスやアメリカの有名人のケースでは、ある種の矯正がみられるようだ。

 

今回のBBCの番組では、性加害の複雑な問題の1つ──被害者が時に、自分の身に起こった出来事について混乱した感情を抱いているように見えること──が特に興味深かった。

 

加害者はそれを知っていて、利用する。イギリスや他の国々の警察は、この手のグルーミング(手なずけ行為)と支配的行動を見抜くように訓練を積むようになった。

 

今回のBBCの番組は、喜多川の件が日本について何を物語っているか、という問題を見事に提起しつつも、それに対する答えはあまり提示していない。でも答えを出すべき問題があることは明らかだ。

 

 

2)経緯

 

その後の経緯をならべてみます。

 

4月12日

元ジャニーズJrのカウアン・オカモト氏(26)が会見し、「2012~16年に15~20回ほど被害を受けた」と告発しました。

 

5月11日(木)

TBS「news23」(以下、「23」)が元ジャニーズJr.のカウアン・オカモト氏(26歳。15歳で性被害)と橋田康氏(37歳。13歳で性被害)の証言を放送。主要なテレビ番組として、初めて元ジャニーズJr.の声を本格的に取材した。この放送では、小川彩佳キャスターがスタジオで以下のように「テレビの責任」に言及した。

 

〈(TBS「news23」5月11日・小川彩佳キャスター)「取材に応じてくださったカウアン氏はジャニー氏の疑惑について、『当時からメディアが報じていたらジャニーズ事務所に行くことはなかった』とも話されていました。果たして報道機関がどれだけこうした被害を報じてきたのか。少なくとも私たちの番組はお伝えしてこなかったという現状があります」〉

 

5月14日(日)

ジャニー喜多川氏の性加害問題をめぐり、に藤島ジュリー景子社長が「おわび」動画とコメントを発表し、ジュリー氏は「事務所の存続さえ問われる、極めて深刻な問題」と受け止めたが、これまで「知らなかった」とした。

 

注:この問題は1999年に週刊文春が記事化し、後に事務所との裁判にも発展した。この時、ジュリー氏は取締役で、幹部でありながら知らなかった理由を「異常」という言葉を用い、事務所の体制に問題があったと説明した。



5月15日(月)

日本テレビの情報番組「DayDay.」でNHKを退職してフリーとして新番組を任された武田真一キャスターが「伝えてこなかった責任」を自省するコメントを口にした。

 

〈(日本テレビ「DayDay.」5月15日・武田真一キャスター)「こうしたことが芸能界の中での出来事でニュースとして伝えるべきことなのかを突きつめて議論したり考えたりすることをしてきませんでした。ジャニーズ事務所の藤島社長が『自らも積極的に知ろうとしたり追及しなかったことについて責任があると考えている』としていますけれども、同じ責任を伝える側としても感じている」〉

 

5月15日(月)夜

TBS「23」はジャニーズ側が公表した「謝罪」に対するカウアン氏と橋田氏の2人の反応を改めて報道した。

 

5月16日(火)

カウアン氏と橋田氏の2人は立憲民主党の要請で国会でのヒアリングで自分の体験について話し、法改正を求めたことが各社のニュースで放映された。

 

5月17日

NHKクローズアップ現代」(以下、クロ現)が初めてジャニーズ事務所での“性加害”を特集。新たに実名・顔出しで証言する被害者を登場させた。元ジャニーズJr.の二本樹顕理氏(39歳。13歳で性被害)だ。二本樹氏は、今も時々起きるというフラッシュバックについて語り、26年経っても心の傷が癒えていない現状を明かしていた。

 

5月19日(金)

ジャニー喜多川前社長による性加害問題を巡り、歌手の近藤真彦氏(58)が、大分市で「うそはなしに、正々堂々と話をしてもらえれば。知ってた、知らないかではなく、知っているでしょ」と話した。 

 

5月24日

NHKの稲葉延雄会長(72)が、東京・渋谷の同局で定例会見を行い、ジャニーズ事務所の元所属タレントが創業者のジャニー喜多川前社長(2019年死去、享年87)の性加害問題について言及した。

 

5月25日

テレビ東京の定例社長会見で、ジャニーズ事務所の元所属タレントが創業者のジャニー喜多川前社長(2019年死去、享年87)の性加害問題について見解を示した。

 

3)ジュリー社長の発言

 

ジュリー社長の発言について、5月19日に、近藤真彦氏は、「知っている」はず発言しています。

 

5月20日のインタビューで、デーブ・スペクター氏は、次の様に答えています。

 

 

先日、ジュリー社長は自分は「知りませんでした」と発表していたが、これについてはどう思うか。

 

アマゾンで文明とつながっていない人たちだって知ってる。みんな知っているのに、それはおかしな話で(笑)。ジュリー社長が一番言うべきだったのは、「私も皆さまと同じように、たくさんの不愉快な噂を聞きました。何度も気になりましたが、恥ずかしながら確認まではできなかった」と。そのほうがまだよかったと思う。

 

 

4)背景

 

5月25日の伊藤博敏氏の 現代ビジネスの記事が要点を分かり易くまとめているので、引用します。(筆者要約)



 

ジャニー喜多川性的虐待は、「週刊文春」など一部メディアの粘り強い報道や北公次など元所属タレントの暴露などによって、ある程度国民に認知されたものだった。また、04年に東京高裁がこの問題を報じた週刊文春名誉毀損訴訟に関し、「重要部分においては真実」と認め、「報じるに値する公益性がある」という判決を下したことで「国家認定の事実」となった。

 

主要メディアで報じられなかったのは、視聴率や販売部数を左右するほどの影響力を持つジャニーズ事務所への忖度である。「ジャニーズ事務所の所属タレントに関するスキャンダルは扱わない」というのは、新聞、テレビ、出版社とジャニーズ事務所との黙契であり不文律。バーターでメディアには出演、インタビュー、グッズ販売などでの権益が与えられた。

 

 

5月50日のNewsweekのインタビューで、デーブ・スペクター氏は次のように答えています。

 

 

――同じことがアメリカで起きていたらどういう展開になっていたと思うか。

 

アメリカならずっと昔に問題が浮上して、表面化して、たぶん警察の出番が何回もあったと思う。だって厳しい、やっぱり未成年だと。大人同士はいろんな言い逃れとかできますけど、子供は子供で、何をされようと、その時点でアウトです。証拠さえあれば。

 

この騒動は複雑なんですよ。テレビ局のだらしない面があれば、文化の違い、恥の文化、すぐに訴えない文化、忖度の文化もある。アメリカの芸能界は忖度ゼロですから。「忖度」という言葉がないから、英語に訳すことすらできない。

 

ジャニーズに限らず、番組としては伝えたくても、局の上のほうから扱うか扱わないかの指令が出ると結局従わざるを得ない。

 

 

つまり、「局の上のほうから指令」が出ていたと思われます。



テレビ東京の定例社長会見も、NHKの会長会見も、「局の上のほうから指令」については何も述べていません。

 

3月7日のBBCのドキュメンタリーをうけて、3月16日には、コリン・ジョイス氏が、日本は問題究明をすべきと主張していますが、2か月間、放置されています。



伊藤博敏氏のいうジャニーズ事務所への忖度が、民法にあったことは理解できますが、NHKも例外ではなかったことになります。

 

「局の上のほうから指令」が有効に働く原因は、年功型雇用にあります。

 

デーブ・スペクター氏は、「アメリカの芸能界は忖度ゼロ」といっていますが、これは、ジョブ型雇用で、やり直しが効くからです。

 

「局の上のほうから指令」に従うことを、デーブ・スペクター氏は「恥の文化、すぐに訴えない文化、忖度の文化」といっていますが、これは、違法行為を見逃す文化であり、倫理よりも、忖度を優先する文化になっています。

 

ですから、これを文化の問題として片付ける訳にはいきません。

 

引用文献

 

BBCジャニー喜多川「性加害」報道が問う、エンタメ界の闇と日本の沈黙 2023/03/16 Newsweek コリン・ジョイス

https://www.newsweekjapan.jp/joyce/2023/03/bbc-1.php

 

「一個人が声を上げたところで…」ジャニーズ性加害をめぐり、ついに日テレにも被害者が登場した 2023/05/22 文春オンライン

https://news.yahoo.co.jp/articles/fe35535c9c92a3e1dab40d6ed1645b0f326b4d74

 

近藤真彦 ジャニーさんによる性加害問題で古巣対応に苦言「うそはなし。知っているでしょ」2023/05/20 スポニチ

https://www.sponichi.co.jp/entertainment/news/2023/05/20/kiji/20230520s00041000128000c.html

 

ジャニーズ性加害問題とメディアの責任...テレビ界からはどう見える?デーブ・スペクターに聞く 2023/05/20 Newsweek 小暮聡子

https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2023/05/post-101689.php 

 

猿之助事件は「LGBT法案に影響を与えかねない」と岸田官邸が考えている理由《ジャニー喜多川事件との接点》 2023/05/25 現代ビジネス 伊藤 博敏

https://gendai.media/articles/-/110801?page=2



テレ東社長、ジャニーズ性加害問題は「タレントに罪や問題はない」番組への起用に変更なし 2023/05/25 スポニチ

https://news.yahoo.co.jp/articles/ad59c9f234714fa42b12cd031b1d34aecea2ee05

 

NHK会長 ジャニーズの性加害問題に言及「決して許されないもの」「適正に適切に対応していきたい」 2023/05/24 スポニチ

https://www.sponichi.co.jp/entertainment/news/2023/05/24/kiji/20230524s00041000315000c.html