DX問題は存在しない

(DX問題は蜃気楼です)

 

1)DX教育とDX問題

 

DXが、重要な課題であると無批判に受け入れられています。

 

2022年の朝日新聞河合塾の共同調査によると、データサイエンスを学ぶ「数理・DS・AI教育」科目を全学生に必修化している大学が、4分の1に(文系学部でも4分の1に)達しています。

 

一方、中学校の中間・期末試験の問題を集めて保管し、「過去問」として生徒に解かせる指導が福岡県内の複数の学習塾で常態化していて、「過去問」にアクセスできる生徒と出来ない生徒の間で、成績に差が付くと問題になっています。その理由は、教員に余裕がないので、毎年同じ問題を使いまわしているからだそうです。

 

これは、暗記問題の試験問題が蔓延していることを示しています。

 

大学で、データサイエンスを必修化しても、生徒が、数学、プログラミング、統計処理が出来ないので、効果はほほゼロです。

 

例えば、ニュートンの運動法則と理解するには、2023年の平均的な水準では、電卓では無理で、プログラミングが必要ですが、基礎のできていない学生には、それは出来ないので、「ニュートンの運動法則」というキーワードを暗記させる以外には、授業が成立しません。教員は、教育効果がないことをわかっていますが、高等学校のカリキュラムが未消化が学生を卒業させているため、大学では手の打ちようがありません。

 

授業についてける学生は、小中高で、753を言われますので、上位20%位の学生以外には、高等教育を理解させることは実際にはできません。

 

2023年4月18日に、文部科学省は、デジタルや脱炭素分野の人材育成のため、学部を理系に再編したり定員増をしたりする大学や高等専門学校を支援する制度の対象校の公募を始めました。

 

対象は、(1)既存の学部を理工農系の学部に再編する私立大と公立大と、(2)既存の情報系学部の体制を強化する大学と高専です。

 

募集は5月24日までで、7月に審査結果を公表する計画です。

 

2022年12月から2023年1月の間に、文科省が、全国の大学と高専基金活用の意向をたずねたところ、私立・公立大計490校のうち156校が、(1)の理工農系分野への学部再編や定員増を考えている回答しています。大学と高専計634校のうち、59校が(2)の体制強化を検討していると回答しています。

 

文部科学省は、理系分野の学部設置には、約20億円の実験施設と設備が必要という基準を緩和する予定です。デジタル分野では、実験設備などは必要ないという判断です。

 

これでは、文系のマスプロ教育の看板を簡単にデジタル教育に切り替えることを認可していることになります。

 

2)目的と手段

 

DXとは、デジタル化を進めることではありません。

 

目的と手段を間違えないことが必要です。

 

DXの目的とは、デジタル化によって労働生産性を上げて競争優位に立つことである。

 

つまり、「学部を理系に再編したり定員増をしたり」することは、デジタル化によって労働生産性を上げて競争優位に立たなければ、手段と目的も取り違えになります。

 

競争優位になれないDXには効果はありません。

 

2023年3月29日に、米実業家イーロン・マスク氏や人工知能(AI)専門家、業界幹部らは公開書簡で、AIシステムの開発を6カ月間停止するよう呼びかけました。

 

GoogleのCEOのエリック・シュミット氏はオーストラリアの新聞Australian Financial Reviewのインタビューで「6カ月の一時停止は、単に中国を利することになるため、賛成できない」と語っています。

 

つまり、6カ月の一時停止は、デジタル化によって労働生産性を上げて競争優位に立つメイットの喪失につながるという指摘です。

 

2023年4月17日に、イーロン・マスク氏は「TruthGPT」と呼ばれるAIチャットボットを発表し、サービスを開始しました。4月18日時点で既にサービスも開始しています。

 

つまり、マスク氏は、エリック・シュミット氏と同じように、デジタル化によって労働生産性を上げて競争優位に立つメイットの喪失を回避しています。

 

いつものことですが、マスク氏の発言には、不合理な点が見られますが、マスク氏の行動は、非常に合理的です。

 

米アップルと米金融大手ゴールドマン・サックス(GS)は4月17日、アップルが米国で運営するクレジットカード「アップルカード」の利用者向けに普通預金口座の提供を始めました。金利は年4・15%と全米平均の10倍以上となっています。

 

今後、日本の「アップルカード」の利用者向けに類似のサービスが提供される可能性もあります。

 

アメリカのトップランクの大学のデータサイエンス関連の学科の卒業生は、金融業界か、IT業界に就職すれば、高い所得をあげることができます。その所得は、医師の所得より高く、一番優秀な学生が、データサイエンス関連の学科を目指しています。

 

学部を理系に再編したり定員増をしても、生成AIには勝てないレベルの人を濫造するだけでは、デジタル化によって労働生産性を上げて競争優位に立つことには繋がりません。

 

目的は、デジタル化によって労働生産性を上げて競争優位に立つことです。

 

政府は、ベンチャーの資金援助をしていますが、日本で起業する人はいません。

 

これは、一寸考えればわかることで、アメリかでなく、日本で起業するためには、そのメリットが必要です。

 

筆者は、ベンチャーが起業する場合の最大のポイントは、優秀な人材の確保だと思います。

 

シェリル・サンドバーグ氏がGoogleに移籍した2001年は、Googleが株式公開する前でした。

 

日本で起業しても、高度人材の労働市場がないため、サンドバーグ氏のような人材の確保はほぼ不可能性です。

 

日本のDX問題には、年功型組織で、DX投資とDX人材を増やせば、ジョブ型雇用で、DXを進めている企業より、速い速度で、デジタル化によって労働生産性を上げて競争優位に立てるという前提があります。

 

この前提は、達成不可能です。エリック・シュミット氏が指摘したように、6か月のDXの遅れは、企業にとって致命傷になりかねないですが、その速度でプロジェックを考えている年功型組織があるとは思えません。

 

それでも、DXを進めるのであれば、それは、DXが手段ではなく、目的化していることになります。

 

日本のDX問題は、ジョブ型雇用にして、必要なスキルのある人を採用れば、短期間に解決できます。

 

理系が増えれば良い訳ではありません。ラベリング(ドキュメンタリズム)には価値はありません。生成AIに勝てないB級人材を量産しても、科学技術立国にはできませんし、生産性が上がって、一人当たりGDPが増えることはありません。

 

DX問題とは、手段と目的の取違いが引きおこした蜃気楼にすぎません。

 

理系の定員増を問題にする人は、カリキュラムの中身が理解できていないので、ドキュメンタリズムになっています。

 

理系に分類されている農学部や工学部でも、データサイエンスではあり得ないようなカリキュラムが、蔓延している学科があります。

 

それらが排除できていないので、内容が理解できないドキュメンタリズムになっていることを意味しています。

 

引用文献

 

データサイエンス、文系学部も4分の1が必修化 課題は教員の確保 2022/11/10 朝日新聞

https://www.asahi.com/articles/ASQC952NRQC1USPT00H.html?oai=ASR4L5FMHR4LUTIL00L&ref=yahoo

 

大学の理系転換支援、文科省が公募開始 デジタル、脱炭素人材を育成 2023/04/18 朝日新聞

https://news.yahoo.co.jp/articles/0997e6a1acacbbe8e605159f996e4db1011fe3e5



内申点アップの「反則技」⁉ 塾で中学定期テスト過去問指導 識者「本当の学力身に付かない」2023/02/26 西日本新聞

https://www.chugoku-np.co.jp/articles/-/274221

 

グーグル元CEOが語る「AI開発の一時停止が危険な理由」2023/04/12 Forbas Matt Novak

https://forbesjapan.com/articles/detail/62355