ソリューション・デザイン(9)

(9)政治的な合意の作り方

 

(Q:政治的な合意を得るベストな方法について説明してください)

 

1)基本的な疑問

 

国会答弁で与野党が議論しています。政治家には、それぞれの信念があります。

 

信念の異なる政治家が、議論をして、合意を得ることは可能でしょうか。

 

もしも、合意を得ることが不可能であれば、国会答弁は無駄な時間をつぶして、不必要なCO2を排出して、環境を悪化させているだけになります。

 

つまり、議論を始める前に、合意に達することが可能かを検討すべきです。

 

2)合意を得る方法

 

実際に合意が得られている事象を観察して、分類します。

 

観察結果によれば、合意が得られるプロセスには、次の4種類があります。

 

(1)信念を変えない方法

 

一般的には、信念を変えないことは、合意形成を阻害します。

 

なので、合意を得る方法として、分類して良いか否かは不明ですが、実際に、信念を変えない人がいますので、これを、第1のカテゴリーと考えます。

 

典型的な例は宗教に見られます。輸血を認めない宗教が最近問題になっています。

 

安倍前首相の暗殺から、宗教の治安上のリスクが問題視されています。

 

とはいえ、宗教の基本的な教義を、合意によって変えさせることは非常に困難です。

 

(2)権威による方法

 

筆者がいっても、賛同する人がいない文言と、まったく、同じ文言を、総理大臣が言えば世の中は動きます。つまり、そこでは、文言の内容が検討されているのではなく、権威のある誰がいったかが問題にされています。

 

これは、言うまでもなく、合意をえる方法としては、アブノーマルです。権威による方法が妥当であれば、国会答弁は、内容ではなく、誰がいったかだけが問題になってしまいます。つまり、質疑応答の文言は何でもよくなってしまいます。

 

映画を見れば、アメリカ大統領を演じる俳優が大統領らしい発言をします。しかし、観客は、その発言は、フィクションなので、実害がないことを知っています。大統領の俳優が、「核ミサイルのボタンを押せ」といっても、驚く、観客はいません。

権威による方法が極限に達すれば、大統領が、「核ミサイルのボタンを押せ」といったときに、止めることの出来る人は誰もいなくなります。

 

権威による方法の欠点は、内容がノーチェックになってしまう点にあります。

 

一般の人は、誰も、権威には勝てないと思ってしまうからです。

 

この問題点を無視して、使われている手法が、有識者による検討会議です。

 

有識者会議が機能しない理由は、その決定の根拠が権威にあるからです。

 

論語―泰伯」の「民は之に由らしむべし之を知らしむべからず」も、権威による方法です。

 

大臣が政策を国民に良く説明するといっても、その説明が、エビデンスに基づかず理解できない理由は、合意が、有識者会議の権威でできているからです。

 

(3)前例主義

 

今まで、行ってきた方法を踏襲する、あるいは、どこか(主に海外)で、過去に使われた方法をコピーして使う方法です。

 

特に、日本では、発展途上国だった時代から、海外手法をコピーして使ってきました。

 

これは、OECD調査団「日本の社会科学を批判する」(1976)で指摘された点でもあります。

 

最近、日本では、探究型学習が導入されています。

 

ウィキペディア(英語)は次のようにいっています。

 

<==

 

探究型学習(Inquiry-based learning)は、質問、問題、またはシナリオを提示することから始まる能動的学習(Active learning)の形式です。これは、一般に教師が事実を提示し、主題に関する自分の知識に依存している伝統的な教育とは対照的です。

 

==>

 

一方、2023年3月1日のNewsweekに、舞田敏彦氏は次のように書いています。

 

<==

 

学習指導要領で習得の進度(学年進行)が厳格に定められているためか、形式的な履修主義がはびこり、就学の形骸化の問題も起きやすい。

 

==>

 

これは、学習指導要領が、能動的学習を否定していることを指します。

 

「形式的な履修主義」は、人文的文化のドキュメンタリズムそのものです。

 

アメリカの義務教育は、ブッシュ.Jr大統領の時代に、徹底したエビデンスベースになっていて、「形式的な履修主義」は排除されています。

 

前例主義は、引用元と引用先の時間(時代)と空間(国)による前提条件の違いを無視しますので、ほぼ確実に失敗します。

 

(4)科学的探求方法

 

科学的探究方法は、他の方法とは異なり、問題解決方法は発見可能であるが、特定の意見とは無関係であると仮定するため、科学的探究方法は、正しい解決法を提示できます。しかし、科学的探究方法では、問題解決方法の仮説が間違ってしまう可能性もある (誤謬主義ので、問題解決方法の仮説をエビデンスで検証し、批判し、修正し、 問題解決方法の仮説を改善します。

 

科学的探求方法は、最終的には最も確実な信念に到達するように意識してに設計されているため、他の方法よりも優れています。 

 

3)A:政治的な合意を得るベストな方法

 

以上の考察から、政治的な合意を得るには、科学的探求方法を採用すべきです。

 

2023年2月27日に、日銀総裁候補の植田和男氏は、アベノミクスは、「着実な成果があがっている」と発言していますが、エビデンスは示されていません。

 

論破王として知られるひろゆきさんの十八番の台詞の「それって、あなたの感想ですよね」が当てはまります。

 

4)種明かし

 

以上の考察は、ウィキペディア(英語)の「チャールズ・サンダース・パース」の「The Fixation of Belief」(1877) の説明によっています。

 

前述の4つの方法は、政治問題に合わせて、筆者が、書き直しています。

 

英語版のウィキペディアは、パースは、科学的探求方法が唯一の問題解決方法であると考えていたという分析です。

 

日本語版のウィキペディアには、「The Fixation of Belief」に関する記述はありません。

 

日本では、パースは、4つの方法を一長一短だと扱ったという解釈をする人もいます。

 

これは、人文的文化の解釈です。

 

ウィキペディア(英語)の「チャールズ・サンダース・パース」は、「パースは 30 年間現役の科学者であり、ジョンズ ホプキンス大学で講義を行った 5 年間だけプロの哲学者であったことはほぼ間違いありません」と言っています。

 

つまり、パースは、哲学者である前に、科学者であり、科学的文化で評価される必要があります。

 

それにしても、パースが、「The Fixation of Belief」を書いたのは、145年も前のことです。

スノーの1959年の「二つの文化と科学革命」の82年も前のことです。

 

パースが、同時代人にあまり理解されなかったのも、やむを得ない気もします。



  



引用文献

 

本の学校では、問題解決能力も批判的思考も養われていない 2023/03/01 Newsweek 舞田敏彦

https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2023/03/post-100983.php