(GAFAの給与が高い理由を考えます)
1)DXと労働生産性
過去20年間、先進国の中で、日本だけが、賃金があがっていません。
過去20年間、先進国の中で、日本だけが、労働生産性があがっていません。
過去20年間は、労働生産性をあげる代わりに、非正規雇用を拡大して、賃金を下げています。
あるいは、円安に頼っています。
この方法は、限界に達していて、DXやリスキリングが必要であると言われています。
そのために、DXやリスキリングに、補助金がつぎ込まれています。
それでは、補助金をつぎ込めば、労働生産性があがり、所得が増えるでしょうか。
筆者は、そうならないと考えます。
DXやリスキリングでは、セミナーが開催されています。経済新聞を見れば、流行のセミナーのオンパレードです。こうした講師は、ヒストリアンで、DXやリスキリングの海外での事情を良く知っていて、その説明をします。簡単に言えば、前例主義です。
前例主義は、確実に失敗します。日本では、DXとリスキリングに成功した企業はありませんので、セミナーの講師は、DXとリスキリングの実績を持っているわけではありません。
同様に、政府は、DXとリスキリングが大切であるといいますが、その理由は、官庁を含めた日本の組織がDXとリスキリングに成功していないからです。つまり、DXとリスキリングを推進する政府の担当者は、DXとリスキリングの実績を持っているわけではありません。
オリンピックで、スケートの指導者は、過去の入賞実績のある人です。過去の入賞者は、スキルの必要性だけではなく、具体的にスキルを身に着ける方法を知っています。スキルの大切さを理解しているヒストリアンでは、不十分です。
「DXを進めるは、DXの実績があるべきだ」、あるいは「リスキリングを進めるには、リスキリングの成功体験が必要だ」というのは、循環論法です。
これはどこかで既に見た風景です。
前著「経験科学の終わり」の最終章「教程の循環論理」(2022.12.10掲載)で取り上げた課題です。
そこでは、次のように書きました。
「DXは、データサイエンスの応用ですから、データサイエンスの論理(パラダイム)で考えるべきです」
つまり、ヒストリアンの講師の発言は役にたちません。
例えば、アマゾンは、DXに成功しています。アマゾンが成功するためにどのように論理を組み立てたのかを考えて、日本の組織も、同じように、データサイエンスの論理で、DXの進め方を設計する必要があります。
2)アマゾンのDXの論理
以下は、筆者の推測するアマゾンのDXの論理です。
表と数字は一例で、変更可能です。
図表を使うえば、言葉で検討するより、はるかに複雑な、ケースを検討できます。
表1では、小売業界を母集団に想定しています。
2-1)ST1
ST1(第1ステージ)は、Eコマースの前です。
小売りは、「一般」で、表わされる対面販売が100%でした。
ここで、対面販売の労働者の1人あたりの給与を1単位とすれば、母集団の業界全体で、支払う給与は100単位です。
2-2)ST2
ST2(第2ステージ)は、Eコマースのシステムの開発時です。
「AI」で表わしている人員5%が、Eコマースのシステム開発者です。
「開発」で、表わしている人員は、新規の商品コンセプトの開発をしている人員です。
小売りの場合には、「開発」部隊はここで示した15%より、小さいと思います。
「開発」は、DXのモデルを一般化するための要素です。
ここで、システム開発をする「AI」部隊の給与は、「一般」部隊の10倍であるとします。
また、商品コンセプトの「開発」部隊の給与は、「一般」部隊の2倍であるとします。
この10倍、2倍は仮の値で、変化させることで、感度分析ができます。
話を簡単にするために、ここでは、この数字で進めます。
そうすると、ST2では、全部で、160単位の給与を払うことになります。
2-3)ST3
ST3(第3ステージ)は、Eコマースのシステムの稼働時です。
ここでは、システムが完成していますので、システム開発をする「AI」部隊は、メンテナンスと改良を行います。その場合に、必要な人員は1%と推定しています。
「開発」部隊は15%で変化しないと考えます。
Eコマースのシステムが稼働していますので、対面販売の「一般」部隊はなくなります。「一般」部隊はレイオフされます。
そうすると、ST3では、全部で、40単位の給与を払うことになります。
2-4)競争と労働生産性
ST2では、ST1の100単位より、多くの給与(費用)がかかっていますが、ST3になれば、その赤字は、1年で回収できます。
ST3の2年目以降は、コストは40単位です。人員は16%です。
ST1の利益がないと計算できないので、ST1の利益を10単位と仮定します。
人件費を引く前の利益は110単位です。
ST4では、人件費が60単位減っていますので、利益は70単位です。
ここで、販売価格を20単位下げても、50単位の利益がでます。
この条件では、ST1の営業をしている企業は10単位の赤字になりますので、市場から撤退します。
1%の「AI」部隊の給与は10単位、15%の「開発」部隊の給与は2単位です。
平均 =(1x10+15x2)/16 = 2.5
つまり、平均給与は2.5倍になります。労働生産性が上がっています。
DXとリスキリングで、給与をあげるには、レイオフが必要です。
レイオフせずに、DXとリスキリングで、給与があげると主張するのであれば、表1のような試算例を示すべきです。
数学的に解けない問題は、解決不可能です。
3)「開発」部隊の補足
表1には、「開発」部隊が入っているので、「開発」部隊の補足説明をしておきます。
医療の場合では、今後は、アップルウォッチの拡大版のような「健康管理治療システム」が普及すると思われます。これは、病気になってから治療するよりはるかに合理的です。つまり、予防医学の内容を充実させる必要があります。また、現在は、治療できない病気の治療法も開発する必要があります。
これらは、「AI」ではなく、医学そのものですので、「開発」部隊が必要になります。
一方、患者の顔色を見て、治療薬を割り当てる「一般」の医療は、「健康管理治療システム」で置き換えることが可能です。
つまり、「開発」部隊の医師は、残すが、「一般」の医師はレイオフしないと労働生産性があがりません。
もちろん、現在行っているように、古い医療システムを捨てずに、「健康管理治療システム」を拒否するという選択もあります。
しかし、その場合、古い医療システムは、アマゾンに淘汰される対面小売りと同じ立場に置かれます。
ここで、注意しなければならないことは、「一般」の医師がレイオフされた後で、給与が増える可能性が高いという点です。これが、リスキリングの効果になります。
レイオフされた「一般」の医師の能力が高ければ、リスキリングで給与は上がります。
「AI」部隊の給与は、リスキリングしなければ、時間がたつと急速に減価します。医師も同じで、リスキリングしなければ、時間がたつと給与が、急速に減価するようになります。
ここでは、医療を例に上げましたが、「リスキリングしなければ、時間がたつと給与が、急速に減価する」構造は、弁護士や大学の教員などでも同じになります。
これば、能力や出来高に応じて給与を払うジョブ型雇用の原則です。
リスキリングしないで、資格があれば、給与が確保される世界は、デジタル社会にはありません。