(プランを考える上で、海外の高度人材の誘致と日本の人材流出は大きな課題です)
1)トラクターを作っている機械メーカーの話
2022年12月6日の日経新聞に、売り上げに占める比率が7割の大手機械メーカーが850億円投じて、研究拠点を作り、工場に分散していた3000人の技術者を集めて研究拠点を作ると書かれていました。
このメーカーは、先日も安価な中国製のトラクラ―などの農業機械と価格競争力をつけるために、インドの工場で農業機械を生産して輸出する計画を発表しています。
同日の別の記事では、大学の教授が、日本の大企業は、国内で新製品を開発して、良い製品ができたら輸出するのではなく、国内だけでなく、最初から海外も合わせたマーケット戦略のもとで、技術開発すべきであるといっています。
しかし、この機械メーカーは、売り上げの7割が海外であり、海外製品を中心に技術開発をしていますので、某大学の教授の心配にはあてはまりません。
とはいえ、この機械メーカーが、本当に安売り競争で勝負する気があるのかには、疑問符がつきます。
というのは、中国製の農業機械と価格競争になったのは、10年以上も前の話で、その間に安価な製品に対する対策をこうじてきたようには見えないからです。
インドの工場で農業機械を生産するという発表は、新興市場だけでなく、既存市場でも、中国製品とも価格競争に巻き込まれていることを示しているように見えます。
同様の問題は、これから、EVでおこる可能性があります。
2)シーインの話
11月30日の現在ビジネスの小島健輔氏のシーインの記事は、中国製品の価格競争力について、分析しています。
シーインは、2020年12月には日本語版サイトが開設され、この12月で開設2年になります。
まず、日本国内売り上げは、島健輔氏の推定によれば、以下です。
大手外資アパレル計 1340億円(2021年)
シーイン2021年 1400億円(推定)
シーイン2022年 3600億円(推定)
GU 2460億円(22年8月期)
ユニクロ 8102億円
つまり、2年で、GUや大手外資アパレル(H&M、GAP、インディテックス)を超えています。
シーインは2008年起業し、2015年に、シーインのブランドを使い始めていますので、ルーツは古いですが、
全世界売上は以下です。
シーイン20220年の100億ドル
シーイン2021年は157億ドル
シーイン20222年は240億ドル(約3兆3600億円)
ファーストリテイリングの2兆3011億円(22年8月期)
H&Mの1990億スウェーデンクローネ(21年11月期、約2兆5470億円)
インディテックスの277億1600万ユーロ(22年1月期、約3兆6140億円)
検索をかけると、次のような声がありました。
ユニクロやH&Mよりも値段が安いですし(ダウンが2,000円台)、いまなら最大85%オフで買えます。
小島健輔氏の分析の一部をあげれば、売り上げ増の原因は、以下です。
(1)圧倒的な安さと鮮度、脅威的なバラエティ(商品代金で16,666円以下の免税)
(2)3D・CADによるデザインと工場のCAM機器でマーキング・裁断・縫製
(3)個人輸入税制を活用した関税・消費税の回避(国際郵便小包で直送し、国内倉庫がない)
(4)マイクロインフルエンサーの活用
個人向け小包を使うため、関税を支払っていません。消費税もかかっていないと思われます。
脅威的なバラエティをウィキペディアは次のように説明しています。
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店舗を一切構えず、オンラインのみに特化した販売を行い、ミニマムロットとなる100単位で多品目展開を軸とすることから、毎日3千から5千の新作がサイトにアップされている。
2021年時点で同社は衣料品のデザインや製造には一切関与しておらず、世界の衣料工場と呼ばれる広州の衣料品市場から製品を調達している。
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関税、消費税については、今後、問題になるかもしれませんが、DXを使ったコストダウンについては、GUのはるか先をいっています。
また、ウィキペディアは、売れ筋商品の選別に次のようなエビデンスベースの科学的手法を用いていると言っています。
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売れ筋を商品を見つけるため常にA/Bテストを行っており、異なるスタイルや生地、色の組み合わせを行った試作品を小ロットで製作し、手始めにオンラインテスト販売が行われ、結果が良好であった方の商品の大量生産が開始されると同時にSNSを活用した広告活動が開始されることで人気商品が形成されている。また、通常テスト販売は本社を置く国で行われることが一般的であるが、これは、サンプルとなる人種の母数が限られるため、欧米ブランド製品がアジア人には適さないなどの問題が発生し、国際市場で展開するには向いていないため、シーインでは人種のるつぼであるアメリカで優先的に行っており、この結果を受け欧州やオーストラリア、中東での販売戦略が策定されている。
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3)人材とマーケット
機械メーカーが、「工場に分散していた3000人の技術者を集めて研究拠点」という記事と、シーインの記事を読むと、時計の進み方が違います。
韓国サムスンに引き抜かれた日本人研究者の証言の記事をみつけました。給料1.7倍で、住宅手当はべつなので、住宅手当を含めれば、2.5倍くらいの差があります。
「工場に分散していた3000人の技術者」という発想には、海外の人材を活用する視点はありません。もっとも、このメーカーは、インド工場で、高度人材を抱えていると思いますので、日本の人材ともリンクが希薄なだけで、海外は見ていると思われます。
ここで、頭脳流出(brain drain)について見ておきます。
3-1)マレーシアの頭脳流出
2022年12月6日の日経新聞に、2022年に、マレーシアの人材流出が経済成長の足枷になっていると書かれていました。過去のデータも集めて、時系列で整理すると、次のようになります。
1990年時点、海外居住マレーシア人は35 万人
2000 年時点で,海外居住マレーシア人は75 万人の約3 人に 1 人が「高度人材」の移民(頭脳流出)
2010年時点で、海外居住マレーシア人は100万人に達し(総人口の3%。日本は1%)、その3割が頭脳流出と見られ、20年前に比べると3倍に増えています。
2022年時点、海外居住マレーシア人は200万人に達し、その25%が高度人材(頭脳流出)
高度人材の比率の3分の1と25%の差は、優位ではないと思います。
ともかく、海外に流出する高度人材が流出人口に比例して増えています。
ただし、マレーシア国内の大学の定員も増えていますので、高度人材の流出によって、高度人材の絶対数が減少している訳ではないようです。
3-2)IMDのWorld Talent Ranking
2021年のランキングは、世界ではスイスが1位となり、スウェーデン、ルクセンブルクと続きました。
アジア太平洋地域では、上から次になります。
かっこの順番は、2021年(2020年、2019年)の意味です。
シンガポール12位(9位、10位)
香港11位(14位、15位)
台湾16位(20位、20位)
マレーシア28位(25位、22位、2014年5位)
韓国34位(31位、33位)
中国36位(40位、42位)
日本39位(38位、35位、2016年30位、2014年28位、2012年41位、2010年29位)
タイ43位(43位、43位)
インドネシア50位(45位、41位)
インド56位(62位)
フィリピン57位(48位、49位)
このランキングが低いと、「頭脳流出」に直面していることを示していると言われています。
日本は、毎年順位を下げています。中国は、順位をあげて、2021年には、逆転しています。
中国が、頭脳流出を呼び戻すために、2005年頃から、年収4000万円、マンション、保育園ありの条件で、頭脳を呼び戻しています。これをみれば、その効果はあったと言えます。
マレーシアが、28位で頭脳流出に悩まされていますので、日本から頭脳流出するのは、当然のことと言えます。
引用文献
韓国サムスンに引き抜かれた日本人研究者の証言、給料1.7倍で「天国のような環境」
ヘッドハンティングされて韓国で暮らした10年(前編)2022/09/06 Daiamond 佐久間 俊
https://diamond.jp/articles/-/308940
韓国サムスンで10年働いた研究者は見た、すぐクビになる日本人と生き残る日本人の差
ヘッドハンティングされて韓国で暮らした10年(後編)2022/09/06 Daiamond 佐久間 俊
https://diamond.jp/articles/-/308941
もう「GU」を超えた…“日本で爆売れ”中国発「SHEIN(シーイン)」が抱える「2つのヤバい大問題」2022/11/30 現在ビジネス 小島 健輔
https://gendai.media/articles/-/102746
SHEIN
https://ja.wikipedia.org/wiki/Shein
マレーシアにおける頭脳流出 田中 李歩 2015 アジア地域文化研究
https://researchmap.jp/riho_tanaka/published_papers/21213563
file:///C:/Users/oiras/Downloads/acb011010.pdf
Malaysia Economic Monitor 2011: Brain Drain
マレーシアの頭脳流出(1) ─ 海外を目指す大卒者 2016/0315
https://www.daijob.com/crossculture/arimoto/20160315.html
IMD世界タレント(高度人材)ランキング、日本は35位に後退 2020/06/06 Hrmedial
https://descartes-search.com/media/imd-world-talent-ranking/
World Talent Ranking 2021
https://www.imd.org/centers/world-competitiveness-center/rankings/world-talent-competitiveness/