システムアプローチとDX(2)~プランBの検討

4)システムの方法

 

筆者がシステム思考という視点を学んだのは、情報処理技術者の受験本からです。

 

試験区分が細分化される前のインターネットが普及する前の時代の受験本ですから、今は、廃刊になっているはずです。

 

その本では、システム(システムアプローチ)とは、「問題があったときに、問題そのものを解かずに、問題を解くためのツールを開発する方法」であると書かれていました。

 

受験本以外に本来の出典がありそうですが、今のところ、ピッタリ合うものは、見つかっていません。

 

「デジタル社会に対応するためにプログラミングを学習する必要があるか」、「誰もがプログラマーになる必要があるか」という議論がなされますが、筆者は、システムアプローチが出来れば、デジタル社会に対応するため十分であると考えます。

 

一方、システムアプローチを学ぶベストな方法は、プログラミングをしてみることだと思っています。

 

つまり、プログラミングを通じて、システムアプローチが理解できれば、その後も、プログラミングを続ける必要はあまりないと考えています。

 

「問題があったときに、問題そのものを解かずに、問題を解くためのツールを開発する方法」とは、問題を解かずに、メタ問題を解く方法です。

 

メタ問題とは、問題の構造を分析して、問題を一般化したするアプローチです。

 

プログラムは、必ずメタ問題を解くように設計されるべきです。

 

そうすれば、作成したプログラムは、該当する問題だけでなく、同じメタ問題の構造をもつ、他の問題もそのまま解くことができます。

 

つまり、DXの正否は、メタ問題をとくシステムアプローチの熟度に大きく依存することになります。

 

5)2セグメントモデル

 

メタ問題の一番簡単なモデルは2セグメントモデルです。

 

「氏か育ちか」という設定は、「DNAと環境」の2セグメントモデルの例です。

 

「主体と環境」のように、2つのセグメントの因子が原因になって、結果が発生するモデルを2セグメントモデルと呼ぶことにします。

 

この2セグメントは共に、原因を構成しています。

 

どちらか片方だけが原因であるという結論を出すことは、バイナリーバイアスの間違いです。

 

5-1)替え玉受験

 

警視庁は2022年11月21日、関西電力社員の容疑者(28)をWEBテストの替え玉受験(私的電磁的記録不正作出・同供用容疑)で逮捕しています。

 

2年前の2020年のyour-internには次のようなことが書かれていました。(筆者の要約)

 

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友だちと一緒にWEBテストを受験する不正行為をする就活生が多くいます。

 

WEBテストを複数人で受験する就活生の存在は、広く知られています。

 

企業側は対策を講じず、不正行為を黙認しています。

 

友だちと一緒でなく、友だちにWEBテストを丸投げする行為は替え玉受験です。

 

実は、就活の替え玉受験はビジネスになっています。

 

WEBテストの替え玉受験は不正行為ですが、誰がWEBテストを受験したのか特定する方法はありません。

 

WEBテストの替え玉受験がバレるのは、WEBテストに合格した後の面接で、テストの成績と学生の発言が合わないことに面接官が気付いた場合だけです。

 

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替え玉受験のメタ問題は、次の2セグメントモデルになります。

 

環境:企業側は対策を講じていない。誰がWEBテストを受験したのか特定する方法はない。

主体:WEBテストを丸投げする就活生と替え玉受験を請け負う人(2人モデル)

11月21日の逮捕は、替え玉受験を請け負う人のみを対象にしています。

 

your-internは、不正行為と替え玉受験(犯罪)の間に線引きを試みていますが、「万引きは犯罪です」というキャッチコピーや、「割れ窓理論」によれば、不正行為は犯罪を誘発するの取り締まるべきだということになります。

 

つまり、「割れ窓理論」によれば、「企業側は対策を講じていない。誰がWEBテストを受験したのか特定する方法はない」には、大きな問題を放置していることになります。

 

WEBテストに合格した後、テストの成績と学生の発言の不一致に面接官が気付いた時にだけ替え玉受験がバレる」のは、採用試験システムの欠陥です。

 

替え玉受験がバレて逮捕された場合には、法律にしたがって逮捕することは当然ですが、そのことをマスコミに流すべきかどうかは別の問題です。

 

警察は、替え玉受験を公表すると、逮捕されるリスクがあると警告することで、犯罪の再発が防げると考えているのかも知れません。

 

今回逮捕された人は、替え玉受験を副業で行っていました。今回の逮捕の発表で、WEBテストを一緒に受験する友だちや副業の替え玉受験ビジネスは減少すると思いますが、専業の替え玉受験ビジネスは警察の手の内がわかりましたので、摘発されないように、更に替え玉受験ビジネスを工夫すると思われます。

 

5-2)メタ就職試験問題

 

「テストの成績と学生の発言の不一致に面接官が気付いた」結果、替え玉受験の請負で逮捕されることは、かなりレアな現象です。替え玉受験をしても、「テストの成績と学生の発言の不一致に面接官が気付く」ことがない場合も多いと想定されます。

 

就職試験問題のメタ構造を考えてみます。

 

WEB試験と面接試験の本来のメタ構造は次になります。

 

WEB試験:合格、不合格

面接試験:合格、不合格

 

替え玉受験を含むのメタ構造は次になります。

 

WEB試験:合格、替え玉合格、不合格、替え玉不合格

面接試験:合格、不合格

 

2次の面接試験まで進んだ場合の組み合わせは以下です。

 

(a)WEB試験:合格、面接試験:不合格

(b)WEB試験:合格、面接試験:合格



(c)WEB試験:替え玉合格、面接試験:不合格

(d)WEB試験:替え玉合格、面接試験:合格

 

企業側が替え玉受験対策を講じず、不正行為を黙認している理由は次の通りであると思われます。

 

(1)1次スクリーニング効果

WEB試験の主な目的は、面接対象者を絞り込むことです。

WEB試験の替え玉合格が1次スクリーニングにかからなくとも、特に問題はありません。

企業は、WEB試験の精度に期待していませんので、システムを改善するつもりはありません。

 

(2)不正排除の経済効果がない

替え玉受験をすれば、「(d)WEB試験:替え玉合格、面接試験:合格」の組合せには、社会的な公平上の問題があります。しかし、(d)による合格者を排除する経済的なメリットは企業にはありません。

 

(d)を排除するのは簡単です。面接待ちの間に、面接会場内でWEB試験を受けてもらえば良いのです。このWEB試験は、基本的な国語能力と論理的能力をチェックするだけですから、受験生毎に、異なった問題を解いても構いません。

 

もっと言えば、面接試験の合否判定の精度について、追跡調査をして、エビデンスベースでフィードバックしている企業は少ないと思います。

 

面接をすれば、顔色が悪くて健康に問題があるとか、落ち着きがないとか、言葉遣いが悪いといった点はチェックできます。一方、新製品を開発するアイデアを出せるといった能力は無視していると思われます。

 

ジョブ型雇用では、落ち着きがないとか、言葉遣いが悪いことより、新製品を開発するアイデアを出せるといった能力が重視されますので、実際に課題を出して、プログラムを作成してもらったりします。

 

現在の日本企業の面接では、新製品を開発するアイデアを出せないが、八方美人で、付き合いの良い人を選んで採用していると言えます。

 

5-3)前例主義とマスコミ

 

前例主義は、過去の成功をコピーして使う方法です。

 

2セグメントモデルでは、成功を構成する要素(原因)は、「主体と環境」です。

 

過去の成功の「環境」は、現在でも成り立っていることは、まず、あり得ません。

 

前例主義は、「環境」を無視して、全てを「主体」の原因と決めつけますので、バイナリーバイアスのある間違った方法です。

 

科学的な経営を行っている欧米の経営者は、前例主義をとることはありません。

 

過去の成功を利用する場合には、過去と現在の「環境」の違いを必ず比較検討しなければなりません。

 

デジタル社会のレジームシフトしてしまうと過去と現在の「環境」は劇的変化していますので、過去と現在の「環境」の違いは、比較検討するまでもなく、ほぼ、重なり合わないと言えます。

 

これは、前著「ヒストリアンとビジョナリスト」で取り上げた課題です。

 

新聞のビジネス記事や、ビジネス関連の書籍には、成功事例があふれています。

 

こうした成功事例の8割は、ヒストリアンの過去の事例で、過去と現在の「環境」が、重なり合わないので、利用価値がありません。

 

成功事例の2割は、現在の先進事例です。

 

先進事例の場合、先進事例の成果(結果)が強調されます。

 

この場合の問題点は、原因である「主体と環境」、特に、「環境」に関する情報が圧倒的に不足していることです。

 

先進事例ではありませんが、記事によっては、意図的に環境を無視している例もあります。

 

ツイッターの解雇を受けて、日本のツイッターでも解雇が行われたようです。

 

この問題について、日本の解雇規制は、世界的にみて厳しいとはいえないという記事がありました。しかし、記事は年功型雇用とジョブ型雇用の違いを無視しています。筆者は、日本のツイッターがどちら雇用形態になっているか知りませんが、少なくとも年功型雇用組織では、過去の解雇に関する裁判で、企業が敗訴している例が多いことが知られています。

 

前例主義と同じように、こうした「環境」を無視した情報が満ち溢れています。

 

そのバイアスのかかった情報で、洗脳された人が多数発生しています。

 

次はより複雑なセグメントモデルを考えます。

 

引用文献

 

WEBテストの替え玉受験はバレるって本当?リスクを知らないと大変なことになるかも 2020/04/16 your-intern

https://www.your-intern.com/plus/shukatsu-webtest/