イジメの課題~プランBの検討

(イジメが起こっている場合には、戦略の欠如を疑うべきです)

 

1)国会のイジメ

 

臨時国会は2022年12月10日の会期末まで2週間を切り、野党は「政治とカネ」と「世界平和統一家庭連合(旧統一教会)」問題などに照準を合わせた質問を計画しています。3人の閣僚の辞任直後のさらなる「辞任ドミノ」が起こるかに関心が集まっています。

 

しかし、この野党の対応には、戦略が欠如しています。閣僚が辞任しても、別の人が閣僚になるだけです。極端に問題のある閣僚が1人だけいるのであれば、その人にやめてもらえば問題がなくなるかも知れません。

 

しかし、閣僚は既に3人やめていますので、更に、閣僚がやめても、後任の人が、雲一つない清廉潔白である可能性はほぼゼロです。

 

閣僚を辞任に追い込むのは、戦術であって、問題解決ができる戦略を欠いていますので、イジメだと思います。

 

戦略を考えれば、問題のある人は、閣僚になれない、選挙に出るときに、情報公開を厳密に義務化するなどの制度を変更しないとどうにもなりません。

 

筆者が、閣僚を辞任に追い込む戦術をイジメと呼ぶのは、イジメは、何も問題解決に結びつかないからです。

 

野党は、イジメをして、少しでも長くテレビに登場することしか考えていないように見えてしまいます。

 

政治評論家は、ヒストリアンであって、この制度化されたイジメには問題がないと考えているように見えます。

 

2)イジメとフェイク

 

イジメとフェイクは紙一重です。

 

例をあげます。

 

2-1)クールジャパン機構の問題



韓国のK-POPが世界的に流行しました。

 

中島聡氏によれば、背景は次のようです。

 

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1997年に「インターネットが世界中に普及した時には、音楽の楽しみ方は今とは大きく違うものになる」というビジョンの元に、まずは国内のインターネットの整備をし、さらにインターネットを使った音楽のプロモーションの手法などの研究を本気で開始した。それ以来、適材適所に税金を投入し続けることによりK-POP産業を育て、ようやく23年後にK-POPをBlackPinkとBTSという世界的な大スターを掲げるブランドに仕立て上げることに成功した。

 

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この説明には、2点の問題があります。

 

(1)これはヒストリーであって、エビデンスはありません。

(2)1997年には韓国は経済危機だったので、国策で、産業振興する必要性がありました。現在の日本企業は、1997年の韓国程、資金難ではなく、多くの内部留保をもっています。

 

韓国が、適材適所に税金を投入し続けることによりK-POP産業を振興したので、同じことを日本でも行うべきという意見が出てきます。

 

ウィキペディアの要約は以下のとおりです。

 

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海外需要開拓支援機構(クールジャパン機構)は、日本の魅力ある商品・サービスの海外需要開拓に関連する支援・促進を目指し、2013年11月、法律に基づき官民ファンドとして設立された。「日本の魅力」を事業化し、海外需要の獲得につなげるため、「メディア・コンテンツ」「食・サービス」「ファッション・ライフスタイル」「インバウンド」をはじめとする様々な分野でリスクマネーの供給を行っています。

 

2022年3月末時点の投資損益が309億円の累積赤字となっており、2022年6月20日財務省財政制度等審議会財政投融資分科会により、秋以降業績改善が見込めない場合に、組織の統廃合を念頭に整理すべきだとの提言がなされている。

 

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上記の秋以降は、2022年11月22日に財務省財政制度等審議会財政投融資分科会を指します。ここで、クールジャパン機構は2回目の改善計画案を提出して、分科会は改善計画を受理して、経過観察になっています。つまり、「組織の統廃合を念頭に整理すべきだとの提言」の結論は依然として保留されています。



クールジャパン機構の設立について検索しても、中島聡氏のいう「適材適所に税金を投入」するシステムをどのようにして実現する計画なのか見えてきません。

 

ウィキペディアには次のように書かれています。

 

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投資活動の基本方針

 

“BtoC”“海外展開”“波及効果”にフォーカスした投資を行うとしており、重視する3つの投資パターンとして①アウトバウンド投資(海外プラットフォーム投資)による現地での日本ビジネス/ブームの創出等)、②インバウンド投資(外資企業との連携による国内投資等)、③国内投資(事業承継・国内事業拡大と海外事業拡大を組み合わせた投資等)を挙げ、グローバルシナジーを創出するとしている。

 

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しかし、この方針と、中島聡氏のいう「インターネットが世界中に普及した時には、音楽の楽しみ方は今とは大きく違うものになるというビジョン」との間には接点が見いだせません。

 

2017年会計検査院の調査では、クールジャパン機構は「約310億の投融資で44億5900万円の損失」が出ています。会計検査院は「国民に対する説明責任を果たす観点から、個別の案件の損失についても可能な限り情報開示を行っていくこと」などを求めています。



なので、クールジャパン機構の営業成績と情報公開は2022年時点で、問題があると思われます。

 

2-2)クールジャパン機構へのイジメ

 

さて、前置きが長くなりましたが、今回、クールジャパン機構を取り上げたのは、クールジャパン機構の営業成績に問題があるからではありません。



WEBのあるニュースでは、クールジャパン機構の経営が杜撰(ずさん)である例として、株式会社AAAが取り上げられています。

 

内容を要約すれば以下です。なお、ここでは、フェイクニュースの問題の例として取り上げていますので、固有名詞と出典は書きません。

 

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日本のコンテンツをハリウッドで映画化することを目的につくられたAAAは、産業革新機構が2011年に総額60億円、100%出資して設立された官製映画会社です。AAAは映画7作品の企画開発を打ち上げたが、1本も映画制作に至ることなく、2017年5月にベンチャーキャピタルに3,400万円という破格の価格で身売りし、投資した22億2,000万円の出資をほぼ全額が損失しました。

 

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この記事を読んだ読者は、クールジャパン機構の経営は確かに杜撰だと思うでしょう。

しかし、注意して見ると2つの点に気付くはずです。

 

(1)クールジャパン機構は、2013年に創設されていますので、2011年には、ありません。そこで注意してみるとAAAを作ったのは、クールジャパン機構ではなく、産業革新機構であることがわかります。これは、主題のすり替えです。

 

(2)60億円出資して、出資のほぼ全額の損失では、22億2,000万円は数字が合いません。これは、60億円出資が間違いで、「60億円を上限」として、出資する案件なので、出資額は、22億2,000万円だったと思われます。

 

このような不正確、あるいは、意図的に誤解をまねく記事を書くと、記事の目的がイジメにあると感じてしまいます。

 

なお、ウィキペディアによれば、AAAとクールジャパン機構の間には、次のような繋がりがあります。

 

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「半官」という特殊性から、経済産業省からの職員出向、クールジャパン官民有識者会議(経産省主催)、首相官邸コンテンツ強化専門調査会、国会経済産業委員会といった官公庁の全面バックアップを受けた。

 

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クールジャパン機構が統廃合になった場合、クールジャパン機構は、産業革新機構に吸収合併されると思います。その時点で、新規の投資案件は制限されると思いますが、クールジャパン機構は、2034年に業務を終了することが法律で決まっていますので、統廃合がなくとも、新規の投資案件は減少している時期になっていると思われます。



WEBの記事は、クールジャパン機構だけでなく、AAAも税金泥棒のように書いてます。

しかし、政府は、許認可権限を持っていますので、AAAには、政府ににらまれたら廃業のリスクがあります。情報公開や公文書管理が徹底していれば、そのような意図的な差別(政府によるイジメ)はありませんが、森友学園問題では、公文書管理が不完全であることがわかっていますので、あてにはできません。

 

経済産業省からの職員出向、クールジャパン官民有識者会議(経産省主催)、首相官邸コンテンツ強化専門調査会、国会経済産業委員会といった官公庁の全面バックアップ」は、実態はバックアップではなく、営業方針に対する妨害に近かった可能性があります。ただし、AAAがそのことを営業妨害であると言えば、意図的な差別を受けます。そこで、AAAは、忖度して官公庁の全面バックアップを全面的に賞賛して、意図的な差別を回避したと思われます。実際に、AAAは、ベンチャーキャピタルに3,400万円という破格の価格で身売りしたあとには、普通に黒字をだして経営しています。

 

AAAの経営陣は、日本のコンテンツをハリウッドで映画化することには、黒字になる可能性は殆どないと判断していたと思われます。それでも、AAAを立ち上げたのは、補助金があれば、トータルで、赤字にならないので、付き合ってもよいと判断したためと思われます。

 

一方、「経済産業省からの職員出向、クールジャパン官民有識者会議(経産省主催)、首相官邸コンテンツ強化専門調査会、国会経済産業委員会といった官公庁」は常に忖度されているので、担当者は、何が問題か理解できない認知バイアスにかかっていると思われます。

「全面バックアップ」は、認知バイアスを示す単語に見えます。



クールジャパン機構を批判する他の記事も同様に、内容を分析していくと、ほぼ、イジメのための記事であって、バイアスのかかった不正確な内容ばかりです。

 

問題解決のための提案になっている記事は皆無に見えます。

 

3)イジメの弊害

 

筆者は、クールジャパン機構、産業革新機構天下りが悪いと言いたいのでありません。

 

ジョブ型雇用では、各人の業績を評価しますが、その時の業績は、「組織(人事システム)」と「個人の活動」の合わさったものです。

 

デジタル社会へのレジームシフトの課題は、いうまでもなく、「組織(レジーム)」の課題です。

 

ところが、年功型組織は、「組織(レジーム)」を改善しないので、個人に対するイジメが蔓延しています。

 

日野自動車のような自動車会社では、不正がなくなりません。これは、問題があった時、問題を個人の怠慢に押し付けてしまって、組織の改善をしないためだと考えます。

 

組織改善を前提に、社内調査を進めれば、問題が見つかれば、それは、組織の改善をすべき箇所が見つかったことになりますので、有益なデータと判断できます。

 

問題個所が見つからない場合には、調査は無駄だったことになります。

 

ところが、組織を変えない前提では、社内調査を進めれば、問題は全て個人に押し付けられますので、問題が見つからないことがベストになり、不正が生じます。

 

「クールジャパン機構、産業革新機構天下り」といった組織のシステムには、問題が含まれている可能性があります。会計検査院財政制度等審議会財政投融資分科会がその役割を果たしていますが、デジタル社会へのレジームシフトに対応できる程柔軟な対応という点では、不十分に思われます。特に、フィードバックシステムが欠如しているように見えます。

 

今回のテーマは、その前の段階です。

 

個人や組織に対するイジメが蔓延した結果、組織体制の見直しに対する提案は、個人に対するイジメと受け取られるバイアスがあるという問題点です。

 

これは、日野自動車の不正と同じ構図(シェーマ)です。

 

このバイアスがあるとクレームをつける人は誰でもイジメをしている人とみなされ、反対意見は言わない方がよいという同調圧力に繋がります。

 

そうすると、レジームシフトが封印されてしまいますので、日本は途上国に後戻りしてしまいます。



引用文献




なぜ日本は負けた?韓国政府の“成果物”としてのK-POPBTS世界制覇 2020/10/28 MAG2NEWS 中島 聡『週刊 Life is beautiful

https://web.archive.org/web/20201031085344/https://www.mag2.com/p/news/472039

 

一部報道について 2022/11/22 クールジャパン機構

https://www.cj-fund.co.jp/files/press_221122-jp.pdf

 

海外需要開拓支援機構 ウィキペディア

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B5%B7%E5%A4%96%E9%9C%80%E8%A6%81%E9%96%8B%E6%8B%93%E6%94%AF%E6%8F%B4%E6%A9%9F%E6%A7%8B