大臣とドキュメンタリズム~ドキュメンタリズムの研究

(大臣の答弁には、典型的なドキュメンタリズムが出ています)

 

1)日本の大臣答弁

 

ドキュメンタリズムは、文書形式主義ですが、その典型例としては、大臣の答弁があげられます。

 

答弁が、ドキュメンタリズムになる原因が、大臣にあるのか、それとも、原稿を作成している官僚にあるのかわかりませんが、答弁は、典型的なドキュメンタリズムになっています。

 

答弁は、形式としては、申し分ありませんが、そこには、内容がありません。

 

例えば、次のような表現であれば、人間ではなく、ボットなどのロボットで十分と思われます。

 

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バランスを取りつつ、今後もXXなどを踏まえながら適切に判断します。

 

国民のみなさまの声を真摯(しんし)に受け止め、政府としての対応に生かしていきます。

 

引き続き、XXなど、一つ一つの課題に真摯に取り組みます。

 

XXについては、今後幅広い有識者の方々からご意見をうかがい、検証を行い、国民各層の幅広いご理解を得ることができるように努めていきます。

 

国民のみなさまの声を受け止めながら、XXに尽くすなど、取り組みを進めます。

 

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2)英国の対応

 

英国政府は2022年9月23日、財政声明「ミニ・バジェット」(英国政府の「ミニ」予算であり、政府の「成長計画(Growth Plan)」と公式に呼ばれる)を発表しました。

 

これに対して、市場の反応は悪く、ポンド安を招いています。

 

また、一旦出した高所得者に対する増税を1週間で、取り消すなどの混乱も見られます。

 

トラス政権の経済政策には、問題があるかも知れませんが、ドキュメンタリズムではありません。

 

「ミニ・バジェット」を発表した際、予算責任局(OBR)の経済見通しを同時に公表しなかったことが問題になりました。

 

OBRは政府から独立した組織で、政府の経済面での課題を指摘する役割を担っています。

 

予算責任庁(OBR:Office for Budget Responsibility)は、OBRは 2010年、保守党・自由党連立政権の誕生を機に設立された。背景には、前労働党政権による財政ルールの恣意的な運用と財政の悪化があります。OBRの設立にあたっては、政治からの独立性の確保が重視され、制度面や運営面での規則が定められています。

 

同様の組織は大抵の先進国にあります。

 

(1)アメリ

1974 年:議会予算局(Congressional Budget Office: CBO)

(2)ドイツ

2010 年:安定評議会(Stabilitätsrat)

(3)フランス

2013 年:財政高等評議会(Le Haut Conseil des finances publiques)、フランス会計検査院の管轄下

(4)フィンランド

2012年:フィンランド会計検査院(NAOF)に設置された機関

 

これを見ると、2010年から2013年に設立された組織が多いことがわかります。

 

日本では、2009年に民主党による政権交代が実現しました。このときに、2010年のイギリスの政権交代の場合と同じように、民主党は、日本に予算責任局(OBR)をつくることも可能でした。しかし、民主党政権が行った施策は、政治ショウの行政仕分けでした。

 

こうした過去の実績を反事実的思考で振り返れば、ドキュメンタリズムの中で回転している国会審議がむなしく感じられます。

 

トラス政権の政策は、間違っているかも知れません。しかし、英国の政治制度には、間違いを訂正するメカニズムが含まれています。

 

日本は、ドキュメンタリズムによって、何も前に進みません。

 

過去30年を振りかえれば、間違いながらも先に進む政府と、ドキュメンタリズムによって、変化が止まってしまった政府のどちらに未来があるかは、言うまでもないと思います。