アーキテクチャ(10)

アーキテクチャの例

 

(ここでは、具体例でアーキテクチャを説明します)

 

Google XやAmazonは膨大な数の新規プロジェクトを立ち上げて撤退しています。

 

立ち上げたプロジェクトで、撤退しないで、生き残る割合は、1割以下と思われます。

 

このようなプロジェクトのアーキテクチャを考えてみます。

 

まず、ソフトウェア製品を想定します。最初に、ソフトウェアのモジュール構造を考えます。また、デモコード、試作品、アルファテスト、ベータテスト、試験販売、本格販売、バグのメンテナンス、機能アップ、大きなバージョンアップと言った開発ステージも考慮します。各ステージで、撤退する・先に進む条件を事前に設計しておきます。この条件を判定するために撤退判定モジュールを作ります。撤退条件は、ステージにより異なります。撤退条件を判定するために必要なデータを集めるデータ収集モジュールを作ります。重大なバグがあった場合、販売停止が必要になるかも知れません。この条件は事前には予測はできませんが、意思決定のルートとルールは決めておくべきです。

 

こうして、ジョブの記述ができたら、必要な原料、消耗品、機材、労働者の種類、質、人数を割り当てます。

 

このように、ジョブ型雇用とアーキテクチャは一体的なものです。

 

アーキテクチャが組めなければ、ジョブ型雇用はできません。ジョブ型雇用では、労働者が所定のジョブを期限内に処理できなければ、首になります。それは、ジョブフローがそこで滞ってしまうと、ダメージは、ジョブがこなせない労働者だけで、風上も風下にも膨大な被害が発生するからです。良い労働者とは、ジョブを早期にこなして、早々に帰宅する人です。サービス残業でもすれば、その人は、いつジョブがオーバーフローするかも知れない、危険人物になります。

 

プロジェクトが、雛形となる前例のない場合(これはAIでは、100%該当します)、モジュールやステージが多くて複雑になればなるほど、良いアーキテクチャが組めないと、プロジェクトは漂流します。

 

この部分は、最初、失敗しますと書くつもりでしたが、撤退判定モジュールが機能しないと、撤退もできませんので、失敗の分類ができませんので、漂流と表現することにしました。

 

アーキテクチャがはっきりしているジョブ型雇用では、労働者は、指定されたジョブをこなせる必要があります。現在のジョブに関係のないプラスアルファの学習を時間外に行っても構いませんが、ジョブの遂行に必要な能力が習得できていなければ、そこでジョブフローが滞るので、首になります。経営者は、できるだけ早く、ジョブフローが滞りそうなところを見つけて、問題のある人員を入れ替えたり、増員する必要があります。

 

労働者が自分は何ができるから給与を受け取れるという自覚と、経営者が、その労働者のどの能力に対して給与を支払っているという判断が一致しないと、ジョブ型雇用は成立しません。

 

モジュールのアイデアは1960年代から出てきました。

 

しかし、ICとソフトウェアの複雑さは、モジュール設計を促進しました。

 

アーキテクチャの設計の良し悪しが、IT業界では、生き残りの条件になります。

 

例えば、日本は、ICの輸出大国だった時代があります。しかし、その時のICは記憶メモリーであって、インテルが作っているようなCPUやGPUではありませんでした。CPUは、複雑なので、アーキテクチャがしっかりしていないと作ることができません。現在のCPUは、コンピュータを使わないと設計できません。つまり、アーキテクチャのモジュールに対応したジョブには、人間がこなすジョブとコンピュータが処理するジョブがあります。AIが使えるようになって、コンピュータが処理するジョブの比率は劇的に増加しています。

 

良いアーキテクチャの設計技術とジョブ型雇用がなければ、デジタル社会に生き残ることは不可能です。

 

AIは人間のジョブを置き換え、人間以上のパフォーマンスを実現しています。これが使えない企業は淘汰されるでしょう。

 

これからわかる帰結は次です。

 

(1)新卒一括採用をしている企業は、良いアーキテクチャ不在なので、デジタル社会へのシフトに、失敗します。失敗する可能性がある程度あると一般には、考えられていると思いますが、新卒一括採用は、工業時代のアーキテクチャのコピーですから、AIが使えません。従って、デジタル時代のアーキテクチャが組めない企業は、ほぼ、確実に、DXに失敗すると考えます。

 

(2)ジョブ型雇用に耐えられる労働者の給与はジョブによっては新卒一括採用の数倍になります。これは、AIと共同のワークフローが組めれば、AIの分の労働生産性の向上の恩恵にあずかれるからです。

 

(3)デジタル社会の管理職として生き残るためには、良いアーキテクチャの設計と管理ができる能力が不可欠です。

 

(2)と(3)ができる日本企業やスキルのトレーニングができる日本の大学がいくつあるかと考えると心が暗くなります。

 

頭脳流出を止めることは非常に困難になっています。

 

Google XとAmazonは、怪しいベンチャープロジェクトを多数行っています。これらは、一見すると試行錯誤に見えます。日本企業も、やる気になれば、社内ベンチャーはいつでもできると思っているところが多いでしょう。しかし、巨大IT企業は、アーキテクチャのプロ中のプロです。その点を侮ってはいけません。